「さて、立派な家も出来たし、これからどうするかな」
そう言ったリョウの前には粗末な掘っ立て小屋があった。
「何よ、この竪穴式住居?」
「やっぱり高床式の方が良かったかな?」
「どうでもいいんじゃないかしら」
振り向いたら、空間に暗い切れ目が入っていて、そこに少女が腰をかけたままこちらを見ていた。
「ああ、誰かと思えば。その節はどうも。僕も素敵な土地を紹介してもらえたよ。紫のお嬢さん」
「八雲紫よ。一応、ここ幻想郷の管理者」
「僕、管理人さんって憧れなんです。外の世界で「メゾン・ド・丑の三刻」っていう人気アニメ見てから。まあウソなんですけど」
「あら、それは残念。でも歓迎いたしますわ。冬夂リョウさん」
「ありがとう。よもや僕が誰かに歓迎されるなんて、思ってはいたけど照れ恥ずかしいもんですね」
「幻想郷は全てを受け入れるのよ」
「それは残酷(すてき)な話ですね」
「ふふ、どうも」
「所で、僕は何をしたらいいんですかね?」
「何をしてもいいし、何もしなくてもいいわ。ただ、人里に住んでいる人間は襲っちゃダメよ」
「僕が人間を襲うなんて、考えられないよ。人間は僕が嫌いかもしれないけど、僕は人間が好きだからね」
「それは良かったですわ。じゃあ、私もコレで。ああ、そうそう。一応、幻想郷(ここ)の地図は渡しておくわ」
「ああ、こりゃどー……あら?」
紙を受け取り振り返ったら、もうそこに紫は居なかった。
「せっかちなお嬢さんだ」
「紅魔館ねー。何か知ってる?」
紫から受け取った紙を見ながら声を出すリョウ。
「な、何でわかったの!?」
「私たち完璧に隠れてたよね」
「音も姿も消してた筈よ!」
「どうも、初めまして。冬の神様だよ」
「初めまして……何でわかったんですか?」
「幻想郷(ここ)は声を出したら誰かが返事してくれるとこみたいだから、声をかけてみたんですよ。ところで君たちは?」
「私はサニーミルク。妖精よ」
「同じくルナチャイルド」
「スターサファイア」
「僕はスタープラチナ」
「……」
「失礼。で、君たちはこの紅魔館について何か知ってますか?」
そう言いながら、紫に渡された紙を見せる。
『紅魔館』
今、大ムーブメントを引き起こしている絶好の観光地!
吸血鬼好きのあなたにピッタリ☆
などと書いてあるが。
「お兄さん、吸血鬼好きなんですか?」
金髪縦ロールで口みたいな栗をした女の子妖精、ルナチャイルドがリョウに聞く。
「好きか嫌いかで言うと好きかな。でも、三つ目の選択肢を貰えるとしたら、限りなくどうでもいいに近い好きだよ」
「そ、そうなんですか……」
「神様って変わってるんですね」
「僕はここに来るまで、変わってるって言われた事がなかったんだけど……ここに着てから二回も変わってるって言われたって事は、ここじゃあ変わってるって事なんでしょうね。でも、それじゃあ僕が変わってるんであって、別に神様が変わってるって訳じゃないのかな。まあ、僕はそんなに頭がいい訳じゃないから、詳しい事はわかりませんけど」
「よくわかんなかったけど、要するに紅魔館に行きたいんですよね?」
黒髪の妖精、スターサファイアが聞いてくる。
「いやそれが、別に行きたくないんだよ」
「へ?」
「書いてあるからどうしよっかなと思っただけで、それほど行きたい訳でもなくてね。別にココじゃなくても、どこでもいいんだ」
「でも紅魔館に行こうとしてませんでした?」
「いや、何か知ってるか聞いただけでこれっぽっちも行きたくないですよ。だいたい、たかだか個人の家に行った所で何が面白いんだか。そんな所よりもっと楽しい所ってない?」
「うーん……あ、ひまわり畑なんかどう?」
「え!?あ、危ないよ」
「大丈夫でしょ」
八重歯の似合う金髪の妖精、サニーミルクの提案は、すぐに二人によって却下されてしまった。
しかし――
「いいね、俺は向日葵って好きなんだ。夏っぽいし」
――という、リョウの一言によって行く事が決まった。
「ねえ、ホントに行くんですか? あそこ、すごく怖い妖怪が居るんですよ?」
「じゃあやめとこうかな」
「えー、行きましょうよー」
「じゃあ行こうかな」
「どっちなんですか、もう!」
「うーん、どっちでもいい。そんな事より、僕って神様だけど魔法使いなんだよね。試しに君たちが今履いてるぱんつをお金に変える魔法できるけど、見たくないですか?」
「お金は別に……って……」
「変態だー!!」
「失礼な。僕は変態じゃなくて大変態だよ」
「あ、ここです、ここ」
戯れる三人を見向きもせずに歩いていたスターサファイアがリョウに声をかける。
「近いね。で、本当に凄い。こんな凄いひまわり畑、僕は初めて見ましたよ」
「でしょ?でも、ここを管理してる妖怪がおっかなくて」
「いやいや、こんな凄い畑を作れるんだ。きっと心優しい、素敵な妖怪に違いないよ」
「あら、そこまで褒められると照れるわ」
「どうも、こんにちは。僕は冬の神様です」
「あら、ご丁寧に。花の妖怪です」
「で……」
「「「出たー!!」」」
緑の髪の淑女然とした、自称花の妖怪を見るなり、ついてきた三人の妖精は一目散に逃げてしまった。
「あらあら、随分嫌われちゃったわね」
「前科でもあるの?」
「ぶっ飛ばすわよ」
「どうぞ。パンチから始まる恋もあるそうですよ」
「ああ、そう。貴方、今朝配られた烏の新聞の……」
「はい、ジョニー・デップです」
「嘘おっしゃい」
「冬夂リョウです。よろしく」
「ええ、よろしく。そしてさようなら」
花の妖怪は、畳んだままずっと持っていた日傘を降りリョウに叩きつけた。
「情熱的なさよならだ。また会いましょーーー…………」
傘を叩きつけられたリョウは最後まで気の抜けた声で、挨拶をしながら飛んでいった。
「何しに来たのかしら?」
少なくとも、殴られに来た訳ではなさそうだが、と、花に水をやっていない事を思い出した花の妖怪は家まで如雨露を取りに返った。