もし提督がアークスだったら   作:rufus

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16.宇宙人、確信する

 どうして彼女たちは戦うのか?

 

 幾度とない深海棲艦との抗争の中で、第三者である俺はこの疑問に頭を抱えていた。

 

 彼女たちは孤児だった。親に捨てられ、行き場がなかった。

 そこに海軍が手を差し伸べた。

 ここまでの話なら、彼女たちが自分たちの居場所を作ってくれた海軍に協力するのも頷ける。

 しかし、どうして、一歩間違えれば死ぬかもしれない戦場にまで身を投じなければならないのか。目の前で何人もの仲間が海へ消えたことだろう。

 

 普通に考えて、どうしてここまで付き合わなくちゃならないの?と思うはず。

 

 彼女たちは、海の上で戦うために海軍に引き取られたわけじゃない。

 彼女たちは、海軍に利用されるために孤児になったわけじゃない。

 

 けど、どうして彼女たちは…

 

 

 

 

 

 

 あんな平然に、今を生きる事ができるのだろうか。

 

 

 

***

 

 翌日、横須賀鎮守府。

 

「提督、これ判子押しておいて」

 

 先日の戦闘が、まるで嘘のように、いつもと変わらない1日が始まった。

 

 

 四国沖防衛海戦。

 先日の戦闘はそう名付けられた。

 

 敵戦力はおよそ500はいたとされ、一体何をしに日本近海まで進出してきたのか、結局不明のままだ。

 仮にあのタンカーが狙いだったとしても、呉にはまだ多くの資材はあり、襲われたとしても通商破壊にはならなかった。

 また、たった1つのタンカーに対し500、というのも疑問が残る。大規模に通商破壊をするのなら、もっと広範囲に配置させ、一度に多くの船舶を襲う方が効率がいい。

 タンカーには深海棲艦が狙いそうなものは何もなく、燃料が目的なら油田ごと襲えばいい。

 俺と呉の提督が見た、あの深海棲艦。新しい標的に関して本部にはきちんと報告し、各国への警戒が促された。

 深海棲艦を生み出せる深海棲艦がいる、と。

 

 

「…提督?」

「あ、あぁ…すまない、五十鈴。これに判子だな?」

 

 思い更けっていると、五十鈴が顔を覗かせてきた。

 考えるのはいいが、今は提督の仕事を全うしないと。整理する書類はまだまだ残っている。

 

「提督ぅー!!!」

 

 五十鈴から渡された書類に判子を押そうとした瞬間、勢い良く扉が開いた。

 金剛だ。

 

「ちょっと金剛さん!? そんなことしたら扉が…」

「扉はいいんデース!! それより、窓の外をっ!!」

「外?」

 

 金剛が珍しく慌てている。どうしたのだろうと、促されるまま窓の外を見た。

 するとそこに、アークスの戦闘機があった。

 

***

 

「な、ななななんだいありゃぁ!?」

「涼風! そ、そんなに近づいたら危ないよ!?」

「提督さーん!! 早く来てっぽいぃー!!」

 

 すでに艦娘が外に出て集まっており、数人は警戒してか艤装を付けている。

 

「こ、ここは榛名が…」

「待て待て待て撃つなぁー!!!」

 

 榛名が完全に戦闘機を標的にしていたところ、俺が制止に入る。危ない、後少しで戦闘機が落ちるところだった。

 俺が来た事に安心する艦娘たち。艤装を装備していた艦娘も、俺の命令で外してくれた。

 艦娘の様子が落ちついてきたところで、俺は戦闘機との通信を試みる。

 

「…あーあー聞こえますかー? 五芒星の一、『仮面』ですが」

『突然の訪問、申し訳ありません。こちら、アークス情報部の者です」

「情報部?」

 

 情報部といえば、戦えなくなったカスラが部長を務めるあの情報部だ。

 地球の一件に関して、先立って調査を行ってくれたおかげでアークスに多大なる貢献をした部署、らしい。その時俺はまだ救出されていなかったから詳しい事は知らないが。

 そして、俺が捕獲した深海棲艦の調査を行ったのも、情報部だ。

 

『今回サンプルとして送られてきた深海棲艦に関して、調査結果が出ましたので、報告しにきました』

「いや…報告だけなら通信だけでよかったのに…」

『それがちょっと厄介な事になりまして。サンプルと一緒に状況説明できる方を連れて行くことになりました』

 

 厄介な事、と聞いて少し嫌な予感がした。そもそも、サンプルを無暗にこちらに寄越していいのか。同行する『状況説明できる方』も気になる。

 不信感を抱きつつも、俺は戦闘機に降下許可を承諾した。

 

『ありがとうございます。帰りの際は、シャオ様を介してご連絡ください』

 

 戦闘機は3つの星を落とした後、すぐさま空の彼方へと消えてしまった。

 

『…正直、僕を挟んで連絡してほしくないんだけどね』

 

 耳元からシャオの声が聞こえたが、無視した。

 

 

 

 落とされた星は、ゆっくりと俺に近付き笑顔で話し掛けてきた。

 

「…カスラ…!?」

「お久しぶりですね、『仮面』。身体の調子はいかがですか?」

 

 驚く事に、やってきたのは情報部部長であり、元六芒均衡の二代目カスラだ。

 そして、彼の後ろにいるのは…

 

「それより、自分の身体を気にかけたらどうですか」

 

 六芒均衡の零、クーナだ。アイドルと暗殺者、二つの顔を持つ彼女だが、今日は暗殺者の姿だ。

 

「今日は珍しく、体調はすこぶる良いのでね。そもそも、体調が良くなければこうやって外出しませんから」

「…無理はなさらぬように」

「分かっていますよ」

 

 何だかんだでいいコンビを続けている二人。だが、クーナは今でも陰で「陰険メガネ」とカスラを罵っているよう。昔から何も変わらない、俺は少しだけ嬉しかった。

 だが、一つだけ気になるのが、もう一人の星。

 

「…彼女は?」

 

 艦娘も情報部の二人より、三人目の謎の少女を気にしていた。後ろでこそこそ話していた。

 白いショートヘア。覗かないと顔が見えないほど黒いフードを深く被り、少し怖がっているような印象を受ける。

 カスラは振り返って彼女を見ると、こう話した。

 

「貴方が捕獲してもらったサンプルです」

「……へ?」

 

***

 

 鎮守府内、応接室。

 秘書艦三人にもこの話を聞いてもらうため、座る俺の後ろで静かに立っている。

 部屋の入口には多くの艦娘が集まり、部屋の中を覗いているが、何も言わないでおこう。

 俺の向かいにはカスラと謎の少女が座り、クーナは背後で立っている。

 

「…さて…先ほどの話の続きだが…」

「はい」

「その少女は、レ級って事か?」

「そうです」

 

 

『『『『えぇぇー!?』』』』

 

 

 部屋の外にいる艦娘たちが大声で驚いている。

 

「ははは、ここは随分賑やかですね」

「あんたらのせいだよ…」

 

 みんな年頃の少女たちだ。あんなド派手な登場をされたら帰るまで付いてくるだろう。

 

「…詳しく説明してくれ。一体何があった?」

 

 険しいトーンで話す俺を見て、カスラはディスプレイを表示させた。アークス特有の、端末も何もなしで宙にディスプレイを出す、あれである。

 これを見た艦娘たちは「おぉ…」と感嘆の声を上げたが無視する。いちいち突っ込んでたら切りがない。

 カスラは何も言わずに、ディスプレイを俺に差し出した。

 

「…やっぱりな」

 

 確信を得た俺を無視し、秘書艦は疎か部屋の外にいた艦娘たちまで部屋に入り、俺の見ているディスプレイを見ようと群がった。しかし、オラクルでの文字で書かれてあるので、彼女たちが読めるのは中央にあるグラフだけだった。

 

「提督さん、これ何のグラフっぽい?」

「ちっとも分かんねえなぁ!!べらんめえ!!」

「涼風…少しは静かにしてよ…」

 

 ディスプレイに映っていたのは、レ級の生体調査で判明した、あるモノの含有量の推移である。

 右肩下がりの折れ線グラフ。横の軸は時間を表し、縦の軸はレ級に対し何をしたかを表している。つまり、レ級の身体を弄り、あるモノの含有量が増えるのか減るのかを調べた、というわけである。

 弄る、といっても生体改造ではないので安心してほしい。

 

「驚かないのですね」

「そいつを倒した時、少しだけ『元』に戻っていた。シャオもその時俺を介して見ていたが…」

「まだ憶測に過ぎなかった、と?」

「あぁ。だがこれを見て確信した。敵の正体はな」

 

 ようやく、点と点が一本の線でつながった。まだ不明な点はあるが、今必要な分の情報は得られたのでこれでいい。

 これからは深海棲艦への対処について、アークスで本格的に検討されることになるだろう。今はまだハルコタンでの大規模作戦中なので当分先にはなりそうだが。

 

「…この星の飲み物は美味しいですね。おかわりもらますか?」

 

 いつの間にか、カスラが秘書艦の淹れた紅茶を飲み干していた。何かと紅茶にうるさい、金剛特製の紅茶だ。

 

「金剛、すまないが紅茶淹れてくれるか?」

 

 カスラのカップを、金剛に手渡す。

 

「…金剛?」

 

 しかし、カップを差し出しても金剛は微動だにしない。

 俯きながら、ある一点を見つめていた。とても、驚いた表情をして。

 周りの目線も気にせず、金剛は質問した。

 

「カスラという方……そこにいるのは、レ級ですカ?」

「えぇ、彼が捕獲してきたサンプルです」

 

「…彼女は…深海棲艦ではありまセン…」

 

 深海棲艦ではない?どういう事だ。

 周囲の艦娘たちも首を傾げる。

 俺が質問しようとした時、金剛が付け加えた。

 

 

「彼女は……かつて沈んだ艦娘……戦艦『朝日』デス……」

 

***

 

 カスラと色々話していたら、あっという間に夕時になってしまった。

 二人はまだ調べる事があると、サンプルを連れオラクルへと帰っていった。

 

 俺たちに大きな疑問を残して。

 

 

「…金剛、聞かせてくれるか」

 

 食堂。急遽艦娘全員を呼び、集会を開くことにした。

 今回発覚した問題は、艦娘全員に聞かせねばならず、正直この鎮守府内で留めておけるような問題ではない。

 前に立ち、立ち上がる金剛は静かに話し出した。

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