アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい   作:天城黒猫

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神話戦 中盤

「僕の願いか」と泉は言った。「さっきランサーにも聞かれたね。まあ、内容は至って単純なものさ。ランサーに言ったのと同じ答えだ。『自分の愛するモノを手に入れたい』それが僕の願いだ」

「そうですか」とレティシアは用心深い様子で、泉のことを観察しながら問いかけた。「愛するモノとは一体、どういったものなのか教えて貰うことは可能ですか?」

「ああ、そうだね」と泉は背もたれに寄りかかりながら言った。「聖杯のような奇跡にでも縋らないと手に入れることができないものとだけ答えておこうか」

「その詳細を言う気持ちはないのですね」

「無いね!」

「そうですか。では、聞き方を変えましょう。貴方は一体、どのような方法でそれを手に入れようとしているのですか?」

 

 そうした彼女の問いかけに、泉は少しだけ目を細め、今までは彼女を見下ろすかのような態度から、この時初めて警戒の様子を見せた。レティシアは、そうした彼の変化を感じ取り、今まで向けていた警戒よりも、更に大きな、それこそ部屋の音とか、空気の流れとか、僅かな変化すらも見逃さない、神経質とまで言えるような警戒を込めた。

 

「方法か」と泉は呟き、それから少しだけ笑みを浮かべながら言った。「もちろん、聖杯に願うんだよ。『欲しいから頂戴!』ってね」

「では、その手順、過程はどのように行うつもりですか?」

「やれやれ、しつこいねえ」と泉は頬杖をつき、ため息を吐きながら言った。「その辺はどうでも良いでしょう? というか、なんのつもりなのかな? レティシアちゃん。ここは君のような、ただの女の子が来るには危険な場所だよ? そんな場所に、こうして来たということはある程度の覚悟はできているんだろうね?」

「もちろんです」とレティシアは答えた。「私は、貴方の願いが世界を破滅させる類のものだと思っています」

「で? その根拠は?」

「強いて言うならば、聖女様の啓示によるものと、私自身の直感によるものです。貴方は、前に『恋を叶えたい』と言いましたね。その他にも願いはいくつかあるとも言いましたね」

「ああ、そういえば言ったような気もするね。でも、それがどうして世界の破滅とやらに繋がるのかな? 僕には、飛躍しすぎて全くわからないね」と泉は肩をすくめながら言った。「まあ、それでも君は僕の願いがどのようなものかに気がついているみたいだね」

「それについては、ライダーに教えて貰いました。世界が滅ぼうとしていると。抑止力という力が働いているということも教えてもらいました。私はあまり頭がよくありませんが……それでも、知りたいのです。貴方が世界の破滅を願っているのかどうかを」

「くだらないね」

 

 泉は魔術の詠唱を素早く呟いた。すると、彼の足元から紐状の水銀がいくつか現れ、机の下を通ってレティシアの体に纏わり付き、液体から鉄のように固まった。こうした出来事に対して、レティシアは一切反応することができず、縛られた後に体をよじらせたりするだけであった。

 

「仮にだ」と泉はレティシアを指差しながら言った。「僕が本当に世界の破滅を願おうとしているとして、君はどうするつもりだい? それを止めようとするのかな? それとも、何もしないでそのまま見ているのかな?」

「答えは決まっています」とレティシアは言った。「貴方が世界の破滅を願おうというのならば、私はそれを止めてみせます。そして、同時に貴方も苦しんでいるというのならば、その苦しみの中から救い出してみせます」

「五月蝿い!」と泉は片手で顔を覆いながら叫んだ。彼の様子はこれまでの、どこか余裕を持った様子から、気が狂ったような様子へと変化した。

 

「『苦しんでいる』? 『救い出してみせます』? ああ、それは結構だ! 聖女にでも感化されたか? 田舎の平凡な村娘め! 僕を救いたい? なら死んでくれ。それで少しでも救いになる。それ以上その口を開くな。それ以上僕の前に存在するな。それ以上この世界に存在するな」

 

 彼は水銀に、レティシアを締め殺すように命令を送った。水銀は、その命令を実行しようと、彼女の体を締め付け始めた。

 

「お断りします」とレティシアは言った。彼女の体の周囲に金色の光の粒がいくつも浮かび上がり、それらは彼女の体に纏わり付いた。すると、レティシアの服は、彼女が今まで来ていたワンピースから、ジャンヌ・ダルクが装備していた鎧へと変わった。

 レティシアを締め付けていた水銀はたちまちの内にはじけ飛び、辺りに散らばった。

 

「何!」と泉は驚いた様子を見せながら言った。「ジャンヌ・ダルクはすでに戦いから脱落した筈だ……でも、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を弾いたということは、ルーラー並の対魔力を持っているということだ。ルーラーの力の残滓を無理やり使っているのか?」

「私は救済を行います」とレティシアは手に、ジャンヌ・ダルクが振るっていた聖旗を実体化させながら言った。「この世界も、貴方も、全てを救ってみせます。私にはそのための力があります。聖女様の力があります」

「くだらない!」と泉は叫んだ。「全てを救う? 僕が苦しんでいる? くだらないね!」

「どうか、対話を行うことはできませんか?」

「黙れ、その口を閉じろ!」

「貴方は確かに苦しんで居るはずです! 貴方の言葉や、態度の端にはほんの僅かな苦しみが感じ取れます」

「黙れ! お前はもういい、ここで死ね!」

 

 泉は、repeat(命ずる)という詠唱を行った。すると、部屋の壁を埋め尽くすほどの、たくさんの虫が現れ、レティシアへと向かっていった。彼女は、それらを旗の一振りによって全て弾き飛ばし、消し飛ばした。

 

「成る程」と泉はレティシアの事を観察しながら言った。「確かにサーヴァントの能力を持ち合わせている。魔術では、君に傷をつけることすらできないようだ」

「その通りです。貴方は、私に傷をつけることができません。戦いは無駄な行為です。そして、私は対話を望んでいます」

「黙れと言っている……! お前の声は忌々しい! お前の姿は忌々しい! お前の存在は忌々しい! 何様のつもりだ? 聖女様のつもりか? もういいよ。死ね、死ね、死ね! どうせお前も消えるんだ、消えて無くなるんだ! それが少し早まったって、なんら問題ないだろう!」

 

 と泉は頭を掻き毟りながら叫んだ。彼の目はひどく揺れ、呼吸はとても荒いものであった。彼はこうした乱れた様子のなか、懐から剣士の絵柄が描かれた、長方形のカードを取り出し、それを握りつぶしながら、長い魔術の詠唱を行った。

 詠唱が終わると、握りつぶされたカードが激しく光り輝き、レティシアの目を眩ませた。とはいえども、それはほんの僅かな間のことであり、彼女が目を開くと、泉は蒼銀に光り輝く鎧を纏い、手には黄金に光り輝く剣を握っていた。

 彼は、その剣を振るい、泉とレティシアとの間にある机を真っ二つに砕き、背後から激しく風を吹き出しながら、勢い良くレティシアへと接近し、剣を振るった。彼女はそれを旗の柄で受け止め、その勢いによって部屋の外、すなわち廊下へと吹き飛ばされた。

 

「その姿は一体?」とレティシアは素早く体勢を整え、泉を観察した。「サーヴァントの能力を秘めている……?」

「ああ、その通りさ」と泉は部屋から廊下へと移動しながら言った。「時間と余裕は十分にあったからね。それに、この世界は英霊を召喚する技術が発達している。それらによる賜物さ。そして死ねよ」

 

 

 

「さあて、おっ始めるか」とセイバーは、ランサーに案内された部屋に到着すると、彼に向けて剣を構えた。

「ああ」とランサーもまた、槍を構えて言った。「始めるとしよう」

 

 ランサーが言い終わると同時に、セイバーはランサーへと飛びかかり、剣を振るった。彼は、その攻撃を全て槍でいなしたり、弾いたりしながら、彼女の腹部分へと攻撃を加えた。強烈な一撃を喰らったセイバーは、後方へと吹き飛びながらも地面に着地した。

 セイバーは、自分の鎧の腹部分が粉々に砕け散っているのを見て、

 

「面白え!」と叫び、咆哮をあげながら再びランサーへと飛びかかった。しかし、彼女は直感によって、その場から素早く飛び退いた。すると、壁が粉々に砕け散り、そこから、先ほどまでセイバーが居た位置に、ライダーが騎乗する戦車が飛び込んできた。

 

「よう!」とライダーはセイバーとランサーの間に立ち、笑みを浮かべながら言った。「俺も混ぜろよ! 反逆の騎士に、マハーバーラタの英雄!」

「ああ?」とセイバーはライダーを睨みつけながら言った。「何だテメエは。急に飛び込んで来て訳の分からねえ事を言いやがって。だが良いだろう。オレは相手が二人だろうが構わねえ。かかってこいよ!」

「良いだろう」とランサーは答えた。「ライダーよ、それがお前の意思だというのならば、オレはそれに応えるとしよう」

「よし! なら始めるとしよう」とライダー戦車を霊体化させ、槍を手に持ちながら叫んだ。

「だが」とランサーは続けた。「解せんな。ライダーよ、勇者であるお前ならば、アーチャーのマスターか、シロウ・コトミネのどちらかを問い詰めると思ったのだが」

「ああ、その事か」とライダーは答えた。「確かに世界が滅ぶというのは一大事だ。だが、その件にしては俺の他にいる奴が何とかすると確信している。まあ、ただの直感に過ぎないがな」

「成る程な」とランサーは頷いた。「そういう事か。ならば良いだろう」

「オイオイ!」とセイバーは叫んだ。「さっきから何を言っているんだ? 『世界が滅ぶ』? そんな話は初耳だぞ? どういうことだ?」

「何だ? 知らねえのか?」とライダーは言った。「どうやら、抑止力が動いているようだ。それは、世界が滅ぶ可能性にあるということだ。その原因は、シロウ・コトミネ、あるいはアーチャーのマスターの願望のどちらかにあるようでな」

「何だと!」とセイバーは叫んだ。「ソレは本当の事なのか?」

「恐らくな。現時点で、英雄王ギルガメッシュが召喚されているという。奴は抑止力の後押しを受けて現界したようだ。それが滅びに向かっているということを証明しているだろう」

「クソったれが!」とセイバーは叫んだ。「英雄王だと? 抑止力だと? 何が何だかだ! あの小僧め、マスターの事を無視して、とっとと切り捨てておくべきだった! 怪しいとオレの直感が反応しまくっていたんだよ!」

「まあ、アーチャーのマスターに関しては問題ないだろう。シロウ・コトミネに対しても問題ないだろう。俺は一度、奴の願いを聞き、奴の下につくことにしたのだからな。俺が今やることといえば、俺自身の願いを叶えるだけだ。勇者として振る舞う。世界を救うというのは、勇者に相応しい大役だが、今回それを行うのは俺ではないようだ。ならば、強者と戦うのみだ!」

「くそったれが!」とセイバーは叫んだ。彼女の直感は、ライダーと戦うべきだということを指示していた。「いいぜ、かかってこいよ! ライダー! ランサー! オレの願いを叶えるためにも、とっとと打ち倒されろや!」

 

 ランサーは、こうしたセイバーとライダーを見ながら次のような事を考えていた。

 

(世界が滅びの危機に瀕している。それは間違いないのだろう。いくら抑止力の後押しを受けたとはいえども、サーヴァントがそう簡単に現界する事は叶わない筈だ。しかし、現に新しいサーヴァントが、いくつかのきっかけがあったとはいえども召喚されている。つまり、抑止力はかなり慌てているのだろう……抑止力に感情というものが存在するのならばだが。

 今、オレがするべきことは定まっている。オレを召喚したマスターを守護するということは確実だ。しかし、現時点では不明なことが多すぎる。迂闊に動かずに、暫くの間流れを見定め、どう動くかを判断するべきだろう。そして、セイバーとライダーが、オレと戦うと望むのならば、そのようにしよう。

 ……だが、あのアーチャーのマスターは、かなりの物を中に秘めている。それも、闇のようなものと、光のようなもの、矛盾した2つの物をだ。これは、アルジュナよりも厄介なのかもしれないな)

 

 ランサーはこうした思考を打ち切り、セイバーとライダーへと注意を向けて、槍を構えた。同時に、彼らもそれぞれの武器を構えると、一瞬だけその場の空間が張り詰めたようなものとなった。しかし、セイバーとランサー、そしてライダーが全くの同時に動き出すと同時に、空間には激しい、嵐のようなものが吹き荒れた。

 彼らの戦いは、庭園の頑丈な床、壁、天井といった物を、その余波のみで次々と砕いていった。

 

 

 

 アーチャーと獅子劫は、長い、一直線の廊下の突き当りに止まった。その突き当りには、彼らの背丈を超える、大きな扉があった。それこそは、玉座の間へと通じる扉であった。

 

「行くぞ」とアーチャーは言うと、弓に矢を番え、力の限り引っ張り、矢を発射した。凄まじい速度で発射された矢は、扉を粉々に砕き、その向こうに居たシロウ・コトミネの元へと向かっていった。しかし、それはアサシンの、鱗が張り付いた腕によって防がれた。

 

「フン」とアサシンは鼻で笑いながら言った。「この程度か? アーチャーよ。こうして自ら死地へと飛び込むとは。全くもって愚かな判断よな」

「『この世界という広大な劇場は、我々が演じている場面よりもっと悲惨な見世物を見せてくれる!』」とキャスターは言った。「おお、ついに辿り着きましたか。辿り着いてしまいましたか、純潔の狩人、アタランテよ!

『このひとは罪を犯し、かつ、罪を犯しておりません。このひとは、私が処女でないと誓いもするでしょうが、誓って申します、私は処女です。このひとはそれを知りません』吾輩は貴女の事を悲しく思っておりますぞ。その姿は、さながら人形師によって糸を吊るされ、無理矢理踊らされる哀れな人形の様に! 貴女は何も知らず、この場に来ている! 己の願いを叶えるべく、我々を打ち倒そうとしている! おお、哀れなり!」

「キャスター」と天草四郎時貞は苦笑しながら言った。「そう言ってやるものではありません。それに、彼女は薄々ですが、自身のマスターがどのような願いを抱えているのかを知っているでしょう。

 それはともかく、ようこそ。アーチャーよ。願いを叶えたいというのならば、()を倒せば良い。俺はランサー、ライダー、アサシン、キャスターの四騎と契約している。即ち、俺を倒せば、一気に四騎を倒せるというわけだ。さあ、どうする?」

「当然決まっている」とアーチャーは言った。「私には叶えなくてはならない願望がある。ならば、私は汝等を倒し、願いを叶えるとしよう……!」

「フン、下らぬ。我が毒によってその身を溶かしながら、苦悶を味わいながら果てるが良い」

 

 とアサシンが手を振り下ろすと、彼女の背後から紫色の霧が現れた。それは、アサシンたちを避けつつ、アーチャーと獅子劫へと向かっていった。その霧というのは、非常に強力な毒の霧であった。

 

「クソ!」と獅子劫は、魔獣の革で造られたジャケットを脱ぎ、それで口元を抑えながらその場から逃げ出した。「あんな物を食らったら、あっという間にお陀仏だぞ!」

 

 アーチャーはその毒の霧から逃れるべく、後方へと飛び退きながら弓に矢を番え、あらん限りの力でそれを放った。その矢は、先ほどと同じように天草四郎時貞の胸元へと真っ直ぐに飛んでいった。それは、アサシンの鱗が並んだ腕によって防がれた。

 しかし、先ほどとは違い、矢じりは彼女の鱗を粉々に砕き、矢は腕を貫いていた。そのことにアサシンは怒りの表情を浮かべながら、

 

「おのれ……! 我の腕に傷をつけるか!」と叫んだ。彼女は驕慢王の美酒(シクラ・ウシュム)によって魔獣を召喚するべく詠唱を行おうとしたが、一瞬だけ意識が遠のき、地面に膝をついた。彼女の口からは、血液が吹き出した。

 

 

 







次回! 【神話戦 決着】!
英雄共は、英雄たらんとする───! お楽しみに!





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