アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい   作:天城黒猫

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庭園への襲撃

 泉はホムンクルスに対して、簡単な動作の命令を行った。ホムンクルスは、それを忠実に実行し、泉はホムンクルスにしっかりと暗示がかかっていることを確認した。そして、彼はホムンクルスに黄金の舟を蔵から取り出すように命じた。

 その命令もまた、忠実に行われた。彼の背後に黄金の膜が浮かび、そこから黄金の舟が現れた。

 

「さあ、乗ろうか!」と泉は言いながら舟に乗った。ホムンクルスも、彼の後に続いた。「アーチャー、ほら、早く! 時間がないよ?」

「この舟はなんだ?」と”赤”のアーチャーは問いかけた。「それは間違いなくサーヴァントの宝具そのものだ」

「ああ、これ? ヴィマーナっていう舟だよ。このホムンクルスは、英雄王ギルガメッシュの宝具を使えるようにしたんだ。普通なら、こんなことはできないけれどね。僕の起源と、時計塔で召喚術が盛んに研究されていたからこそ、何とか英雄王の魂というか、霊基をこのホムンクルスに憑依させて宝具を自在に使用できるようにしてあるんだ。いうなれば、英雄王式砲台といったところかな?」

「何? 憑依だと?」と彼女は驚きを隠せない様子で言った。「いや、いい。それは汝に忠実なようだし、なにも言うまい。汝の言う事が本当ならば、強力な戦力なのだろう」と彼女は言いながら舟に乗った。

 

 舟は地上すれすれを飛行しながら、市街地を抜け、ルーマニアとブルガリアの国境まで移動した。その大移動はほんの数分で行われた。それから、一気に空高く飛び上がり、再び市街地上空へと戻っていった。それは、ルーラーと空中庭園の探知に引っかからないための用心から来る行動であった。

 

「さて、準備はいいかな?」と泉は空中庭園を見下ろしながら言った。「アーチャー、君には宝具を広範囲に渡って、それこそあの空中庭園全体に降り注ぐように放ってほしい。狙いとかは考えなくていいよ。敵が応戦してきても、構わずに放って欲しい。敵の攻撃の対処はこっちでやるから」

「ああ、承知した。それだけならば、非常に簡単な作業だ。何発まで撃っていい?」

「好きなだけ。聖杯に入れた魔力はまだまだ残っているから。ともかく、たくさん撃って欲しい」

「ふん、あれほど巨大な庭園だ。どれだけの効果があるのかは分からないが、指示には従うとしよう。─────訴状の矢文ポイボス・カタストロフェ!」

「それじゃあ、僕もやるとしよう。さあ、王の財宝ゲートオブ・バビロンを開放しろ!」

 

 ホムンクルスの背後には、空中庭園の幅と全く同じ幅で、黄金の膜が広がっていた。そこから、数千もの武器が射出された。”赤”のアーチャーの宝具も同様に、結界を破壊し庭園の床に無数の矢が突き刺さった。

 これらの攻撃は、庭園にいる者たちからすれば全くの不意打ちであった。そして、この不意打ちは効果てきめんであり、庭園を守る棺はすべて破壊され、いくつかの庭園の機能も破壊された。

 

「何!」と”赤”のアサシンは驚きと怒りとが浮き上がった表情で上空を見た。「我らより上空を飛び、そこからの不意打ちとはやってくれるな! こんなことができるサーヴァントは……降り注ぐ武器については全くの不明だが、矢から推測すると、”赤”のアーチャーの仕業か」

「そのようですね」と天草四郎時貞は答えた。「それと、先ほど私のルーラーとしての感知能力が、一瞬だけサーヴァントが召喚されたという気配を感じ取りました。降り注ぐ武器は、その全てが宝具です。おそらくは、その新たに召喚されたであろうサーヴァントによるものでしょう」

「なんだと? それならば、大聖杯を収納しているこの庭園の主である私が気づかないはずがないだろう」

「いいえ、恐らくですがそのサーヴァントを召喚するのに使った聖杯は、ここの大聖杯ではなく、亜種の聖杯によるものでしょう。それはそれとして……ライダー! 貴方の傷は令呪でとっくに治しました。十分に動けますね?」

「応よ!」と”赤”のライダーは自身の拳と拳とを打ち合わせながら答えた。「分かっているぜ。アレを迎え撃てばいいんだろう?」

「ええ、その通りです」と天草四郎時貞は答えた。「ですが、くれぐれも用心を。降り注ぐ武器はすべて宝具です。その中には、不死殺しの武器があるということは十分に考えられます。そして、そんな大量の宝具を降り注がせることのできるサーヴァントというからには、強大な力を持っていると思われますので」

「ああ、そんなことは承知よ!」と彼は言い、戦車を召喚して泉たちがのる黄金の舟へと向かって飛び立っていった。

 

 ”赤”のアサシンはそれを見届けると、空中庭園の状態を確認した。

 

「先ほどの攻撃で、庭園の3割の機能が破壊されたか」と彼女は舌打ちをした。「まあ良い。破壊されたところで、対して影響のない機能ばかりだからな。……棺がすべて破壊されたのは忌々しいが」

「『計ったように時間ぴったりにやって来たな!』」と”赤”のキャスターは言いながら、彼らの前に現われた。「というわけでマスターよ、このシェイクスピアめの宝具、しっかりと準備できましたぞ」

「そうですか、それはありがたい」と”赤”のキャスターのマスターは答えた。「こんな状況でなんですが、いや、こんな状況だからこそ、素早く行う必要があります。アサシン、ここは任せました。では、行くとしましょうか」

 

 と彼は大聖杯が収納されている部屋へと通じる扉を開いた。残されたアサシンは、「ランサーよ、お前は他の場所で警戒に当たれ。この部屋はこの我だけで十分だ」と言った。

「承知した」と”赤”のランサーは答え、別の場所へと移動した。

「フン! あともう少しで片が付くというのに、無駄なあがきをするものよな。まあ良だろう、それもまた一興よな。せいぜいあがいてみせるがよい。この庭園において我は無敵にも等しい力を発揮する。ここに降り立ったときが、貴様らの寿命が潰えるときだ。魔術師、そしてアーチャーよ」

 

 と彼女は空を見上げながら言った。

 ”赤”のライダーは、降り注ぐ数々の武器や矢のほとんどを不死の肉体で受け止めたり、弾いたりしながら、主と同じく不死である2頭の馬の手綱を操作してすさまじい速度で空中に浮かぶ舟へと向かっていった。

 そうするうちに、一つの武器が彼の腕を傷つけた。その武器は不死殺しの武器であった。

 

「クソ、まさかとは思ったが、不死殺しまであるか!」と”赤”のライダーは感情を昂らせながら言った。「いいぜ、不死殺しだろうが何だろうが、バンバン撃ってこい!」

「それじゃあ、そうしようか」と泉は彼が叫ぶのを見ながら言った。それから、ホムンクルスに指示を出し、射出する武器のすべてを不死殺しの能力を持つ物のみに限定させた。しかし、”赤”のライダーはそれを読み取り、自分に向って発射される武器のすべてを槍で跳ね返したり、軌道を逸らしたりと見事な技術を見せつけた。

 

「全く、厄介なやつだな!」と”赤”のライダーは言った。「あの数々の武器全てが、何かしらの強力な力を秘めた宝具とはな。しかも、丁寧に不死殺しの武器まであるとはな! しかし、この程度で俺を止められると思うなよ!」

 

 と彼は戦車の速度を緩め、完全に停止するとそれをけん引する二頭の馬を消した。そして、彼は足に最大の力を込めて、ヴィマーナへと向けてすさまじい勢いで跳躍した。その跳躍は、彗星走法ドロメウス・コメーテースを使っての跳躍であった。

 飛来する数々の武器を槍ではじき返しながらも、それらのいくつかは彼の肉体を掠めたり傷つけていく。しかし、彼はそれを気にすることもなく、むしろその傷を一種の証と考えていた。泉がホムンクルスに舟を動かす指示を送るよりも早く、”赤”のライダーは舟の上に降り立った。

 

「俺は”赤”のライダー!」と彼は言った。「いや、すでに”黒”の陣営はすべて敗北し、あとは生き残った”赤”の陣営同士で決着をつけるだけだから、”赤”と名乗る必要はもう無えか」

「別にどっちでもいいんじゃない?」と泉は言った。彼の身振り一つ一つに、ライダーに対する警戒が込められていた。「まあ、それは置いておいて、迂闊じゃないかな? アキレウス。戦車を乗り捨てて弱点である踵を晒すっていうのはさ」

「確かにな。だが、その程度俺にはなんの問題もないな」とライダーは言いながら、アーチャーが不意打ちとして放った矢を弾きながら言った。「お、そっちの綺麗な姉ちゃんがお前のサーヴァントか」

「そうだ」とアーチャーもまた、泉と同様に自分が持てうる最大の警戒をアキレウスに向けながら言った。彼の身のこなしには一切の隙が見られなかった。彼の素振りを観察しながら、彼女は次のような事を考えた。

 

(私はかつてヘラクレスと一緒に戦った事が何度かある。だからこそ言えるだろう。この男はヘラクレスと同等の実力を持っていると。ギリシャにおいて唯一ヘラクレスに肩を並ばせることができると言われるだけはある。今、アキレウスがその気になればこの狭い舟の上で向かい合っている私達の首を一瞬で跳ね飛ばす事ができるだろう)

 

 彼女はここまで考え、泉へと目をやった。

 

「何かな?」と彼女の目線に気づいた彼は、念話で彼女に語り掛けた。「心配する必要はないさ。ここでまともにアキレウスと戦えば、全滅するのはこちらだ。だけれど、作戦はちゃんとある。君は始めに言った通り、あの庭園にダメージを与えてくれればいいさ」

「しかしだな」と彼女もまた念話で答えた。「いくらなんでもあの庭園は巨大すぎる。いくら私が矢を大量に放とうが、それらはごくごく些細なものにしかなっていない。無駄だろう」

「いいや、そんな事はないさ! いかんせん王の財宝ゲートオブ・バビロンだけだと、攻撃が大味すぎるからね。君の弓は武器の隙間を埋めて、いい目隠しになってくれた。それじゃあ、作戦開始といこうか! まずは、このライダーを何とかしよう」

 

 と彼は言うと、念話でホムンクルスにへと指示を送った。その内容は、この舟をひっくり返せといったものであった。その命令はこれまでと同じように、忠実に行われた。舟は空中で逆さとなり、舟の上に乗っていた人物たちは地面へと向かって落下していった。そのうち、泉とアーチャー、そしてホムンクルスはホムンクルスが操作する舟が彼らを救い上げたことによって再び足場を取り戻すことができた。ライダーは、戦車を召喚することによって足場を獲得した。

 

「へ、なかなかに味な真似をしてくれるじゃねえか」とライダーは言った。黄金の舟は高速で空中を移動していた。彼はそれを見て舌なめずりをした。「いいぜ、スピード勝負といこうか!」

 

 ライダーは戦車をけん引する馬を三頭へと増やし、手綱を力強く引いて戦車を動かした。その速度はホムンクルスが操作するヴィマーナよりもわずかに早く、数分もするとあっという間に戦車は舟の隣に並んだ。泉はそれを見ると、舟を急降下させるように指示した。舟は空中庭園へと向かって急降下した。ライダーの戦車もそれについていった。

 

「いまだ!」と泉はつぶやいた。彼は詠唱を唱えた。その詠唱は植物を操作する魔術の詠唱であった。その詠唱が唱え終わると、空中庭園は一回だけ大きく震え、少しずつ地面へと落下していった。

 

「何だと? 何が起こっている?」と庭園を治める女帝は言った。彼女は庭園の異常を調べ、その原因をすぐさまに発見した。「この我の庭園が我以外の手によって自然に降下していくなど、原因としては一つしかないだろう。やはり庭園中の水路に、苔を中心に蔦や小さな樹木といった植物が生えて水の循環を妨害している。おそらくは、先ほどの攻撃の中、様々な武器やたくさんの矢の中に混じって種をばら撒いたというわけか」と彼女は言った。その予想は正解であった。彼女は怒りを浮かべながら言った。

 

「随分とまあ、ふざけた真似をしてくれる! 我の庭園の性質を知り尽くしていなければ、こうした真似はできまい。ならば、慎重に行動すべきか? 否、それではこの王たる我の顔が立たぬ!」彼女は念話でライダーに次のような言葉を送った。

 

「ライダー、今すぐその羽虫をこの庭の上に叩き落せ」

「ああ、わかったぜ。女帝様よ」と彼は答えた。そして、戦車の速度をさらに上げて、泉達が乗る舟に激しい体当たりをしかけた。それと同時に、彼はホムンクルスの首を槍で切り落とした。主をなくしたヴィマーナは消滅し、泉とアーチャーは庭園へと落下していった。

 

「いっちょ上がりだ!」と彼は言った。「さあて、俺も降りるとするかね」と彼は庭園へと着陸した。

 

 泉は魔術を使用して落下による衝撃を緩和して着地した。アーチャーも泉の助けを借りながらも、獣が高い所から降りる際に良く見せるようなしぐさに似た姿勢で着地した。二人とも無傷だった。しかし、ホムンクルスだけはアキレウスの鋭い一撃によって、一瞬で絶命していた。

 

「死んじゃったか」と泉は地面に倒れているホムンクルスの死体を見ながら言った。「ま、しょうがない。元々宝具の制限もあったんだ。鎖とエアはどうやら意地でも渡したくなかったのか、蔵の中には収められていなかったしね。それに、これで僕の計画はうまくいくはずだ。あとは、運と実力と知恵との三つによって生き残るだけだ!」

「しかし、そうはいってもこの状況でそれが可能なのか?」とアーチャーは問いかけた。というのも、彼らの前にはアサシンが立ちはだかり、後ろにはライダーが武器を構えていた。

「前門の虎後門の狼といったところかな? まあ、どうにかなるでしょ。僕の計画が正しければ、あともう少しで彼が来るはずだ。その時、あの2体のサーヴァントはほんの一瞬だけ気を取られる。その隙に、アーチャーは指定した場所に移動して欲しい」

 

こうした泉とアーチャーとの二人の会話は念話で行われており、敵である二人に察知されるようなことはなかった。

アーチャーは神経を研ぎ澄ましていつでも泉を抱えて移動できるように身構えた。 

 

 

 


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