本当にギリギリだった…。あぶねえ…。
いざ出撃すると、近海は深海棲艦がうじゃうじゃ。きっとレ級とかいう奴が率いてるんだな、と思いながら、走りながら撃破。帰り道を予め確保しておいた。
到着すると、真っ黒いローブの深海棲艦が、腰から生えた気持ち悪い兵器を名取達に向けていた。
俺は急いでテクニック…この星でいう魔法を準備、「フォイエ」という巨大な火球を発射した。
結果思いっきり、黒ローブに命中。火球にぶつかった後、前方へ凄まじい勢いで吹っ飛んだ。
「あ、あれ……レ級は…?」
「黒いローブ被ったやつか?ならあそこにいるぞ」
俺が指差す先には、背中を思いっきり焼かれ、悶絶するレ級。
なるほど…。痛みはある上、しゃべるのか…。
勿論、本来の目的である、「深海棲艦との接触」も欠かさず。まずは深海棲艦の中で上位体であるらしい、そいつから攻略していこう。
『テ、テメェエエ!何者ダッ!!』
「何者って、この子達の上司だけど」
『ナラナゼ…ナゼ人間ガココニイル!?』
「さあね。お前の想像に委ねるよ」
かなり饒舌だなこいつ。
見た目は、少女そのもの。しかしかなり血色が悪そうな肌の色をしている。目は青白い。髪は白。
知らない人が一目見ただけでは、こいつがとんでもない化け物だという事には気付かなそうだな。
「四人とも、俺の側に寄れ」
しゃがみこんでいた名取達は、ようやく我に返り俺に抱きつくような勢いで近くに寄ってきた。
今に沈んでしまいそうな、ボロボロの艤装。目には涙が浮かべ、未だに身体が小刻みに震えている。
『オ前達!!奴ラヲ殺セ!』
いつの間にか、駆けつけた別の敵艦隊が到着。
俺達は周囲を囲まれ、逃げ場を無くした。
「て、提督…!」
「大丈夫、絶対沈めねえから」
今に消えてしまいそうな、春雨の声。
不安に怯え、涼風の身体は小刻みに震える。
絶望的な状況の中、村雨は敵を観察し、打開策を探る。
自分の力の無さに、不甲斐なさを感じる名取。
それでも、彼女達の目は、生きる事を望んでいた。
「…みんな、聞いてくれ」
敵に聞こえないように、小声で話す。
「今、金剛型の四人がこっちに向かってきている。けれど、今のこの状況だと、絶対に間に合わない」
ここに来るまで、鎮守府と交信しながら作戦を練っていた。
今回の問題点は、傷を負った四人を、どうやって敵の攻撃をかいくぐりながら救出するか。俺の力が戦艦レ級にどれくらい通用するかにもよるが、少なくとも四人をかばいながら戦闘するのはあまりに非現実的だ。
そこで、俺の持つテクニックの力を使う事にした。
「え…」
「そ、それじゃあどうするのよ…?」
「俺が君達四人を、戦闘海域の外へ吹き飛ばす」
「「「「…え?」」」」
俺がテクニックで四人を戦闘海域から脱出させる。吹き飛ばして。
「だ、大丈夫なの…?着地に失敗して轟沈したり…」
「金剛達の位置は把握できてる。そこへ飛ばして、四人にお前らをキャッチしてもらおうって魂胆よ」
当然ながら、話を聞いた名取達はあっけらかんとしている。
普通に考えてこれは無理だ。俺がアークスでない限り。
「…信じます。提督さんを」
「それしかないなら、提督を信じるしかないわねぇ」
「これで私達が助かるなら……頑張ります!」
「こういうのも粋だねぇ…。ついてくぜぇ、提督さんよ!」
そして、彼女達が勇気を出してくれない限り。
本当に感謝しなければならない。今回の状況だって、事前に情報収集をしっかりやっていれば、こんな事にはならなかった。いくら新任の提督だからって、艦娘が沈んでしまったら言い訳にはならない。
俺が…彼女達の、生死を握っている。そう解釈しても間違いではないのだ。
「…ありがとう、みんな」
『オイ!ナニコソコソ話シテイル!?』
「あーごめんごめん、作戦会議してたわ」
『…フザケヤガッテ…』
少女の可愛らしい顔は、凄まじい憎しみに包まれた醜い顔へと変化する。
今にも怒りが爆発しそうな雰囲気だ。周囲の敵達も、戦闘に入る準備はできているようだ。
『沈メ…沈メェェェェエエエエエ!!!!!』
よし、決行だ。
「リンドブルム!」
武器に語りかけると同時に、俺は身体を翻し、名取達と向き合った。
思いっきり右足を後ろに引き、フォトンをチャージする。
一秒も経たない内に、武器内のフォトンは臨界を突破。最高威力になった。
「ナ・ザン!!!」
右足は、名取達目掛けて襲いかかる、かと思いきやすれすれのところを通り、虚空を蹴った。
が、それと同時に右足からチャージされていたフォトンが一斉に放射される。
フォトンは放射されると同時に、風となった。風は四人を包み、四人の前で爆発した。
ブォォォン!!!
『ナッ…!?』
反動で横に一回転するが、もう一度振り返ったその場所には、彼女達の姿は無かった。
後は金剛達が上手くキャッチしてくれるのを祈るが…。
『…て、提督!』
「五十鈴、どうした?」
『さ、作戦、成功よ!金剛達がきちんとキャッチしたって!!』
すぐさま朗報は飛んできた。
思わず、笑みが零れる。
本当に…よかった。四人とも無事で。
『貴様ァ…ヨクモォォオオオ!!!』
後は俺が、こいつらを叩きのめすだけ。
『て、提督!提督も早く海域から脱出を!』
「いや、俺は深海棲艦倒してから帰るわ」
『え…そ、そんな無茶よ!いくら魔法の使える宇宙人でも、数が多すぎる!』
「まぁ安心して、司令官の帰り待っとけ。じゃあ通信切るわ」
イヤホンマイクの電源を切り、鎮守府との交信を断ち切る。
これで…心置き無く戦える。
『私達ヲ…倒スダト?ハッ!!笑ワセテクレル!!コノ数ニ勝テルトデモ!?』
よく見てみると、さっきより数が増えている。
深海棲艦に関してはこれっぽっちも調べてないので、誰がどういう特徴なのかはよく分からない。
黒い鉄の塊みたいな怪物もいれば、大きな盾を持った長い髪の女の人。へそを出して結構際どい格好をしてるショートカットの少女。
結構種類があるんだな…と思いながら、この数をどうやって倒すか考える。
カタナで一人一人倒すか…いやすごく面倒だな。ワイヤードランスで縦横無尽してもいいが…黒い塊みたいなのには刺さらなそう。
『消エロォォォオオ!!!』
「クラス…フォース、バウンサー」
レ級が俺に殴りかかる。
それを見た俺は驚愕した。レ級の移動速度が異様に早かった事。
ロッドと呼ばれる、この星では杖とか言う武器で受け止めるが、後少し遅れてたら思いっきり殴れてた。
やっぱり、あれを選んでよかった。
「さて、終わりだ。深海棲艦共。」
「…俺の家族を、殺そうとした罪。償ってもらうからな」
「…ザンディオン」
***
手に持つロッド、「サイコウォンド」が煌々と光る。リンドブルムと交代して、足に装着された「バイオリアクト」も、チャージされたフォトンを完全に放出できず、未だ電撃と風をまとっている。
『コ…コンナ…コト……アリエナイ…』
周囲の敵達は、一人の例外なく倒れている。すでに海の底へと沈んでいった者もいる。
レ級は自身の持つ艤装が完全に破壊されてもなお、俺に抵抗しようと足掻く。
「上には上がいるって事よ。よく覚えとけ」
必死に立ち上がろうとするも、電撃を思いっきり食らったレ級の身体は麻痺し、思うように動かせていない。
足掻きも空しく、少しずつ身体は海へ沈んでいく。
『……沈ムノカ…私ハ…』
さっきまでの威勢はどこへやら、彼女の声はとても悲しそうだった。
まるで、さっきまで沈みかけていた名取達のように。
彼女の顔は、艦娘達…いや人間そのものだった。
『アァ…故郷ニ…帰ルンダナ……私ハ……』
「…させねえよ」
『エ……?』
俺は、すっかり忘れていた。
「おいシャオ!!聞こえてんだろ!!シャオ!!」
『な、なんだいいきなり。びっくりさせないでくれ』
「こっちに輸送機を寄越せ。このレ級をそっちに送る」
『…何でまた。君にしては珍しいじゃないか』
「深海棲艦の調査をするには、一人ぐらい研究材料として送らないといけないだろ」
『まぁそうだけど…』
「それにこいつは深海棲艦の中でも特に強い個体だと聞く。もってこいじゃないか」
もし、ダーカーに侵されていたのなら、フォトンによってダーカー因子を取り除くと、元の姿に戻る。
レ級の姿は、「元に戻っていた」。
「でもこれで分かったろ、シャオ」
『…そうだね。少しこちらでも検討してみるよ』
深海棲艦は、ダーカーに侵されている。