日常はいとも簡単に壊れると言う事を僕は
その時知った。
「ウワアァアアァア! ! ! 」
先程から絶え間なく聞こえてくる絶叫。
そして、辺りに漂う異様な臭い。
そして、その臭いと絶叫の原因となるのは
【奴ら】に【喰われた】人間達。
そして、その喰われた人達は仮初めの生命を得て【奴ら】へと変貌する。
ここまでの事だけを聞いていれば、狂人の戯言だと思われるだろう。
だが、今それは厳然として、この場所で起こっている。
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「クソッ! 何なんだ! ? 」
僕___平野コータは今、この校舎から脱出
する為に、必死に廊下を走っていた。
「こんな時……こんな時に……銃があれば……」
【奴ら】を倒す為には、恐らく銃──少なくとも
武器が無ければ、倒すことは不可能だろう。
現に先程、奴らに素手で立ち向かっていった勇敢な生徒がいたが、逆に捕まえられ、奴らに生きたまま喰われると言う、惨たらしい結末を迎えたのを目にした。
しかも自分の、この体型では奴らに対しバットなどを用いた接近戦を仕掛ける事もままならない。
つまり、現状ではこちらに奴らへと対抗する術は殆どないと言うことだ。
何か使える物を探しに工具が置かれてある金工室へと向かおうかと思いたち少し前にそこへと向かおうとしようとしたが、その試みも奴らの群れに阻まれた事に
よって無駄に終わった。
「助け……うわぁぁあ!!」
「……ゴメン……」
今、過ぎ去った教室の中から助けを呼ぶ声が
聞こえたが、その声も直ぐに絶叫へと変わった。
言い訳に聞こえるだろうが、もし、自分が助けに行ったとしても、できる事は恐らく無かっただろう。むしろ、自分も巻き添えを喰らって、死んでいたと言う可能性もあった筈だ。
それに、この様な状況はこの短い間に 何度も目にしてきた。その為か、初めの頃は見るだけでも吐きそう
になっていたのに今は多少のことでは動じずに
いられるようになった。
だがやはり、その様な光景を目にすると虚無感と自分の無力さに心が苛まれる。
「いや、今はその事を考えている時じゃ
無いよね」
意識を切り替え、脱出する事だけに意識を
専念させる。
「ヴアァアァ……」
廊下に倒れていた男子生徒が呻き声を上げながら、ゆっくりと起き上がる。
案の定その生徒は既に【奴ら】に変わっており、こちらに向かってゆっくりと近づいてきた。
「ど、どうする……」
後ろを振り返ると、まだ自分のいる場所まではかなりの距離があったが、数体の奴らがこちらに向かって、近づいてきていた。
「何か使える物は──」
辺りを見回して使える物を急いで探す。幸運にも、生徒の誰かが武器として使ったと見られる血の付着した布きりバサミが近くに落ちていた。
「これで、どうだっ!」
そのハサミを奴らの近くの窓ガラスに向けて放り投げたあと、目の前の奴をギリギリですり抜け全力で走る。
「ヴアァアァ……」
走りながら後方にいる奴らを確認すると、割れた窓ガラスがある場所に群がっているのが見えた。
これが、他の人と比べて身体能力が劣っている自分が今まで生き延びられた理由。
【奴ら】は恐らくだが、聴覚以外の感覚を全て失っている。その為、それを利用してわざと物音を立てて奴らを惹き付ける事もできる。
「なんとか切り抜けられた……玄関まで、もう少しだ」
もう少しでこの地獄から出られる所まで来ているためか、思わず安堵で緩みそうになる口元を今一度引き締め、出口へ向かって全力で駆ける。
ここまで死なずに辿り着けた事をこの時ばかり
は余り信じていない神に感謝した。
しかし、出口へと辿り着くことは叶わなかった。
「やっと脱────アグッ!」
脱出できると言う事で、気が緩んでいたのだろう。床に広がっていた血溜まりに気が付かず、血溜まりに足を滑らせ転倒してしまった。
「痛ッ!こんな所で転ぶなん………うわっ!!」
足を強い力で引っ張られた為、咄嗟に近くにあった傘立てを掴む。
後ろを見ると、一体の奴らが足を掴んでおり、自分の方へと手繰り寄せようとしていた。
「離せっ!離せよっ!!」
しかし、そう言った所で離してくれる筈も
無く、逆に徐々に引っ張る力が強まっていく。噛まれないようにソイツの顔を足で無茶苦茶に蹴りまくるが、意味を成さずに終わった。
「うわあぁあぁ! ! ! ! ! 」
傘立てを掴んでいた手が離れ、一気に奴らの方まで引っ張られる。
そして、幸運か不幸かは分からないが、足を掴んでいたソイツが口を開いたのを視界に捉えた瞬間、僕の意識は途切れた。
もしもコータが高城紗綾と出会わなかったらと言うお話です。今後の話で紗綾を出すかはまだ未定。