禍々しいオーラ。吐き気を催すほどのダーカー因子。
今、俺の目の前にいる敵は、これまで会敵してきた最重要標的のそれとは、遥かに上回っていた。おまけに、奴には艤装と呼ばれるものがない。黒いワンピース姿と、他の深海棲艦とはまるで違う。
どちらかと言えば、ダークファルスに近かった。
となると、必然的にこいつは深海棲艦の親玉という事になる。
色々推察していると、向こうから口を開いた。
『…貴様、私の下僕たちをどこへ連れて行った…?』
最重要標的を自身の下僕と呼ぶあたり、どうやら本当に親玉のようだ。
「さぁな。あんたの想像もつかない場所だよ」
『…『朝日』を連れ去ったのも貴様か』
「『朝日』?……レ級のことか?」
『……貴様らは、沈んでいった魂を、そのような名で軽率に扱うのだな』
静かに呟きながら、ゆっくりと右腕を上げる謎の少女。
手の平をこちらに向けると、赤黒い球体が出現し中から駆逐艦イ級が五隻、出現した。
さらには左腕を上げ、同じように軽巡洋艦ホ級三隻を出現させた。
「こいつ…!?自分で深海棲艦を!?」
予想はしていた。だがいざ目の前にすると、これはもうダークファルスと呼ばざるを得ない。しかも予想より生成できる艦船の数が多い。奴が本気を出したら、恐らく先ほどのような大艦隊など一分も経たずに作り出せるだろう。
できることならここでケリをつけたい。しかし体力的にもう限界だ。
『…やれ』
即席で作られた、八隻の艦隊は陣形も気にせずにまっすぐ俺に迫ってくる。
ここは…戦うしかないようだ。
「おいシャオ!応答しろシャオ!!」
これだけの大事が起こったんだ。とりあえず上官に報告しないと。
ノイズ音が数秒鳴った後、聞きなれた声が聞こえた。
『…はいはい何だい。今こっちは忙しいのに…』
疲れ切った声で話しかける、オラクルの管理者シャオ。
そのやる気の無さに少し腹が立ったが、今はそれどころではない。
「こっちの映像見て分かったろ!!」
『そうだねぇ…。今すぐそっちに戦闘部員派遣するにも時間がかかるし…』
「そうじゃねぇ!戦闘機派遣しろっつってんだ!」
いまいちかみ合わない会話。こうしている間にも、俺は駆逐艦を二隻沈めている。
『えぇ。こんな相手にやられる君じゃないでしょうに』
「こいつのダーカー因子量見てみろ!尋常じゃねえだろ!!」
『…確かにそうだね。ダークファルスに匹敵するぐらいの…』
「流石の俺でも連戦からのダークファルスは無理だ!帰還用の戦闘機を頼む!」
『分かった。今すぐ派遣するから、それまで耐えて』
淡々と返事をして通信を切られてしまった。忙しいのは分かるが、それはないだろう…。
どれくらいで戦闘機が来るかは知らないが、来たら来たで撃墜されるようなことがあってはならない。敵の体力をできるだけ削がなければ。
「邪魔だ!」
ホ級の身体を一閃、艤装もろとも真っ二つに斬る。
背後からは海から飛び上がり、狙いを定めるイ級が迫る。これをジェットブーツの跳躍力で、上に回避。そのまま上空からラ・ゾンデ――電撃の傘を繰り出し、範囲内の敵艦に攻撃。撃沈する。
海上に降り、残る敵艦をラ・フォイエ――任意の地点で爆発を起こし、沈める。
これで敵はダークファルス…もどきだけとなった。
新しく敵艦を生成されてはたまったもんじゃない。あいつに、攻撃の隙を与えてはならない。
「はぁっ!!」
ジェットブーツの出力を上げ、一気に相手との間合いを詰める。その間に、右足のジェットブーツに瞬間的にフォトンを込める。
敵は、涼しい顔でこちらを睨み付けている。しかし何かする様子はない。
罠か何かが仕掛けてあるんだろうが、気にせず突き進む。
「ヴィントジーカー!!」
勢いそのままに、フォトンを込めた右足で敵に蹴りを繰り出す。フォトンの力で瞬間的に出力を上げ、放つ。
が、右足は何か硬いものにぶつかった。
「っ!?」
俺の目の前には、赤黒い茨のようなものが網目状に張られ、攻撃の妨げとなっていた。
ダークファルスを中心に張られたこのシールド。何度も見たことがある。
「ダーカーウォール…だと…!?」
惑星リリーパでの、採掘基地防衛戦。深淵なる闇との闘い。そして、ダーカーの巣と呼ばれる、フォトン異常値宙域への侵入。いずれの戦闘でも、俺はこの特徴的な障壁を見てきた。
これは通称ダーカーウォールと呼ばれ、名前の通りダーカーが作り出す壁だ。
ダーカーの巣にて初めて目撃され、採掘基地防衛戦でも登場したこの壁は、何の突拍子もなく出現するのが特徴。強度も十二分高く、どんな熟練のアークスでも簡単に破壊することはできない。
『…甘い』
「ぐぅっ…!!」
敵の放った衝撃波で吹き飛ばされる。空中で何とか体制を直し、着地は成功する。
『今度は、こちらの番だ』
ダーカーウォールを消し、水面を蹴って一気にこちらに急接近してきた。右手を大きく振りかぶりながら。
敵との衝突に備える為、鞘から刀を抜く。
瞬間、敵の拳と俺の刀が鈍い音を立て、激突した。
想像以上の強い力だ。何とか拮抗を保つのでやっとなほど。万全の状態ならば、押し返すこともできよう。
「ぐぅぅぅ!!」
『随分消耗しているようだな。そのまま、楽にしてやる』
動けない状態の俺に対し、敵は左足で蹴りを入れる。脇腹に当たり体勢を崩す。
すかさず、敵は身体を後退させ今度は右足で蹴りを入れてきた。が、何度もやられはしない。ここは再び刀で受け止め、弾く。敵も懲りずに弾かれた反動で、再び左足での回し蹴り。刀で受け止めるが、この一撃は重く、右側へ少し飛んだ。
着地して相手を視界に捉える。敵はすでにこちらに接近しており、また右腕を引いて殴りかかろうとしていた。
「グレン、テッセン!!」
フォトンを瞬間的に身体に纏い、敵の背後へと高速移動する。背後へ回ると、動きに追いつけていない敵の背中に、一閃。
『がぁぁぁあっ…!!!』
一瞬怯むが、あまりダメージにはなっていないようで、変わらず素早い蹴りで俺を後退させる。
…おかしい。ここまで戦ってきたが、やつは全て体術だけで戦ってきている。確かに過去そういうタイプのダークファルスはいたが、それでも衝撃波なりなんなり使ってきた。
だがこいつが使った衝撃波といったら、ただ風を爆発させて起こした、ナ・ザンのようなものだった。
そんな安っぽいテクニック、アークスでも使える。とてもダークファルスのする攻撃とは思えなかった。
まだ本気を出していないと言えばそれまでだ。だがあまりにも不自然だ。
こいつは本当にダークファルスか…?
そうこう考えていると、敵は左右の手から再び深海棲艦を生み出した。その数、軽巡四隻、駆逐五隻の計九隻。先程より多い。
「くっそ…数が多い…!」
流石に体力がない。自分でも分かるほど、刀にキレがなく攻撃を当てても倒しきれていない。
本当にヤバい。ガチで沈む。
通信でシャオを煽るが、向こうからの返事がない。どうやら向こうの指揮に戻ったようだ。背に腹は代えられない、ここは艦娘に通信を…。
「お、おい!龍驤聞こえるか!!」
『おぉ、丁度ええタイミングや!!提督、伏せててな!』
伏せてろ…?一体どういう意味…
と次の瞬間
ババババババッッ!!!
とてつもない轟音が聞こえ、咄嗟に伏せる。
すると周囲の敵たちはたちまち炎上し、海へ没した。
「全く、どうしてこうも無茶ばっかするんですか」
「…え?」
俺の傍に駆け寄ったのは、驚く事に艦娘ではなかった。
「な、何でお前がここに…この『星』に来てんだよ…!!」
俺の目の前に現れたのは、俺の旧知の戦友、ルティナ。
そう、アークスだった。