THE LAST OF US ×学園黙示録   作:たまごねぎ

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#3 朽ち果てた街で

 

 目の前の壁に持たれかかっている黒人の女性がこちらを警戒してか鋭い視線を送ってくる。

 その視線を受け、射すくめられるような感覚を覚える。こんな感覚を味わうのは元の世界で幼馴染みだった麗と口論をした際に睨まれた時以来だなと、ふと思った。

 

 こちらも負けじと目の前の女性へと睨みを効かせるがそんな事は気にも止めていない様子だった。

 

『それで、アナタたちは誰?』

 

 自分たちを警戒しているのが声から伝わってくる。その質問に答えるべきか逡巡する 。

 

 隣にいる平野に視線を送ると、彼は判断を仰ぐようにして僕の方を見ていた。

 名前程度なら明かしても構わないかと思い、彼女に自らの名前を告げる。

 

「小室孝です」

 

『タカシ………日本人ね。そっちの彼は?」

 

 僕の名前を聞き終わると、次は隣に立つ平野へと質問の対象が移り変わる。

 平野は悩むような表情を浮かべたあと、自分と同じ結論に達したのか若干オドオドとした様子で名前を明かした。

 

「……平野コータです」

 

『タカシにコータね。それで、なぜアナタたちみたいな子供が学校じゃなくこんな場所にいるのかしら』

 

 その質問には僕では無く隣に立つコータが

答えた。

 

「今日は学校が休校だったので町の中を見て回ろうと思って来たんですけど、ここに着いた直後にあの騒ぎが起こったのでとりあえず避難しようとこの中に……」

 

 彼女が放つ視線に気圧されているのか、声を震わせながらも視線だけは逸らさずに嘘を吐く。

 それを聞き終わると、僕たち二人を訝しむように交互に見やり訝しむ視線はそのままだが一応は納得する事にしたのか頷きを返す。

 

『そう、それが理由。ところで一つ質問なんだけれど……この場所に誰か来るのを見なかった?』

 

「いえ、あなた以外には誰も」

 

 『そう』と呟くと、僅かな間彼女の表情が苦しげに歪むが直ぐにまた元の険しい表情へと戻った。

 

『この騒ぎも直に収まると思う。あなた達は

元いた学校に───』

 

 彼女が続きの言葉を言おうとした時、突然彼女が脇腹を抑え床へとしゃがみ込む。何事かと彼女が抑えている脇腹を見ると、その部分は血で赤色に染まっていた。

 

 いきなりの出来事に混乱し、僕が狼狽えている間に隣にいた平野が彼女の方へと駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!傷口を見せて貰います!」

 

 普通なら文句を言うところだが、文句を言う余裕も無いのだろう。平野が服を捲り、傷口を検分していても彼女は苦しげな吐息を漏らすばかりで何も言わなかった。

 傷口を見たあと、彼女の手を取ると脈を測るなどして平野は驚くべき速さで目の前の女性がどのような状態に陥っているかを把握していく。

 

「小室、この人このままだとヤバいよ」

 

 そう言い、こちらを向いた平野は今までのどこかオドオドとした様子から一変、険しい表情をしていた。

 

「今すぐ死にはしないと思うけど、手当てをしないと不味い」

 

「手当てって、平野はできるのか?」

 

「応急処置ぐらいならなんとかね。本当なら今すぐにでも医療機関へと運ぶべきなんだけど僕はそれがある場所を知らないし、なにより」

 

 言葉を区切ると、平野は割れた窓から外を一瞥する。彼女の言った通り、先ほどよりは銃声や爆音は少なくなっている事から直にこの騒ぎは収まるだろう。

 

 しかし、軍の奴らは襲撃を喰らって気が立っている。そんな中不用意に外を出歩けば、あのファイアフライの一員と誤解され発砲される危険がある。となると医療機関へと運ぶ事は不可能に近い。

 

 僕たち二人が言葉を交わしている間にも、目の前の彼女の命は刻々とすり減っていく。

 

 気持ちを静める為に大きく息を吐く。

 目の前に倒れている女性を見殺しにできるほど自分は冷酷な人間ではない。

 

 意志は固まった。隣にいる平野へと助ける手伝いをして欲しいと頼み込む。

 

「助けよう。平野、お前にもできれば手伝ってほしい」

 

「良いよ。どのみち僕も助ける気だったから」

 

「助かる。それで、俺に何かできる事はあるか?」

 

「建物の中から消毒液か綺麗な水。それと清潔な布とハサミを探してきて」

 

「分かった」

 

 何をすれば良いのかを聞き終わると同時に

目的の物を探すため、俺は今いる場所から

建物内にある部屋へと駆けだしていった。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 小室が治療に必要な物を探しに行ったのを見送ると、学生服のポケットからハンカチを取り出し傷口に当て掌で蓋をするようにして傷口を圧迫し止血をする。

 

 脇腹の傷は恐らく銃弾、それもライフル弾により付けられたモノだ。傷口の状態や出血量から判断して少なくとも臓器と太い血管へのダメージは無いようだった。

 

 止血をしている最中、先ほどまで続いていた苦しげな吐息がピタリと止まったため、何事かと彼女の顔をのぞき込む。余りの苦痛にショックを起こし、心停止したのではないのかと言う考えが頭の中を過ぎったが脈はあることから単に失神をしているだけらしい。

 

 

 数分ほど経ったあと、部屋のドアを勢いよく開け両手に布と透明な液体が入ったペットボトルを持った小室がこちらへと走ってくる。

 

「すまん!布と水はあったんだが消毒液は無かった」

 

 差し出された布とペットボトルを近くに置くように言うと、再び傷口へと目を向ける。今まで傷口を圧迫していたからか、流れ出る血の量は最初の頃と比べて減ってきていた。

 布を手に取り、ハサミで手頃な大きさへと裁断したあと水を染み込ませ傷口の周りを拭き取る。血がベットリと付着した布を捨て、残った布を傷口に巻き付ける。

 

 これで応急処置は終わり。自分ができるのはここまでだ。後は傷口から感染症などに罹らないよう祈るしかない。

 額の汗を手の甲で拭う。応急処置を施すなど初めてだったので失敗しないか不安だったが、何とか上手くいった。

 

「終わったのか?」

 

「うん。取りあえずは大丈夫だと思うよ」

 

 そう伝えると小室は、安堵した表情を浮かべ「よかった」と呟く。自分もそれにつられて、安堵の表情を浮かべる。

 

「それで、この後はどうするの?」

 

「怪我人をここに置き去りにしていくのもアレだろ。せめて彼女が目を覚ますまで、ここに留まろう」

 

「騒ぎも収まってきてはいるけど、まだ続いているし……分かった。ここに留まろう」

 

 小室の案に頷きを返す。自分も小室が言った事には共感できる部分があった事に加えて、騒ぎが完全に収まり安全が確保されてから探索を始めた方が良いと判断したからだ。

 

 近くに置かれていたソファーに体を預ける。体を預けた途端、緊張が解け疲労がどっと押し寄せてきた。

 余りの疲労に声を出すのすら億劫に感じられるが、それでも勝手に休むのもどうかと思ったので小室に一声かけてから休息を取ることにした。

 

「小室。僕は……ちょっと、休むよ」

 

「ああ。分かった」

 

 掛けていた眼鏡を学生服の胸ポケットに入れ、目を瞑る。すると、数秒も経たない内に僕の意識は暗闇へと墜ちていった。

 

 

 

****

 

 

 

「さて、どうしようか」

 

 椅子に腰掛けながら、そうポツリと言葉を漏らす。

 本当ならば、この後は平野と情報を共有する為に話し合いをしようと考えいたのだが、あの様子では話し合いをすることは出来ないだろう。

 だが、無理もない。自分はやった事が分からないが人一人を助けると言うのは相当な緊張を強いられる事だと容易に想像できる。

 

「でもアイツ……どこであんな事を覚えたんだ?」

 

「まぁ、起きたらじっくり聞かせてもらうか」

 

 話など後で幾らでもできる。今は休息を取ろうと目を瞑るが、目がやけに冴えているのに加えて女性が流した血の臭いが鼻について休めない。

 

 ソファーで寝ている平野を見やると、平野は辺りに漂う血の臭いなど気にもとめず深い眠りについている。失礼な話かもしれないが、平野に対して出会った当初はどこかオドオドとした様子から気弱な奴と言う印象を受けていたのだが、先ほどの治療と今の様子を見てその印象は間違いだったのでは無いかと感じ始めていた。

 

 苦い笑いが零れる。逆に平野から見れば自分はどのように映っているのだろう。治療の知識など特殊な技能を持っている訳でもなく、治療の最中も水や布を取ってきただけで後は何もできなかった。

 

 今までに得た情報と先ほどの騒ぎから、漠然とだがこの世界は元の世界に負けず劣らず過酷な世界だと言うのを理解した。

 

 

 決意する。

 

 

 この世界に適応しなければ。元の世界では自分は過酷な環境に適応しきれなかったから死ぬ事になった。二度目のチャンスを同じ理由で棒に振る訳にはいかない。

 この世界でも今までの“普通”は何の意味も為さないだろう。むしろ、生き延びる上での足枷となる事を元の世界で学んだ。

 

 普通や常識など今までの価値観を捨てる事がこの環境に適応することへの第一歩となる筈だ。

 しかし、頭では理解していても今までの価値観を捨て去ると言うのは並大抵の事ではない。

 

 だが捨て去らなければ、また大事な物を失うだろう。躊躇し、決断を下せなかったせいで『  』を失ったように。

 

 果たして、この世界で生き延びる事ができるのだろうかと言う不安を抱えながら、僕は今後の事に対して考えを巡らす事にした。

 

 

 そして、時間が過ぎてゆく____

 

 

 

****

 

 

 

「………んん、眩しッ!」

 

 鮮やかなオレンジ色の光__夕焼けの光が、薄く開いていた目に直撃した事でボンヤリとしていた意識が一気に覚醒する。

 

「お目覚めか、平野」

 

 チカチカとする目を手の甲で擦っていると、小室の声が耳に届いた。

 目がまともに物を映すようになった頃、辺りを見回し自分が置かれている状況が変わっていない事を確認する。

 

「どうしたんだ?」

 

「いや、僕たちが置かれている状況は変わっていないんだなって」

 

 僕の言葉に小室は頷きを返し、疲れた様な表情を浮かべ、小さく「そうだな」と呟いた。

 彼の姿を見て、不用意な発言だったと罪悪感を感じ謝罪の言葉を掛ける。

 

「ごめん。変なこと言った」

 

「別に謝らなくても良い。事実だしな」

 

「だけどさ、平野。確かに俺たちは元の世界と同じくらいヤバい世界に来たのかも知れない。でも俺たちは生きている。だろ?」

 

「うん」

 

「生きていれば、なんとでもなるさ」

 

『アナタたち』

 

 会話の最中に、女性の声が耳に届く。声のした方を向くと、頭だけをこちらに向け先ほどと全く同じ鋭い視線を彼女はこちらに送っていた。

 

『傷の手当てはアナタたちが?』

 

「傷口の処置は平野が」

 

『そう。………感謝するわ』

 

 小室がそう伝えると、彼女はこちらに顔を向け感謝の言葉を伝えてきた。

 

「いや、そんな」

 

 照れ隠しに頭を掻いている僕の姿を見て、彼女は僅かにだが表情を緩める。しかし直ぐに元の厳しい表情に戻ると言い辛そうに口を開く。

 

『突然だけれど、アナタ達に頼みたい事が

あるの』

 

 隣にいる小室と顔を見合わせる。ひとまず話くらいは聞いてみても良いのではないかと目線で訴え掛けると、僕の意志が伝わったのか小室は軽く頷くと彼女にその頼みとは何なのかを尋ねた。

 

「どんな頼みなんですか?」

 

『この町の直ぐ近くにある倉庫まで護衛を頼み

たいの』

 

 耳を疑った。僕たちに護衛を頼みたいとは一体どう言う事なのかと疑念が心中に渦巻く。

 疑念を抱いたのは小室も同じようで、彼女に

対してどう言う事なのか説明を求めた。

 

「護衛ってそんな、急に言われても」

 

『私もアナタたちみたいな子供に護衛なんて

頼みたくはないのよ。でも、私の仲間はあの

騒ぎで全員やられてしまった』

 

『それに、この傷じゃ軍や感染者から身を守る

ことすらできないわ』

 

「……本気ですか?護衛する以前に、あなた自分

の状態分かってます?治療してからまだ数時間

しか経っていない今、下手に動き回ると間違い

なく傷口が開く。そうなれば死ぬ危険だって

あるんですよ」

 

 しかし、僕の警告を込めた言葉に対して彼女は首を横に振る。

 

「死ぬ危険があることは十分理解しているわ。

でも、私には時間がないの」

 

 彼女の言動から倉庫へ向かう意思を曲げるつもりは無い事を悟る。小室の方へと顔を向けると彼も説得しても無理だと理解したのだろう首を横に振ったあと、彼女へ断りを入れる為に口を開く。

 

「その頼みは__」

 

『見返りは払うわ。傷の治療をしてくれた分を含めてね』

 

 断りを入れる寸前、彼女が気になる事を口にした。それを聞いた小室は断りを入れるのを一旦止め、彼女に見返りの内容を問いただした。

 

「見返りって、どんな?」

 

『銃、弾薬、医療品、配給カードってところかしら』

 

「えっ、銃ですか!?種類は?」

 

 “銃”と言う言葉に反応し思わず間抜けな声を出してしまった。隣に立つ小室が怪訝そうな顔をしたが、そんな事には気にも留めずどんな種類の銃があるのかを早口で尋ねる。

 

『数が一番あるのは拳銃ね。その次に数が多いのはアサルトライフルね』

 

『後は数は少ないけど散弾銃、それにクロスボウもあった筈だわ』

 

『アナタたち二人にその中から好きな物を見返りとしてあげる。それでどう?』

 

 銃と言う言葉を聞いた時から、彼女の頼みを断るとの考えが揺らぎ始めていたが今の言葉で頼みを断ると言う考えは頭から消え失せた。

 

「小室。この人の頼みを引き受けない?」

 

「平野!?」

 

 こちらへと信じられない物を見るかのような目を小室は向けてきた。

 つい先ほどまで頼みを引き受けないと言う方針で話が進んでいたのに、突然その方針とは真逆の事を言われたのだ。無理もない。

 

「この先、多分__いや必ず武器が必要になってくる。だから僕としてはこの機会に武器を入手しておきたい」

 

「……確かに僕もこの先、武器が必要になるとは思っていた。だけど平野。それを手に入れるには彼女を俺たち二人だけで無事に倉庫まで護衛しなくちゃいけない。それを分かって言ってるのか?」

 

 小室の言うとおり、見返りを得る為には怪我をして危険な状態の彼女を無事に倉庫まで護衛しなくてはならない。それもたった二人で、軍や感染者から。

 

「武器を手に入れる方法は他にもある筈だ。なにもそんな危険を侵す事はないだろ?」

 

 そうだ。冷静に考えれば、怪我人の護衛と言う危険な事を請け負い見返りを得ずとも他に武器を手に入れる方法はある筈だ。

 なにせここは銃大国アメリカ。銃規制の厳しい日本とは違い、ホームセンター等にも当たり前のように銃が売られているのだ。探せば直ぐに見つかるだろう。

 

 

 だが、その考えは今まで僕たちのやり取りを静観していた女性が放ったある一言で無意味なモノとなった。

 

「アナタたちが求めてる武器がもし銃だとしたら簡単には手に入らないわよ」

 

「感染爆発が起こってから、店売りの銃はほとんど軍の奴らに回収されたわ。残った銃も隔離地域の外にいるごろつき達が独占してる」

 

「だから銃を手に入れるには軍かごろつき達を殺して奪い取るか隔離地域内にあるブラックマーケットでそれなりの見返りを払って手に入れるしかないの」

 

 彼女はこちらを交互に見て、銃を手に入れるのは簡単では無いと言うことを話す。

 表情と言動から察するに少なくとも噓ではないらしい。溜息を吐きたい気持ちを抑え、彼女の話した内容をもう一度頭の中で吟味する。

 

 軍やごろつきを殺して奪い取る事は自分達にはまず無理だろう。仮に奪い取れたとしても、ごろつき達はともかく軍の人間を殺した場合非常に不味い事になる。

 

 ブラックマーケットで取引をするにしても、見合った見返りを用意する事は自分達にはできない。取引ができない以上、リスクはあるが少なくとも正面から戦わずに済む護衛の仕事を引き受けるしか手早く手に入れる方法は存在しない。

 

 今の自分には一刻も早く武器を手に入れたい理由がある。手早く手に入れる方法がそれしか無いのなら、多少のリスクが存在しようともその方法を取る。

 

 隣に立つ小室の方を向き、自らの下した選択を伝える。

 

「僕は彼女の頼みを引き受ける事にするよ」

 

 僕の言葉を聞いた小室は首を振り、口から疑念に満ちた声を絞り出す。

 

「どうして、そこまで銃に拘るんだ?」

 

 その疑問を聞き、小室へと自分が何故銃にそこまで拘る理由を語る。

 

「どうしてかって?決まってるさ。銃を持って

たら僕は奴らにヤられる事なんて無かったんだ」

 

「……小室には分からないかもしれないけど、銃は僕にとって無くちゃならないものなんだ。聞いた話だと“ここ”も僕らがいた所と同じくらいヤバいって話だ、それなら尚更銃が必要になってくる」

 

「だから、僕は銃を手に入れる為に彼女の頼みを引き受けるよ。──小室はどうするの?」

 

 理由を語り終えた平野がこちらへ問いを投げかけてきた。その眼差しからは何の感情も読み取る事はできない。

 

「僕は────」

 

 




 久しぶりの投稿となります。更新頻度はもう一つの作品に比べて遅くなると思いますが、エタることはないように頑張っていきたいと思います。
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