Infinite Stratos 学園都市最強は蒼空を翔る   作:パラベラム弾

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『蒼の旋律』
『Baby's Tears~DDR superNOVA Japanese edit~』


十七話

「そ、それ本当!? ウソついてないでしょうね!?」

 

月曜、朝。

 

教室に向かっていた俺は、廊下にまで響き渡るその声に目をしばたかせた。

 

「なんだ?」

 

「さあ?」

 

隣のシャルル(勿論男装はしている)に尋ねてみれば、当然だがこちらも知らないようで首を傾げていた。

 

「どこか信用に欠けますわね……本当に透夜さんは了承したのですか?」

 

「本当だってば! 学園中この噂で持ちきりなのよ? 月末の学年別トーナメントで優勝したら、織斑くんか鈴科くんと付き合え―――」

 

「俺と鈴科がどうかしたのか?」

 

「「「きゃああっ!?」」」

 

……なぜ話しかけただけで悲鳴をあげられるんだろうか。地味に傷付くぞ。

 

「んで、なんの話だったんだ? なんか俺と鈴科がどうとか言ってたみたいだけど」

 

「う、うん? そうだっけ?」

 

「あら織斑さん。乙女の会話を詮索するのは不躾でしてよ」

 

あははうふふと言いながら話を逸らそうとする鈴と、優雅にかわすセシリア。こういうときは大抵ろくな話をしていないと思うんだが、それを指摘したらしたでまた怒られるから言わないけど。成長したな俺。

 

「じゃ、じゃああたし自分のクラス戻るから!」

 

「ではわたくしも席につきますので」

 

そう言ってその場を離れていく鈴とセシリア。その流れに乗ってか、周囲の女子たちも然り気無く自分の席やクラスへと戻っていった。

 

「……なんだ?」

 

「……さあ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方。

 

窓側最前列の席では、表面上平静を装いつつ内心頭を抱える少女の姿があった。―――箒である。

 

近頃、学年末トーナメントに関しての噂が流れていること自体は知っていた。しかし、その噂の内容をよくよく聞いてみれば彼女が唖然とするのも無理はない話であり。

 

『学年別トーナメントの優勝者は、織斑一夏か鈴科透夜と付き合うことができる』

 

(……どうしてこうなった!?)

 

当初は、箒が一夏に対して『学年別トーナメントで優勝したら付き合ってもらう』と宣言したはずだった。その情報がどこかから漏れてしまったのだろう。しかも一体何をどこでどう勘違いしたのか『織斑一夏か鈴科透夜と付き合うことができる』ということになっているのだ。

 

が、鈴科が候補に入ってしまっていることはこの際思考から閉め出すことにする。噂の発端が自分だと露見することがなければ特に何も言われることはないだろうし、そもそも彼が女性と付き合ったりしているところなど想像できない。

 

それに、優勝した女子が一夏ではなく鈴科を選ばないとも限らない。僅かでも一夏が他人と付き合う可能性を低めておいたほうが得策というものだ。

 

ともかく問題は箒と一夏だけの話だったはずのそれが、既に学園中に広まってしまっているということである。先程も、上級生が『学年が違う場合はどうするのか』『表賞式での発表は可能か』などとクラスの情報通に確認しに来ていた。

 

(まずい、これは非常にまずい……)

 

もちろん箒としては、一夏が他の女子と付き合っているシーンなど想像もしたくないが、自分が一夏と付き合うことになったとしても一瞬で学園中に知られてしまうことも想像に難くない。

 

少しばかり古風な口調、武人然とした真面目な性格とて箒も花盛りの十代乙女。同年代の女子たちが抱くような甘酸っぱい理想もしっかりとその胸に秘めているのだ。

 

―――とはいえ、その理想が実現できるかどうかはまた別の話だが。

 

(と、とにかく、優勝すれば問題ない。何ら問題はないのだ)

 

そんな時だった。

 

思い出したくない記憶が、頭の中に浮かんできたのは。

 

(……大丈夫だ。私は成長した。大丈夫、のはずだ)

 

かつて箒は、小学四年生の時の剣道全国大会でも一夏と同じ約束をしたことがあった。が、ついぞその約束が果たされることはなかった。不運にも、彼女の姉―――束がISを公表した時期と重なってしまっていたのである。

 

ISは発表段階から兵器への転用が危ぶまれており、開発者である束を含む親族の保護という名目で強制転居を余儀なくされた。無論、箒たちの意思や都合などお構いなしに、だ。

 

―――ちょうどその時からだろう、箒が束のことを嫌いになり始めたのは。

 

引っ越しを強制され、大会出場をふいにされ、決死の覚悟で交わした一夏との約束も結局は果たせずじまい。どれもこれも、元を辿れば束がISを開発したせいである。

 

しかし束とて、何も妹との仲を悪化させるためにISを造り上げたわけではないのだ。だが、度重なる環境の変化によって心身共に参っていた箒は、その感情の矛先を姉に向けるしかなかった。そうしなければ自分が壊れてしまうと、幼心にも彼女は理解していたから。

 

そんな中で、剣道だけは続けていたのも、それが一夏との唯一の繋がりに思えたからだった。その繋がりを消してはならないと、一心不乱に打ち込んだ結果得たものは『全国大会優勝』という輝かしい栄冠。

 

 

 

 

―――そして、『強さを見失った』ことによる果てしない喪失感だった。

 

 

 

 

決勝戦で叩きのめした対戦相手の涙を見たとき、それは今までに経験したどんな痛みよりも激しく彼女の胸を抉った。

 

あんなものは、力とは呼べない。強いとは言えない。強さとは、『強くある』ということは、何よりも己が知っているというのに。そのはず、だったというのに。

 

(私は……)

 

自問を繰り返す。最早箒には、一夏のことを気にしていられる心の余裕など欠片も残されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「はー。この距離だけはどうにもならないな……」

 

休み時間。

 

閑散とした廊下を早足で進んでいた一夏はそうひとりごちた。

 

元々男性IS操縦者というイレギュラーの存在など考慮されていない状態で建築されたIS学園には、男子用のトイレが三ヶ所しかない。つまり、用を足したくなったら教室から一番近くても200m弱はあるトイレまで態々足を運ばなくてはならないのだ。

 

しかし休み時間もそう長くない。悠長に歩いて向かっていたら、一往復する前に次の授業が始まってしまう。なので必然的にダッシュでの移動を試みなければならないのだが―――

 

(廊下を走るな、ってちょっと無理じゃないか? せめて一階降りるくらいならいいから新しいトイレの建設申請書出そうかな……)

 

女尊男卑のこの時世、イレギュラーとはいえ一夏一人の願いなど儚く散るのが定めというものである。

 

(ってやばい! もうすぐ授業始まっちまう!)

 

この際四の五の言ってはいられないと、走り出すため足に力を込めた瞬間。

 

「なぜこんなところで教師など!」

 

廊下の曲がり角、その向こうから響いてきた聞き覚えのある声に一夏は動きを止めた。そのまま足音を殺し、壁に張り付くようにして耳をそばだてる。何せ会話の主がラウラと千冬なのだ、嫌でも気になってしまうのは仕方あるまい。

 

「何度も言わせるな。私には私の役目があり、それを果たしている。それだけだ」

 

「このような極東の島国で一体何の役目があるというのですか!」

 

声を荒げ思いの丈を吐き出す姿は、普段の彼女にはおよそ似つかわしくない光景であると同時に、どこか必死さを感じさせるものでもあった。まるで、離別してしまう親にすがる子供のような―――

 

「お願いします、教官。どうか我がドイツで再びご指導を。ここでは教官の能力は半分も生かされません」

 

「ほう」

 

「大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません。意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。そのような程度の低い者達に、教官が時間を割いてまで教鞭を取るなど―――」

 

 

 

 

 

 

「―――囀ずるなよ、小娘」

 

 

 

 

 

 

ぎしり、と。

 

低く放たれたその一言は、込められた畏怖と威圧と覇気でもってラウラの身体を一瞬で縛り上げた。ドイツで幾度となく味わってきた、押し潰されんばかりの恐怖。少女が世界で唯一恐れたものは、数年前と何ら変わることなく彼女の眼前に君臨していた。

 

続く言葉を発しようとした口から浅い呼吸が漏れる。透き通るような白磁の肌を、冷たい汗が一筋流れ落ちた。

 

「少し見ない間に随分と偉くなったな。その年でもう選ばれた人間気取りか? 思い上がるのも大概にしておけ」

 

「っ、私は……」

 

辛うじて絞り出した声に、先程までの力はない。

 

あるのはただ、圧倒的な力による恐怖と、大切なものを失うという恐怖のみ。僅かに震えた声が、彼女の心情をなによりも雄弁に物語っていた。

 

「さて、授業が始まるな。さっさと教室に戻れよ」

 

「………………」

 

ぱっと声色を戻した千冬がそう急かす。まだ何か言いたげな表情をしていたものの、ラウラも流石にこれ以上食い下がる気はないのだろう。「失礼します」とだけ言い残すと、早足でその場を去っていった。

 

小さくなっていく教え子の背を眺める千冬。そんな彼女の瞳に浮かぶのは、僅かな悲哀の色。だがそれも一瞬のことで、まばたき一つで思考を切り換えると、先程から盗み聞きをしていた一夏に出席簿を降り下ろすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あ」」

 

間の抜けた声が二人分、放課後の第三アリーナに響く。声の主はセシリア、そして鈴音の二人だった。

 

「奇遇ね。あたしこれから月末の学年別トーナメントに向けて特訓するつもりだけど」

 

「あら、奇遇ですわね。わたくしも丁度特訓をしようと思っていましたの」

 

「なら、ちょうどいい機会だし、この前の実習のことも含めてどっちが上かこの際はっきりさせとくってのも悪くないと思わない?」

 

「それは良い考えですわね。では、特訓も兼ねて手加減なしの模擬戦といきましょう」

 

言って、両者は己の主武装を展開、距離を取って対峙する。自然に緊張感が高まり、空気が張り詰めていく。

 

「では―――」

 

 

 

―――『開始』の合図は、突如飛来した超速の砲弾によって遮られた。

 

 

 

さりとてどちらも代表候補生。如何な不測の事態と言えど、無様に直撃を食らうようなことはない。直ぐ様緊急回避行動を取ると、砲弾が放たれた方向へ構え直した。

 

ピットからアリーナへと続くカタパルト。そこには、肩部レールカノンから硝煙を上げる漆黒の機体が佇んでいた。

 

機体名『シュヴァルツェア・レーゲン(黒い雨)』、登録操縦者―――

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

 

セシリアが小さく呟く。その表情は苦いものの、彼女の碧眼はあくまで落ち着いている。

 

「……どういうつもり? いきなりぶっ放すなんて大層なご挨拶じゃない」

 

しかし、こちらはそうはいかなかったようだ。とん、と連結した『双天牙月』を肩に預ける鈴音。両肩の衝撃砲は、既に準戦闘状態へとシフトしている。

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。……ふん、機体と乗り手が釣り合わなければ、どんな機体もガラクタだな」

 

その言葉に、鈴音の柳眉が跳ね上がった。セシリアも目を細め、彼女の端整な顔が僅かに歪む。

 

「何? ケンカ売ってんなら買うわよ? わざわざ欧州のド田舎からボコられに来るなんて、年がら年中腸に挽き肉詰めこんでるソーセージ中毒者の考えは理解できないわね」

 

「鈴さん、落ち着いてください。あのような挑発、乗るだけ無駄ですわ」

 

既に我慢の限界に達しかけている鈴音は、それでもラウラの挑発を言葉でもって切り返す。セシリアは、ラウラと戦ったところで何の意味もないと考えたのか鈴音を宥めにかかる。

 

が、そんな二人の努力も虚しく、彼女はその赤い瞳の嘲りの色を一層濃厚にして、

 

「はっ……二人がかりで量産機に敗北する程度の力量しか持たぬものが専用機持ちとは。数くらいしか能のない国と古いだけが取り柄の国は、余程の人材不足と見えるな」

 

彼女たちの怒りの炎へ、これでもかというほどにガソリンをぶちまけた。

 

ぶちり、と響いたそれは、はたして鈴音の堪忍袋の緒が切れた音だった。

 

「りょーかいりょーかい。なぁんだ、そんなにスクラップがお望みなら最初っからそう言えばいいのに。―――セシリア、あんたは手ぇ出すんじゃないわよ」

 

「……誠に遺憾ではありますけれど。わたくしと、わたくしの祖国を侮辱した分までぶつけてきてくださるというのであれば、鈴さんにお任せしますわ」

 

セシリアとて、母国を侮辱された怒りは相当なものだ。しかし、挑発に乗って戦えばラウラの思惑通りになってしまう。

 

(……そもそも、どうしてわたくしたちを挑発したのでしょう? 彼女が敵視しているのは織斑さんであって、わたくしたちでは―――)

 

「はっ! イギリスの代表候補生がそのような腰抜けだったとは驚いた。所詮は下らん種馬を誘うことしかできないメスというわけか」

 

 

 

ブヅン、と。

 

 

 

先程よりも数倍不気味な音を立てて、セシリアの堪忍袋の緒が弾け飛んだ。

 

「……わたくしは」

 

ラウラの放った一言は。

 

セシリアにとって絶対に譲れない、逆鱗といってもいい部分を土足で踏み荒らされたに等しかった。

 

スターライトmkⅢのグリップを握り潰さんばかりに力を込めながら、静かに、しかし強烈な怒りを孕んだ声を絞り出す。

 

「わたくし自身がいくら貶され、貶められ、侮辱され、辱しめられようと構いません。ですがあの人を―――透夜さんを侮辱することだけは、絶対に赦しませんッ!!」

 

キッと上げられた彼女の双眸は、静かな湖面を思わせる深い蒼から怒りに荒れ狂う大海の青へと変化していた。

 

ラウラの挑発の目的とか、鈴音を宥めることとか、ここで戦う意味とか、そういった事は全部綺麗に弾け飛んでいた。あるのはただ、大切な者を侮辱されたことに対する怒りのみ。

 

セシリアの怒りを真っ正面から叩き付けられたラウラの口許が僅かな弧を描いた。両手を広げ、自分側に向けて軽く振るう。

 

「とっとと来い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三アリーナへと続く連絡通路を歩きながら、一方通行は思考に耽っていた。先日の一件で楯無に言われた言葉が、彼の胸に妙な凝りを残しているのだ。

 

彼女は、一方通行に『なぜ一夏の頼みを断ったのか』と問うた。

 

出会って一日二日の輩、しかも自分達の情報を盗みに来たスパイ。例え父親に強制されようとも、それで事実が変わるわけでもない。

 

そんな輩を保護するための手助けのみならず、お次はフランス政府の罪を軽くしたいときた。一体どこまでお人好しと世間知らずと正義感を拗らせれば、そんなことをいけしゃあしゃあと言ってのけられるようになるのだろうか。

 

一方通行が一夏の話を聞いて思ったことを要約すると大体こういった内容であり、面倒事に巻き込まれたくなかった一方通行はそのまま断ったにすぎない。

 

(それの何が悪いってンだ?)

 

断って当然、寧ろ何故協力してくれると思ったのかが理解できない。仮に協力したとして、一方通行が得るものは何なのか。無駄な労力と多大な危険を伴って、赤の他人を助けた結果彼に何の得があるのか?

 

訓練に付き合ったり、一緒に食事を摂る程度ならば別段問題はない。問題がないからこそ承諾するのであって、問題があるから断ることの何が悪いというのか。

 

(―――結局何が言いてェンだアイツは。俺に何を求めてンだよ。織斑たちと仲良くお手て繋いでにこにこしてりゃそれで満足かァ?)

 

あの、楯無の優しげな視線が妙に彼の心を苛つかせる。彼女が放った言葉の意味も、彼女が自分を気にかける意味も。『好意』の意味は知っていても、『好意』とは縁のない生き方をしてきた彼にとって、それらは全く理解できないものだった。

 

忌々しげに舌を打つと、ふと自嘲気味に薄く笑って、

 

 

 

(結局、俺みてェなヤツが『普通』を求めること自体間違ってンのかもしれねェな)

 

 

 

刹那、盛大な爆発音が彼の鼓膜を揺るがした。

 

恐らくは、アリーナで模擬戦闘でも行っているのだろう。織斑かオルコットだったらストレス解消するのにでも付き合ってもらうか、と考えながら、いつの間にか到着していた観客席からアリーナ内を眺める。

 

しかし、広がっていた光景は彼の予想と大きく反していた。

 

アリーナのカタパルトに転がされているのはボロボロになった甲龍と、気を失っているであろう鈴音。ISが強制解除されていないところを見ると、絶対防御は機能しているようだがそれでも危険なことに変わりはない。

 

次いで、シュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラ。所々装甲が破壊されているものの、損傷度合いは低い。ラウラ本人は、何か理解できないものを見るような視線で一点を見つめていた。彼女の視線の先には展開状態を保っていられるのが不思議な程に破壊されたブルー・ティアーズ―――そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでもなお、インターセプターを構えるセシリアの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……解せないな」

 

開放回線を使用しているらしい。疑問を含んだラウラの声が、観客席の一方通行にも届いた。

 

「この状況で貴様が勝つことなど、天地が覆ろうとも不可能だ。だからこそ解せない。無惨に敗北し、それでもまだ貴様が足掻く理由は何だ?」

 

ブルー・ティアーズのアーマーはもうほとんど残っておらず、肌の面積の方が多いほど。六機のビットも全て墜とされ、主武装であるスターライトmkⅢもバラバラになって散らばっていた。握られたインターセプターですら無数の罅が走っており、いつ砕けてもおかしくはない。

 

セシリアの身体からも所々鮮血が滴り、絶対防御すら働いていない。それでもISが強制解除されていないのは、操縦者たる彼女の意思によるものだろう。

 

ちかちかと明滅するスラスターを噴かし、いつ墜ちるかもわからない状態で、それでもセシリアの瞳には強い光が宿っていた。

 

「あなたには……わからないでしょう」

 

「……、」

 

「織斑先生の、背を追いかけてばかりいた、あなたには。……わたくしの気持ちは、理解できませんわ」

 

喋ることすら辛いのか、話す声も途切れ途切れ。誰が見ても、文字通り満身創痍だと判断できる。そんな中で彼女は―――その顔に、笑みを浮かべた。

 

「わたくしも、透夜さんの背を追っています。追い抜けなくとも、いつかは隣に立ち……肩を並べて戦えるように。そして……あの人を、守ってあげられるように(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

(―――俺を、守る?)

 

純粋に、彼は理解できなかった。

 

自分を守ると発言したセシリアが。なぜ自分を守ろうと思うのかが。彼女が自分を守る理由が。地球上に存在する全ての物理法則を把握する頭脳を持っていても、彼女の言葉は理解できなかったのだ。

 

「……ふざけンじゃねェ」

 

吐き捨てるように口にしたそれも、一体何に対して言ったのかはわからない。

 

そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故自分がISを展開し、アリーナのバリアーをぶち破ったのかも、理解することはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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