アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい 作:天城黒猫
卒業認定試験も無事終え、FGOの節分イベで塔を駆け上がり、今はバレンタインデー。サーヴァントたちにチョコをあげたり、貰ったりと大忙しです。
節分イベントはかなり楽しかったです。普段使わない鯖を使って、意外とこいつ強い……! なんていうことが何度もありました。節分大将も無事召喚できましたし、あとは蝉様を召喚するだけですね!
「■■■■■!」
アタランテは己の宝具の真名を開放した。数えきれないほどの矢が部屋の中に次々と高速で降り注ぎ、床に突き刺さっていった。そうした矢の雨の中をライダーは、矢をその肉体で弾きつつ、アタランテの周りを駆け回った。ランサーは炎によって、自分に命中する矢をすべて燃やし尽くした。
ライダーは、アーチャーを中心に円を描きながら、少しずつ彼女へと近づくようにしていた。彼女はライダーを狙おうとするが、彼の動きがあまりにも早いのでうまく狙いが定まらず、首を振ったり、体を振り向かせたりとしていた。ライダーはアーチャーの懐に素早く潜り込み、彼女の体勢を崩し、床に押さえつけた。
「姐さん、俺はアンタの事が好きなんだ。アンタに憧れているんだ。あのアルゴー船に乗り、果てしない旅を繰り広げた船員の一人である姐さんに! 頼むから、そんな獣の姿なんてやめて、とっとと元に戻ってくれよ! 誰よりも気高く、誰よりも勇敢で、誰よりも美しい──麗しのアタランテに!」
と彼が言い終わると、彼女の咆哮は止み、抵抗するような様子は見せずに動きを停止させた。それから、彼女の逆立った髪やら、むき出しにしている牙に、鋭い目つきといった獣のような様子はなりを潜めた。彼女の目には理性の光が宿っていた。彼女は呟いた。
「アキレウス──ああ、ライダー」
「姐さん!」とライダーは笑顔で叫んだ。「気がついたのか? 正気に戻ったのか?」
「そうだな、ライダーよ。汝の声は私に届いていたぞ。その言葉は私に届いていたぞ」とアーチャーはライダーを抱擁した。ライダーもまた、抱き返した。
「ライダー、アキレウスよ。汝はまさしく英雄よ。汝はまさしく勇者よ。私は確かにそのことを今、しかと体感しているぞ」
とアーチャーはライダーの耳元で、優しい調子の声で囁いた。彼女は素早く、手に持った矢をライダーの踵に突き刺した。その痛みによってひるんだライダーを、アーチャーは蹴とばし、素早く立ち上がった。床を数回転がり、よろめきながら立ち上がったライダーの顔は青くなっており、呼吸も落ち着かず、大量の汗を流していた。ライダーは言った。
「これは……体がうまく動かねえ……これは、毒か? それもかなりの猛毒──俺の体を蝕むほどの──姐さん、アンタ……」
「汝の踵に突き立てた矢は特別製でな」とアーチャーは弓に矢を構えながら言った。先ほど、彼女がライダーに対して見せた優しい様子は一切消え去っており、今は獣を刈る狩人そのものであった。
「それにはヒュドラの毒が塗ってある。いくら不死身の肉体を持つ汝といえども、その毒には抗えぬであろう。いいや、それどころか、体が強靭な分毒による苦しみは長くなるのか?」
「何だと? 姐さん、アンタ、まさか最初から、これを狙っていたのか?」
「ああ、その通りだ。とはいえど、我がマスターよりこの策を聞かされた時はいささか無謀だと思ったがな。令呪による命令は一瞬の出来事ならばともかく、一定の行為や精神を長く縛ることはできぬ。時間とともに効き目は切れてゆく。我がマスター曰くこういう作戦だ。
『アキレウスはアーチャーを殺しはしないと思う。それどころか、獣として狂暴化した君を正気に戻そうとして苦労するだろう。君は僕の命令によって、宝具を使用し、アルテミスによってもたらされた災厄の獣として、ライダーやランサーに襲い掛かる。──多分、この時ライダーはランサーに、一対一でやらせるように頼むか、あるいは君を殺さないように頼むだろう──そして、ライダーの呼びかけによって君は正気に戻る。もちろん、それは僕の令呪による効き目が切れたから正気に戻るんだ。その時、君は、君を正気に戻そうとして、一生懸命活躍したライダーに対して、優しく抱き着いて甘い言葉をささやく。何、アーチャー、君は『麗しのアタランテ』なんて呼ばれるぐらいに魅力的なんだ。絶対うまくいくさ。そして、警戒を緩めたライダーの隙をついて、君は彼の体──できれば踵がいい。そこぐらいしかないだろう──に僕がこしらえたヒュドラの猛毒付きの矢を突き立てるんだ』
しかし、まさかこうもうまくいくとはな。では、さらばだ。アキレウス。汝はまさしく勇者であった。その勇猛さはヘラクレスの如きだ。その武力はヘラクレスの如きだ。さらばだ。アキレウス。汝の死にざまはヘラクレスにケイローンの如きだ」
アーチャーは、全力で矢を引き絞った。弓はすさまじい角度にまで曲がり、彼女が矢から手を放すと、とてつもない威力によって放たれた矢がライダーの体を吹き飛ばした。彼は部屋の中心から移動し、隅にある壁に体をたたきつけた。彼は毒による苦しみの表情を浮かべながら、つぶやいた。
「クソッタレが……ああ、アタランテ──アンタはまさしく麗しのアタランテだ……チクショウめ!」
こうした言葉を最後にライダーは消滅した。
先ほどまで、部屋の端で立っていたランサーは、槍を手にしていった。
「お前は今のマスターに従い、聖杯を取るのだな。あれは間違いなく世界を滅ぼそうとしているぞ」
「いいや、そうではない」とアーチャーは言った。
「私のマスターが世界を滅ぼそうとしている? 確かにそれについては、私も薄々と感じていた。しかし、汝との戦闘で我がマスターは令呪を全て使い切った。従うこともあるまい。それにだ。あのマスターはまさしく策士という言葉がふさわしい。聖杯に対する執念もおそらく、この聖杯大戦に参加している人物の中でもすさまじいだろう。だからこそ、私はあのマスターの元にいることが、最善の手段だと考えた。だが、私にも譲れぬ願いはある。マスターはすでに大聖杯へとたどり着き、大聖杯を起動しているだろう。だが、世界を滅ぼすという途方もない願いをかなえるには、今しばらくの時間が掛かるだろう。私はその前に、マスターの命を奪い取り、私が代わりに願いを叶えるのだ」
「そうか、だがそれは叶わん。武器を手にしろ、アーチャー。オレが相手をしよう」
とランサーは
「これで仕舞だ! 我が弓と矢を以って
空を埋め尽くすほどの、無数の矢がランサーめがけて降り注いだ。ランサーは、それらを炎によって焼き尽くすと、槍を爆炎と共に振るった。炎はアーチャーの体にいくつもの火傷を負わせた。しかし、アーチャーはそうした炎にひるんだ様子は見せず、それどころか炎の中に突撃し、ランサーに対して攻撃を加えた。アーチャーは叫んだ。
「その槍は確かに脅威だが、その対価として鎧を失ったのならば、私にも勝機はあるぞ! カルナ!」
「なるほど、そうかもしれんな。ならば、決着を急ぐしかないな。獣の如きアーチャーよ、覚悟しろ。我が槍は父より授かりし槍だ──神々の王の慈悲を知れ。インドラよ、刮目せよ。 絶滅とは是、この一刺。灼き尽くせ、
ランサーの宝具によって発生した炎は、一瞬であたり一面に広がり、庭園の壁や床、天井といったものを粉々に砕き、焼き尽くした。アーチャーもまた、その炎に飲み込まれた。しかし、アーチャーはその炎を乗り越え、壁や天井、飛散するがれきの上を飛び回ったり、走り回ったりとして炎から逃れていた。彼女は炎によって溶解し始めた庭園の床を踏みしめ、空高くへと飛び、再び宝具を発動した。2回目に放たれた無数の矢は、ランサーがいる地点のみに集中して降り注いだ。ランサーは、それらを炎によってすべて消し飛ばした。
やがて炎が収まると、あたり一面は更地となっており、庭園の床はいくつもの起伏を見せていた。アーチャーは地面に着陸すると、再びすさまじい速度で、ランサーの周りを駆け回りながら矢を次々と放った。ランサーはそれらを槍で弾いて防御した。こうした光景がしばらく繰り返された。
彼らがこうした攻防を行っている場所から、少しばかり離れたところに、第三のアーチャーは現れた。すなわち、英雄王はこうした彼らの戦いを見つめていた。ランサーは、英雄王の気配を感じ取り、そちらの方に一瞬ばかり目を見つめた。アーチャーは、そうして発生した一瞬の隙をついて、ランサーめがけて数本の矢を放った。それらは、ランサーの体に深く突き刺さった。その攻撃はまさに致命傷であり、ランサーの体は吹き飛び、地面に倒れた。彼は言った。
「不覚──か。見事だ。アーチャー。だが、こうなっては誰の願いも叶うことはないだろう。むろん、お前の願いもだ。お前には、願いを叶えることはできない」
ランサーは消滅した。残ったアーチャーは、全身に無数の火傷や傷を負っており、今にも倒れんといった様子であった。彼女は大聖杯がある場所へと、ゆっくりと歩き始めたところで、背後にサーヴァントの気配を始めて感じ取った。彼女は素早く振り向き、戦闘の体制をとった。アタランテの前には、ギルガメッシュが立っていた。王は言った。
「そこを退け。獣風情が
と英雄王は、宝物庫から
大聖杯の間にて、川雪泉と天草四郎時貞との二人は激しい攻防を繰り広げていた。
泉は銃や手榴弾などの火器による攻撃を行い、その合間合間に八極拳や鍵剣、魔術による攻撃によって敵をけん制していた。天草四郎は、鍵剣や日本刀を振るい、敵の攻撃をすべていなしたり躱したりしながら、攻撃を加えていた。状況は、天草四郎時貞が有利であり、彼の体に傷と呼べるようなものはほんのわずかしかなかった。泉の体には、いくつもの傷があり、たくさんの血を流していた。
彼らは一度距離を取り、お互いに息を休めた。泉は叫んだ。
「天草四郎時貞……! お前に僕の願いは邪魔させない。僕は必ず! 決して! 願いを叶えなければならない! それこそが、僕に対する唯一の救済だ! 邪魔をするな! 僕はこの醜い世界から逃れるんだ!」
「そうはいかない」と天草四郎は答えた。
「願いを叶えるのは俺だ。俺はこの人々が殺し合い。人々が不幸を呼び寄せる世界を終わらせ、幸福のみが残る世界を創り出さなければならない。それこそが、人類に対する救済だ。その世界でお前も救済してみせよう。できないというのならば、お前はここで死という名の救済を与える!」
二人は再びぶつかり合った。アサシンとキャスターとの二人の傍観者たちは、こうした二人の戦いを眺めていた。とりわけアサシンは、怒りをにじませていた。彼女は言った。
「おのれ……我に毒がかかっていなければ、あのような羽虫はすぐさま殺してやれるものを!」
「『喜怒哀楽の激しさは、その感情とともに実力までも滅ぼす』」とキャスターは言った。
「女帝殿よ、落ち着きなされ。そう叫んでは、毒がさらに貴女の体を蝕みますぞ! そのようなありさまでは、老人のように歩くことがやっとでしょう。魔術の行使などは出来るはずもない! そして、この吾輩には攻撃手段がないときた! いやはや、サーヴァントとしてマスターを手助けしたい気持ちはお互い様でしょうが、ぶっちゃけ今の我々には何もできないでしょう。というか、女帝殿、その存在を保っているだけでも辛いのでは? 消滅寸前のところを踏ん張っているのでしょう」
「ふん、業腹だがその通りよ。今の我は、消滅寸前だ。だが、それがどうかした!」
「ですから、そう興奮なさりますな。女帝殿。お体に触ります。いえ、この何もできないという状況が歯がゆいのはわかりますが。それ、御覧なさい。あの二人の戦いを。吾輩も女帝殿も戦士というわけではありませぬが、あの二人がどのような状況なのかはお判りでしょう。お互いの傷の数などを見れば、我らが主が優勢であるのかもしれませんが、それだけです。そら、ごらんなさい。我らが敵の肉体を。細かいものから、傷が塞がっていくではありませんか! 傷を負う度に傷が塞がってゆく。そのせいで、我らがマスターは決定的な攻撃を与えることができないのです。マスター天草四郎時貞が敵を打ち倒すには、強力な攻撃が必要です。さて、ここで彼の宝具──
アサシンは驚きの表情を浮かべた。
「貴様がそのようなことを言うとはな。ウィリアム・シェイクスピア。お前は作家だ。物語を紡ぐための存在だ。今回、貴様は主の、あるいは聖杯戦争にて召喚される英霊たちの物語を紡ぐために召喚に応じた。ゆえに、貴様は最後まで生き延びなければならない。物語を紡ぐには、その人物の物語が終わるまでを見届けなければならない。最後まで何としてでも生き延びる。そういう存在であろう? どういう心の変わりようだ? 自らその身を犠牲に捧げようなどとは」
偉大なる作家は大笑いした。
「なあに! 簡単なことですよ! 女帝殿! 吾輩、確かに作家ではありますが、時折舞台にも上がって役者を行うこともありまして! なあに! 少しだけ、物語を書く影の存在ではなく、輝かしいスポットライトを浴びる、登場人物として演じたい! などという欲望もありまして! いいえ、もちろん完結まで書くことができないというのは、少々、いいえ、かなり残念なのですが、ほら、世界が滅びては元も子もないでしょう。『所詮は人間、いかに優れた者でも時には我を忘れます』何、たまには目立つのもよろしいでしょう。何、ただの気まぐれです。少しばかり、熱病に浮かばされているだけでございますとも!」
女帝はしばらくの間呆気にとられた様子であったが、すぐにいくつかの事柄を考え始めた。そして、言った。
「良いだろう。それも良いかもしれぬ。ク、キャスターよ。お前は素晴らしい作家であると認めよう。人々の心に感情という名の打撃を与えるのが上手い──良いだろう。貴様のその策、乗ってやろうではないか。どうせ、もはや消滅寸前なのだ。毒と貴様によって我も熱に浮かばされているようだ」
2体のサーヴァントは立ち上がると、戦いを繰り広げる主のもとへと歩き始めた。
実際、天草四郎は敵にいくら傷を与えても、自然と治癒してゆくので決定的な打撃が与えられずにおり、それに加えて敵はこちらの攻撃になるべく当たらないように慎重に動き回っているので、少しばかり焦りを覚えていた。そうした中に、キャスターとアサシンによる天啓が舞い降りた。アサシンは言った。
「そら、我がマスターよ! 何をそのような小僧相手に苦戦している? 情けぬぞ。仕方があるまい、我が力を貸してやろうではないか」
アサシンは主の右肩に手を置いた。続いて、キャスターは左肩に手を置き、言った。
「『橋は大水のときの川幅より長くなくともよい。いま必要なものの用に応じてこそ、格好がよいというもの。役に立つことが、まず肝要だ』『運命とは、最もふさわしい場所へと、貴方の魂を運ぶのだ』そら、受け取るがよいですぞ! マスター! 少しばかり無茶ぶりですが、まあ。元々霊体ということもあって、取り付くというのならばまあ無理ではないようですな! あと、そこな女帝はそのように言っておりますが、貴方を想うが故の照れ隠しですよ──!」
とウィリアム・シェイクスピアは大笑いをしながら金色の粒子となって消えた。彼の不意打ちによってセミラミスは取り乱したが、それを立て直すと彼女はシロウの頬にキスをして、笑った。
「我の主というのならば、世界の一つや二つぐらい救ってみせるが良い。ああ、それとお前は──男としては上々だったぞ」
「アサシン……」とシロウは振り向いた。彼女の姿はすでに見えなかった。彼は両腕を見つめた。
「キャスター……これは、そうか。二人が魔力となり俺の中に移動したのか? いいだろう! 我が魔力による最大の一撃で終わらせてやる!
「終わらせるだと?」と泉は叫んだ。
「いいだろう、やってみせろよ! 僕は決して負けない──終わるのはお前だ! 天草四郎時貞! 体内の血管、臓器、神経──あらゆる体内機関を疑似魔力回路に変換! これで終わらせてやる! ──
泉の全身からたくさんの血が噴き出した。それは、聖剣の拘束を解除した代償によるものと、体内のあらゆる機関を魔力へと変えたことによる代償によるものであった。彼は黄金の聖剣を振り下ろし、真名を開放した。
「僕は、僕自身のためにすべてをなぎ倒す! すべてを破壊する! どんな犠牲も厭わないし、悲しみもしない! 障害は退けるだけだ! ──
天草四郎時貞は両腕のエネルギー、すなわちそれぞれキャスターとアサシンとの魔力、それに加え彼の中に存在する魔力もすべて一か所へと収束させた。そして、彼は叫んだ。
「俺の60年を! 60年の執念はここで止まることはない! 俺は世界を救わなければならない! 人類に救済の光をもたらさなければならない! あのような地獄は二度とあってはならない! 戦いはこれで最後となるのだ! ──
川雪泉と天草四郎時貞とが放った、二つの光線はぶつかり合い、あたりに破壊と光と轟音と衝撃とをもたらした。空中庭園は主を失ったことによって、魔術的な機能を果たすことはなく、ただの岩塊同然であり、岩塊は容赦なく粉々に打ち砕かれていった。その数秒後、英雄王ギルガメッシュはその場に現れた。彼は泉の姿を認めると言った。
「貴様が
「ギルガメッシュ……!」と泉はうなるような声で言った。
「盗人程度が
執行者によって振り下ろされた、裁きの杖は天草四郎時貞と、彼が放つ魔力とを飲み込み、聖剣が放つ光を押し返し、泉へと迫った。泉は歯ぎしりをした。
「まさか、ここでギルガメッシュが来るなんて──だが、まだだ! この程度! ああ、もしもの時のために、駄目元でやっておいてよかった! さあ、僕の体内から出ろ!」
と泉は片手を胸の中に突っ込んだ。その手には、鞘が握られていた。その鞘こそは、
「防げ!
果たして鞘は英雄王の剣と、天草四郎時貞の一撃とを確実に防いだ。魔力による猛攻が収まると、泉は膝をつき、地面に倒れた。少しばかり英雄王の様子を見ると、彼は黄金の粒子となって消えていった。
王は呟いた。
「ふん、我がエアを防ぐか! だが、
彼は勝ち誇ったように叫んだ。
「これで終わりだ! ユグドミレニアも! ”黒”のサーヴァントも! ”赤”の陣営も! ジャンヌ・ダルクも! 天草四郎時貞も! そして、英雄王ギルガメッシュもまた、長く現界した上で、宝具を放ったことにより消滅! これで敵はいない! ──すべてが終わりだ! 敵はもういない! あとは、願いを叶えるだけだ!」
大聖杯はこれまでよりも、一層強い光を放った。
ムーンセル内部にて、作業をしている精神の泉は叫んだ。彼は笑いながら、腕を振り回した。
「よし! いいぞ! ムーンセルの演算はもう、十分すぎる量だ! 知識のみを求める、貪欲な怪物による演算は必要領域に達した! 地上の僕も、どうやら無事大聖杯を守り切ったようだ。いざとなれば、セファールを投下しようと思ったけど、それは不要だったみたいだ。
精神の泉は地上へと降りて、肉体の泉と結合した。彼はよろめきながらも、大聖杯を見上げた。大聖杯はこれまでよりも、より一層強い光を放っており、その光は地面へと向かって放たれていた。泉は叫んだ。
「よし、いいぞ! ムーンセルの演算によって膨大化した情報を世界に与えることによって、強制的に剪定事象を発生させ、最終的には世界そのものを情報によってパンクさせて消滅させる──この方法を思いついた時は、非現実的ながらも、この世界から脱出するにはこれしかないということが分かったから、僕は今この瞬間のために、ずっと周りに怪しまれないように振る舞い、研究を重ねてきた! 作戦を練り続けてきた! 準備をし続けてきた! その苦労は、今この瞬間のために! 僕は勝利したんだ! あとは、消滅時に発生するエネルギーを、大聖杯の力によって方向性を持たせて、僕自身をこの世界から放出するのみだ。やり方はすでに分かっている。僕がこの世界に落ちたときと同じ場所へと穴を穿てばいいだけなんだ。……どうやら、時計塔の掲示板でも世界中のあちこちが荒野、あるいは廃墟と化している報告があるようだ。よし、いいぞ! 世界は着実に滅びへと向かっている! 救済は着実にすすんでいる!」
泉は涙を流して、狂ったように大笑いした。彼の表情には歓喜が溢れていた。
「僕の勝利だ! 救済は行われるんだ!」
と彼が叫んだ瞬間、胸に痛みが発生した。彼はゆっくりと、自分の胸を見下ろした。そこには、後ろ側から、心臓を貫いて貫通した刃物の先端が認められた。彼は呆然とした表情をしながら、後ろを振り向いた。そこには、白髪に、赤い目をした少年が立っていた。その少年は大笑いしながら叫んだ。
「我がユグドミレニアの願望は叶いたり! 感謝するぞ、時計塔の魔術師! お前は、私の一族のマスターたちを殺し──私もまた殺した。だが、私は偶然、その時そばにいたホムンクルスに、魂を移し替えした! この儀式はなんの下準備もなかったから、成功する確率は低かったが、死ぬよりはましだということで実行してみせた。するとどうだ? 私は無事にホムンクルスに乗り移ることに成功したのだ! それから、お前は私含めた、ほかのホムンクルスを一か所に集め、亜種聖杯の糧とした。魔力や魂を失ったほかのホムンクルス達は死に絶えたが、ほんの少しだけの魔力。そして魂が体内に残った私のみが生き残った! それから、私は勝機を伺うために、ずっと潜んでいたのだよ。その時間は一秒が一年にも、十年にも感じられたが、私はこの時のために数十年前から準備を行っていたのだ。その程度、どうとでも待てた。そして、こうして私は好機を伺い、全ての敵を始末することができた! 感謝しよう、川雪泉だったかな? ああ、我が一族の願望は叶いたり! 我がユグドミレニアの願望は叶いたり!」
そのホムンクルスは、泉に突き刺さっている刃物を引き抜いた。泉の体は地面に倒れた。彼は憎々し気な表情をしながら言った。
「まさか……ダーニック……! まて、まて……! それに触るな! 聖杯に触るな……! やめろ……やめろ……!」
ダーニック・プレストーンは大聖杯の元へと駆け、それに手をさし伸ばして触れた。彼は、願いが叶うという魔力に当てられていることと、ホムンクルスと無理な融合を行ったことによって、正気を失っている様子であった。
「聖杯! 大聖杯……! 我がユグドミレニアの願望! おお、素晴らしい! これが……大聖杯か! おお、おお! 我が願いは叶いたり! 一族の繁栄をここに!」
ダーニックの思念が介入したことによって、大聖杯の命令式が変化、複雑化し、大聖杯のエネルギーは行き場を失うと、ダーニックの肉体を飲み込んで粉々に打ち砕くと、自壊を始めた。杯にはヒビが入り、少しずつ割れていった。泉は絶望の表情を浮かべた。彼の目からは、たくさんの涙が流れていた。
「何てことだ……大聖杯の命令式が滅茶苦茶になったせいで、自壊が始まっているのか……! あれではもう、止める事はできない……僕の中にも、もう魔力は存在しない……血も流しすぎたし……心臓ももう機能していないみたいだ……今は、自分の体に施した改造のおかげで生きながらえているだけだ……でも、僕はもう死ぬのか……ああ、チクショウ、チクショウ……! あともう少しだったのに……! 元の世界に……故郷に……友達の元に……家族の元に帰りたかっただけなのに……! もう、叶わないのか……」
少し急ぎ足な気もしますね……
あと1話で完結します。多分! 今回ばかりは流石にもう完結すると思います。
いざ完結となると、終わらせたくないなあ……もう少し書いていたいなあ……なんていう未練が浮き出たり……!
説明を補足するためのマテリアルも書いていたりします。
次回は明日か来週の土日に投稿します。
次回予告!
【■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■】
完結まであともう少しです。どうかお付き合いくださいませ!