「出撃?」
「そうよ。艦娘を海に出撃させて、深海棲艦を倒しに行くの」
着任して二日目。昨日は艦娘に名前を付けた後、結局出撃せずに夜になってしまった。
ようやく、俺は深海棲艦とご対面ができるようだ。
「出撃している間、司令官さんは司令室にて、艦娘に指示を出すんです」
「え、同行しないのか?」
「あんた馬鹿なの!?」
素朴な疑問を投げかけたつもりだったが、なぜか五十鈴にバカ呼ばわりされた。
「え、え、なんでさ」
「普通の人間が私達に同行するには船に乗らなきゃならないでしょ!?その船に深海棲艦が攻撃してきたら、提督海に沈んじゃうのよ!?」
「あー…そっか。でも俺宇宙人だから平気平気」
「あ……そうだったわね」
早くも俺が宇宙人である事を忘れつつある五十鈴。まぁ見た目はこの星の住民と全く変わらないし、仕方ないところではあるが。
「ここが司令室デース」
案内されたのは、本館の一階。位置的に二階にある提督室の真下にある。
部屋の中にはレーダーや海図、通信用の機器が所狭しと並んでいる。
「まずここで出撃の内容を艦娘に伝えるの。出撃したら、このヘッドホンみたいな通信機器で艦娘達と交信するの」
五十鈴は至って普通のヘッドフォンを取り出す。マイクもついているので、音声もしっかり届くみたいだ。
ケーブル等で他の機器に繋がってない事から、きっとこれは無線だろう。
「出撃している間の艦娘の位置情報は、この液晶パネルに映し出されます」
部屋の中央にある、大きなテーブル。ただの机かと思いきや、よく見ると、天板はガラスで作られ、その下には画面がある。今は作動していない為、画面は真っ黒だ。
「この部屋にあるすべての機器は、このスイッチを押せば一斉に作動するネー」
一見、電灯のスイッチと間違えてしまうようなありきたりなスイッチ。金剛がそれを押すと、ウィーンという作動音と共に、部屋中にある機器が一斉に付き始めた。
「おぉー…」
「何感心してるのよ…。貴方の住んでたオラクルっていうのはこれよりももっとすごいんでしょ?」
「あはは…まぁな」
そういえば、確かにそうだ。画面は空中に浮いているのが当たり前。他のアークスとの通信は、特に機器はいらない。比較すれば、雲泥の差だ。
「できる事なら、オラクルさんから機器をお借りしたいくらいですねー」
「そうネー!提督ぅー!貸してもらえないかお願いしに行くネー!」
「いやいや無理だって。おまけに作動するかも分からないのに…」
「ふふ、冗談ネー!」
正直な話、シャオに頭下げてお願いしたくはない。
「提督が直接操作する機材はこれで以上よ」
「え、これだけなのか?」
「位置表示パネルは少し操作する部分はありますが…簡単な作業なのですぐ慣れますよ」
他にもたくさん機器があるので、覚える事たくさんかと思ったが、予想より遥かに楽だ。
「さて、じゃあ早速出撃の準備をするわよ」
「え、もうやるの?」
「当たり前デース!ここ最近出撃してないから、深海棲艦の動向を探らないといけないネー!」
「…まじかよ…」
***
「何で俺を連れていってくれなかったのさ…」
「貴方の仕事はここで艦隊の指揮を執る事よ。一緒に戦う事じゃないわ」
今回の出撃は、近海に再び現れた駆逐艦の深海棲艦を撃破する事を目的としている。
出撃したメンバーは、名取、村雨、春雨、涼風の四人。旗艦は名取だ。
「あーあー。聞こえるか?四人とも」
『は…はい…』『大丈夫よぉ』『回線良好です!』『おうよ!』
ちゃんと聞こえているようだ。今までこういう経験をしたことがないので、ものすごく新鮮だった。
テーブルに映し出される、四人の現在位置。ここから20km先の沖を航行している。
目撃情報があったのは、沖50km地点辺り。
「残り30kmで目撃情報のあった海域だ。そのまま航行してて」
こんな感じでいいのだろうか…。変な冷や汗をかきながら五十鈴に目線を送る。
「…ん?何か質問?」
「いや…俺の指揮、何かダメなとことかあるか?」
「そんな事無いわよ?至って普通よ。ね?五月雨」
「はいぃ!緊張している割には全然そんなことないですよ!」
「き、緊張してて悪かったな…」
遠回しにディスられたような気もするが、気に留めないでおこう。
そうこう話している間に、出撃した艦隊はあっという間に沖45km地点に達していた。
「残り5kmで対象の海域だ。警戒して」
艦隊に、警戒の指示を促す。と次の瞬間
『て、提督っ!』
「な、何だ名取!問題が発生したか!?」
『そ…その…』
『し、正面に戦艦レ級を含む、数隻の深海棲艦を、は、発見しました!』
「はぁ!?」
「え!?」
「What!?」
「え、何、何なの?」
何やら聞きなれない単語が、名取の口から飛び出した。戦艦レ級?目標の駆逐艦とは違うのは分かるが、どうして秘書艦たちは驚愕しているんだ?
「な、名取!今すぐその海域を脱出して!危険よ!」
『だ、ダメです!向こうがこちらに気付きました!向かってきてます!』
場の空気が一気に張り詰める。状況を理解できない俺を置いて。
「お、おい…戦艦レ級ってなんだ…?」
「深海棲艦の中でも最重要標的の内の一つに挙げられている、強力な個体よ!」
「い、今の艦隊では全滅してしまいます!!」
…それって相当ヤバいじゃないか。
このままでは、四人は死んでしまう。とはいっても、砲弾が身体を貫通して死ぬことはない。
艦娘における死。それは、艤装を破壊されて、浮力を失い、艤装の重さで海に沈む事。
轟沈。それが艦娘における、死なのだ。
「今から出撃するネー!だからそれま…」
「いや、俺が行く」
「え…?」
秘書艦たちが一斉に俺を向く。
俺に向ける目には、少し涙が溜まっていた。
「で、でも!艤装も持ってないのにどうやって!」
「む、無茶です!」
そう。普通に考えて、艦娘でもない俺が、すぐさま戦場に駆けつけるのは無理だ。
しかし、俺はその前に…
「俺はアークスだっての。心配するな」
そう言い放ち、窓から外へ飛んだ。