白式の日(インフィニット・ストラトス×ガンダムUC)   作:スターゲイザー

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第3話 白式の日(下)

 

 織斑一夏は目の前の光景が信じられなかった。正確にはその光景が繰り広げられているのは上空であったが、目の前で行われているかのような錯覚を覚える戦いを前に瑣末である。

 

「なんで街中でISが戦闘なんてやってんだよ……!」

 

 最初の衝撃に白銀のISに投げ渡された少女が飛ばされないように抱き抱えながら、一夏は戦いを続けるIS達を罵った。一夏が通う藍越学園も近いこの区域は住宅が密集した市街地で、上空であったとしても周辺に影響が及ぶ戦闘を行うなど真っ当な神経の持ち主に出来ることではない。

 まさかその内の一機が自分達を守ろうとしているなど想いもしない。

 

「一夏!」

「来るな、弾!」

 

 後を追って来たらしい弾を声で押し留める。

 2機が戦闘を行なっているのは一夏の斜め上辺り。弾はその後方で戦闘に巻き込まれる確率は一夏と比べてほんの少し低い。誤差程度でしかないが、人間が生身でISの攻撃を受ければ確実に死ぬのだから誤差であろうと命運を分けるならば一夏はそうする。

 

「救急車と警察…………いや、自衛隊を呼んでくれ!」

「避難させた蘭がやってくれる! お前も逃げるんだよ!」

 

 弾と一緒にいたはずの蘭の姿が見えなかったのは先に逃げさせたからのようだった。ツンツンしているようでもブラコン・シスコンの五反田兄妹の行動は直線的だ。

 揉め事には警察と結論が出かけたが、警察の装備ではISを鎮圧することは出来ない。となれば、同じISを有している部隊があるという自衛隊を頼みの綱とするしかない。警察にISが戦闘をしていると伝えれば自衛隊に連絡が行いくだろうから、連絡先に迷うこともない。

 

「この人がいるから動けないんだよ!」

 

 弾が一夏にも逃げるように言うが、少女――――というより気絶して脱力している人間は想像以上に重く感じる。慌て動揺している一夏では冷静に少女を抱え上げて逃げることは難しい。弾が手伝おうと僅かに腰を上げた時だった。

 

「ぅ……」

 

 少女が呻き声を漏らして僅かに瞼を震わせた。覚醒の兆候であると判断するのは簡単だった。一夏と、匍匐前進のように這って近づいてきた弾が少女の顔を覗き込む。

 改めて少女の顔を見て、一夏はやはり見覚えがある気がした。髪型といい、気の強そうで実は弱いところがありそうな面差しといい、記憶にある人物と重なって仕方ない。

 少女の目がゆっくりと開かれる。やはり、その眼差しは遠い記憶の幼馴染と同一のものだった。

 

「箒……?」

「……一夏?」

 

 開かれた瞼の下にある瞳に意志を乗せ、一夏と少女―'―――篠ノ之箒が八年の時を超えて戦場で再会した瞬間だった。

 八年間分の想いが視線と共に絡み合い、時間を埋める言葉が出ようと両者が共に口を開いたところで、三人の近くに頭上から何かが落ちて来た。

 よほどの高さから落ちて来たのか、重い音と共に地面に当たって微かに跳ねる。

 三人の視線が地面を転がる物体である装甲が張り付いた40㎝程度の機械に釘付けになり、一夏は逸早く上空の異変に気づいて箒を弾に押し付けて立ち上がり、一目散に走り出した。

 箒と弾も一夏が走り出した理由にすぐ気が付いた。

 戦っていたISの1機が攻撃を受け、血を迸らせながら落ちて行く。一夏は受け止めようというのか、凄い勢いで走るがどう考えても間に合わない。

 間に合わないことが生身の限界であり、落ちてくるISを助けることは出来ないと分かっているのに一夏の直感は走ることを求め続けた。理由は本能的に分かっていた。分かっていたのに理解することを拒んだ。

 

「千冬さん!」

 

 後ろから箒の声が聞こえた。その言葉の意味を、誰の名を、誰に向けて言っているかを理解してしまえる己の能力を一夏は呪わずにはいられなかった。

 何百メートルもの空中から重力で加速して地面に落ちたISは、弾むことなくその重量を証明するかのようにクレーターを作る。地面に落ちた衝撃が周囲に広がって、走りながらも顔に風を感じて、一夏は一瞬目を閉じたが一秒たりとも足を止めることなく出来たばかりのクレーターへと身を躍らせた。

 コンクリートを打ち砕いて素の地面にその身を沈めているISの姿は、世間一般よりも知識がないと自認する一夏が見ても死に体と判って、着地したところで足を止めてしまう。

 敵ISに受けたダメージか、落下の衝撃か、素人以下の一夏には理由は分からないが、全身を覆っていた装甲が霞と化して消えていく。もっと酷いのはISの中身――――操縦者の方である。

 パッとみで分かる外傷は左胸に空いた穴のみ。

 心臓がある場所を正確に貫いている穴は諾々と血液を漏らし続けており、頭部を覆っていた装甲の一部が剥離して霞と化して露わになっていく顔に浮かぶのは、医学的な知識など欠片もない一夏にだって分かる明らかな死相。

 この人は助からないのだと、弱まっていく気配から悟ってしまった一夏は唯一の家族である姉が微かに手を上げていくのに気づいて、ようやく自分を取り戻した。

 

「千冬姉!」

 

 一度は上がったものの、それだけで全ての力を振り絞ってしまったかのように落ちかけた手を掴む。

 掴んで、とても人の手とは思えない冷たさにゾッとする。これが死んでいく人の手と認識した一夏の錯覚かは分からないが、手を掴んだことで一度閉じられた千冬の瞼が再び開かれる。

 

「しっかりしろよ、千冬姉!」

 

 叫んで呼びかけても、千冬の反応は薄かった。普段ならば声が大きいと怒ったのに、諌めることすらも出来ない程に弱っているのだと思い知らされて体の奥が縮み上がるような感覚を覚える。

 姉が死んでいく実感が明確に現れ、恐怖によって精神が恐慌を来たす。

 流れゆく血さえ止めれば助かるのだと、傷口を手で抑え付ける。そんなことで止まるはずがないと分かっているのに、やらずにはいられなかった。 

 

「なんなんだよこれは! 何年も会ってなかった箒を投げ飛ばしたり、ISが千冬姉だったり、訳わかんねぇよ!! アイツらの所為でみんな巻き込まれて…………千冬姉は世界最強なんだろ! 誰にも負けないんだろ! なのに、こんなところでなに死にかけてんだよ!」

 

 こんなことを言いたいわけではなかった。最後なのだからもっと言うべき言葉があるはずなのに、口に出るのはそんな言葉ばかり。

 一夏の最も古い記憶は白い部屋の中で立ち尽くしているところから始まる。

 白い壁、白い天井、白いカーテン、何もかも清潔そうで個性の感じられない味気ない部屋。部屋に置かれているベッドも、布団も、何もかもが白い。そして、ベットに横になっている人もまた部屋の白さに同化してしまいそうなほど青白い顔色をしていた。無機質な白い部屋が存在する場所など限られる。そこが病院の一室なのだろうと気づいたのは、大まかに社会を知るようになってからだ。

 記憶の中の一夏は一人ではなかった。姉の千冬が後ろに立っていたはずである。

 自信がないのは、この記憶が物心つくかつかないかの幼少時の記憶だから朧気だったからだ。少なくともそんな年頃の子供が一人で病院の一室にいるとも思えず、父は一夏が生まれる前に亡くなったという話だから十歳年上の姉がいたのだろうと考える。

 何故ならその病室の主は一夏の母であるからだ。幼少時の子供が身内の病室に赤の他人と一緒にいるとは思えない。実際には姉ではなく別の誰かかもしれないが、消去法的にはやはり一緒にいたのは姉なのだろう。

 母について覚えていることは殆どない。体が弱かったのか、それとも一夏を産んでから何かの病気を患ったのか、本当に何一つ知らなかった。家に写真は残っていなかったし、記憶もこの病室のものしかないから赤の他人よりはマシぐらいの感慨しか抱けない。

 千冬に聞けばもっと詳しい事が分かったかもしれないが、幼い時分に母がいなくなった後の荒れ様を目の当たりにしただけに傷を穿り返すような真似は出来ず、落ち着いた後も改めて聞くことに思うところもあって時期を完全に逸してしまい、今に至るわけである。

 始めからいないようなものだったから、一夏にとって親は最初からいないものだとすることにしたのだった。流石に友達が親と楽しげにしているところや、幼馴染が両親と見せる親しげな姿に嫉妬や羨望を覚えることはあったが、意地っ張りな子供だったからか表に出すことはなかった。

 そんな一夏でも親から学んだことがたった一つだけある。

 記憶の中の母は程なくして息を引き取った。苦しむこともなく、まるで眠るように。この死によって人の死に様は静謐でなければならないと、強く固く一夏の中に印象付けられたのだった。

 

「すまない、一夏……」

 

 死を穢してはならない、静謐に最期を迎えなければならないと、どれだけ言葉で飾ろうとも姉の言葉を前にして一夏の主義など一瞬で消えてなくなる。

 

「謝るなよ……っ!? こんな時に、謝るなよ!! くそっ、くそっ、血が止まんねぇっ! 救急車はまだかよっ!!」

 

 何時の間にか、涙が懇々と溢れ出していた。トラックや車が爆発した余波で火事も起こっていて、上空ではISが戦闘中ともなれば救急車が迅速に駆けつけてくれる幻想など抱けるはずもない。それでも叫ばずにはいられなかった、救いを求めずにはいられなかった。

 一夏は抑えた手の先で命を弱めていく姉の姿を見ていることしかない出来ない己を呪った。

 

「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう! なんで、なんでだよ! なんでこんな……っ!」

 

 少し前の日常が遠い異世界のように感じられて、こんな悲劇に彩られた非日常を受け入れることが出来なくて一夏は慟哭する。

 千冬や、トラックや車に乗っていた者達、巻き込まれた人達にだって、大切な人や守りたい人がいて、やりたいことや予定していたことがあったはずなのである。その全てが理不尽に奪われ、残されたのが悲しみといった負の感情だけ。

 世界を呪い、憎み、嘆くことしか出来ない一夏の目の前に突如として人のデータが表示された。

 

「な、なんだよコレ……?」

 

 分からない。何も分からないが、繋いだ手から熱が伝わってくるように感じて不安を覚えなかった。

 3DCGで表示されている人体の右手から広がって行った神経のような網が全身に及んだところで、人体の上に『COMPLETE』と文字が現れた。

 

「これで、白式は、一夏にしか、動かせ、なくなった」

「白、式? 何を言ってるんだよ千冬姉」

「……お前は、私を……恨むだろう」

 

 千冬は一夏の問いに答えない。もう耳も聞こえていないのか、視線も茫洋として合っていなかった。

 これが本当に末期の言葉なのだと悟ってしまい、それでも姉に伝えられる物があると掴む手に力を込める。

 

「恨みなんかしない! 千冬姉にはずっと感謝していた。これから返すはずだったんだ。だから、だから……!」

 

 何を伝えればいいのだろう。何を言えばいいのだろう。言葉を口に出すほど後悔ばかりが積み重なり、想いの一つも伝えられない。

 悔しく、情けない一夏の視線の先で千冬は慈しむように笑っていた。

 

「何も、して……やれずに、こんな……重荷まで、背負わせるんだからな………………それ、でも…………頼む」

 

 断れるはずがなかった。どんな重荷でも、それが千冬が残してくれる物ならば喜んで背負おうと、掠れて小さくなっていく言葉を聞き逃すまいと耳を近づける。

 

「この……コアを、みんなを…………守ってくれ……一夏…………」

 

 千冬の全身を覆っていた装甲が消えて繋いだ手を伝って量子が一夏の体に纏わりつき、まるで千冬の願いを聞き届けたように鎧を形成する。同時に安全弁が外れたかのように更に血液が溢れ、傷口を抑えていた白銀の装甲を纏った一夏の手を濡らす。

 

「…………ああ、任せてくれ。絶対に、守って、みせる……から」

 

 本当に一夏が守りたかったのは千冬なのに、そう言うしかなかった。千冬の最後の願いを叶える為に、そう言わずにはいられなかった。

 手から広がり、足に胴体と次々に装甲を身に纏っていく一夏を見上げた千冬は、最後の力を振り絞るように溢れ出た自身の血に濡れた手を上げて――――。 

 

「………………私の…………大好きな、一夏………………幸せに…………」

 

 ゆったりと微笑んで一夏の頬に触れて、その手は地に落ちて二度と動くことはなかった。

 千冬の血がついた頬を瞬く間に顔を覆う装甲が隠していく。呆然とクレーターの外で一夏の後を追ってきた箒と弾はまるで呪いにかけられたようだと感じたという。

 呆然自失していた一夏は頭部も装甲で覆われて一瞬視界が真っ暗になった後に視界が広がり、今までとは比べ物にならない情報が脳に叩き込まれる。

 理解できないはずなのに理解できる情報の奔流。脳が悲鳴を上げるが、目の前で表示されている千冬のバイタルサインが停止している事実が一夏の全てを支配していて痛みなど感じない。姉の死という事実を突きつけられ、胸の奥に空いた喪失感が大きすぎて痛みを感じる機能が死んでいる。それでも脳に叩きこまれる情報は留まる事を知らず、ISに関する全てが刻み込まれる。

 

「一夏……」

 

 名を呼んだのは弾か箒か。どっちでも良かったし、分かったところで意味はない。

 

「守らないと」

 

 他人の存在が一夏の時間を進める。それが正しいとか間違っているかは関係ない。約束だったから、失った人との最期の約束だから動く。そうすることでしか守れない思いであるから、一時ですら止まることは許されない。

 繋がっていても熱を伝えてはくれない装甲を纏い、温もりを失っていく千冬の手を離して両手を胸の上に重ねる。

 死者は静謐でなければならない。死を冒涜してはならない。死者の願いを、想いを無視することはそれこそ本当の意味で殺すに等しい行為。何も出来ず、何も返せなかった一夏が出来るのは、たった一つ。

 

「弾、箒…………千冬姉を頼む」

 

 クレーターの底からハイパーセンサーを通して見上げた弾と箒に頼む。

 二人が頷いてくれたのを確認した一夏は、遥か空高くで戦っている2機のISを見る。一夏の意志を読み取ったISがハイパーセンサーを調節して姿を的確に捉える。

 見ていた、一夏は見ていた。あの青いISが千冬を刺す瞬間を。

 戦って、守ら(殺さ)なければならない。

 

「ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!」

 

 一夏は自らの裡に生まれた殺意の獣を解き放つ。ISの操縦法は脳が、本能が知っている。考えることなく動かすことが出来るから、解き放たれた殺意の獣の好きにさせた。

 軽く飛び上がって千冬へ影響が出ない高さから一気にスラスターを全開に焚く。

 PIC――――物体の慣性をなくしたかのような現象をおこす装置――――ですら殺せないGに全身を圧されながらも、一直線に敵ISに向けて飛ぶ。

 一瞬とも思える時間で地上から高度数百メートルまで辿り着いた一夏に向かって敵ISがレーザーのようなものを放ってきた。

 大型ライフルが構えられた瞬間に発せられた殺気のようなものから感じ取り、白式が一夏の意志を読み取ってスラスターの向きを微妙に変えてレーザーを躱し、推進力のままに敵ISに躍りかかる。

 

「ここから、いなくなれ――――っっ!!」

 

 敵ISが一夏の接近に反応して右手に近接ショートブレードを手にしたが、白式は全くスピードを落とすことなく接近して両手を捕まえ、限界を訴えているスラスターに更にエネルギーを注ぎ込んで爆発したように加速する。

 2機は雲に突入し、直進する推力と逆らう力が拮抗して奇々怪々な軌跡を描く。

 強烈なGで体が軋む。戦わ(殺さ)なければならないと心が苦しい。直ぐ傍にある偽物の顔が許せない。同じ顔で、同じ声で、同じ姿で、この世に存在する唯一を奪っておきながら不遜にも息をしている罪悪が許せない。何よりも織斑一夏は自分が許せなかった。

 

『―――――ッ』

 

 雲が途切れると同時に敵ISが横向きにスラスターを焚いて白式の腕を振り解いて離脱する。

 

「逃がさない……っ!」

 

 背中を見せて逃げようとする敵ISの背中に蹴りを叩き込むが直ぐに失策だと気づく。

 蹴られた威力を利用してスラスターの推進力を増すことで距離が広がり、白式の驚異的な推進力があろうとも1クッションが必要になった。この場合の最善の手は何かと我知らず思考しようとした頭で、何をするにしても素手のままでは戦えないと考えた一夏の思考を読み取って、視界の端に搭載武器の一覧が表示される。

 

「なにか武器は…………バルカンとビームサーベル?」

 

 検索にヒットするのは2件のみ。近接特化サーベルと牽制にしか使えない腕部に内蔵される小型機関砲だけ。距離が離れた相手に当てられる火器が全くないことに舌打ちしたい気持ちだった。

 

「――――これだけか!?」

 

 戦闘中に意識を他に向けるなど愚の骨頂。意識を敵ISに向けるとビービーと危険を知らせる警報が鳴り響き、全方位から気配が向かってくる。それが敵のビットと呼ばれるBT兵器だと一夏が知るのはもう少し先の話である。

 今の一夏にとって全方位に迫るビットは脅威以外の何物でもない。急制動をかけ、別方向に切り返すがビットは予測していたかのようにピタリとついてくる。白式を囲むように包囲網が形成され、一斉に砲口が光る。

 

「うわぁああああああああああああっっっ!?」

 

 遠くで敵ISが大型ライフルを構えており、どう動こうとも回避は不可能だと悟り叫ぶ。

 織斑一夏はここで死ぬのだと自覚したところで、キィンと金属同士が当たった甲高い音が耳に響き、視界に『VT-D』の文字が浮かび上がる。赤く紅く朱い文字に千冬の血を連想したところで、織斑一夏の意識はシステムに呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 亡国企業所属のテロリストであるオータムは楽しみの真っ最中であった。

 オータムに人に語れるような過去はない。糞ったれで最悪な、でも今となにも変わらないだけだ。そう、弱者を嬲る楽しさだけは過去現在末来で何一つ変わらない。

 

「おらおら、どうしたよ代表候補生様よぉっ! たかがテロリスト相手にお国を代表する操縦者様が押されてていいのかよ!」

 

 装甲脚固定砲のループワープを撃つと泡を食ったように逃げ出す敵IS。事前に入手した情報で甲龍とかいう気取った名前と操縦者が代表候補生に成り立てだと知っているので、遠慮なく煽る。

 ループワープを避けた甲龍が体勢を立て直して衝撃砲とかいう見えない砲撃をかましてくるが、操縦者が武装の扱いに慣れていないのが丸見えで、射線から弾頭を予測して避けるのは容易い。

 

「外れてんぞオラァ! いい加減に当ててみろよカスがぁ!」

 

 今度はこちらがマシンガンのノーリンコカービンで追い込みをかける。

 敵の回避機動に関してはオータムにしても易々と当てられるものではなかった。ISの操縦歴が一年と少しにしては信じられない才能である。長じれば立場が入れ替わってもおかしくはないが、現時点での力量はオータムが上回っている。

 甲龍は第三世代ISの一機。専用機に乗り立てで扱い慣れていなければ、このように性能で劣る第二世代のアラクネに翻弄される。ISは機体だけでなく操縦者が優れていなければ勝つことは出来ないのだ。

 

「さっきからギャーギャーと品のない言葉ばかり…………もう少し女らしい言葉遣いが出来ないのアンタは!」

「知らねぇなぁ! 虫におべっか使うほど耄碌してねぇんだよアタシやぁ!」

 

 小五月蠅い蠅が逃げながら喚いているが、この世でただ一人以外の全てを下に見ているオータムには伝わらない。

 

「誰が虫よ! 虫はアンタでしょうが! 蜘蛛の姿のISを使ってるのは誰よ!」

 

 逃げるしか能のない虫が何か言っているがオータムにとって瑣末に過ぎない。聞きたいのは悲鳴、苦悩、絶望の叫びだけである。

 

「虫は虫らしく泣き叫べやオラァ!」

「人の話を聞きなさいよ!?」

 

 オータムには虫相手に会話を成立させる気はなく、無駄に甲龍がしぶといのでいい加減に飽きが見えて来た。

 甲龍の操縦者は武装の扱いには慣れていないが機体には慣熟しているようで、無駄に逃げ足だけは速いからオータムの望む悲鳴とかが聞けない。

 元来、飽きっぽいオータムは作業ゲームの類は嫌いである。強敵と戦って喜ぶような奇特な性格もしていないので、時間稼ぎにこれほど向かない人物もいない。しかも今回の作戦にはオータムが毛嫌いしているMも参加している。オータムは時間稼ぎなんて貧乏籤を与えられたのに、嫌っているMが作戦の本命だと聞けばオータムならずとも嫌気が差す。

 そんな不機嫌だったオータムを翻意させたのは、大切な人の言葉だった。

 

【私の可愛いオータムなら出来るわ。やってくれるわね?】

 

 大切な人に言われたのならばオータムに否はない。嫌いな相手と一緒だろうが引き立て役だろうがなんだってやってやる…………なんて、気持ちは頂点に達してしまえば何時までも維持しておくのは難しい。

 プロであるからモチベーションは保つが、どうしても思考にいらない物が混ざってしまう。

 

「隙有り!」

「おっと、危ねぇ」

 

 今まで見せなかった腕部の小型の衝撃砲が放たれ、僅かに反応が遅れたアラクネの多脚の先を破壊される。

 オータムは追い詰めていた虫の反撃によって傷をつけられたことに激昂しかけるが、彼女の中の別の一面が冷静さを促し、感情が一時フラットの直線を描く。

 

「やるじゃねぇか」

「伊達で代表候補生に選ばれてないわよ」

「いいぜ、認めてやるよ。テメェは虫じゃなくて鼠だってな」

「話通じてるのかしら? それよりもいいのかしら、よそ見しちゃって」

「なに?」

「う・し・ろ」

 

 ビービーと接近警報がオータムの耳に届き、甲龍が両手に持っていたはずの大型ブレード二つがないことに気づきながらハイパーセンサーで後ろを見る。そこには回転して迫る大型ブレードの姿があった。

 何時の間に、と驚愕する前に反射的に多脚の内の一本で無難に弾き飛ばす。

 弾かれた大型ブレードはクルクルと回りながら、それ自体に意志があるかのように甲龍の手に戻って分割された。

 

「良い手だが、惜しかったな」

「ふん、別に期待していなかったわよ」

 

 オータムが迎撃している間に衝撃砲を放つつもりだったようだが、オータムは甲龍から一瞬も意識を放さなかった。衝撃砲を警戒していたから甲龍も攻撃に移れない。

 幾ら甲龍が燃費と安定性を第一に設計された実戦モデルといっても第三世代の中での話。第二世代のアラクネと比べればどうしたって燃費で劣る。実力は機体性能と操縦者の技量を考えればオータムが上。

 だが、たった一年で代表候補生まで上り詰めた甲龍操縦者の才能はオータムを以てしても侮れない。戦っている間に彼我の技量差が覆りはしなくても、追いつかれてしまう可能性は十分にある。

 速攻で倒すのは難しく、逆に勝負を焦れば負けるのはオータムの方だ。かといって時間をかけすぎるのも下策。

 

「やることは何も変わらねぇ。獲物が粋がってるってんなら調教し直すだけだ」

 

 躾けの悪い鼠を調教するのはオータムが二番目に好きなことだ。大切な人と褥を共にするのが一番目で過去現在末来において順位が変わることはないが、反抗的である方が完全に屈服させた時のカタルシスが大きいので尚のこと良い。

 

「獲物が調教師の手を食い破るってのもよくあることよね。喰わせても貰うわよ、蜘蛛野郎」

「言ったなぁ……っ!」

 

 こうだ、獲物はこうでなくてはつまらないと、オータムは決して満たされることのない飢狼の如き笑みを浮かべる。

 ようやくこの作戦に面白みが出て来たと言えたが、オータムがアラクネを駆って甲龍に襲い掛かるよりも横やりが入る方が早かった。

 ボウッと近くの雲を突き破って現れる二機のIS。一機は味方のサイレント・ゼフィルスであり、見慣れない白銀の重装甲ISに両腕を掴まれてここまで来たようだ。

 サイレント・ゼフィルスがスラスターを焚いて白銀のISの拘束を振り解いて離脱するが、そうはさせじと蹴りが無防備な背中に当たる。しかし、それはサイレント・ゼフィルスの計算通りだった。

 一気に開いた距離で体勢を整えると、ビットを展開する。その間の白銀のISの行動は鈍いの一言に尽きる。まるで素人のように行動に果断性がない。

 白銀のISは自身を包囲するビットに気づいたようだが全てはMの手の内。逃げることが出来ないよう包囲網を形成したビットが一斉に砲火を放つ。

 同じ状況になればオータムも被弾を覚悟するしかない。その状況で白銀のISが取った行動は異様だった。

 

「なにっ……!?」

 

 見えた光景に甲龍の存在を忘れた。何故なら白銀のISは自身の装甲を剥離(パージ)したのだ。自身の身を守る装甲を自らの意志で手放すなどありえないが、それでビットの攻撃を防ぐかと思えば違った。剥離した装甲は直ぐに量子化し、そのあまりの量子量によってレーザーが歪まされて白銀のISには一発も当たらないまま通り過ぎていく。

 重装甲が剥がれた後も全身を覆っている装甲。スッキリとした人型をした鎧を纏う姿は、まるで白銀の色も相まって白い騎士のようで。

 ボウッと赤い光が騎士の白を侵していく。

 騎士の全身に浮かび上がった赤いラインが血のように脈動したような気がして、恐怖など生まれてこのかた感じたことのないオータムの背を粟立たせる。

 あれは目覚めさせてはならない獣だと、自分達の天敵になるものだと予感した。

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!』

 

 コア・ネットワークを介して獣の雄叫びが聞こえたが、その発信源はサイレント・ゼフィルスに襲い掛かった白赤のISだと直ぐに分かった。

 臆したようにサイレント・ゼフィルスが逃げようとする。オータムだって近くにいるだけで鬼気を感じて逃げ出したいのだから狙われているMの行動は当然といえた。

 サイレント・ゼフィルスもただ逃げるだけではなくビットを放っている。なのに、一瞬の後には一機のビットが切り裂かれていた。

 白赤のISは右手に光る剣を持ち、ISのハイパーセンサーで見ていたオータムですら何時の間に近づいて斬ったのか分からない速度で動いた。ビットも遅まきながら自分が斬られたことを悟ったように、とっくの昔に白赤のISが離れてから爆発する。

 

「速い……!?」

 

 重装甲を剥離(パージ)したからか、白赤のISの速度は異常だ。通った後に赤い残光だけを残して、その姿が幾つもに分離しているように見える。

 また一機のビットを破壊して、圧倒的な速さでサイレント・ゼフィルスに迫る。

 

「逃げろ、M!」

 

 相手が好きとか嫌いとか関係ない。自身を狙うだろう獣の牙の幻視から逃れる為に叫んでいた。

 生きて顔を合わせれば殺し合いに発展しそうなオータムの叫びがあろうとも、決して機動力が低いわけではないサイレント・ゼフィルスが亀のような鈍さに見えてしまう速さで近づいた白赤のISが左手の手首を切り払う。

 

『シールドバリアーが何故こんなにも簡単に斬られるっ?!』

 

 オータムが今まで一度も聞いたことがないほどMの狼狽した声。

 操縦者を守るためにISの周囲に張り巡らされている不可視のシールドは、ただの光る剣の一閃で簡単に斬られるほど容易くないはずなのに現実は違う。

 恐慌に来たされたようにサイレント・ゼフィルスが逃げ、追う白赤のIS。機動力が違うのだから直ぐに追いつかれるのは自明の理。そこへアラクネが乱入する。

 

「やめろ――っ!」

 

 サイレント・ゼフィルスを狙って無防備な横側からの強襲。しかし、まるで見えているかのように避けられた。だが、サイレント・ゼフィルスが体勢を整える僅かな時間的余裕を得る。

 

『オータム……』

「気を抜くんじゃねぇぞ、M。ほら、来たぞ!」

『分かっている。ビット!』

 

 サイレント・ゼフィルスからビットが勢いよく離れる。

 

「外すなよ!」

『貴様もな!』

 

 獣への恐怖を押し留め、オータムがアラクネの全砲門を急速旋回しながら一度も減速することなく残光を曳いて一直線に向かってくる白赤のISに向け、同時にMも周囲に散らしたビットだけでなくBTエネルギーマルチライフルを構えている。

 

「撃てっ!!」

 

 アラクネとサイレント・ゼフィルスの全火力が真っ直ぐ向かってくる白赤のISを狙い撃つ。

 蜂の抜け間もない弾幕を白赤のISはその身だけで突破してくる。直線的な速度だけでなく、足裏と背中、更に体の各所にもスラスターがあるのか、小刻みに全身のあちこちが光って減速することなく弾幕をすり抜けた。

 

「なっ……!?」

 

 ありえない光景にオータムが絶句する暇はない。弾幕の隙間を瞬間移動したかのような速度で突破した白赤のISがアラクネの胴体に蹴りを放っていた。

 現行最速のISを遥かに超える速度で放たれた蹴りが一瞬でオータムの意識を刈り取る。アラクネの装甲もシールドバリアーも、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止めることができるISスーツを着ていても超えて来た衝撃は内臓が潰れなかったのが不思議なもので、あまりの痛みにオータムの意識は瞬時にして呼び戻される。

 

「が……ぐっ……」

 

 口から血が溢れ出る。確実に内臓を痛めていたが、一瞬とはいえ意識を失って白赤のISから目を離してしまった己を憎んだ。

 既にサイレント・ゼフィルスが仕留められているというオータムの予想とは違って善戦していた。

 追い込まれていることに違いはないがビットを最大利用して、徹底的な遠距離からの消耗戦。偏向射撃をフル活用し、ビットを破壊されないように近寄ってきたら別のビットで狙うといった、生存本能に駆られて潜在能力を覚醒させたかのようなサイレント・ゼフィルスの戦い方。

 もし、今戦ったらオータムが一敗地を刻むしかないサイレント・ゼフィルスに対して、それでも絶対的な余裕がある白赤のIS。

 

「…………あんな動き、PICがあるといっても中の操縦者がただで済むはずがない」

 

 急旋回、急加速、急減速といった体に負担がかかりすぎる軌道を取っている白赤のISの操縦者にかかる負担は、現行最速のISを遥かに超える速度で行われていることを考えれば想像を絶している。

 それこそ先天的、或いは後天的に何らかの処置を受けていなければ、とても耐えきれるGではないはずだ。もしかしたら織斑千冬ならば可能なのかという考えがオータムの脳裏を過ったところで、一秒にも満たない思考は中断された。

 全てのビットを展開し、小型レーザーガトリングを構えたサイレント・ゼフィルスが緻密に計算された行動によって、戦闘は機体の性能だけで決まるのではないと証明するかのように白赤のISを追い込んでいた。

 先程の2機による弾幕よりも圧倒的な包囲網が形成され、後は待ち構えたビットが撃つだけとなったところで強風が吹き荒れた。現実の物ではない。動きを止めた白赤のISから発せられた何かが殆ど物理的な力を以て襲い掛かって来たのだ。

 

「なんだ……?」

 

 奇妙な静寂が生まれた。

 白赤のISもビットも動かない。否、白赤のISがサイレント・ゼフィルスに向かって開いた右掌を向けた。

 

『ビット!? 何故動かない?!』

 

 プライベートチャネルを通してMの恐慌が伝わって来る。

 固まったように動かないビット。呑み込まれたのだと直感したオータムの背に鳥肌が立つ。白赤のISが掌を握ると、ビットが突如として機首を転換して動き出した。その先にはサイレント・ゼフィルスがいる。

 ビットが飛び、サイレント・ゼフィルスに向けてビームを放つ。

 

『お前達、私が分からないのか!?』

 

 子機であるビットが親機であるサイレント・ゼフィルスを襲うなどあってはならないことだ。オータムは直感する。分からないのではなく、乗っ取られたのだと。

 ビットの攻撃をサイレント・ゼフィルスは身を守ろうとするが、サイレント・ゼフィルスが扱っていた時よりも遥かに早く、そして機敏に動くビットの動きは小型で複数だということも相まって読める物ではない。

 乗っ取られて制御を離れたビットによって次々と被弾するサイレント・ゼフィルス。

 瞬く間にボロボロになったサイレント・ゼフィルスに向けて、背中に左手を回してもう一つの光る剣を手にして白赤のISが空を駆ける。

 

「させるかよ――っ!!」

 

 オータムはMのことが嫌いで、死んでほしいとすら何度も思った。だが、今死ぬべき時ではないと何かがオータムの背中を押した。

 被弾して流されて来たサイレント・ゼフィルスがアラクネの近い所にいたお蔭で、白赤のISの攻撃よりも早く割って入ることが出来た。

 エネルギー・ワイヤーで編んだワイヤーを多脚に巻きつけて切り離し、即席の盾として光る剣へと自ら突っ込んで行く。

 どれだけ破壊力があろうともエネルギー・ワイヤーはシールドエネルギーで出来ている。元は捕縛用にギッシリと編んだのだから、多脚の装甲と合わせれば即席とはいえ十分な防御力を持った盾となる―――――――――綿飴の如く切り裂かれていかなければ。

 一撃でワイヤーを巻きつけられた多脚を切り裂けないと分かると、白赤のISはそこで動きを停滞させることなく、複雑な舞いを舞うように尚も二本目の光る剣を右手で抜いて振るう。一呼吸で縦横に走った光の刃がいとも簡単にオータムの策を食い破る。

 シールドバリアーを切り裂く物に似た物をオータムは一つだけ知っていた。

 

(ブリュンヒルデの単一仕様能力(零落白夜)をなんでコイツが!?)

 

 単一使用能力か、単に光る剣がそれだけの力を持っているのか、答えなど分かるはずもない。何故ならば誘き出されたのはオータムだったのだから。

 

「ひっ!?」

 

 目の前で、獲物が自分から飛びこんできたのだと獣が哂う。口などない白赤のISが確かに嘲笑っているのだと何故か感じ取って怖気が走る。

 理由はたった一つ。さっきのサイレント・ゼフィルスに追い込まれて見せたのもわざとで、自分の狩りの邪魔をしたからと、たったそれだけの理由でオータムは殺される。

 

「ぉおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 死を待つしかないオータムの顔の直ぐ横を右手が通る。Mの手だ。

 オータムの顔の直ぐ前にサイレント・ゼフィルスのBTエネルギーマルチライフルが現れる。右手には近接ショートブレードを持っているから握ることは出来なかったが、盾ぐらいにはなる。

 簡単にBTエネルギーマルチライフルが切り裂かれ、近接ショートブレードも持ち堪えられなかった。結果としてMのこの行動がオータムを救う。

 

「がぁっ!?」

 

 アラクネの装甲を切り裂き、オータムの肉体にも刻まれる剣創。だが、その傷は人を殺すには至らない。

 直後、サイレント・ゼフィルスがアラクネを抱え、同じように呼び出した小型レーザーガトリングをアラクネの武装で破壊し、2機と1機の間で爆発が起こる。

 これが最後のチャンスだとサイレント・ゼフィルスが全開でスラスターを吹かす。

 多脚の全てを失って異形の姿ではなくなったアラクネを胸に抱え、尻尾を巻いて逃げるサイレント・ゼフィルス。何故か白赤のISは追撃を仕掛けて来なかった。恐ろしくて後ろを見ることも出来ない。

 

「………ぅ」

 

 直ぐに白赤のISがいた空域を離れて、腕の中にオータムを抱えたMが何かを呟いた。

 その声を聞かずとも何を言ったのか分かる。オータムとMは白赤のISに遊ばれた。何時でも仕留められる獲物と認識され、逃げられても別に構わないと見逃される。これがどれだけの屈辱か。

 

「ちくしょう……っ」

 

 と、オータムもまたMと同じ言葉を口の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広大な戦闘空域の外れで三機の戦いを見ていることしか出来なかった凰鈴音は、敵ISが去ってようやくずっと止めていた呼吸を再開した

 

「…………終わったの?」

「わたくしにだって分かりませんわ」

 

 近くに来ていたセシリア・オルコットに問うたところで、彼女だって鈴と同じく状況なんて殆ど分かっていないだろうから返って来た返事は辛辣だった。

 感情が全く乗っていない言葉にチラリと意識を向けると、事実何も分からないからこそ驚きでフラットになってしまった感情を持て余しているセシリアがいるのみ。もし、あの2機を圧倒した白赤のISと一人で戦うとなったら簡単に打ち死の自信だけはあったから、少なくともセシリアが敵でないのは有難い。

 

「アイツ、敵だと思う?」

 

 視線の先、先程までの苛烈な軌道を取っていたとは思えない白赤のISは、空中に茫洋と漂っているだけで動きを見せない。次の行動が読めないのは痛い。実力が上だった敵の2機が圧倒されたのだ。易々とやられるつもりはないが、希望的観測を含めたって2機で戦ったところで勝ち目はないだろう。

 

「鈴さんはどう思いますの?」

「敵、であってほしくはないわね。勝てそうにないもの……!?」

 

 白赤のISが動いた。正確には一度量子化したはずの装甲が再び現れ、装着して再び重装甲へと戻っていく。そして装甲の重みと重力に負けたように力を失った機体が地へと落ちて行く。

 

「ちょっと……っ!?」

 

 まさかの予想のしていない展開に反射的に体が動き、機体が鈴の意志を反応して疾走する。

 

「鈴さん!?」

 

 背後のセシリアの驚愕は最もだ。鈴だって何で自分が暴虐を振るった白赤の――――今は白銀に戻ったISを助けようとしているのか分からない。それでもどうしてか、この時はこうすることが正しいと思えた。

 元より鈴は論理より直感に従って行動するタイプだ。考えることは苦手で、この時も直感に従ったまで。

 重力に従って落ちるだけの白銀のISは身動ぎすることなく、鈴が助けに入らなければ地に叩きつけられたことだろう。

 

「重っ……!?」

 

 地面に落ちる前に受け止めることに成功した鈴を襲うとてつもない重さ。重装甲に似合った重量が受け止めた鈴の腕を襲い、ISのパワーアシストがあるにも関わらず、ミシミシと軋ませる。

 

「女は根性……っ!」

「根性で現実は変えられませんわよ」

 

 あまりに力を込め過ぎて頭に血が上ったところでセシリアのブルー・ティアーズが助けに入ってくれた。2機のISのパワーがあれば大抵の物は持てる。

 

「お、もいですわね……っ!?」

「でしょう……っ!」

 

 それでも全力を振り絞らなければ落としてしまいそうになり、セシリアの白い肌が直ぐに真っ赤になる。

 2機で力を振り絞ってようやく落下速度を殺すことが出来て、全く動かない白銀のISを抱えて近くの山へと下りる。流石に住宅街にISで降りるほど耄碌してはいなかった。

 

「あ~、肩凝った。どんなに重いのよ。ったく織斑先生だか、篠ノ乃さんのどっちか乗っているか知らないけど自分で動いてほしいわ」

 

 ほっと一息ついて言いつつ白銀のISを地面に下ろすと、ドスッと見た目の重装甲に合った重低音と共に沈む。

 鈴のように肩を回して解してはいないが、セシリアが地面にめり込んでいる白銀のISを複雑な目で見つめる。彼女は知っているのだ。織斑千冬の死と、このISの操縦者が自分の知らない者であるということを。

 

「…………あの……あのですね、凰さん」

「全身装甲なんて気取った格好しっちゃってさ。どんな顔で寝てるのか見てやろ」

 

 鈴はセシリアが何かを言いかけたのに気づかないまま、非固定浮遊部位を持たない分だけ装甲に回しているような白銀のISの頭部に手をかけて引っ張った。

 もし、白銀のISが見た目通りの全身装甲タイプで頭部部分とそれ以外が外れなければというIFに意味はない。

 以外に簡単に頭部は外れ、量子と化して消える。露わになった顔は、一年前に別れたはずのISに乗れないはずの男である織斑一夏その人。想い人の顔を、会いたいと願っていた男を一年経とうとも見間違うはずがない。

 

「一夏……?」

 

 鼻と口から血を流している一夏の瞼は閉じている。 白赤のISが量子化して一夏の首にまるで首輪の如く巻き付く。

 何時だって人の出会いと別れは突然に訪れる。一年振りの再会は望んでもない戦場の中だとしても、二人が再び出会ったことだけは確かだった。初の男性操縦者の存在を前にして世界が変わる予感さえ抱きながら、三人の上空に自衛隊とIS学園の部隊がやってきた。

 




主な配役
・織斑一夏……バナージ・リンクス
・織斑千冬……カーディアス・ビスト
・織斑マドカ……アルベルト、マリーダ・クルス
・五反田弾……近い役割はタクヤ・イレイ
・五反田蘭……立ち位置的にミコット・バーチ
・篠ノ之箒……多分、オードリー・バーン(ミネバ・ラオ・ザビ)
・凰鈴音……誰だろう?
・セシリア・オルコット……謎だ?
・オータム……配役はなし、かな。

主な機体
・白式……ユニコーンガンダム
・クシャトリヤ……サイレント・ゼフィリス
・甲龍……なし
・ブルー・ティアーズ……なし

独自設定
・一夏が藍越学園に入学。
・一夏が原作ほど鈍感ではない。聡くて鈍いタイプ。
・束謹製のISコアは600強。コアの作り方は公開されているが、束が作ったコアは強力で、束コア→専用機、その他コア→量産機となっている。その他コアの数は不明で、最低でも1000以上。
・箒のIS適性がSで、昔から教育を受けて操縦している。代表候補生、専用機など
・白騎士に乗るにはIS適性「S」が必要なこと
・白騎士のコアならば全ISを統制できるかもという情報
・鈴がIS学園入学時からいる。
・マドカの出生
・白式がユニコーン(なんじゃそりゃ)
・千冬が殺される(話の都合上、仕方ないのよ)
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