「そういや給湯室に職員用の非常食とお茶があっから今日の昼飯はそこで間に合わせねぇか?」
媚薬入り弁当を食べさせようとしたフィズ君を三人でボコったあと、普通に授業を受けて今が昼休みの時間。
授業内容はあまり覚えていませんがすでに教科書丸暗記した上にお父さんからここに来るまでに大体の勉強は教わっているから正直学院での勉強は必要ないんですよね。
私がこの学院に通いたいと思ったのはお父さんのかつての地位に座っているギュスターブ・ロンを蹴落とし学者のトップに就くためには学歴が必要だと思ったからですし正直授業はだるいだけの苦行ですよ。
で、上のダイヤージ君の発言に戻るわけですが、
「非常食ってのはあんまり美味しくなさそうですね」
「いやいやシャルラちゃん。最近の非常食は美味しくなってるし期待できると思うわよ。
この学院ではハンター必携の携帯食糧なんかもトイダーヴァの街に住む一人の天才鍛冶屋と言われる人が改良を加えたらしいから美味しいみたいよ」
「なんで鍛冶屋が携帯食糧の改良なんてしてるんでしょうね?」
「さぁ?」
まぁそこはどうでもいいですよね。美味しければ。
「そんなことよりよぉ~、とりあえず何か食ってとりあえず腹の虫抑えて放課後にでも旨い飯食いにどっかレストランとか行きゃいいじゃんよ」
「それもそうですね。
フィズ君は……放置していきますか」
こうしてフィズ君を放置して私たち三人は先生たちの非常食が置いてあると言う給湯室に忍び込む。
「む、どうやら誰かいるみたいですね。
失念してましたがお昼時は誰かしらいてもおかしくはなかったですね」
「こうなったらこっそり背後に回り込んで当て身でも食らわせて食糧を根こそぎ奪って去るってのはどうだ?」
「馬鹿ダイヤージ! そんなことしたらもし見つかった時に問題になるじゃないッ!」
「だが見つからなければもっとも手っ取り早い手段だ」
「でもこれからも学院生活を続けていくなら簡単な方法よりもその後を楽しく過ごせる方法がいいですよ。
こんなことで平穏な学生生活を乱されるのは本意ではありませんからね」
ならばどうするか? となりますがここは私に考えがあります。
「まぁ、二人はちょっと待っていてください。
ここは正攻法で私が頼みこんでみます」
「うーん、まぁシャルラちゃんならハリー先生から遅刻を誤魔化せるくらいだしなんとかなるかもね」
「俺は口下手だし上手く出来るんならシャルラに任せるわ。
もしも力づくで解決しようと思ったらいつでも呼べよ」
ダイヤージ君は荒っぽい考え方ですね。
これでも紳士のつもりなんですからまだまだ紳士道への道のりは険しいと思いますよ。
とにかく、私は私でミッションを始めるとしましょうか。
「あの~、すいませ~ん」
「ん? 君は?」
振り返ったのはハリー先生より若そうな男の先生。二十代半ばといったところでしょうか?
服装から判断して既婚者、料理上手、無口ながらも悪い人ではない、といったところですね。
着ている服はアイロンが掛けてありますし取れかけのボタン一つありません。
健康的に日に焼けていることから狩り場に出る機会の多い書士隊の人でしょうが髪や肌艶から言って健康的な食事もとれている証拠。
「今日食堂が使えないこと知らなくてお弁当持ってきてないからここに非常食があるって聞いて分けてもらえればな~っと思って来たんですけど……」
「食堂が改装工事で使えなくなるのは昨日のうちに各担任の先生が伝えているはずだが君はどこのクラスだい?」
「ハリー先生です。
あ、私は新入生のシャルラ・アーサーと言います」
「ふむ、まったくハリーさんはいつも暑苦しいからテンションが上がって言い忘れたとかなんだろうな。
ジョン・アーサーの娘さん」
やっぱりハリー先生は他の先生方にも暑苦しいって認識をされているのですね。
ん? それよりもこの先生も私を知っているのかな?
「勿論君のことは知っているよ。それに君はお父さんにそっくりだ。
あぁ、俺はこの学院では古龍学を教えているダレン・ディーノだ」
そんなに私ってお父さんに似ているのでしょうか?
前もサー先生の時にも言われましたが。
それとえーと、ダレン先生でしたっけ? 確かお父さんが書士隊長として教鞭をとっていた時の教え子の中でそんな名前の優秀な生徒がいたと聞いていますね。
「はじめまして。ジョン・アーサーの娘のシャルラ・アーサーと言います。
いきなりですけど私は現・書士隊の隊長の席に就いているギュスターブ・ロン氏を蹴落としていずれ書士隊隊長になるつもりですので以後よろしくお願いします」
「ほう……まさかハリーさんやクラーマさん聞いてはいたが本気であのギュスターブ・ロン隊長に勝負を仕掛ける気でいるとはなんとも……」
この人の話も少しなら聞いています。クラーマさん曰く、味方としては割と信用出来る人みたいですね。
まだ信頼は出来ませんが。
「あぁ、確かに私は現隊長のロン氏にいい感情は抱いていないしむしろ嫌っている。
君が次期隊長になるというのなら全力で応援させてもらうよ。
これでも古龍に関する情報は私がまとめているから学院教師としても書士隊隊員としてもそれなりに重要な席に就いているからね」
少し暗い表情のダレン先生。「集めた情報は全て隊長であるロン氏に渡さなければならないので表舞台で知られてはいないが」と付け加えてくる辺り現隊長への不満はけっこう大きいようですね。
お父さんが隊長だった時は手に入れた情報は学者といえどもそれ相応の給与に影響し、まとめた本にも編集協力者として名前を載せるなど実際に現場で命を張る隊員達に色々と配慮をしていたようですがギュスターブ・ロン氏は自分のことしか考えていないようですね。
それでも文句を言わせない強硬なやりくちを推し進められるだけ現隊長のロン氏は力を持っているということになりますけど。
「ロン隊長に対して随分と不満があるようですね。
集めて来た情報も隠したりしないんですか?」
「あまりそういうことは出来なくてね。
人を信用しないロン隊長は狩り場への調査任務の時はギルドナイトを同行させることを義務付けて手に入れた情報を隠そうものならそのまま暗殺、または左遷という手段を平気でとって来るからね。
ギルドナイトが暗殺の証拠を残すはずないし、左遷された人もすぐに不幸(・・)な事故で連絡が途絶えてしまうから現段階であの人を引き摺り下ろせるのは血筋と人脈、それに実力から考えて君しかいないと思っている。
だから俺は君を次期隊長として期待しているんだ」
ふむぅ、書士隊内の事情はよく分かりましたがまだ実力を隠している遅刻魔で問題児の私のことをそこまで買ってくれるというのならばジョン派の中でも信用における人でしょう。相変わらず信頼は出来ませんが。
まぁ、お父さんもかつて学院で教鞭をとっていた時は最も優秀な生徒だったと言ってましたし味方としては心強いですね。
「そうですか。私のような若輩者にそこまで期待をしてくれているとは感謝の極みです。
しかし今はまだただの学生に過ぎません。
それにこのまま卒業まで無事に過ごせるとは限りませんが何かしら問題がありましたら助力をお願いするとは思いますのでその時はよろしくお願いしますね」
「任せてくれシャルラちゃん。
正直に言うとね。俺は最初ロン氏が書士隊隊長になった時は実力があるのなら要職に就くのは当然だし当時書士隊内にジョン隊長の後任に相応しい人がいなかったからロン氏が隊長になるのも悪くないと思っていたんだよ。
だけどあの人のやり方はあまりに利己的すぎる。
かといって逆らうにはすでにこの学院だけでなくあの人の息のかかった人間がこの街には多すぎる。
そんな中に現れたあのギュスターブ・ロンと互角以上にはり合えるであろう君の存在は私たちジョン・アーサーを尊崇する人間にとっては何物にも代えがたい神の救いのようにも感じるんだ。
だからこそ君には教師としての期待以上に書士隊に所属するものとしてこの書士隊を変えていってもらいたいと思っている」
「……任せてください! 私はジョン・アーサーの娘である以前に一人のシャルラ・アーサーとしてギュスターブ・ロン隊長を蹴落としてこの学院も書士隊も今以上に良いものにすると約束します」
しかし期待してくれるのは嬉しいのですがどうもダレンさんも私に対してジョン・アーサーの娘だからという理由で尊敬の念を持っているみたいですね。
これも知り合ってからの日数によるものなのかもしれませんがハリー先生やクラーマさんみたいに私個人の実力を評価してくれる人と違って裏切らないという意味では信用出来ても仲間として心の底から信頼出来る人ではないようです。
第一それだけ危険だと感じている現隊長のロン氏が手段を選ばなければ私が殺されてしまう可能性をきちんと理解しているのでしょうか?
学院内で味方を増やすのには役立ちそうですが私自身の評価は行動で示すしかありませんね。
あまり目立ちすぎると何かしら妨害工作を仕掛けられる可能性もありますが……
とりあえず今日のところはお昼ごはんを分けてもらってこれからの事はこれから考えることにしましょう。
もしもこのまま私個人を見ないようであるならば最終的には私もこの人を左遷せざるをえないでしょうけど。ふふふ♪
ギュスターブ・ロンside
私の名前はギュスターブ・ロン。王立学術院に所属する学者にして古生物書士隊書士隊隊長という地位に就いている。
周りからは先代隊長ジョン・アーサーとは対照的なやり方の私を疎む、もっと言えば嫌ってさえいる者が多くいるが私はそう言った陰口しか言えないような能無し共と違い、指揮官としての技能には優れているし知識においては私以上の者など竜人族の年寄りと比べても居るはずがないと自負している。
そう断言出来るだけの経験をこれまでの人生で得てきた。
モンスターについての情報をまとめた本を幾つも世に出したことでモンスターの被害を大きく減らし、また新たな薬となる素材を見つけたことで私が書士隊隊長の地位に就いてからの辺境におけるモンスターや病気による死亡率が激減したのもほとんどが私の功績と言っても過言ではないだろう。
王家にも人脈が出来、この学院の中でも表だって私に反論出来る者など数える程度だろう。
勿論私の味方が全て本心から私を尊敬している学者達ばかりではないことも理解している。
むしろ敵ばかりと言ってもいい。
そして先代隊長ジョン・アーサーを尊崇する連中の中で最近良からぬ噂が流れていることも当然耳にしている。
“シャルラ・アーサー”
最初にこの名前を聞いた時は単なる新入生だと思った。
入学式から少しばかり遅れて入学してきたのもどこか田舎から出てきたために時間がかかったのだろうと思った。よくある事だからな。
だがこのシャルラ・アーサーという娘がジョン・アーサーの娘だと聞いてしまってはのんびりと構えているわけにはいかない!
ジョン派の連中はきっとその娘を旗印に私と真っ向から勝負を挑み私の地位を脅かすに違いない。
そんなことが断じて認められるものかっ!!
私はこれまでジョンの後釜だの臆病者などと言われながらも全てを賭してこの地位を獲得したのだっ!
確かに私利私欲で多くの人間を失脚させ、場合によっては殺し、不幸にしたこともあるがそれ以上に私の書いた本が多くの人々の命を救ってきた。
この私がそんなポッと出の少女に負けてなるものか!!!
詳しく調べてみる必要があるが、もしもジョンの娘が私の地位を実際に狙っているのなら何としてでもこの学院から排除しなければ私が危険だ。絶対になんとかしなくてはならない。
だが……ただ排除するのでは私の印象というものが悪くなる。
もしも利用できるようなら私の駒として使う方が面白いだろうし、敵になりそうなら上手く自主退学に追い込まなくてはならない。
では、早速調査を始めるとしよう。
「私の地位を守るために邪魔者を殺すのは私に許された当然の権利だ。
私が殺すのは生きる価値のない化物(モンスター)どもだからな。
絶滅させても誰も困らん。私の名声はさらに増すだろう。
お前にもこれまでの敵と同様に私のこれから殺していく化物(モンスター)の中の一匹として消えてもらうことになるかもなぁ、シャルラ・アーサー」
ククククク、はーっはっはっはっはっは!
私は書士隊隊長ギュスターブ・ロン。
この世界に永遠に名を残す真の英雄だ!
年齢がよくわからないのですが、ダレンはハリーよりも年下の気がします。
名前や設定資料の説明文なんかを見るとそれなりにおっちゃんっぽいですけど、この物語ではハリーと同期のジョン・アーサーのかつての教え子ってことで。
ジョンに世話になりながらも恩返しが出来なかったことを悔やんでいたがジョンの娘のシャルラが現れたことでジョンに出来なかったことをせめてシャルラにしてやりたいという思いでシャルラの味方になる。
まぁ、現段階ではダレンもシャルラ個人よりも父親のジョンに対する尊敬の念からシャルラに協力しているだけでその事をすでに見抜いているシャルラはこのまま自分個人を認めないようなら使い捨てにする気満々。
ハリーやクラーマはシャルラ個人を心配し、守り、味方するという立ち位置なので信頼という面では一段劣る男。
今後使い捨てられるかもしれませんねw