「…………あれっ! ? 何で、 僕は確か奴らに喰われそうになって……って言うかここは、どこだ? 」
意識を失っていた為か、まだ頭がふらふらとしていたが、とりあえず体を起こして辺りを見回わす。
どうやら、現在自分がいるのは、どこかの
アパートらしく、自分はそのアパートの
リビングらしき所に今まで寝そべっていたらしい。
「……少なくとも、奴らの声とかは聞こえないし安全な所にいるのは確かみたいだ」
「ひとまず、現状を整理しよう。僕は、学園から脱出する途中に奴らに噛まれそうになった所で、意識を失い目覚めたらどこかのアパートらしき所にいた……と」
意識がはっきりしてくるにつれ、あの光景__“奴ら”が自分の事を喰らおうとしていた姿を思いだし全身から冷や汗が吹き出る。
頭の中は既に正常な思考ができなくなりつつあった。なぜ生きているのか、どうしてこんな場所にいるのか様々な疑問が次から次へと溢れてくる。
「動くな」
唐突に後ろから男の声が聞こえた。
考えることに没頭していたからか、男が自ら声を
発するまで近づいてきたことに気づけなかった。
見知らぬ場所にいるのに警戒を怠っていた自分の馬鹿さ加減に歯噛みする。
後ろを振り返ると、銃を自分の方に構え、険しい表情をした外国人の男が立っていた。
銃口を向けられ一瞬パニックに陥りそうになったが、この状況でそのような状態に陥るのは不味いと感じ何とか冷静さを取り戻せた。
「お前みたいな奴をこの部屋へ入れた覚えは
ないんだが……何しにここへ来た?」
「え、あ、いや」
「はっきりと答えろ!」
こちらの煮え切らない態度に苛ついたのか、険しい顔を更に険しくし、恫喝する。
「……気づいたら、ここに居ました」
「気づいたらこの部屋に居ました?
真面目に答えろ。 次にそんなふざけた事を
言ったら__」
彼はあえて最後まで言わなかったが、恐らく次に下手な事を言えば彼が手にしている銃から鉛玉が飛び出すことになる。
だが、自分に言葉を選ぶと言う選択肢はない。
自分自身でも今は起きている状況を理解できて
いないのだ。この状況を説明できる言葉を自分は
持ち合わせていない。
嘘を吐くことも考えたが、吐いた嘘がバレた時
のことを考えると余り良い選択とは言えないだろ
う。
つまり、ありのまま起こったことを話しそれを信じて貰うと言う選択を選ぶしかない。
「本当ですよ!気づいたらこの部屋に居たん
です!」
「気づいたらって事は、お前は気絶か何かでもしていたって事か? 」
「……はい。そうです」
「まぁ、良い。とりあえず、知っている事を全て話せ」
****
「なるほどな。お前はゾンビもどきに喰われる
直前に意識を失い、気がついた時にはここに
いたと」
「……なあ、一言だけ言わせて貰っていいか?」
話を最後まで聞き、一拍置いたあと彼は
こう言い放った。
「お前、イカレてるんじゃないか」
信じてもらえないことは覚悟の上だった。そもそもこんな事を見知らぬ奴に言われて信じる奴など、どこにいるだろう。
今自分が言ったことは男からすれば、十分“ふざけたこと”のカテゴリに当てはまる筈だ。
もう次はない。頭に鉛玉をぶち込まれても
文句は言えない。
しかし、頭に風穴が開くことはなかった。男の表情を伺うと、その顔には少しだけ興味深い物を見る時のような表情が浮かんでいた。
「……じゃあ、もしお前の言う通りだったとしよう。そしたらお前はこの後どうするんだ」
男は銃を向けたまま、こちらに向かって
“この後どうするのか”と言う問いを投げかけた。
この後どうするかなど考える暇がなかったため答えに詰まる。しかし、こちらが中々返答を返さないことに焦れたのか彼は再び口を開く。
「答えられないか。まぁ、お前がこの後どうするかなんて俺にはどうでもいいが一つだけ言っておくことがある」
「まず、お前の話に出てきた“奴ら”なんてモノは俺は見たことも聞いたこともない。似たようなモノなら知っているがな」
似たようなモノの所だけ、男は顔を歪ませ吐き捨てるように言い捨てる。男の今の話ぶりから、その“似たようなモノ”について話を聞くのは気が引けたが、今は少しでも情報が欲しい。
今までの様子を見る限り少なくとも目の前の男は相手が質問した瞬間、銃をぶっ放すような人物ではない。自分の判断を信じ、意を決して男に質問する。
「その、似たようなモノって何ですか?」
「“コルディセプス”って菌に感染した奴らのことだ。俺たちは
「このクソッタレな菌の
今いるアメリカは壊滅だ」
頭を鈍器で殴られた時のような衝撃が襲う。”俺たちが今いるアメリカ”と男は言った。
つまり自分がいるこの場所は___
「アメリカ、ここはアメリカなんですか!?」
「ああ、そうだ」
口の中がカラカラに渇く。頭の中ではパズルのピースを当てはまるように情報が結びついていく。
結びついた情報が一つの考えを導き出す。
あり得ない考えだと言うのは自分自身でも重々承知している。だが、この状況を説明するにはそのあり得ない考え以外にない。
別の世界__厳密には平行世界と呼ばれる世界に自分は来てしまった。
この考えであれば、今までのことに多少なりとも説明がつく。なぜ自分が生きているのかは分からないが。
だが、なぜ自分はこの世界へと飛ばされたのだろうか。そんな前触れや予兆は全く感じることはなかった。
自分に平行世界へと飛ばされた要因が無いのだとしたら、外的要因___つまり“奴ら”に喰われて死んだことが要因となったのかも知れない。
その考えが正しければ、この世界には自分と
同じ境遇の人間が大勢いると言うことになるが
___
「……驚いたな。お前、本物のイカレか」
考えを中断し、男の顔を凝視する。
「え?」
「これ以上お前みたいなイカれた奴の話を聞けるか。お前みたいなイカれた奴にこれ以上つきあってやる義理も暇もこっちにはない」
男のその反応は当然と言えたが、満足にこの世界の情報を聞き出せていない今の状況で外に放り出されるのは不味い。
男が興味本位でこちらと話をしていているのは薄々感づいていたが、その興味がこんなに早く尽きるとは──
せめてもう少し情報を聞き出そうと口を開きかけるが、その直前に腕を乱暴に捕まれそのまま外へと叩き出された。
****
しばらく茫然自失と言った状態で、その場に
座り込む。
有り体に言って、今の自分は完全に詰んだ状態に置かれている。情報も満足にない、人脈もない持っている物と言えば、学生証とハンカチだけ。こんな状態でこの先どうしろと言うのだろうか。
貯まった疲れが一気に押し寄せてくる。
自分のいた世界で起こった“奴ら”による一件から今の今まで休む暇など無かったため、当然と言われれば当然なのかも知れない。
少しの間、休息がてらその場に座り込んだ後何時までも座り込んでいる訳にもいかないので疲れた体に鞭打ち立ち上がる。
立ち上がると同時に、再び脳が回転を開始する取りあえず、この後優先的にすべきことは何かを決めていく作業から始める。
その結果、まずはこの世界の情報を集めることから始めようと決めた。
幸いなことに元の世界で自分はアメリカ・ノースカロライナ州にあるブラックウォーターUSAと言う民間軍事会社で、一ヶ月ほど軍事訓練を受けるに当たりインストラクターなどと話をする為に必死になって英語を勉強したため会話程度なら難なくこなすことができる。
誰か近くの人に声をかけようと辺りを軽く見渡すが人っ子一人いない。
自分が今いるのは四方をアパートに囲まれた狭い路地だ。人がいないのも仕方のない事なのかも知れない。
ひとまずこの路地から出ようと足を踏み出した時、直ぐ近くから元の世界で幾度となく耳にした音が聞こえた。
「この音……車?」
聞き間違いではない。その音は確かに車が発する音だった。音を追って路地を駆ける。
路地を抜け、大きく開けた場所へと出た直後、視界に信じられない光景が映る。
元の世界でアメリカを訪れた際、都市部に立ち寄ったことがあったが、そこには数多くの高層ビルが
その高層ビル群が、この世界では見るも無残な姿を晒している。遠目から見ているため、全容を把握することは叶わないがビルが半ばから崩れ落ちている姿は確認できた。
無残な姿を晒しているのは高層ビル群だけでは無い。近くに立ち並ぶ建物も、ほとんどが窓に木の板が打ち付けられ、ひび割れた壁にはスプレーかペンキで様々な文字が書き殴ってある。
荒廃__この光景を一言で言い表すとしたらこの言葉以外にないだろう。
感染者によって世界は崩壊したと男は言っていたが、その言葉は正しかったらしい。
しばらく呆然とその光景を見続けたあと、あるモノが目に留まった。路地にいた時は四方をアパートに囲まれたいたからか気づくことができなかったが、開けた場所に来たことでようやくその存在に気づく。
この町らしき場所の周りを非常に高い壁__恐らくはコンクリート製だろう。が囲っていたのだ。
自分の知っているアメリカとは大きく異なる光景に戸惑いを隠しきれない。戸惑いを胸に抱えたまま、情報を聞き出すために近くに人がいないかを確認する。
すると、道路沿いに雑談をしている男女の姿が見えた。他にも町中にはちらほらと人影が見える。
まずは最も近い場所にいる、雑談をしている男女の方へと向かうことにした。
彼らの元へ向かう道中、町中にちらほらといる人達を見ると誰も彼も荒んだ表情を浮かべており非常に話しかけ難い雰囲気を纏っていた。
今になって、話し合いができるのかどうか不安が込みあげてくる。追い払われないことを祈りながら彼らに声を掛ける。
「あの、すいません」
『あぁ?なんだお前』
『アナタみたいな子供がどうして外を出歩いて
いるの?子供なら大抵は陸軍の養成学校にいる
はずなんだけど』
「……いえ、今日は休校なんですよ」
咄嗟にその場で考えついた嘘を吐く。
勿論、休校なのかどうかなど知っているはずがないが、ここで黙り込み会話を途切れさせ怪しまれるよりはリスクを犯して会話を繋げた方が良いと判断する。
『休校ねぇ……。で、俺たちに何の用だ?」
休校と言う言葉を聞き、少しの間男女はこちらを訝しげに見たあと、ひとまずは納得したのかそれ以上その話題に触れることはなかった。
嘘がバレなかったことに安堵し思わず顔が
緩みそうになるのを堪える。
「いえ、できれば二、三質問に答えてもらえ
ないかなと。構いませんか?」
『あぁ、俺は構わねえぜ。お前は?』
『私も構わないけど』
心の中でガッツポーズを決める。目の前にいる二人組に早速、質問をぶつけていく。
「僕たちが今いる場所ってアメリカですよね?」
『当たり前だろ。俺たちが今いる場所はアメリカ
のボストンだ』
自分はアメリカのどこにいるかと言うことはこの質問で判明した。得られた情報はこれで二つめ。
「ボストン……ですか。話は変わりますけど、
お二人は感染者って見たことあります?」
『ええ。あるけど、あなたは見たことないの?』
「聞いたことはあるんですけど、実物を見たこと
は一度も。だからどんなのか気になって」
『普通なら子供でも一回ぐらいは見た事があると思うけど……まあいいわ』
『実物ねぇ。どうしても見たいってなら壁の外に出るのが一番手っ取り早いんだが、子供には危険すぎるしな』
男は少しの間、考え込むとふと何か思い出したのか背負っていたバックパックからビラのような物を取り出すと、こちらに差し出してきた。
『実物は用意できねえが、代わりにこれやるよ』
差し出されたビラを受け取り、内容に目を通す。まず真っ先に目についたのが茸の傘に似た物が頭から生えている男のカラー写真だ。写真の上には小さい文字で感染者と書かれてある。
数分ほどかけて読み終えたビラを折り畳み学生服のポケットへと突っ込む。
ビラを読んで得た情報は大きく分けて三つ。
まず一つ目は寄生菌についてだが、文明崩壊の引き金となったこの病原体は冬虫夏草の真菌の一つで人の脳に寄生し、思考を乗っ取るという悪質なシロモノだった。
感染した際の症状は、凶暴性の発揮と体内からその菌が含まれる胞子を排出することの二つ。
潜伏期間は一~二日で菌は脳に到達するとそこで増殖を始め、思考を乗っ取ったあと身体機能の全てをコントロールするようになる。
肝心の感染経路についてだが、感染者の体液を体内に取り込む、あるいは感染者が排出する胞子を吸い込むことによって感染するらしい。
二つ目の情報は、この病原体に感染すると
時間が経つごとに段階的に容貌が変化していく。
第一感染段階__つまり初期の感染者は“ランナー”と呼ばれ、まだ若干の思考と感覚を残し、同じ感染者同士で群れて行動する傾向にあると言う。
第二感染段階、中期の感染者は“ストーカー”と呼ばれ、その名の通り物陰に隠れて待ち伏せし標的を狙うようになる。
第三感染段階、後期の感染者は“クリッカー”と呼称される。先ほどの写真に写っていたのはクリッカーの写真だ。この段階まで感染が進むと、写真の通り体から茸が生え始める。
脳がある頭部は特にその影響が顕著に現れ、原型を留めないほど茸に覆い尽くされる。
そのため、視力は完全に消失することになるのだが代わりに聴覚と身体能力が異常に発達する。それに加えビラによれば超音波を発する事が可能となり、標的の位置を正確に察知できるらしい。
そして、第四段階目__この段階まで来た感染者は“コロニー”と呼ばれ完全に活動を停止し、寄生菌の苗床として胞子を放出するだけの存在となる。
三つ目の情報は、この世界で数えて今から二十年前に発見されたこの寄生菌に対する有効な治療法やワクチンが未だ存在していないと言う情報だ。
つまり感染したら最後、菌に思考を乗っ取られ生きる屍となるかあるいは人である内に死を選ぶかの二択を迫られる事となる。
感染したら終わり__以前の自分ならその事実に絶望し自棄となっていたかも知れない。
だが、今の自分は奴らが跋扈する学園内で既にそういう場合に備え、既に覚悟は済ませてきた。恐怖を完全に拭い去ることはできないが少なくとも土壇場の際に怖じ気づくようなことにはならない筈だ。
「あの、わざわざありがとうございます」
重要な情報をくれた男に感謝の言葉を伝える。
『別にもう俺には必要のないモンだったからな。
で、他に質問は___』
男が続きを言おうとした瞬間、突如辺りに凄まじい爆音が鳴り響いた。
三人揃って何ごとかと爆音がした方へと振り向く。自分がいる所から百メートルほど離れた場所から黒煙がもうもうと立ち上っている。
「何が起こってるんだ……」
嫌な予感を感じながらも、何が起こっているのかを確かめる為にその爆音がした方へと近づこうとした時だった。
『ファイアフライだ!!奴らが攻めてきた!』
聞き慣れない単語を叫びながら大勢の人間が爆音がした方から逃げるようにして、こちらへと走ってくるのが見えた。
それを皮切りに、辺りは混乱に包まれる。人々がやって方向からは先ほどまで聞こえなかった発砲音が聞こえ始め、その場所にいる人間が放つ怒号がこちらにまで聞こえる。
既に、先ほどまで共に男女を含め大衆は各々少しでもこの場所から離れようと方々に散っていった。
この様子では自分がいる場所にいつ火の粉が降りかかるか分からない。この場所は危険だと判断し、彼らに続いてこの場所から離れようとした時、その声が耳に届いた。
「おい、こっちだ!」
既に人々は逃げ去り、付近には誰もいない。とすれば、声の主は自分に声をかけたと言う事になる。
声のした方に視線を向けると、そこに立っていたのは自分と同じ藤美学園の制服を着た男子だった。
余りの驚きに一瞬、思考と体の動きが停止したような感覚を覚える。そして僕はその男子の方へと足を運んだ。
****
「この場所ならひとまずは大丈夫そうだな。その制服を着てるってことは君も藤美学園の生徒だろ?」
男子と共に近くの建物に入り扉に施錠を掛け安全を確保したあと、直ぐに男子が口を開く。
「そうだけど………君は?」
「自己紹介がまだだったな。藤美学園二年の
小室孝だ。君の名前は?」
「藤美学園二年の平野コータ」
小室孝__彼の事をクラスの誰かが話していたような記憶がある。そいつ曰く、授業を毎回サボって屋上から外の景色を見ている変な奴とのことだ。
お互いに自己紹介を終えた後、こちらが質問するより先に彼の方から質問を投げかけられる。
「
やられて、気がついたらここに居たってクチか?」
「……うん。奴らに玄関前の所でやられて、気がついたらここにいた」
どうやら、目の前にいる小室も自分と同じ
ような手順を通ってこの世界へとやって来た
らしい。とすれば、やはり奴らに喰われる事
でこの世界へと飛ばされると言う自分の読みは
当たっていたのだろうか。
「そうか。なぁ、平野。俺以外に藤美学園の奴を見なかったか?」
「いや、見てないけど……小室は?」
「平野以外には誰も。一応、町の中を探索してみようとはしたんだが、外があの様子じゃあな」
外を指さし小室はそう答える。確かに今外へと出ても人探しなどできる筈がない。
「確かにね。それで、小室はこの後どうする
つもりなの?」
この後どうするか__あの男が自分に言った言葉を目の前の小室に対して投げかける。
「どうするかか。この騒ぎが収まったら、とりあえず町の中を探索してみて俺たちと同じような境遇の奴を探す。探しても見つけられなかったら………その後は元の世界に戻る為に行動するさ」
小室は元の世界に戻る為に行動すると、決意をしたためた表情でそう言った。
念のために元の世界へと戻る方法は知っているのかと尋ねる。
「まさか。元の世界に帰る方法なんて知ってる訳ないだろ。だけど、一度死んだ僕達が再び生きてこうして別の世界にいるんだ」
「こんなあり得ない事が起こるんだから、元の世界に帰る為の手段だって絶対にないとは言い切れないだろ?僕はその可能性に賭けてみたい」
小室は断言した。
彼の言う事は確かに一理ある。こんなあり得ない事が起こるのだから、元の世界へと帰還する手段もある筈だと。しかし、あくまでそれは可能性の話。
帰る手段が無かったどうするのかと言う言葉が口から漏れそうになったが、なんとかそれを抑える。小室は恐らく、元の世界へと帰る手段があると言う可能性を心の拠り所としているのではないか。
ここでその可能性を否定するような事を言えば自分の印象は最悪だ。
「平野はこの後どうするつもりなんだ?」
「僕は、そうだね。小室と同じで元の世界に戻る手段を探そうかなと」
アパートにいた男に同様の質問をされた時はこの世界に来たばかりの時だったので、そんな事を考える暇が無く答えることができなかったが、心に多少は余裕ができた今は答えることができた。
小室と同じく、自分も元の世界へ戻りたいと言う願望は持っている。いや、この世界へと飛ばされた人間は大なり小なりその願望を持っているはずだ。
返答を聞いた小室は少しの間、考える素振りを見せた後こちらに対してある提案を持ちかけてきた。
「提案なんだが……俺達は同じ共通の目的を持ってる。なら、元の世界へと帰る手段を見つけるまでは一緒に行動しないか?」
そう言うと右手をこちらへと差し出してくる。差し出された手へと視線を落とし、しばしの間その手を見つめる。
そして、ゆっくりと自分の右手を彼の方へ差し出す。
「その提案、乗った」
帰る手段を探すのにも、この世界で生き抜く上でも一人よりかは仲間がいた方が良いと判断し小室の提案に乗ることにした。
お互いにニヤリと笑みを浮かべ、固い握手を交わす。握手を終え、手を離すと同時に小室が安堵したような顔で息を吐いた。
「どうしたの?」
「いや、断られなくて良かったと思って。やっぱり知らない世界で一人で行動するハメにならずにすんだから」
「ああ」とその言葉に頷きを返す。確かに知り合いがいない未知の世界で一人で行動すると言うのは心細い。
当初は事前に聞いていた情報からどんな奴なのかと身構えたが、言葉を交わしたおかげで抱いていた悪印象は払拭された。
「そう言えば、小室はこの世界の事をどこまで知ってるの?」
「来たばかりだからそこまで多くは知らないよ。知っているのは、この世界は“コルディセプス”とか言う病原体のせいで崩壊したって事と感染者についての事。それと俺達がいる場所はアメリカのボストン隔離区域だって事ぐらいだな」
隔離区域と言う耳慣れない言葉に顔を顰める。それは何なのかを尋ねようとした時、自分たちの直ぐ近く、建物の中から物音がした。
咄嗟に物音がした方向を向くと、そこには____
「あなた達は……」
驚いたような表情を浮かべた黒人の女性が
立っていた。
不定期更新になりそうです。
感想、評価お待ちしております。