Infinite Stratos 学園都市最強は蒼空を翔る   作:パラベラム弾

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五話

学園祭当日。

 

一般開放はされていないものの、思い切りハメを外すことの出来る数少ない機会だと言うことで生徒達のテンションは朝から天井知らずであった。

 

中でも注目は、二人の男子が執事服姿で接客してくれるという一年一組の『ご奉仕喫茶』。この機会を逃してはIS学園生の名が廃るとばかりに、件の一年一組の教室には朝から長蛇の列が出来上がっているのだった。

 

「いらっしゃいませ、お嬢様。こちらへどうぞ、お席へご案内致します」

 

爽やかな笑顔と共に一夏が丁寧な動作で腰を折る。纏う衣服は黒を基調とした執事服に、シミ一つない白手袋。短期間とはいえ、紳士の国・英国生まれのセシリアに仕込まれた動作は非常に様になっており、思わず女子が顔を赤らめてしまうのも無理はない。

 

室内は、こちらもセシリアが厳選したアンティークな椅子やテーブル。更にはティーカップやソーサー等の食器類まで全て彼女の私物である。つい先刻までただの教室だったはずのそこは、非常にお洒落なカフェへと変貌を遂げていた。

 

一夏が数名の生徒をテーブルへと案内していくと、そこで彼に代わってもう一人の執事が姿を見せる。

 

普段は無造作に伸ばされている白髪はオールバックに整えられ、その下に隠されていた獣のような赤い瞳が鋭く光る。若干着崩した執事服、その襟元からは白い首筋が艶かしく覗いていた。

 

「……注文はなンだ。さっさと決めろ」

 

言葉だけ聞けばとても執事とは思えないが、低いテノールボイスにクールな容姿、面倒臭げな態度とが相まって、その手の女子には堪らないサービスになっているのだった。

 

それだけではない。

 

一年一組の専用機持ちメンバーは誰もが素晴らしい美貌の持ち主であり、女子から羨まれることも多々ある。そんな彼女たちがメイド服を身に纏い、笑顔で接客をしてくれるのだ。これもこれでとても嬉しいサービスである。

 

「はい、かしこまりました♪ コーヒーセット三つですね。少々お待ち下さい」

 

何故か満面の笑みを浮かべ続けているシャルロットがオーダーを取れば、

 

「お湯を注ぐ時は勢いに注意して下さいな。ゆっくり泡立てないよう……そう、そうですわ」

 

何故かコーヒーの淹れ方が非常に上手いセシリア主導の元にテキパキとオーダーが消化され、

 

「ボーデヴィッヒさん、これお願い。三番テーブルね」

 

「了解だ」

 

何故か一年一組のマスコットキャラクター的な扱いを受けているラウラがテーブルへと運んでいく。

 

ちなみに箒もしっかりとメイド服を着込んで接客に従事しているものの、一夏が引っ張りだこなのが面白くないのか常に仏頂面なので色々と台無しである。

 

「……ほらよ」

 

「あっ、ありがとう、ございます……」

 

気だるそうに頬杖をつきながら一方通行がポッキーを差し出せば、顔を真っ赤にした女生徒がそれをポリポリと食べていく。そんな行為をかれこれ一時間程続けている一方通行だが、

 

(…………コレの何処が面白ェンだ?)

 

彼が女心を理解する日は恐らく来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園祭開始から二時間ほどが経過した。昼飯時だというのに客足は全く途絶えないどころか更に列が長くなっているらしい。女子にポッキーを延々と食べさせ続ける作業にとっくに飽きていた一方通行としては面倒なことこの上なかった。

 

そろそろ厄介なのがやって来るだろうし、一夏に丸投げして自分は雲隠れしようかと思っていた矢先だった。

 

「やっほー、透夜くん。皆のアイドル楯無おねーさんが来てあげたわよ!」

 

「帰れ」

 

「その対応は接客業としてどうなの!?」

 

コンマ数秒で入店拒否された楯無が抗議するが、一方通行としては執事服(こんな)姿を見せたが最後、向こう一ヶ月は弄り続けられるだろうと踏んでの対応である。むざむざ相手に餌をやる必要もあるまい。

 

しかし今は営業中だ。騒ぐようなら営業妨害という大義名分の元に容赦なく楯無をつまみ出せる。

 

「で? 何しに来やがった」

 

「えっと……普通にお茶しに来たんだけど」

 

「……チッ。こっちだ」

 

「そろそろ泣いていいかしら?」

 

流石にクラスの出し物までかき乱すつもりはないようで、教室の隅のテーブルに案内してやれば大人しくメニューを眺め始める。普段からこンぐれェ静かだったらいいンだがな、と切に思わずにはいられない一方通行だった。

 

「ふーん……? ……、この『執事にご褒美セット』ってなぁに? 執事『の』じゃなくて『に』なの? 透夜くんに何かあげればいいの?」

 

「……注文した菓子を、俺に食べさせるンだと」

 

「……逆じゃない? 普通」

 

「俺に言うンじゃねェよ。念の為に言っとくが、立案は他の奴だからな。……まァ、それなりに繁盛してンだ、これはこれで需要があンだろォよ。……で、注文は?」

 

「そうね、じゃあ私もこれにしようかしら」

 

「……、あァそォ……」

 

ため息と共にテーブルを離れ、カウンターへ向かう。注文は既に襟元のブローチ型マイクを通じて伝達されているため、すぐに注文の品が渡される。よく冷やしたチョコポッキーにアイスハーブティーだけだが、客にとっての本命はこの後のオプションである。

 

トレーをテーブルに置き、そのまま楯無の対面に腰を下ろす一方通行。そんな彼に、ニコニコというよりニヤニヤという擬音が似合いそうな笑みを浮かべた楯無がポッキーをずいっと差し出す。

 

最後にもうひとつため息を追加してから、一口ポッキーを齧った。

 

甘いものが苦手な一方通行に配慮してか、チョコレートコーティングはミルクではなくビター。冷やされていたチョコレートが口内の熱で溶けだし、じんわりとした苦味が広がる。そこへ、サクサクとしたプレッツェルの香ばしさが合わさってお互いの旨みを引き立て合う。

 

とはいえ、彼にとってはそんな味のことなどどうでも良い。手早く済ませ、楯無から逃れたい一心であった。

 

そんな相も変わらぬ無表情でポッキーを食べ進めていく一方通行を眺める楯無はというと、

 

(……なんか、可愛いわね……)

 

割と普通に癒されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無の指名があったとはいえ、今は彼女も一人の客だ。一方通行を長々と拘束する権利はない。商品のオプションをこなし、席を立とうとした矢先に次なる災難が訪れた。

 

「どもどもー、新聞部でーっす! 噂の執事くん達を取材しに来ましたー!」

 

「帰れ」

 

「うわぁい塩対応。でも薫子さんはその程度じゃ折れないわよっ! 嫌だって言っても撮っちゃうんだから!」

 

肖像権という言葉を彼方へと放り投げた新聞部副部長、もとい黛薫子。常にネタを探し回っている彼女からすれば絶好の取材対象だが、取材される一方通行としてはたまったものではない。

 

そろそろ新聞部の活動を制限した方がいいのではないかと真剣に思うが、取り締まる側のトップ(生徒会長)がこれでは望み薄だろう。ノリノリで一方通行とのツーショットに応じる楯無に、本日何度目かの盛大なため息を吐いた。

 

「にしても鈴科くん、普段と全然印象違うわねー。オールバックにしてるせいもあるのかな、びっくりするくらい執事服似合ってるよ。何か感想とかないの?」

 

「帰れ」

 

「うわぁい最早口癖になってるよ。んじゃー次はメイドさんたちとのツーショットねー」

 

一方通行の対応もどこ吹く風、何食わぬ顔でカメラを構える薫子。そしてその背後には、そわそわと何処か気恥しそうなセシリアと、キラキラと期待に満ちた眼差しのラウラ。恐らく薫子の言葉を聞きつけてやってきたのだろう。見れば一夏の所にも箒とシャルロットが押しかけていた。

 

「さて、どんどん行くわよー! じゃあまずはオルコットさんからね!」

 

「で、では、お願い致します」

 

「……手早く済ませろよ」

 

諦めのため息を吐き、自然体で立つ一方通行にセシリアが少し遠慮がちに腕を絡ませる。柔らかな感触と仄かな温もりが服越しに伝わり、一般的な思春期男子ならば垂涎ものの状況なのだが、特に思うこともなく静かに時が過ぎるのを待つ一方通行。

 

だが、セシリアはそうはいかない。

 

(……しょ、少々大胆すぎたでしょうか……?)

 

買い物の際に腕を絡めたことはあったが、あれはギャラリーが一夏とシャルロットだけだったからこそ出来たと言ってもいい。大勢のクラスメイトが見ている中でこんなことをするのだ、人前に出ること自体は慣れていてもこれは流石に恥ずかしい。

 

だからといってここで身を離しては、千載一遇のチャンスを逃してしまうことになる。記録に残るのならば尚更だ。

 

女は度胸ですわ! と覚悟を決め、いつもの微笑みを浮かべてカメラを見る。が、その頬がほんのり朱に染まっていたことをセシリアは知らない。現像された写真を見て、彼女が1人自室で見悶えるのはもう少し先のことである。

 

「はーいオッケー! んー、いい絵が撮れたわー! んじゃ、次! ボーデヴィッヒさん!」

 

「うむ。格好良く撮るがいい!」

 

ドヤっ! とキメ顔で腕組みをして一方通行の隣に立つラウラ。

 

かつての人を拒絶する雰囲気は何処へやら、一方通行が関わると仔犬のようになってしまうこの少女を、他のクラスメイトは微笑ましいものを見るような視線で見守っていた。

 

お菓子をあげればもぐもぐ食べ、一方通行の後をひょこひょことついて行き、一方通行に絡む輩(主に楯無)を威嚇して追い払う。

 

完全に忠犬であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼を過ぎ、ようやく客足が落ち着いてきた頃。一夏と交代で1時間ずつの休憩を貰った一方通行は、人気のない階段に腰掛けてコーヒーを傾けていた。

 

耳を澄ませば、遠くから生徒達の喧騒がかすかに響いてくる。

 

(……よくもまァ朝からぶっ通しで騒げるよなァ。あの無尽蔵のスタミナはどっから湧いて出てンだ?)

 

既に疲れ切っている自分とは大違いだ。

 

純粋なスタミナだけで言えば女子も一方通行も変わらないと思うのだが、テンションさえ維持出来れば限界などいくらでも突破できるのが女子という生き物であることを一方通行はまだ知らない。

 

とはいえ。

 

こういった『学生らしい』行事に参加すること自体初めての一方通行にとっては、下らないと切って捨てることもできないのだ。

 

店員の真似事を自分がすることになるとは思ってもみなかったし、普段自分が何気なく受けているサービスの大切さを知れたような気もする(だからと言って店員に対する態度を変えるほど殊勝な彼でもないが)。

 

正直に言えば、そろそろ自室に戻って惰眠を貪りたいところではある。が、今の彼に出来ることと言えば、与えられた休憩時間を精一杯満喫することと、この後客足が途絶えるのを祈ることのみであった。

 

「……あン?」

 

ふと、視界を影が横切った。

 

反射的に視線で追う。

 

見た限り、自分とそう変わらない年頃の少女だった。

 

身長は一方通行よりも少し低い程度。透き通るアイスブルーの瞳で周囲を見回す度に、腰まで伸びた銀髪がさらりと揺れる。雪のような肌に均整のとれた体つきのせいか、どこか浮世離れした雰囲気を纏っている。

 

服装も、どう考えても動くには適していない淑やかな服。仮に模擬店か何かの衣装だとして、その格好のままこんな所までやってくるはずはない。

 

となると、外部からの来園者。それも、迷子の可能性が高い。

 

内心で舌を打つ。

 

見るからに外国人観光客です、といったオーラ全開の少女。しかもIS学園の学園祭を見に来るくらいなのだから、自分のような存在には興味津々なのだろう。いや、もしくは罵声でも浴びせられるか。どちらにせよ面倒なことには変わりはない。

 

あれこれと考えているうち、件の少女と視線が合った。

 

「―――、」

 

こちらを視認した瞬間、少しだけ目を見開いて驚きを顕にする少女。恐らくは『あの』鈴科透夜だと気が付いたのだろう。そのまますたすたとこちらに歩いてくると、一方通行の眼前で足を止めた。

 

じっ、と蒼い瞳がこちらを見つめる。

 

そして、

 

「―――Есть ли у вас что-то есть?」

 

「……Нет」

 

少女の口から紡がれたのは流暢なロシア語。

 

思わず反応を返してしまってから、一方通行は頭を抱えた。

 

ISの普及と共に、日本語も急速に世界へと広まっていった。今や、世界の共通語と言っても差し障りのないレベルである。

 

それもそのはずだ、ISの生みの親である束がISの解説書を日本語でしか書かなかったからだ。

 

束曰く、

 

『はぁ? 教えてもらう立場のくせしてそれぞれの母国語に訳せとか頭沸いてんの? 読みたければ日本語覚えろよ』

 

よって、ISに携わる者は例外無く日本語が義務教育として刷り込まれている。多種多様な国籍の生徒が在籍するIS学園において、日本人の生徒が会話に不自由しないのはそのためだ。とはいえ、一通りの英語すら喋れない生徒はこの学園に1人としていない。

 

閑話休題。

 

以上のことを踏まえた上で日本語が喋れないとなると、これは相当厄介だ。ロシア語が話せる生徒を捕まえて引き渡すか、迷子センターにでも連れていくのが早いだろう。

 

「……?」

 

こちらを見上げて首を傾げる少女を一瞥してから、一方通行は本日何度目かになる盛大なため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ、く。んむ、ん……」

 

どうしてこうなった。

 

焼きそばやらクレープやら、何故か自分が買い与える羽目になった食べ物を抱えて幸せそうに頬張る少女を見て、一方通行は心の底からそう思った。

 

当初の予定では、手っ取り早く迷子センターに引き渡して休憩に戻るはずだった。はずだった、のだが。

 

『……オイ?』

 

『歩くの、疲れた。お腹へった』

 

『……、』

 

と言って、臨時に備え付けられたベンチに勝手に座り込んでしまい。業を煮やした一方通行が立ち去ろうとすると、

 

『……オイ、離しやがれコラ』

 

『……お腹、へった』

 

『……、』

 

見知った相手ならばここで一方通行の手刀が頭に落とされていたことだろう。もしくは昔の一方通行ならば、最初の時点で音と物理的接触をシャットして歩き去っていたか。

 

(……腑抜けすぎだ。日和ってンじゃねェぞボケが)

 

自分に喝を入れる。

 

如何なる組織からの干渉を受けないIS学園だからといって、ここが絶対に安全な場所とは限らない。一般市民のことなど考えない組織が襲撃してきたら、この場にいる大勢の市民が犠牲になるかもしれない。

 

それを防ぐために―――

 

『……、あン?』

 

隣から袖を引かれ、そちらに視線を向ける。あれだけあった食料品を全て平らげ、空の容器をこちらへ突き出した少女は躊躇いなく言い切った。

 

『……おかわり』

 

『………………、』

 

スッ、と一方通行の右手が持ち上がり、少女の脳天に振り下ろされる直前。

 

「あっ!! や、やっと見つけた!!」

 

声のする方を向けば、こちらに駆けてくる1人の少女。

 

短く揃えた金髪に、意志の強そうなグリーンの瞳。身長は一方通行の隣に座る少女よりも十センチ程低いだろうか。器用に人混みを走り抜ける身のこなしは見事で、ぶつかることなく二人の眼前まで辿り着いた。

 

そうして金髪の少女は、まず空の容器を抱えた少女を見て怪訝な顔をし、次に制服を着込んだ一方通行を見てぎょっとしたような顔をして、最後にもう一度少女を見て青い顔をすると、

 

「す、すまなかったっ!!!」

 

全力で一方通行に頭を下げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本っ当に、申し訳ない……!」

 

「……分かったから顔上げろ。目立つだろォが」

 

そう言ってもう1度頭を下げる金髪の少女―――グリゼルダ。

 

色々とありすぎて既に怒る気すら消え去った一方通行は、心の底から面倒臭そうに手を振ってそれを制す。

 

「グリゼルダ、目立つのは良くない。来る前にそう言われた」

 

そして、この騒ぎを引き起こした元凶であるエヴァと呼ばれた少女がどこまでも空気を読まない発言をする。

 

「誰のせいだと思ってるんだこの馬鹿ッ!!」

 

「きゃんっ」

 

身長差のせいか、それとも叩きやすいからか。エヴァの言葉にキレたグリゼルダの平手打ちが、発育の良いエヴァの胸をスパーンと打ち抜いた。そのまま右に左にスパーンスパーンと揺さぶられる二つの果実。

 

「乳か!? この無駄に育った乳か!? これが頭に行く分の栄養吸い取ってるんだな!? よーし分かった今すぐ引きちぎってやる!!」

 

「あぅぅぅうぅぅう!! い、痛い!! グリゼルダ、痛いっ!! 引っ張るのはダメっ!!」

 

エヴァが実は日本語を話せるのだと知った時、思わず彼女の頭に手刀を落としてしまった彼は悪くないだろう。何故ロシア語しか話さなかったのかとグリゼルダに問い詰められたエヴァの答えが『一方通行の外見がロシア人っぽかったから』なのだから手に負えない。

 

一方通行も一方通行で、そのままロシア語での会話を継続してしまったのもよくなかったが、これは不可抗力と言うものだろう。まさかロシア語を話せることが裏目に出るなど誰が予想できようか。

 

魂まで抜け出そうな深いため息を吐いて、ベンチから立ち上がる。

 

「あっ、す、すまない。君を差し置いて……」

 

「……どォでもイイが、次に迷子ンなっても俺ァ知らねェからな。精々目ェ離すンじゃねェぞ」

 

「あ、ああ。今回は本当に助かった。ありがとう」

 

「ごちそうさま、でした」

 

述べられる感謝の言葉を背に、すたすたと歩き去る一方通行。さっさと移動しなければ、また厄介事が舞い込んでこないとも限らない。折角の休憩時間をこれ以上無駄にするわけにはいかないのだ。

 

と、その時。

 

「……………………、」

 

キンコーンと響く鐘の音。

 

時計を見れば丁度二時。

 

彼の僅かな休憩は、こうして終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――より、生徒会主催の演劇―――』

 

校内のスピーカーから、放送部のアナウンスが流れている。それを聞き流しながら、一方通行は自分の教室へと向かっていた。

 

既に休憩時間は終わっているのだから、早めに戻って支度をしなければ小言を言われそうだ。それとも人助けという大義名分を振りかざせばなんとかなるか。

 

(……我ながら何やってンだか)

 

律儀に足を速めている自分を鼻で笑い、曲がり角を曲がろうとした刹那。

 

パン、と眼前で扇子が開いた。そこには『火急』の文字が踊っている。それが意味するところは即ち、

 

「……何の用だ、更識」

 

一方通行の声に応じるように、制服姿の楯無が姿を見せた。確か、一方通行が教室を出る時はメイド服姿ではしゃいでいたはずだが―――

 

「……本当は、こんなことを頼みたくはないんだけどね」

 

そこに、いつもの人を食ったような笑みはない。他人をからかうような、喜色に溢れた声音もない。普段は絶対に見せないような、『裏』の顔が僅かに覗いていた。

 

只事ではない彼女の様子を目にし、一方通行の意識が硬く研ぎ澄まされていく。日常に緩んだ表側から、冷たく重い裏側へと。

 

「何があった」

 

一方通行の声のトーンが一段落ちる。

 

躊躇うように視線を彷徨わせていた楯無だが、やがてその視線は真っ直ぐ一方通行を射抜く。

 

「―――正規ルート以外の方法で学園内に侵入した者がいると報告があったわ。……彼らを炙り出すために、協力してほしいの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亡霊の影が動き出す―――

 

 

 

 

 

 

 

 




長らくお待ち頂いた読者の皆様、誠にありがとうございます。
これからもお付き合いいただければ幸いです。

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