もし提督がアークスだったら   作:rufus

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随分遅くなってしまいました…


13.宇宙人、本気出す

「…用意はええな」

 

 昼食を終え、一転タンカーの甲板は緊迫した空気に包まれていた。

 

「敵艦隊を迎撃していった面々はそろそろ限界を迎えるやろ。向こうに着いたら、まずは彼女らの援護を最優先や」

 

 龍驤が作戦の概要を説明している。俺と、大和に陸奥、そして佐世保の旗艦である龍驤で考察した。

 この作戦ならば、みんなを確実に助けられ、あの大艦隊も殲滅できる。

 

「迎撃組を安全な海域まで後退させたら……ええんやな、提督さん」

「あぁ、言ってくれ」

 

 深刻な顔を俺に向ける龍驤。言いたい事は分かる。が、それが最良だと言うのが結論だ。

 

 

「…迎撃組とこのタンカーと共に、佐世保に撤退する。敵艦隊は…横須賀の提督さんが、すべて倒す」

 

***

 

「はぁ!?何なんだよその無茶苦茶な作戦!?死んじまったらどうすんだよ!?」

「ワレも思ったわ!みんなそう思っとる…何も言わんでくれ、摩耶」

 

 敵艦隊を前に、舞鶴第二艦隊旗艦である摩耶は、龍驤に怒鳴り散らす。

 

「お、落ち着いて摩耶。これも何か考えがあって…」

「私達が戦って沈むんならまだしも、提督が死んじまったら元も子もねえじゃねえかよ!!」

 

 摩耶の言い分はよく分かる。が、このままでは本当にマズイ。

 周囲敵だらけの中で、艦娘は丁寧に残り少ない弾薬を確実に敵に当てる。だが、いくら倒しても敵は次々にやってくる。誰がどう見てもピンチだった。

 航空戦も、敵の新型艦載機の影響か、中々の苦戦を強いられていた。こちらに大勢の航空母艦がいるにも関わらず。

 

「提督さんや!まだ行けんのか!?こっちちょっちきついで!」

「後少しだ!」

 

 そんな危機的状況の中、俺はとあるものを準備すべく周囲のフォトンを吸収していた。

 本来「これ」は故意に発動できるものではなく、ある程度戦闘を重ね、自然に体内に集まったフォトンをマグに送り、マグを幻獣に変化。敵に強力な一撃を与える。

 言わば必殺技のようなものだが、俺は今、これを無理矢理発動させようとしている。

 だったら武器を取ってさっさと戦えと言われるところだが、この作戦の最初の段階は艦娘を安全に撤退させる事。

 いざ戦場に来てみると、俺が最初に戦った時より敵が多くなっており、撤退どころではなかった。

 ここは一気に敵を一掃しないと、このまま消耗し続ける羽目になる。

 

「よし!準備完了だ!総員後方に下がれ!!」

 

 

 マグに十分なフォトンが溜まり、マグがわずかに光を帯びている。

 必殺技「フォトンブラスト」が使える合図だ。

 

 すぐさま艦娘達を一気に後方まで下がらせる。すると敵も艦娘を追ってこちらに向かってきている。

 敵の動向をよく見極る。撃ち漏らしても、かわされてもならない。確実に敵を仕留める。

 

 腕を空へ突き上げる。すると、俺を中心に巨大な青いリングが展開される。幾何学模様で縁取られたフィールドは、通常の何倍ものフォトン濃度を有し、マグの変身―――幻獣の召還を安定させる。

 フォトンが安定したら、突き上げた腕を胸に下ろす。と同時に青いリングが一瞬で縮小し、俺の中に取り込まれた。

 そして、放つ。

 

 

「来い!!ヘリクス!!」

 

 

 マグが凄まじい光を発しながら、変化する。

 現れたのは、俺の身丈の倍以上はあるだろう巨大な幻獣。この星でいうと「ユニコーン」のような幻獣、ヘリクスだ。

 白い躯体のところどころに色鮮やかな装飾がなされているその姿は、まさに幻想的で、この世のものとは思えないほど麗しい姿をしている。

 

 しかし、ひとたび牙を剥けば、幻獣は化け物と化す。

 

 額に生えた角が一際輝き、頭を低くすると、一気に走り出した。

 強力な電撃を纏い、光と共に走り去る。

 その走り去った後には、抵抗の隙も与えられなかった深海棲艦の亡骸が大量に浮かぶ。何体かは逃げようと、明後日の方向へ走り出すが、呆気なくヘリクスの突進に沈んでいく。

 

「…ありゃ一体なんだ鳥海…アタシ夢でも見てるのか…?」

「私にも分からないわ…何なのあれ…」

「すごーい…あれなら夜戦でも…」

 

 逃げたはずの艦娘たちも、幻獣を目で追いながら、超常現象を前にぼけーっとしていた。

 視線を向けても気付かないので、声をかける。

 

「ほら早く逃げろ!」

「……はっ。アカン、見とれてもうた!!みんなぁ、はよ退避するで!」

 

 龍驤の一声で艦娘達は我に返る。俺に背中を向け再び走り出した。

 

「提督!後は通信機で逐一連絡頼むで!」

「はいよー」

 

 一応万が一のために、龍驤と連絡が取れるよう、小型の通信機を装着している。

 これは呉の面々が、タンカーの通信装置の不備を心配し持ってきたもの。少しでも力になればと大和が貸してくれた。

 後は艦娘が安全な海域まで逃げるだけ。作戦は順調に進められた。

 

 …と、そう易々と事が上手く運ぶわけがない。

 

 

『逃ガスカァッ!!』

 

 

 敵陣の後方から不気味な声が聞こえる。その直後、前方から白い物体が艦娘のいる方向へ飛び去って行った。

 一瞬しか見えなかったが、あれは通称「タコヤキ」と呼ばれる敵の新型艦載機。さっきまで佐世保の艦載機とドンパチやっていた、強力な艦載機だ。

 あれを搭載できるのは、最重要標的かそれに匹敵する強力な個体だけ。

 

 生憎、この戦場には戦艦水鬼の他に最重要標的が、二人いる。

 

「龍驤!!敵の新型艦載機がそっち行ったぞ!」

『もう来てるわ!こんくらい平気やから早よ倒してーな!』

 

 大丈夫なのか…。通信ごしに砲弾音がひっきりなしに聞こえる。安全に退避するには、あの艦載機をどうにかしないとまずい。

 

「うぜぇ…なぁ!!」

 

 新型艦載機は、まるで蠅のように俺の周りをぐるぐる回る。あの高さでは、ヘリクスの突進も効かない。俺が狙撃して地道に撃墜していくしか、他に方法は無さそうだ。

 

「来い!白雉春光!!」

 

 取り出した武器はバレットボウの一つ、白雉春光。桜の花の飾りがふんだんに使われた、この星でいう弓矢と呼ばれる武器。非常に豪華絢爛な武器だ。

 背中の矢筒から矢を取り出し、弓にセットする。

 弓を横に倒し、ゆっくりと弓を引いていくと同時に、周囲のフォトンを矢へと集中させる。やがて矢は青白い光に包まれた。

 そして、艦載機目掛け、放つ。

 

「マスター、シュート!」

 

 放たれた矢は、フォトンにより分裂、何本もの青白い光の矢へと変化した。

 それぞれの矢は、矢とは思えないほどぐにゃぐにゃ曲がりながら新型艦載機を追尾し、次々に堕としていく。

 

「まだまだぁ!!」

 

 絶えず矢を引き、フォトンアーツ「マスターシュート」を放つ。敵陣からやってくる艦載機を、無慈悲に堕とす。たった一人の人間に、あっという間に制空権を奪われた敵陣営は、普段ではありえない状況に呆然としていた。

 

『ア、アリエナイ…艦娘デモナイアイツガ…!』

『ヤツヲ沈メロ!!攻撃ノ隙ヲ与エルナ!!」

 

 二人の指揮官からの指示で、あっけらかんとしていた敵艦たちは一斉に我に返る。そして砲口をこちらに向け、一斉に発砲してきた。新型艦載機も、いつの間にか俺が倒した以上の数にまで増えており、まさに四面楚歌という状況になってしまった。

 この状況、とても弓ではどうすることもできないのでカタナ「オロチアギト」に持ち替える。

 

「はぁっ!!」

 

 フォトンアーツ、カンランキキョウを発動。素早く刀を捌き、俺を中心に円形の斬撃が繰り出される。これを敵の間へ素早く忍び込み、何度も何度も繰り出す。

 あっという間に数十隻沈めると、俺の狙い通り新型艦載機も水上艦も最重要標的も全員、俺に狙いを定めている。艦娘たちの元へ攻撃を仕掛けようとする敵艦はいなくなった。

 

『クッ…ドイツモコイツモ簡単ニ沈ミヤガッテ…!!』

『…ココハ撤退シタ方ガイイヨウナ気ガシマス』

『イーヤ!ヤツハココデ倒ス!!レ級ノ仇ハ我々ガ討ツ!!』

 

 少し遠くから聞こえる、深海棲艦の会話。その中に「レ級」という単語が混ざっていた。

 数日前、横須賀の周辺海域に現れ、俺が捕獲した深海棲艦も戦艦レ級。会話の流れからして、それを指しているに違いない。

 もう俺の情報が敵に回っているのか?捕獲した時、周辺には誰もいなかった。なのにどうして奴らはレ級を倒したのが俺だと把握しているのか…?

 

『下僕ドモ!!サッサトヤツヲ沈メロ!!』

 

 数が減ったにも関わらず、敵艦隊からの弾幕は激しさを増すばかり。このままでは本当に海の藻屑となってしまう。

 こうなれば、あれを使うしかない。

 

 

 

「……カタナコンバット、発動」

 

 

 

 俺の身体に、フォトンのオーラが宿る。カタナ専用のスキル、カタナコンバットだ。

 このスキルはカタナの攻撃力を上昇するとともに、自身の移動性能を大幅に上昇させ、さらにはあらゆる攻撃をすり抜けられる能力を得る。

 

『ナ…ナンダ!?攻撃ガ当タラナイゾ!?』

 

 ただしこの効果が効くのは、発動してから20秒経過後か、最後の一撃である「コンバットフィニッシュ」を決めるまで。このスキルが切れる前に、なんとしてもどちらか一人でも倒さないと。

 ジェットブーツで水面を蹴り、一気に敵との間合いを詰める。数十メートル離れていたのが、一気に数十センチまで縮まった。

 

『ナッ…!?』

 

 ようやく、敵の顔が確認できるまで近づいた。俺の視界には、離島棲鬼の驚愕した顔がくっきり映る。

 鞘から刀を抜き、横薙ぎ。敵はこれを、艤装の付いた化け物を盾にして受け止める。

 

「やっと、捉えた…っ!!」

『グ…オォォォ…』

 

 敵は小さく唸り声を上げる。苦しんでいるのかどうなのかよく分からないが、倒してしまえばどうであれ同じだ。

 素早く刀を引き、今度は化け物向け、一気に突く。

 

『ガァァァアアア!!』

『ハ、離レロォ!!』

 

 化け物が悶え苦しむ。本体は、今まで聞いた事のない化け物の叫びに危機を感じ、艦載機で反撃。滑走路から何機ものタコヤキが飛び立ち、俺目掛け発砲する。

 しかしまだスキルの効果は続いている。弾は俺の身体をすり抜け、海へ落ちる。

 

 残り15秒。

 

「はっ!!」

『ガァァアアアアア!!…アァァ…』

 

 突き刺さった刀を持ち替え、真上に刀を振り上げる。堅い装甲を真っ二つにし、化け物の紫色の体液が飛び散る。大きく叫び声を上げた後、段々力ない声へと変わり、化け物はやがて動かなくなった。

 

 隣で死にゆく姿を見た本体は、涙目になりながらこちらを見て怯えている。

 

『オ前達!何ヲシテイル!離島棲鬼ヲ護衛シロ!!』

 

 空母棲鬼は、艦載機をコントロールし敵を撃破する。戦艦など砲撃戦を主にする水上艦とは違い、至近距離での攻撃は得意としない。近くで仲間がピンチでも艦載機しか飛ばすことができないのだ。

 頼みの綱は、少なくなった随伴艦。俺の猛攻に巻き込まれないよう二歩三歩下がっていたが、命令により決死の覚悟で俺に接近してくる。

 

 残り10秒。

 

 随伴艦の精密な砲撃も、空母棲鬼から放たれた艦載機からの射撃も、虚しく俺の身体をすり抜けるだけ。弾一つ一つに彼らの必死さが、にじみ出ている。

 

 そして俺の傍らで、酷く怯えている離島棲鬼。

 何故だろう。敵であるにも関わらず、殺してはいけない、そんな気がした。

 レ級と同じだ。近くで見ると、普通の人間と変わらない。一人の少女が、そこで小さく怯えているだけなのだ。

 俺が立てた仮説もあながち間違いではないのかもしれない。本部からレ級の結果が来ない限りまだ分からないが。

 

 残り5秒。

 

 もうこの戦いも終わりにしよう。

 彼女たちも辛いが、俺も辛い。

 ただの少女たちと、剣を交えねばならないのだから。

 

 刀を静かに、鞘に戻す。

 

 その瞬間、俺に纏っていた円形のオーラが刀へ収束し、一気に円形の衝撃波を繰り出した。

 

 

***

 

 飛び去って行くアークスの戦闘機。

 二人の少女を乗せて、空の彼方へ消えた。

 これで終わった。数時間に及ぶ戦闘の末、何とか敵艦隊を撃滅する事ができた。

 正直もうクタクタだ。こんなにフォトンを使ったのはどれくらいぶりだろう。

 ただの遠征任務が、こんなことにな…

 

「…っ!?」

 

 背後に凄まじい殺意。同時に高速でこちらに何かが飛んでくる。

 仕舞おうとした刀を再び手に持ち、振り返って放つ。

 

「ハトウリンドウ!」

 

 蒼い衝撃波を迎え撃ったのは、赤黒いエネルギー状の球体。二つは相殺され、爆発を起こしながら消えた。

 周囲は煙に包まれる。が、敵は相当せっかちなようだ。

 煙の中から何かが飛び出してきた。襲いかかる拳を刀で受け止める。敵の攻撃の威力をそのまま流用し、後方へ飛び、敵との距離を取った。

 

「なんだ…こいつ…」

 

 まじまじと、敵の姿を見ると、それは他の深海棲艦とは大きく異なっていた。

 

 その敵は、ダークファルスにとても似ていた。

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