状況はますます厳しくなっていった。
シューティングドライグでの牽制射撃は一応効果はあり、敵は俺に警戒して無暗に突っ込んでくるということはしなくなった。
しかし、遠距離射撃に関しては向こうの方が上手だと気付いたのは、敵艦船からの射撃を思いっきり受けた後だった。
「くっそ…」
当たった事はさほど問題ではない。回復できる魔法、レスタをかければすぐに傷は治る。
問題なのは、この敵の数。俺を取り囲むようにして群がる敵は、目視できるだけでざっと30体ぐらいはいるだろうか。艦種は駆逐艦や軽巡洋艦、重巡洋艦など、レ級の時以上の様々な艦種の水上艦が狭い海域に密集している。
かろうじで最重要標的の姿をちらちら見ることはできるのだが、これでは見失ってしまうのは時間の問題だ。
「キリがないなぁ…」
飛び出してきた駆逐艦を、真正面から射撃する。背後からも別の駆逐艦が迫るが、すぐに振り返り射撃。
だがその間にも、軽巡ツ級の砲口がこちらに向けられ、重巡リ級はこちらに接近してきている。
「フォイエ!!」
仕方ないのでジェットブーツ―――バイオリアクトの魔法で前方の敵を吹き飛ばす。
隙をつかれないようすぐに方向転換し、全方位に火の球を発射、敵は吹き飛び後退した。
やはり二種類の武器を同時に装備できるのは本当に楽だ。身体の負担が大きいからと、シャオは二種同時装備を基本的に禁止している。
俺は…いわゆる『特別扱い』なので特に戦闘に支障はない。
『……ナカナカ、シブトイデスネ』
『仕方ナイ、私ガヤロウ。イケ』
何やら最重要標的の三人が話している。
やっと仕掛けてくるのか…?なら好都合。奴ら一人一人の能力は周囲の随伴艦らとは比べ物にならないほどの差がある。それはつまり、この狭い戦場で一人でも本気で暴れまわったら、砲弾は敵ではなく味方に当たる可能性が非常に高い、ということ。
だから俺と戦うにも本気では戦えない。戦うことはできないのだ。
そう思っていた。
『グオォォォオオオオオオ!!!!』
次に聞こえたのは、凄まじい轟音。
戦艦水鬼の艤装、もとい化け物が雄叫びを上げていた。
何kmにも響き渡った轟音は、波は荒らし、空気を震わせ、味方の随伴艦でさえ戦艦水鬼へ向ける目は恐怖と絶望に満ちていた。
ヤバい。本能的に悟った。
俺は少し、敵を甘く見ていたのかもしれない。
味方をも恐怖させる化け物。
戦艦水鬼が、動き出した。
『ユケ!』
『ガァァァアアアア!!』
巨大な腕で本体の身体を抱きながら、こちらに迫ってくる。二つある口からは涎が飛び、取り付けられている数多の砲台は太陽の光で黒光りし、砲口からは炎が絶えず吹き出る。周囲の随伴艦は、怯えた表情のまま、巻き込まれないよう外へ外へ逃げていった。そして逃げ遅れた敵艦は戦艦水鬼にことごとく沈められていく。仲間だという意識はこれっぽっちもないようだ。
おまけにこちらに飛んでくる戦艦水鬼の砲弾はどれも精度が高く、避けないと確実に体を貫通する。
「くっ…!危ねえな…っ!」
こちらも戦艦水鬼目掛け発砲。フォトンの光で作られた砲弾がまっすぐ戦艦水鬼へ飛んでいく。
『効カヌワ!!』
「げ…効いてねぇ…」
フォトンの砲弾は、化け物の顔へクリーンヒット。少しは怯むかと思いきや、速度を変えずにそのまま突っ込んできた。傷一つ付いていない。
どうなってんだあれは…。ヴォル・ドラゴンでも顔面に当たれば怯むのに…。
こいつは相当ヤバい。
だが、倒せないわけじゃない。
俺は再び戦艦水鬼に背中を向け、敵陣の中を疾走する。
向こうは相変わらず味方をドミノのごとくなぎ倒しながらこちらに向かってくる。
このままでは接近戦に持ち込まれるのは時間の問題だ。しかし、敵の装甲はこのシューティングドライブの弾でも傷一つ付かない。俺の得意なカタナでも恐らく弾かれてしまうだろう。
あいつの装甲を貫通しそうなフォトンアーツはいくつかあるが、どれもこれも発動するのに時間がかかる。ソードのオーバーエンド。カタナのカザンナデシコ。ナックルのバックハンドスマッシュ…。うん、ここはあれを使うしかない。
接近戦に持ち込んで、隙をついて発動させる。それしか手は無かった。
『死ネェ!!』
俺の目の前までやってきた化け物は、そのままの勢いで突進してきた。普通に走っても避けられないと感じた俺は、足元でシューティングドライブを発砲させて自身の身体を吹き飛ばす。間一髪のところで敵の突進を回避した。
しかし、戦艦水鬼はすぐさま方向転換。また俺に向かって突進してくる。巨大な躯体のくせに機動力は尋常ではなかった。
「ぐっ…!!」
着地し、また先ほどの方法でかわそうとしたが間に合わず、俺の左足に化け物の肩が直撃。凄まじい痛みが全身に走る。
すぐさまジェットブーツで回復魔法、レスタを発動。徐々に痛みは引いていった。
これじゃあ隙なんてありゃしない。巨大な身体でよくあんな素早く動けるもんだ。
『…当タッタノニドウシテ立テル…?ヤツハ人間カ…?』
一方戦艦水鬼は、足に直撃したにも関わらずすぐさま立ち上がった事に驚いているようだ。少し警戒している素振りを見せるが、再びこちらに突進してきた。
『コレデドウダァ!!』
さっきと違い、今度は大きく両腕を広げ突進してくる。まるでラリアットをするかのように。
今まで横に飛んで避けてきたが、横の範囲があれだけ広いと全力で飛んでも間に合わないだろう。
ここは上に飛ぶしかない。
シューティングドライブの砲口を真下に向け、発砲。身体は軽々宙に浮いた。しかし、敵はこれを狙っていたようで、戦艦水鬼を一目見ると、ニヤついた顔でこちらに砲口を向けてきた。
すぐさま手に持つシューティングドライブを構え、発砲。敵の砲弾とこちらの砲弾が炸裂、俺のすぐそばで爆破した。爆風によって飛ばされた俺は、なんとか着地。
相手は爆風によって少し怯んだ。が、態勢を立て直し、再び突進してくる。
「…させねえよ」
先程の突進よりも、向かってくるのが少し遅れた。空中で炸裂した砲弾に化け物が怯んだからだ。
その隙を俺は見逃さなかった。
俺は懐から爆弾を取り出し、前方に投擲した。
すると爆弾は、空中で炸裂。
『グォォォッ…!?』
『ナ、ナンダコレハ!?』
しかしそれはただの爆弾ではない。
その爆弾は、炸裂すると周囲の敵を爆弾の炸裂点に寄せ付ける領域を発生させる。大食い空母三人を捕獲する時に使ったゾンディールを、少し縮小したようなものだ。
名をグラビティボム。レンジャーの中では重要な武器だ。
「…終わりだ」
堅い戦艦水鬼の装甲をぶち破るフォトンアーツ。俺の手に持つランチャーにも、それはあった。
再び銃口を戦艦水鬼に向ける。今度はただの砲撃ではない。
「スフィアイレイザー!!」
フォトンアーツの一つ、スフィアイレイザーを発動。銃口から飛び出したのは、砲弾ではなくビームだった。
青白い光線は、グラビティボムで動けない戦艦水鬼にまっすぐに飛んでいく。
『グァァアアアア!!!』
本体を庇おうと、二つの腕で本体を覆う。その重なり合う腕に光線は命中し、化け物は、実に苦しそうな轟音を上げる。今すぐにでも逃げようと、二つの頭が四方八方に動くが、身体は未だ吸い寄せられており、真に光線を食らうしかなかった。
それでもしつこく抗う化け物は、主砲から3、4発弾を放ったが、身動きが取れない上、高出力の光線をまともに受けている状態では標準を定める事などできるはずもなく、放った弾はすべて海に沈んだか味方に被弾した。
やがて、俺の中のフォトンが尽き、光線は止まった。
光線は、化け物の腕は愚か、巨大な身体をも貫いていた。光線が止むと同時に、その場で崩れるように化け物は倒れた。それでも、未だ腕や頭がまだ足掻こうと動いている。死んではいないようだ。
化け物の腕に乗っかっていた本体は、化け物が庇ったせいなのか無傷。化け物が倒れると、軽い身のこなしで水上に降り立った。
『貴様ァ…!』
そして、先ほどの涼しい顔とは一転、憎悪の塊のような表情で、俺を睨み付けた。
本体は武器らしい武器は持っておらず、このまま接近戦に持ち込めば倒せるかもしれない。本体の能力がどれほどのものか分からないので、一概に言えないが。
「提督ー!」
クラス変更しようとしたその時、後方から声がした。
声を聞いて俺は冷や汗を掻いた。すぐさま声のした方を振り向く。
「は、榛名!来るんじゃない!」
そこには全速力でこちらに向かってきている榛名の姿があった。
普通の人なら助けが来たと、喜ぶかもしれない。
だが俺は、この状況を最悪なものと思わざるを得なかった。
最重要標的がこの場に三体。内一体は戦闘不能寸前まで追い込んだが、艤装の化け物はまだ沈んでない。本体もああ見えて肉弾戦を得意とするかもしれない。艦娘が一人で来るには安全とは言い難い状況なのだ、この場は。
『…!』
榛名に警告した直後、戦艦水鬼が動き出した。目標は、予想通り榛名だった。
「逃げろぉ!!」
叫びながら戦艦水鬼を追いかけるが、俺の前には多くの敵が立ち塞がってきた。
「クラス!ブレイバー、バウンサー!」
手にした武器は、金色の装飾が特徴の「コウコマル」。
その見た目とは対照的な白刃で、駆逐艦二隻を斬り捨てる。
「くっ…邪魔だぁ!!」
まるで統率されているように、多くの随伴艦は先に進ませまいと、轟沈覚悟で立ち塞がる。
一体一体相手する暇などないので、駆逐艦を踏み台にし、飛び越えながら榛名のもとへ急ぐ。
一方榛名は近付いてくる戦艦水鬼の存在に気付いたようで、戦艦水鬼目掛け発砲している。
「戦艦水鬼…!ここで私が倒せば…!」
右側の二基の主砲をダズル迷彩にしている榛名の艤装は、戦艦水鬼目掛け休むことなく火を噴き続ける。
艤装もとい付添の化け物が瀕死状態な戦艦水鬼は、軽い身のこなしで榛名の放った砲撃を難なくかわす。
『……コイツヲ囮ニトレバ…!』
「は、速い…!」
これが本来の力なのか、戦艦水鬼の今のスピードは、化け物を率いていた先ほどまでとは比べ物にならないほど速くなっていた。全速力で追いかけているが、戦艦水鬼の姿はどんどん小さくなるばかり。
このままでは本当にまずい。
「榛名ぁ!逃げろぉぉ!!」
「きゃぁ!?」
叫んだ直後、戦艦水鬼が榛名目掛け突進。咄嗟に回避するも、艤装に戦艦水鬼の腕が直撃。少しだけ前方へ吹き飛ぶ。何とか体勢は崩さずに保てたが、ダズル迷彩の主砲の一基に腕の形の凹みが綺麗にできていて、使い物にならなくなっていた。
勿論衝突した反動はそれなりなものなのだが、戦艦水鬼はぶつかった衝撃で体勢を崩すも、すぐに立ち直り再び榛名に狙いを定める。
応戦しようと榛名も戦艦水鬼に狙いを定め、発砲。しかし素早い戦艦水鬼の動きに榛名は狙いを定める事ができない。当てずっぽうに絶えず砲弾を繰り出すが、全く被弾しない。
一つも砲弾が当たらないまま、二度目の衝突。今度はダズル迷彩でない主砲の一基が使えなくなった。
敵は確実に榛名を仕留めにきている。提督のために何とかしようと意気揚々だった榛名も、焦燥感と危機感に襲われていた。
まるで猪のように、戦艦水鬼は三度榛名に狙いを定める。
仲間の危機を、またしても救うことができない。後数百メートルの距離のところで。
俺は、また、たった一つの命を目の前で失うのか。
一瞬、あの光景が脳裏に浮かぶ。
破壊される市街地。逃げ惑う民間人。
必死に敵を倒しても次々に現れる。
そして、倒し損ねたダーカーに、殺される人々。
あの二の舞だけは…なんとしても…!
『目標、最重要標的、戦艦水鬼!!全主砲、薙ぎ払え!!』
ズドォォォオオオン!!
「っ!?何だ!?」
耳元のイヤホンから聞こえた声。
戦艦水鬼を襲った大量の砲弾。
一瞬敵かと思ったが、どうやら味方のようだ。
「お待たせしました!!呉第一艦隊、ただいま到着しました!!」