Infinite Stratos 学園都市最強は蒼空を翔る   作:パラベラム弾

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AC6やってたらちょっとモチベ出てきたので初投稿です。
短めだけどオニイサンユルシテ


二十四話

蒼いBT粒子の残滓が虚空へと溶けていく中、セシリアは吹き荒れる風によって乱れた金髪を手で払う。

 

その動作は確かな余裕と自信を感じさせ、湖面のような双眸は冷徹な理性の光と燃え盛る激情を宿していた。

 

新生を果たしたブルー・ティアーズ、第二形態『湖の乙女(レディ・オブ・ザ・レイク)』。自動的に展開された愛機のステータスウィンドウを、一瞥もすることなく消去する。

 

問題は無い。追加された武装も、装甲値やスラスター出力の微細な変化も。あらゆる情報は全て、初めから知っていたかのように頭の中に入っていた。鮮明になった視界は、まるで己の知覚範囲が数倍にもなったかのような感覚すら覚える。

 

右手に握る愛銃のグリップを握り直す。幾分か姿の変わった愛銃『スターライトMk-III』改め、登録武装名『アロンダイト』。その銃口を眼前の敵機へと突き付けて、

 

 

 

 

「試し撃ちの相手としては、些か力不足ですわね」

 

 

 

 

躊躇なく引き金を引いた。

 

内燃機関が唸りを上げ、臨界寸前まで凝縮された蒼光が撃ち出される。凄まじい熱量を内包する一撃は、機体出力が二次移行によって引き上げられていることを如実に示していた。

 

セシリアの射撃と同時、『アルテミス』も動きを見せる。これまでに受けた射撃のデータと二次移行に伴う機体の変質、武装の変化。それらの情報を統合し分析し解析し、セシリア・オルコットという人間に対しての最適な戦術を組み上げていく。

 

篠ノ之束が作り上げた無人機と、そこに組み込まれたAIプログラムは優秀だ。おそらく並のIS乗りでは戦闘にすらならず、赤子の手をひねるよりも簡単に決着がつくだろう。何をするのか、何をしようとしているのかを全て知られてしまう状態で、一体どのようにして戦えというのか。

 

空気を焼く独特の音と共に迫る蒼い光条。直線の射撃は白い機体に難なく回避されるが、BT兵器の真価はこの後にある。『アルテミス』の背後で、壁に直撃する筈だったBTレーザーの軌道が音もなく捻じ曲がる。操縦者の意思を汲み取り、うねる生物のような軌道を描いたBTレーザーが再度牙を剥いた。

 

しかし、相手も馬鹿ではない。数度直撃を許している以上、対応策も構築する。背後から追い縋るレーザーに対して、シールドビットが機体を囲うように配置された。そのまま直撃するかのように見えたが、ビットから展開された黄金色のエネルギーシールドが『アルテミス』を包み込み、防壁に弾かれたBTレーザーは呆気なく霧散する。

 

(ビットの連結によるシールド出力の増強。常識的に考えれば、あのレベルの兵装を何度も使えるとは思えませんが……楽観に過ぎますか。無線給電か、若しくは自律給電に近しい何かがあると見て良いでしょう)

 

万能に見える偏光射撃(フレキシブル)ではあるが、その実弱点はある。

 

ひとつは、距離に応じてレーザー自体の熱量が失われること。超長距離射撃専用に調整した兵装ならば兎も角、偏光射撃で運用するとなるとエネルギーのロスが大きくなる。高出力の射撃を捻じ曲げようとすれば操縦者にとっては相応の負担となり、かといって出力を抑えても防御を抜けなければ意味が無い。

 

ふたつ、曲射の角度限界。レーザーとて発射体である以上、直進運動のためのエネルギーを有している。BT粒子で構成されたエネルギーレーザーであっても、いきなり真反対へ進行方向を変えることはできない。途方もない出力で無理矢理捻じ曲げるか、それこそ何処かの超能力者(レベル5)でも無い限りは円運動に沿った射線になってしまう。

 

故に、堅固な防御手段を揃えるか高機動力での回避に専念されてしまえば、偏光射撃の強みを活かすことは難しい。

 

あちらの攻撃を避けることは可能だが、こちらとしても突破力に欠けるためジリ貧になるのも時間の問題。

 

ならばどうするか。

 

反撃として撃ち込まれる無数のレーザーを踊るように回避しながら、セシリアは蒼き雫を空へと放つ。機体背面に並んだビットは大きさこそ今までのものと変わらないが、その数は倍の十二機。

 

的が小さい分、熱線の雨を潜り抜けるのは容易い。ビットに狙いが逸れたのならばセシリアが動きやすくなり、セシリアに集中するならビットでの一撃が狙いやすくなる。が、

 

(当然、そうなりますわね)

 

十二機の内六機のビットを展開するや、セシリア本人への射撃が一層苛烈になる。ビットを運用する思考リソースを削ぎ落とすかのように、黄金色の弾雨が夕立の如く殺到する。

 

無造作なようでいて緻密に計算された不可避の弾幕。一発一発が致命となり得るそれらを避ける為、セシリアは縦横無尽に動き回りながらも意識は『アルテミス』から外さない。

 

脳裏にアリーナの構造を投影し、彼我の距離を計算する。比較的弾幕の薄いルートを弾き出し、針の穴に糸を通すようなコントロールでビットを射程距離へと送り込む。

 

「操縦者本人を攻撃すればビットも止まる。そんな定石通りの弱点を、このわたくしが放置しておく筈が無いでしょう……!」

 

ただでさえ操縦者の脳へ負担をかけるBT兵器の操作を、回避機動と並行して行う―――それを成し得ているという事実が、今の彼女の力量を明確に表していた。

 

頭の中で引き金(トリガー)。同時、六の雫からBTレーザーが放たれる。偏光射撃こそ行わないが、直撃すれば相応のダメージとなる。避けられたとしても、セシリア本人への攻撃を牽制するには十分だった。滑らかに回避機動へと移行する『アルテミス』を捉えつつ、僅かに得られた時間で反攻の手を整える。

 

残された六機のビットを展開。都合十二の蒼き雫達が、月の女神を取り囲んだ。

 

かちかちかちかち、と。『アルテミス』がセンサー・アイを瞬かせる。特殊兵装『新月の瞳(エナマティア・セレーネ)』の予測演算とそれに伴う戦況予測は健在だ。行動を起こす直前の視線、筋緊張、脈拍、呼吸、発汗、重心位置―――集積されたありとあらゆる情報から導き出された予測に対し、『アルテミス』が先手を打つ。

 

ゆっくりとライフルを構えるセシリア。相手の動きに対する優位性を確保しているとはいえ、むざむざ攻撃されるのを待つ道理もない。『アルテミス』の握るライフルから、黄金色のエネルギーが迸り。

 

 

 

―――横合いから撃ち込まれた蒼い光条が、その銃身部分を撃ち抜いた。

 

 

 

無人機に感情が搭載されていたのならば、間違いなく驚愕を露わにしていただろう。

 

元を辿れば、それが周囲を囲むビットから放たれたものだと分かる。しかし、セシリア本人の射撃は勿論、ビットからの攻撃も予測演算に織り込まれていた。十三の砲口から放たれる攻撃の一切は予測されており、避けるか防ぐことの出来るものだと判断した。そのはずだった。

 

では、演算結果に存在しないこの一撃は、一体なんだというのだ。

 

再演算。射撃予測位置からの退避。偏光射撃によるルート阻害、敵機の射線を考慮し反撃を行いつつ距離を離す―――

 

直撃―――右脚部装甲一部破損。

 

再演算。各ビットの座標を追跡、先程直撃を放った二機に対する牽制射撃を絡めて攻撃の芽を潰す―――

 

直撃―――左翼補助スラスター喪失。

 

直撃。直撃。直撃―――!

 

「その、『眼』は」

 

穿たれて削られて撃ち抜かれて。幾らか体積の少なくなった白い機体に向けて、蒼き少女は言葉を紡ぐ。先程まで戦場を俯瞰していたその両の瞳は―――長い睫毛に縁取られた瞼によって閉ざされていた。

 

「視覚情報から相手の動きを予測できるというだけ。人間であれば予備動作を完全には消せない以上、確かに脅威的と言えますわ。ですが、わたくしの操るBT兵器がどのような理屈で動いているか―――それを忘れた訳ではないでしょう?」

 

英国によって開発された新技術BT兵器、そのコンセプトは『操縦者のイメージを反映、具現化することによって複雑な独立稼働ユニットの操作精度を向上させる』ことにある。第三世代機から運用され始めた思考感応型操縦システム(イメージ・インタフェース)の代名詞とも言えるだろう。

 

照準から射撃、機動までのあらゆる工程を脳内で完結させられるそれに、何かしらの動作は必要ない。射撃において最も重要な視覚情報すら、ハイパーセンサーを通じて代用できる。指先ひとつ動かさずとも、戦場を支配するだけの手札は整っている。

 

見ずとも視える。

 

構えずとも撃てる。

 

 

もはやセシリア・オルコットにとって『銃を撃つ』という工程は必ずしも必要なものでは無くなっていた。

 

 

 

『新月の瞳』の演算システムが沈黙する。

 

視線は読めない。狙う先も読めない。トリガーのタイミングも掴めない。例え把握出来たとて、自在に奔る弾道を全て見てから対応する事など不可能だ。

 

『アルテミス』に残された唯一の手段は、防御を固めて閉じ篭ること。しかし、その選択をした時点で『詰み』であることを理解しているが故に、行動は起こせない。

 

絶死の鳥籠を作り出したセシリア。その口元を、生ぬるい感触が伝う。舌の奥に鉄の味が広がった。

 

(っ、少々……むりが、ありました、か)

 

セシリア自身のキャパシティ拡大とハイパーセンサーの補助があるとはいえ、元より脳への負担が大きいBT兵器。十二機の操作に加え、BT粒子の緻密なコントロールを要する偏光射撃(フレキシブル)の同時運用だ。常人であれば脳神経が焼き切れていてもおかしくはない。

 

戦闘の為にリソースを回しているせいか、平時なら意識せずとも行える思考すらおぼつかない。まるで高熱に浮かされているかのような茫洋感。これ以上過負荷を与え続けると不味いと、本能が警鐘を鳴らしていた。

 

散逸しかけた集中の糸を撚り合わせ、王手をかける為に盤上を動かす。

 

 

 

「さあ―――幕引き(フィナーレ)と参りましょう」

 

 

 

刹那、吹き荒れる蒼光の嵐。

 

無尽に迸るBTレーザーの奔流に晒された『アルテミス』だが、システムが次の行動を決定するには遅過ぎた。回避できなければ防ぐしかない。しかし防御に回れば敵機は落とせない。そんな矛盾から吐き出されたエラーを処理するよりも早く、シールドビットのひとつが撃ち抜かれて爆散した。

 

残されたビットを集めてエネルギーシールドを展開するも、先程より弱まった出力では防ぎ切れず。ひとつ、またひとつとその身を護る防壁が墜とされていく。

 

『―――』

 

武器を砕かれ、盾を剥がされ、翼を捥がれ。

 

天に仰ぎ見るべき月の女神は、人の手によって地へと引きずり下ろされる。

 

そうして、再びセシリアの瞼が開かれた時には。

 

ISコアが露出した胸部ユニットと僅かばかりの装甲を残して、『アルテミス』の存在は蒸発させられていた。

 

 

 

 

 

 

 

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