白式の日(インフィニット・ストラトス×ガンダムUC) 作:スターゲイザー
気が付けば織斑一夏は海岸に立っていた。見上げた空はどこまでも蒼く、海もまたそれを映したかのように蒼い。漂う雲がなければ、その境界線が定かではない程に両者は渾然と溶け合っている。
「俺は…………どうしてここにいるんだ?」
前後の状況が判然としない。記憶に断絶があり、思い出そうとするズキリと頭に痛みが走った。
頭痛の走る頭を抑え、ここにいてもしようがないと海岸を歩き出した。
太陽が出ているが暑くはないから砂を踏んでも熱いとは感じない。砂浜には貝殻の欠片どころか大きな石もなさそうなので不思議なほど歩きやすい。そうして暫く歩いても、聞こえるのは寄せては返す波の音とどこまでも海岸が続くだけで本当に移動しているのか疑いたくなる。
どれぐらい歩いただろうか。十分か、一時間かも分からない。時間の感覚が曖昧で、自分という存在すら不確かな空間に迷い込んだかのようだった。
『――――――』
唐突に聞こえて来た声に足を止めた。
「声、だって?」
どうして聞こえてきたのが声だと判断できたのか、ただの音の羅列でしかないそれを一夏は聞き届け、声が聞こえる方向へと歩き出した。
少し歩いたのか、かなり歩いたのか、分からないまま声が泣いているのだと気が付くのに随分と時間がかかった。
程なくして声の主は一夏の眼前に現れた。
一夏が歩いて近づいたのか、それとも始めからそこにいたのかは分からない。ただそこにいることだけは確かだった。
『――――――』
子供、だと思った。一夏の認識がそう思わせただけで真実の姿は違うのかもしれない。何故か一夏には子供と見えたソレは、砂浜に蹲って悲痛な泣き声を漏らしている。
普段の一夏ならば慰めているだろう。でも、一定の距離を取ったまま一夏の足は彫像のように固まっていて動いてくれない。声をかけようにも口も同じような状態で、子供らしき姿を見つめながら茫洋と眺める。
『――――――』
泣き声は止まない。潮騒の音は変わらない。一夏は固まったように動かない。
やがて子供が泣いていることすら当たり前のように感じられてきた中で、一夏は自分も涙を流していることに気付いた。子供に感化されたのかと思えば違う。この感情は、涙は一夏の裡から溢れたものだ。
胸を圧する感情に翻弄されながら自らが泣いているという事実に気が付いた時、泣いていたはずの子供の姿を頭が認識する。
「!?」
その子供が幼い頃の時分と瓜二つであったことから喉の奥で変な声が漏れる。
幼い自分が手を上げて一夏を指差す。否、一夏の背後を。一夏は殆ど反射的に後ろを振り返って――――今にも自らを喰らおうとしている獣の口を間に当たりにした。
「うぁああああああああああああああああっっ!?」
バッと自らが上げた叫びに目を覚ましてベットから起き上がった一夏。
白い部屋と白い壁に、白いシーツに包まれて自分がまだあの砂浜にいるような恐怖が蘇って震える。
「どうした、一夏!?」
そんな一夏の異変に傍にいた篠ノ之箒が肩に手をかけながら問いかけた。そこでようやく一夏は自分以外の人間である箒の存在を知覚し、自分がベットに寝かされていたのだと気づいて震えが急速に収まる。
落ち着けば世界が広がり、自分が病院着のような物を着ていてカーテンが引かれた外が真っ暗なことから夜になっているのだと今更ながらに気が付く。
「箒、か?」
「ああ、そうだ。急に起き上がって驚いたぞ」
「ごめん」
安堵したように息を吐く箒に謝りながら、夢見が悪くて叫びを上げた自分の情けなさ具合に羞恥を覚えつつチラリと辺りを見渡した一夏は、自分がいる場所がしっかりと医療器具が収められた場所であるらしいと推測した。箒がいることから厄介なことにはならないだろうと、深く考えると脳髄の奥が痛んだので早々に結論を出す。
「ここは、どこなんだ? 病院か?」
「IS学園の医務室だ。気を失っていたお前は此処に運ばれたんだ。何があったか覚えているか?」
「何が……?」
ズキン、とこめかみで血管が脈動する痛みが襲う。言われなくても何も忘れてはいないのだと体が表明していた。
体の内で蛇がとぐろを巻いたような不快感が消えてなくならず、出来るのならば頭痛も纏めて口からぶちまけてしまえればいいのだと思うほど。
躊躇ながら説明しようとしたのだろう、口を開きかけた箒を手で制する。
「覚えてるから何も言うな」
我知らず口調がきつくなったと後で気づいたが訂正する気になれず、決して変えられない事実を前にして歯を食い縛った。
「俺がISに乗って戦ったんだよな。詳しいことは分かんねないけど覚えてるよ」
鳴り止まないアラームの直後に網膜投影されている視界に現れた『VT-D』の文字を認識した直後、眼球が潰れるほどの加速に押しひしげられ、体を誰かが乗っ取って勝手に動かしたような感覚はあるが、自分が何をしたのかはしっかりと記憶に残っている。そのことを伝えると箒が顔を強張らせた。
敢えて口にしなかったその前のことを覚えていないとでも思ったのか。どうでもいいことだと一夏は片手で顔を覆った。
「勘違いすんなって。その前のことも忘れちゃいない」
最愛の姉の死を口にしたくはなかった。口にしてしまった瞬間、覆しようのない現実が刃となって一夏を刺し殺すことは目に見えていたから虚勢を張る。
もう一夏を守ってくれる人は誰もいないのだ。自分で自分を守っていかなければならない。無様に泣き叫び、いなくなった姉を求めてはならないのだと心に鎖をかけて縛り付ける。
「ああ、忘れちゃいない……っ!」
それでも押さえつけきれなかった感情が溢れ出て、顔を覆っていない手をベットに叩きつける。
流石は金をかけて作られたIS学園だけあって良いマットレスとベットを使っているのだろう。成人男性と比べても遜色のない体格を持つ一夏が拳を力一杯叩きつけても軋むだけで壊れない。
だからどうしたという話ではない。叩きつけた拳を解いて、もう一つの手と合わせて体を前に倒して顔に手を食い込ませる。心に刺さる棘が痛すぎて肉体の痛みなど全く感じなかった。
「一夏……」
今は一人になりたくて、でも一人になるのも嫌で、箒の存在は許しと怒りを引き起こす。人の感情ほど矛盾したものはないというが、今の一夏には何の関係もない。
生きて来て始めて感じる痛みと怒りに全身を翻弄されて自傷する一夏の両手を箒は優しく解いた。
「溜め込むな。私には何も出来ないが胸を貸すことは出来る。全部ぶちまけてしまえ。千冬さんが私にしてくれたように」
両手を包み込んで額に当てた箒がベットに片足を乗せて上がって来て、一夏の顔を豊満な胸に抱きしめた。
「ああ、もう千冬さんはいないんだな」
箒の声が湿っていた。泣いているのか、そうでないのかなどどうでもいい。同じ悲しみを抱いている人が傍にいてくれることが一夏を救ってくれる。
絶望の暗闇の中でも一人でなければ救いとなる。
「あ……が……」
何故だか目頭が熱くなってきた。 奥歯を噛み砕かんばかりに歯を食い縛る。 胸の奥までムカムカしてくる。もう何が何だか分からない。それを押さえ込もうと更に強く歯を食い縛って耐えようとしても激した感情は一向に収まらない。
「う、うあ………うああ………」
気付けば、頬に何か生温い液体が流れ落ちてきていた。 無性に、叫び出したい。そんな衝動が湧き上がってくる。 まるで決壊するように感情の波が溢れてくる。
今までの一夏の世界は戻らない。千冬という大きすぎる主柱を失って心が軋み、哭き声を上げている。手足は震えて体は凍りついたように動かない。苦痛も何もかも感じなかった。もはやありとあらゆる感覚が、感情が、消滅してしまったようだ。
「あ………う、くっ………う、ああ………」
心だけが痛い。とてつもなく痛くて熱い塊が胸を突く。
涙がついに溢れ出したのだろうか。涙に霞んでいた景色が、さらに淡く滲んでいった。
「う、ああ………ああ……あああああああ………うわああああああああっ!!」
もう我慢も出来ない。 ずっと溜め込んで閉じ込め続けてきた感情が次から次へと溢れ出てきて、今まで耐えてきた分の感情が決壊したダムのように漏れた。目から流れ落ちる涙が箒の胸元の制服を濡らす。
声を上げて泣いて叫んで慟哭する。誰に聞かれようとも気にもしなかった。気持ちを貪るように、血を吐き出さんばかりの魂からの叫びを発した。
「うああああ………ああああああっ!!」
堰を切ったように、とめどなく目からも涙が湧き上がって来る。悲鳴にも、犬の遠吠えにも似た叫びが喉から放たれていた。止まらない。止めようとしてもどうすればいいのか判らない。
捌け口を見出したらしい感情が、その声を波立たせていた。しゃくり上げる肩が激しく上下する。子供のように遠慮のない、全部を曝け出してもなお収まらない慟哭だった。なぜ泣いたかさえ最後の方には解らなくなっていたが、それが何の感情なのかも分からず、思いを爆発させていた。
「ああああああああああああああああ………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!!!」
顔をクシャクシャに歪めて漏らす泣き声は、聞く者を震えさせずにおかない静かな絶叫だった。
大声を上げたからといって、気持ちに整理などつくはずもない。泣いても笑っても何も変わらない。変わりはしないし、なにも変えはしないのだ。獣が叫ぶが如く。渇いた傷が裂傷して血が溢れ、泡を噴きながら感情の全てが流れ出してしまうまで泣き続けた。ずいぶんと長い時間、声も涙も枯れ果てるまで一夏は泣き続けた。
馬鹿みたいに涙を溢れさせ、後になってみれば恥ずかしくなるぐらいに泣き喚いた。それでも箒は優しく頭を撫で、宥めるように背中をポンポンと軽く叩いた。
やがて衝動は弱まってきて、涙も収まる。すると、同い年の少女に、再会したばかりの幼馴染に身も蓋もなく泣き叫んだところを見られたはず恥ずかしさが一夏を襲う。
「ごめん、ありがとう箒」
「気にするな。泣いたのは私も一緒だ」
相変わらず変なところで男前な箒に苦笑しつつ、さっきまで自分が顔を埋めていた胸が主張する女性の面に惑われてしまう。
箒の胸元は一夏が流した涙で濡れていた。かなりの量で、服の下にまで染みついて肌に張り付いてしまっている。その所為で豊満な胸がしっかりと強調され、さっきまでその感触を顔全体で感じていたとなれば嫌でも意識してしまう。
「7年、いや8年ぶりぐらいか、箒。綺麗に、美人になったな」
「そ、そうか……ありがとう、でいいのか?」
正直に伝えると、箒は鳩が豆鉄砲を喰らったような意表を突かれた顔をして恥ずかしそうに顔を逸らして髪先を弄る。
8年前と変わっていない髪型とその癖が懐かしく、自然と顔が綻んできた。
我知らずに何かを口にしようと一夏の感覚が近づく人の気配を感じ取った。ベット脇の椅子に座る箒から医務室の入り口に顔を向けると、幼少期から共にいた箒は織斑姉弟の感性の鋭さを良く理解しているので誰か来たのだろうと同じように顔を動かす。
箒がドアを見るとドアが開かれて、白衣を纏った癖毛の強い髪を垂らした千冬ぐらいの女性が入って来た。
「へいへい、美少年。ようやく目覚めたかい」
ニヤリと三日月に歪めた口の間から異常に伸びた犬歯を覗かせて笑う女性を見た箒が目を丸くした。
「篝火さん、どうしてここに?」
「お宅らが機体だけ持って先に行っちゃうから武装云々を持って来たのさ」
箒に篝火と呼ばれた女性は、歩く度に箒以上の大きさの胸をユサユサと揺らしながらベットに座ったままの一夏へと近づいてくる。
「そこな美少年に自己紹介をしておこうか。私は篝火ヒカルノ。君が乗った白式の開発元である倉持技研第二研究所所長で、君達のお姉さんの同級生だよ」
ベットから二歩程度離れ、近いか遠いか曖昧な距離で足を止めた篝火ヒカルノは切れ長の眼で一夏を見ながら自己紹介する。
「姉って……千冬姉の?」
「うぃ、向こうは今日の引き渡しの時に自己紹介をしても存在すら覚えてなかったようだけどね。なぁ、篠ノ之候補生?」
「…………ええ」
箒が言い淀みつつも肯定したのは、その場に同席していたからだろう。中学か高校の頃の同級生かは分からないが、尖っていた中学の頃は言うに及ばず、改善して来た高校時代も決して人付き合いは良くなかったと一夏は記憶していた。社会人になってから人付き合いが格段に良くなったのは、そのままでは世間を渡っていけないと学習したからだと思う。
雰囲気が気まずくなったところで、ヒカルノが何かに気づいたように一夏を見た。
「しかし、鷹の弟も鷹だってことかねぇ。まさか初の男性操縦者が織斑千冬の弟なんだから」
「その言い方、好きじゃないです」
嫌味とも純粋な賞賛とも取れる微妙な言い方だった。一夏は反応に困り、箒もなんとも言い難い表情をして口を挟んだ。
「そう? まあ、今はそんなことは横に置いておこう」
箒が機嫌を損ねたように口にすると、ヒカルノは自分で話題を振っておきながら横にどけようとするのだから、千冬や束に似て傍若無人な面を垣間見せる。千冬は社会人になってからはそういう面は身内にしか見せなくなったが、似て非なる空気に一夏は違和感を覚えた。
粘着質というか、蛇が獲物を見ているかのような雰囲気が初見でヒカルノを好きにならせない違和感を一夏に感じさせていた。
「さっきここの責任者が物騒なことを話してるのを聞いちゃってね。白式を襲ったテロリスト、亡国機業って言うらしいんだけど30分以内に君と白式を引き渡さなかったら都市部にISで無差別テロを行うってさ」
「なっ!?」
「責任者さんは拒否するらしいけど、君はどうするのかな?」
こちらを試す様にニヤリと笑って尖った犬歯を見せながら、こともなげに言われた大事に一夏と箒は揃って息を呑む。
一夏は驚きも冷めぬまま猛烈に思考する。
「どうして俺を……」
「白式が君の首に付いたまま外れないからさ。向こうさんもどうやってかその情報を手に入れたんだろ。それに男性操縦者のメカニズムを解明すれば世界がまたひっくり返るほど君自体にも価値がある。白式は現在開発されている第三世代の性能を遥かに上回るから両方を手に入れたいのさ」
「待って下さい! テロ予告だというなら警察や自衛隊に任せるべきです」
「連絡は禁止されてるようだよ、篠ノ之候補生。IS学園に直接通信してくるような相手だ慎重にならざるをえないだろうし、引き伸ばしは却下されたらしいから今頃必死に対策を考えてるところじゃないかな?」
30分以内という限られた時間に一夏と白式を亡国機業に引き渡さなければ都市部に対する無差別テロを行うとのテロ予告。一般公開されていないIS学園に直接通信してくるような相手では警察や自衛隊への連絡は危険すぎる。
時間もなければ手段も限られた中で出来ることなど限られる。
「俺、行きます」
一夏はかけられた布団をどけて、ベット下に履ける物はあるかと探すと準備よくスリッパが並べられていたので履いて立ち上がる。
「一夏!?」
「みんなを守らないと。出来るのは俺だけなんだ」
「待て。落ち着けばもっと良い方法が」
「時間がないんだぞ! 待っていられるかっ」
「お前が犠牲になるなんて駄目だ! 私は認めないぞ!!」
歩き出そうとした前に箒が立ち塞がるが、起こる悲劇を前にしてジッとしていることなんて出来ない。守らなければ、千冬との約束を果たせない。
強引に押し留めようとする箒を男の力で押し退けようとするが、箒は腕に縋りつくように止めてくる。どうして止めるのかと力尽くで振り解こうとするが、箒が眦に涙を浮かべているとあっては強硬手段に出れない、
「まあまあ、御両人落ち着いて」
騒動の原因を作ったヒカルノが気にした風もなく止めに入る。
諍いを見るのが楽しいとばかりに犬歯を見せつけながら、良いことを思いついたとばかりにニンマリと笑う。
「何も自分から身を引き渡す必要はない。折角、白式の強力な武装を持って来たのだからテロリストを倒しちゃえば?」
それはきっと悪魔の囁きというものなのだろう。構わないと、一夏は再び戦場に立つ決意を固める。
「「話は聞かせてもら
ドカン、とドアが開いて話を盗み聞きしていたらしい鈴とセシリアが部屋に入りながら宣言した。
戦士は戦乙女を引き連れて飛ぶのだ。
「一夏のISスーツってえらいゴテゴテしてるのね」
IS学園を発進して直ぐに並走する鈴が一年前と何も変わらない様子で一夏に話しかけて来た。
「白式の加速性能はPICを使っても従来の物だと耐えられないんだと。ええと、なんて言ってたっけか……」
時流に逆らうような宇宙服のようなISスーツを身に纏ってISに乗っている一夏は、答えながらヒカルノの説明された内容を思い出そうとするが、武装の説明などは自分の手で使うのだから覚えたがスーツに関することは勝手にシステムが動いてくれることもあって頭の中に残っていなかった。
鈴とは反対側で並走する青い機体の乗り主が一夏の返答に眉を寄せた。
「DDSと呼ばれる対G負荷用薬剤投与システムが搭載されていて、無痛注射で薬剤を投与することで体内の血液循環を活性化してGによる循環の停滞を抑える役割を持っている、ですわ。自分のことなのですからしっかりと覚えないと」
「ごめん、私も聞いてたけどさっぱり」
「鈴さんは感覚的すぎます。もっと理論をですね」
「はいはい、アンタが理論に偏ってるのはよく分かってるから」
セシリア・オルコットは説教癖というか説明好きというか、そんな面があるらしく鈴がうんざりと様子で手を振る。
「なんにしても、また気絶するのは勘弁だからな。助かるよ」
鈴とは碌に再会の挨拶もしていないが、一年振りでも何も変わっていないことに安心していた。
碌な経験すらない一夏には夜の海の飛行はハイパーセンサーで真昼と変わらないぐらい視界がはっきりしても、暗い海に対する潜在的な恐怖は拭いきれない。こうやって見知った相手が傍にいてくれることは、同学年らしいセシリアと遠慮のない会話もあって一夏の精神の安定に大いに貢献してくれる。
気持ちの昂りを証明するように、右手に五連装のEパックを装填したビームマグナム、左手にISにしては珍しい大型の機体色と同じ白亜のシールドを握る手に力を籠める。
「しっかし、武器を拡張領域に入れられないなんて変なISよね。全身装甲といい、非固定装備もないISなんて前代未聞じゃない」
並走する鈴が少し速度を速めて前に出て顔だけを一夏に向けて、白式の全身を見ながら唸る。
「特異すぎる機体、というのは同意しますわ。操縦者もそうですが、ISにしては異常すぎます」
「そんなに特異とか異常とか連呼しないでくれよ……」
普通ではない自覚はあるのだが、二人は緊張している一夏の神経を解そうしてくれているにしても、あまりにも普通とは違うのだと言われ続けると自分を否定されているようで面白くない――――なんて、考えている余裕がある時点で一夏は平静を保てている証拠だ。
一夏は出撃前にヒカルノに機体の説明を受けた時のことを思い出す。
『ISコアが人の意志に反応するのは今更言うまでもないね?白式の装甲はIISコアの素材によって出来てるから操縦者のことを考慮しなければ、理論的には反応速度は天井知らず。強力な武装と現行機を遥かに超える性能、素人であっても簡単に扱えるインテンション・オートマチック・システム、切り札もあるから負ける要素はないわ』
切り札とはなんだ、と聞き返した一夏にヒカルノは底冷えのするような笑みを浮かべた。
『任意での発動は出来ないけれど、君は一度それを使いこなしている。その時が来ればこれなのだと直ぐに分かるわ』
分からないことだらけだが、少なくとも今の自分には力があるのだと決意を固めていると、海が途切れて陸地が見えて来た。
「もう直ぐですわ――――東京スカイツリーは!」
セシリアの叫びに3機は揃って海面を急上昇して高層ビルの上を通過する。
テロリストは機体の受渡し場所に日本で一番目立つ名所をしてきていたので迷うことはなかったし、当のテロリストが物凄く目立っていた。
「派手だな、おい!?」
「あれって黄金っていうのよね…………派手だわ」
「電灯の光に照らされて眩しいぐらいですわね」
東京スカイツリーの天辺で待ち受けるのは黄金のISを纏いし女は、テロリストなんて世に隠れて事を起こす輩という共通認識をぶち壊すほどに目立っていた。東京は眠らない街だなんて仇名されるぐらいに夜でも明るいが、目立つという点では東京スカイツリーよりも黄金のISが一歩勝るぐらいだ。
にもかかわらず、ハイパーセンサーで見た眼下の人達が黄金のISに気づいた様子はない。その理由を考えるよりも早く、東京の夜空を突如として太陽が出現した。
「な……っ!?」
「太陽だって!?」
セシリアが息を呑み、鈴の口から呆然とした言葉が出るのを他人事のように聞いた一夏も一瞬目の前にあるものがそう見えた。
夜空には見えないはずの太陽が…………否、太陽に見える巨大な火球が存在していた。その輝きの凄まじさは、天空に太陽が生まれたかのようだった。
黄金のISが天空に向けていた手を下に向けると、数千度の熱を放射しながら全てを灼いて太陽が滾り落ちて来る。
初期に発していた耳を圧するほどの轟音すら消え、静寂の灼熱地獄を生み出す。既に一千度を超えていた炎の塊が五千度を超え、もはや直視できないほどの紅蓮になっていた太陽が迫る一夏たちに向けて落ちてくる。
「あれを落とすってのか……っ!?」
落ちて来る太陽が近づくごとに目に映る光景が白く霞み、手足の存在感が失われてゆく。一夏達が何もせずに下に落ちれば最低でも周辺百メートルは焼き尽くされ、余波だけでどれだけの被害が出るか分からない。
その前に全てを打ち滅ぼすと決めた。
「ビームマグナムを撃つ! 二人は撃ち漏らしを頼む!」
返答を待っている暇はない。左手に握っていたシールドを手放して腕のアタッチメントに任せ、両手でビームマグナムを構える。
射撃兵器を撃つという意志を読み取った白式が照準画面を呼び起こして、太陽の中心をオートで補足する。ビームマグナムは威力の調整など出来ないが、現行兵器の中では最高クラスだとヒカルノから聞いていたので、分の悪い賭けだろうと勝負しなければ太陽が落ちればどれだけの人が犠牲になるか。
「いけるか……っ!」
発射トリガーに指をかけ、本当に大丈夫なのかと一瞬の迷いが一夏の脳裏を過るが猶予はない。
躊躇いは一瞬、意を決してトリガーを曳いて――――閃光が一夏の視界を支配した。
轟音と爆音、ビームマグナムより放たれたエネルギーの光線が太陽に突き刺さり、押し上げたかのように見えた直後に大爆発を引き起こした。
ビームマグナムに繋がっていた弾倉である5基装着されているエネルギーパックの内の1基が薬莢代わりに弾き出され、太陽の大爆発に吹き飛ばされる。太陽の大爆発は白式の後ろにも広がり、地上で人々の悲鳴やガラス等が割れる音をISの優れたセンサーが拾う。
「助かったけど、威力が強すぎる」
太陽の爆発によって荒れ狂っている気流を条件反射で手で防ぎながら撃ち漏らしがないかと確認するも、ビームマグナムによって木端微塵に粉砕されたようで一安心する。
ふと力の抜けた意識の間隙を敵は見逃さない。
「一夏、後ろ!?」
「え?」
鈴の声が聞こえた直後、背後から衝撃が起こって吹き飛ばされる。
ハイパーセンサーで確認すると、何時の間に近寄ったのか黄金のISがそこにいて白式の背中を後ろから蹴ったのだと理解するのと同時に、斜め下に蹴り飛ばされた白式は高層ビルの一つにぶつかった。
簡単にコンクリートの壁を粉砕して、既に終業時間を過ぎて誰もいないオフィスを三階層分ぶち抜いて落ちる。
「くっ……」
床に半分めり込んだ体の上に乗っている、ぶち抜いた天井だか床のコンクリートをどける。
完全に殺しきれなかった衝撃に頭がクラクラするが、白式も一夏もまだまだ動ける。コンクリートをどけて顔を上げれば、屋上を突き破ってきた道筋が見え、微かに見える夜空に閃光が走っていた。
「鈴!」
セシリアはほぼ初対面でしっかり落ち着いて話をしたわけじゃないから、心配するのはやはり知り合いであった鈴だった。スラスターを焚いて埋もれたビルから脱出する。
丁度、その時だった。夜空を炎が走り、装甲を損失したISを纏う鈴が火に巻かれて墜落して行く。落ちて行く鈴をセシリアが受け止めたが、彼女のISも所々に損傷を負っている。鈴を墜としたその攻撃を放ったのは手に炎の剣を持つ黄金のISに他ならない。
「やったなぁ……っ!!」
鈴の姿に千冬の末期の笑みが重なり、一夏の中で何かが切れた。頭の中が真っ白になり、全身の毛が逆立つような怒りに支配されて、また機体が赤い燐光を放って網膜投影に「VT-D」と文字が現れても何も気にしなかった。
山田真耶の苦境は一向に終わらない。寧ろ時間が経つごとに問題は大きくなるばかりだ。
「ですから、早急にIS部隊を派遣してほしいんです!」
『しかしだねぇ、山田先生……』
「生徒達が勝手に飛び出して行っちゃったんです! テロリストを相手にさせるわけにはいきません!」
通信相手はIS部隊派遣の権限を握る国の幹部である。亡国機業からのテロ予告に対策を打ち出す前に、一夏達が出てしまったと箒から連絡を受けた真耶は、即時の自衛隊のIS部隊の派遣を要請しているが、場所が都市圏のど真ん中であるだけに幹部は及び腰でこちらの要望を受け入れる様子を見せない。
『勝手に、とは言うが我が国のテロに中国とイギリスの代表候補生を行かせるのは如何なものかね山田先生? 二国から責任追及の声があった場合、君の責任問題になるが』
「私のことはどうでもいいんです! 部隊を派遣してほしいと言ってるんです!」
これが上の立つ人間の考え方なのか、現実の問題に対処する前に終わった後のことを心配する。それにしたって自らが責任を追いたくないのだという気持ちを欠片も隠しもしない。責任を担う立場にあるのなら当然の考え方かもしれないが、今の真耶にとっては唾棄すべきものでしかない。
『内閣は君達も関わったテロ事件の対応に全力を注いでいる。襲撃犯が捕まっていないことから自衛隊のIS部隊と招集した代表候補生は直ぐに出せるかもしれないが、まだ起こってもいないテロにどういう理由で出させるつもりかね?』
「テロが起こってからは遅いんです。その前に事態を収拾させないと」
『その事態こそがまだ起こっていないのだよ。都市部にISで無差別テロを行うというが、ISならば必ずレーダーに引っ掛かる以上、侵入される前に気づく。間違いでした、ではすまないのだ。部隊の派遣はテロリストが起こってからでも遅くはない。これ以上、マスコミを騒がせるネタを作る気はないぞ』
幹部が組み立てて言う理屈は一面だけを見れば正しいが、所詮は事務屋の理屈である。無差別テロといってもISで行うと言うだけでどのような行動に出るのか分からないし、そもそもレーダー外からやってくるとは限らない。机上の理屈だけで納得して、想定外のことが起これば自分ではなく他人に責任を押し付けようとする上に立つ人間に多い悪い癖だ。
「責任は全て私が持ちます。ですから、IS部隊にスクランブルをかけて下さい」
『…………よかろう。その言葉、決して忘れるな』
言質を取ると満足したように幹部は笑って頷き、通信を切った。
砂嵐だけを映す画面の前で真耶は融通の効かない事務屋に自分が張った博打の掛け金の大きさに身震いしながらも、何時までも顔を俯けていることは許されなかった。千冬亡き後、責任者の大半がいないIS学園を纏めるのは自分しかいないという責任が今の真耶を支えている。
「織斑君! 凰さん! オルコットさん! 応答して下さい……っ!」
通信を繋げようとしている虚の声は悲痛だった。幾らIS学園がIS操縦者を育成する教育機関であるといっても、実際に本物の戦場に立った人間は恐らく片手の数にも満たないだろう。教育機関はあくまで教育を主眼とするところであって、戦場のなんたるかを教える場所ではないのだから。
勝手に飛び出した三人に言いたいことは山ほどあれど、安全と安否を確認しなければならない。
「すみません、私が止めていれば」
肩身が狭そうに箒を真耶は責めることは出来ない。否、飛び出した三人にだって同じだ。結局、真耶はテロリストの要求に対して効果的な策が思いつかなかったのだから。
専用機の三人と違って量産機では足手纏いになるから、と付いて行かなかった箒の判断はまだ許せる。
「篠ノ之さんの所為ではありませんよ」
「そうそう、悪いのは唆した私じゃない?」
「分かっているのなら部外者は出て行ってください……っ!」
箒の隣の立つ元凶を目にして上手く笑えて伝えられているだろうか、真耶には自信がなかった。
箒と共にやってきて、テロリストの要求を一夏達に伝えた張本人である篝火ヒカルノ。
テロ事件後に何食わぬ顔で倉持技研から白式の武装を運んできたと嘯いた科学者は、元々決まっていた整備室の場所に運び込んでも帰らずに一夏らにいらないことを吹き込んだ。その所為で鈴とセシリアも一緒に飛び出していったのだから真耶でなくても怒りを覚える。
「そんなに怒らないの。小皺が出来るわよ」
宥めるように言うヒカルノは、ドラキュラの如き尖った犬歯を見せながら明らかに分かった上で煽っている。
真耶は怒りを息を吐き出すことで追い出し、平静を装いながら口を開いた。
「いいですから、部外者は」
「映像入ります!」
ヒカルノに注意しようと瞬間、間延びしながらも緊張感を漂わせた口調で本音が告げる。
日本の衛星回線を利用することで移動する一夏達を捉えたのだ。海面を波飛沫を立てながら低空で飛行する3機の姿を大型モニターに映る。
「三人との通信は?」
「周辺にジャマーが張られているのか繋がりません」
「亡国機業の仕業というわけですか……」
他に理由は考えられなかった。そして悠長に考えている暇も与えられなかった。
海面が途切れ、三人が地上へと上がって都市部へと到達した直後だった。3機が急速に高度を上げ、地上からは見上げても見ることが出来ない高さで飛んでいると画面を光が覆い尽くした。
「なんなんですかっ!?」
「熱反応を感知! 東京スカイツリー付近からです!」
まだスカイツリーから一夏達が飛んでいる場所までは距離がある。幾ら衛星回線が宇宙からの映像だとしても異常なほどの光量。それこそ太陽のような。
映像を注視していると、更に大きな光が起こった。そうとしか表現できない光量がモニターから発せられて、一時的によせ真耶達の眼を曇らせる。
「一夏君がビームマグナムを使ったようね」
ヒカルノの呟きは誰にも届かぬまま虚空へと消え、光は唐突に収まる。
「一夏!?」
真耶よりも早くモニターに目を戻した箒の悲鳴が響き渡る。
「凰さん!? オルコットさん!?」
真耶が閉じていた瞼を開くと白式の姿はなく、黄金のISが甲龍とブルー・ティアーズを同時に攻撃しているところだった。
2機の微妙な距離に浮かんだ黄金のISが双刀を取り出した甲龍に炎の鞭を放ち、ブルー・ティアーズがスターライトmkⅢを構えると同時に尻尾が伸びて捕まえる。捕らえられた2機を引き寄せると同時に胸の前でクロスさせた腕を開くと熱波が広がった。
甲龍とブルー・ティアーズは成す術もなく受けざるをえず、ダメージを受けた所に火の粉を凝縮して作る超高熱火球が放たれる。ブルー・ティアーズはまだ距離があったから片方の非固定装備が犠牲になっただけですんだが、距離が近かった甲龍に回避の余裕はなかった。龍砲を放つことで相殺しようとしたらしいが完全には果たせず、直撃を受ける。その直後に一夏が近くのビルから天井を突き破って現れた。
真耶は代表候補生の二人をああまで翻弄する黄金のISの強さに戦慄する。
黄金のISは太陽を囮にして迎撃の隙をついて一夏をビルに落とし、直後に2機を翻弄して鈴を行動不能にまで追い込んだ。その実力は衛星回線からでは仮定になるが、真耶の見積もりではヴァルキリークラス。相手をするには国家代表レベルでなくてはならない。
「逃げて……っ!」
初心者の一夏と代表候補生でしかない二人で戦える相手ではないと叫んだ真耶の視線の先で白式に異変が起こった。
赤い燐光が映ったと思ったら装甲が剥離し、軽装になった白式が黄金のISに躍りかかった。その速度は常軌を逸している。一瞬にしてトップスピードに乗って映像から消えた。
虚が映像の倍率を弱めて遠目からのものにしてくれたお蔭で、一瞬で移動している白式と黄金のISが発する光が僅かに映る。映像が追いかけるが全く追いつけない。何年もISに関わっている真耶ですら知らない程の尋常ではない速さだ。
「へぇ、VT-D状態の白式に追いつけるISがいたんだ」
今度は真耶も聞き逃さなかった。
「VT-D?」
「おっと、失言だったかな」
「答えて下さい、VT-Dとはなんですか」
虚偽は許さないと視線に込めて、人を食ったような雰囲気のヒカルノを問い詰める。
ヒカルノは真耶の絶対に引かぬとばかりの気迫に降参とばかりに両手を上げた。どこまでも人を食ったように行動する女であった。
「話す前に一つ聞きたいんだけど、ヴァルキリー・トレース・システムって知ってる?」
「…………確か過去のモンド・グロッソ優勝者の戦闘方法をデータ化してそのまま再現・実行するシステムのはずじゃ、まさか!」
ヒカルノの問いに該当するシステムが一つしか思い当らず、その頭文字が「VT」であることから真耶の脳裏に最悪の想像が頭を過る。
ヴァルキリー・トレース・システムは、パイロットに能力以上のスペックを要求するため、肉体に莫大な負荷が掛かり、場合によっては生命が危ぶまれる危険なもの。現在はあらゆる企業・国家での開発が禁止されていると聞いていた。
「そのまさかだけど少し違う。似て非なる物にして到達点さ」
ヒカルノは瞳に狂気を浮かべながらシステムを詳らかにする。
「私が作った『VT-D』はモンド・グロッソ出場者の戦闘方法をデータ化するまでは同じだけど、データから戦闘時に最適の行動を導き出し駆動するシステムさ。ヴァルキリー達の戦闘行動をトレースしながらもその上を行く、さしずめヴァルキリー・トレース・デストロイヤー・システムかな。織斑千冬のデータも入っているから理論上ではブリュンヒルデにも勝てる」
「なんでそんなシステムを……」
「八つ当たりだよ」
思わずといった様子で口を挟んだ箒を狂気でどんよりと濁った瞳で見遣ったヒカルノは鼻を鳴らしてこともげに言った。
「白式は倉持技研で開発されたことになってるけど、うちがやったのは設計書通りに組み立てただけさ。設計書には技術者なら見れば分かるように細かく組み立て方が書いてあったよ。ご丁寧に対Gに優れたISスーツと強力な武装まで付けてね」
白式の機体性能や気を衒うかのような数々を考えれば尋常の人間に出来ることではない。そんなことが出来るのは世界でもただ一人。
技術を使う方でしかない真耶には想像することしか出来ないが、技術者としての挟持など知らないとばかりに為された行為はどれだけプライドを傷つけるだろうか。
「まさか姉さんが」
「そうだよ、篠ノ之候補生。妹の為に世界が第三世代の開発に躍起になっている中で、あっさりとこっちの苦悩なんて飛び越えた機体を送り付けて来たのはアンタの姉、篠ノ之束だよ。篠ノ之束もやり過ぎた自覚はあったようでね。あの重装甲は暴れ馬過ぎる機体を抑え込む拘束具でもあった。それでも現行のISとしては操縦者への負担が大きいから専用のISスーツまで作って。全くもって妹の想いの姉じゃないか」
吐き捨てるように、何年も捨てたはずの玩具が目の前で転がっているのを見たように、ヒカルノは興味のない眼を箒に向けている。
「でも、私はそんなことどうでもよかったさ。敵わないのは分かりきっていたことだからね。ただ、あの二人は私のことを全く覚えていなかったけどね……!」
そこで始めてヒカルノが感情らしい感情を覗かせた。それは怒りに似ているようで少し違う。
「出来上がった白式を見に来た篠ノ之束は私のことを覚えていなかった。織斑千冬もだ。ああ、仕方ないさ。私はどれだけ努力してもあの二人には届かない永遠の脇役。とうに諦めはついている。だから、少しだけ八つ当たりをしてやったのさ。機体に組み込まれていない機能を、システムを埋め込むって形でね。白式がシステムを呑み込んで、あんな姿になるとは想定外だったけど…………いや、ISが私の思惑を超えるというなら開発者である篠ノ之束に劣っていたということなのかね」
また飄々とした雰囲気に戻ったヒカルノは肩を竦める。
結局、二人を超えられなかった自分に向けられた怒りは昇華することなく、八つ当たりが出来た白式に埋め込まれたシステム。そのシステムがなければ素人の一夏は生き残れず、今もテロリストと戦えているのだから世の中は分からない。
「馬鹿げた話さ。篠ノ之候補生が活躍してもそれは私のシステムのお蔭だって自己満足に浸る為だったのに、織斑千冬は死に、操縦者も別の人間なんだからね」
運命ってやつを呪いたくなる、と言って顔を俯けたヒカルノに言える言葉など真耶は持ち合わせていなかった。
「かんちゃん!?」
そんな彼女らの眼をモニターに戻させたのは、本音を切羽詰った詰まった声だった。