もし提督がアークスだったら   作:rufus

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6.宇宙人、思う

 翌日。

 思ったよりも早く目標を達成してしまった。

 シャオは今回の事を受け、本格的にこの星への介入を検討している。が、彼も言った通り、今はハルコタンへの対応に追われている状況。当分の間は介入は無理だろう。

 それまで、彼女達には何の被害がなければいいのだが…。

 

 ダーカーは、倒した敵にダーカー因子と呼ばれる微細な粒子を放出。それが蓄積されると、ダーカーに侵食され、理性を失い狂暴化する。

 アークスの場合、体内に含有するフォトンがダーカー因子を中和してくれるので、そういった心配はないのだが、艦娘は勿論体内にそんな力は有してないので、侵食される恐れがある。

 今までどれだけの敵を倒したかによるが、侵食されるのは時間の問題なのかもしれない。

 

「ここが工廠よ」

 

 今回案内されたのは、艤装の修復、装備の開発などを行う、工廠だ。見た感じ、どこかの工場のような外見。作業に使うであろう資材や道具が、あちこちに整列されて置かれている。

 すでに何人かが作業しており、火花が舞い散る中黙々作業している。

 その内の一人がこちらに気付き、こちらに寄ってきた。

 

「お、予定より早いですね。提督、ようこそ!工廠へ!」

「…ん?何で比叡がここにいるんだ?」

「比叡は、工廠係の一人なのデース!」

「……工廠係?」

「艤装の修理や開発は、係の艦娘がやってるんですよ」

「え、じゃあ今あっちで作業してるのも艦娘の誰か?」

「そうデース」

 

 たくましいな…。

 アークスでも、自分で武器を修繕してる人なんてそうそういないのに。たくましい限りである。

 

「後涼風と長良、白露が工廠係デース!」

「その四人で艤装の修理や、艤装に取り付ける装備の開発とかやってんのか?」

「はい、そうです提督っ!」

 

 自信満々に比叡は返事をするが、正直それってかなりすごい事じゃ…。

 アークスもこうだったら、武器の強化に悩む事も無くなるのに…。

 

「…で、何で俺をここに連れて来たんだ?」

「比叡が是非とも提督の武器を直したいんですって」

 

 自己満足で自分の上官を呼んだのか…。度胸があるなぁ。

 しかし、その必要はないと告げる。

 

「別に平気だぞ?壊れてるところなんてないし」

「いや見せてください!あの戦艦レ級と対峙したんですから武器もボロボロのはずです!」

「あいつ倒すのに使ったの武器じゃなくてテクニ…魔法なんだけどな」

「いんや見せてください!何が何でも!絶対!」

 

 …要は、宇宙人の使う武器を一目でもいいから見たいって魂胆だな。最初からそう言えば見せるのに…。

 仕方無く、昨日の戦闘で使った武器を床に出現させる。

 

「昨日使ったのはこの三つだな」

「おぉー!」

「すごいわねあれ…」「キラキラ光ってマース…」「私にも使えますかね…」

 

 何気に秘書艦三人も興味津々のご様子。まぁ宇宙人が使う武器って言われたら、誰もが興味の湧く事だろう。

 折角なので一つずつ説明する。

 

「これがサイコウォンド。ロッドと呼ばれる武器カテゴリに入る。君達のところでいう杖だね」

「え、槍とかじゃないんですか?」

「そう使おうとすればできなくは無いんだが…これは魔法を繰り出して戦う武器だ」

 

 おもむろに床に落ちているそれを取り出し、意識を集中する。

 すると、何もないコンクリートの床から、突然氷柱が現れた。

 

「おぉー!」「すごいじゃないっ!!」「魔法です魔法!」

「今のはサ・バータっていう魔法だ。まぁ本来は床からじゃなくて上から落とすんだけどな」

「す、すごいよ提督っ!これなら一番だよ!!」

「こいつは粋だねぇ…!」

「すっごいねっ!!提督!」

 

 気付くと先程まで作業していた、白露、長良、涼風までもが俺の持つ得体のしれない武器を見にやってきていた。

 

「いやそれよりも早く作業を…」

「別のやってください提督さん!」「私は雷の魔法が見たいわ!」

「お、落ち着け?な?後で別の魔法は見せてや…」

「私は炎の魔法がいいデース!!」「気合い、入れて、風出してください!!」

 

 得体の知れないものを見ると、人間はこうも興奮するものなのか…。

 収集のつかなくなった工廠の中で、俺は延々と魔法を繰り出した。

 

***

 

「何で工廠に行っただけなのにこんなに疲れなくちゃならないんだ…」

 

 お昼時の食堂。

 俺はカレーを目の前にしてテーブルに突っ伏し、午前中の出来事を思い出していた。

 結局あの後一時間近くも工廠の中で魔法出し続け、俺の中のフォトンは尽きかけていた。本当に、余計な事をしなければよかったと、後悔している。

 書類整理は終わってるし、午後は休みながら適当に鎮守府内を散歩しよう…。

 

「提督、隣いいかい?」

 

 声をかけてきたのは時雨だった。

 お盆の上には俺と同じカレーセットが置かれている。

 

「おう、いいぞ」

 

 了解の返事をすると、時雨はお盆をテーブルの上に置き、俺の右隣に座った。

 

「午前の仕事はどうだった?」

「工廠係と秘書艦に魔法を見せて終わったよ…」

「…何で仕事すっぽかしてマジックショーしてたのさ…」

 

 ほんとそれな。

 だが、彼女達のあの大興奮してる様を前にすると、断りたくも断れない。

 

「僕だって見たいのに…」

 

 そしてまさかの反応。

 まぁ、仕事時間外だったら別にいいか。

 

「機会があれば見せてやるよ」

「え、本当にっ!?」

「あ、でもこの後は勘弁な。魔法の出し過ぎで疲れてるんだわ…」

「分かった!約束だよ?」

「おう」

 

 意外にクールそうな時雨でもこの興奮よう。魔法というのはそんなに人を惹きつけるものなのかね。

 俺は一ミリとも理解できなかった。

 

「ところで、お前はどうだったんだ?近海警備」

 

 鎮守府の主な日課として、近海警備がある。

 これは沖10㎞圏内を航行して、深海棲艦の襲撃に備えるもの。時折その場を航行する船舶を一時的に護衛したりする。

 例えるなら門番の役割。有事のために備えるのが、この近海警備。深海棲艦と戦う事が目的ではない為、提督―――俺からの指示はいらない。

 時雨はその近海警備の係として、毎日航行している。他に名取と村雨、夕立が係を担当している。

 

「うん、今日も特に何もなかったよ。つまらなかったから流木を投げ合いっこしてたよ、夕立と」

「何危険な遊びしてんだよ仕事中に…」

 

 深海棲艦の襲撃よりも、遊び感覚で流木を投げ合う方が遥かに危険だ。

 詳しく問いただしたいところではあったが、それよりも聞きたい事を聞くことにした。

 

「…名取と村雨に変化はなかったか?」

 

 俺の言葉を聞くと、時雨は少し戸惑いを見せたが、すぐに返事をした。

 

「行く前は、少し躊躇いがあったみたいだけど、すぐ心を整理したみたいで、大丈夫だったよ」

 

 昨日の襲撃で、身体も心もダメージを受けた名取と村雨。あんだけ怖い思いをしたのに、すぐさま立ち直るなんて、本当に強い子達だ…。

 

「春雨だって、今ああやってキッチンで奮闘してるし、涼風も艤装直しに精を出してたんだから、提督が心配するほど、彼女達は弱くはないよ」

 

 本当に時雨の言う通りだった。涼風も特に変わった様子は無く、むしろ張り切っているようにさえ見えた。唯一攻撃を直で食らって沈みかけた春雨も、ああやって他の子と会話しながら、楽しそうに料理している。

 俺は失礼な事をしたかもしれない。こんなにも、彼女達の心が強いとは思わなかった。

 

「…でも、提督はホント優しいね」

 

 俺の心中を分かっていたかのように、時雨が付け足した。

 

「そうか?」

「一瞬戸惑っちゃったよ。深刻そうな顔して聞くもんだからさ」

「でも、心配してくれる人なんて過去にも何人か居ただろ?」

「ううん、そうそう居なかったよ」

 

 時雨から、意外な返事を聞いた俺は、少し胸を締め付けられた。

 

「僕達はあくまで軍の人間。国を守るためならば、どんな事もする組織が軍なんだ。もし今日深海棲艦がこっちに攻めてきて、昨日のがトラウマになってるから戦えませんなんて、そんなの言い訳にもならないからね」

「…だからあんなに強いのか」

「普通に航行してていきなり強い敵とばったりなんて、割とある話だからね。みんなそれなりの覚悟を持って出撃してるんだよ」

 

 俺達アークスとは違う、交戦するという事への覚悟。聞いた限りでは、明らかに俺達よりも、艦娘達の方が強いと感じた。過去何度も、そんな覚悟をして海に出ていたなんて…。もし、俺が艦娘の立場だったら、それらに耐えられていただろうか。

 

「…強いんだな、お前たちは」

「うん。みんな生きたいって、心の底から思ってるからね」

 

 この星に来た俺の目標は、もう達成された。

 けれど、彼女達を見ていると、とても向こうに戻ろうとは思えない。

 

 戻っても、あいつの事を思い出しそうで…。

 

「ほら提督、早くしないと春雨特製のカレー冷めちゃうよ」

「お、おう」

 

 時雨に促され、俺はカレーを口にした。

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