俺がここに着任して一週間。仕事の内容はほぼ把握し、秘書艦も通常通り一人になった。
今日は第三秘書艦である五月雨が、俺の隣でパソコンと睨めっこしている。
そして今日は、俺が着任してから初めてのイベントがある。
「五月雨、確か今日だったよな?」
「はい!正規空母の着任は今日ですよ」
俺がここに来て、初めて新しい艦娘がやってくる。事前に送られた通達によると、正規空母が三人と書かれてあった。一体どんな子なんだろうか…。
「三人の艤装はもう完成済みか?」
「昨日の時点でもう出来上がってたみたいですよ」
気合入ってるなぁ…。まぁ話に聞くと新しい艦娘が来るのは随分と久々のようなので、みんな相当楽しみにしているようだ。ましてや今回来るのは、正規空母という初めての艦種。工廠組は新しい艤装の開発に歓喜した事だろう。
「五月雨は今日来る三人とは会った事あるのか?」
「実際には会った事無いですけど、三人ともすごく成績優秀だったので艦娘の間では有名でしたよ」
艦娘は研修生時代の成績が優秀だった者から、優先的に鎮守府に異動される。
五月雨の言った事と今回の着任とでは、少し矛盾しているような…。
「あ、でもある事が原因で、鎮守府への異動を大分遅らされたみたいです」
「ある事?」
五月雨が慌てて付け足す。一体どんな事をしたら研修期間を延ばされるんだ…。
コン、コン、コン
噂をすれば、誰かがノックしてきた。
すかさず俺はそれに返事をする。
「どうぞー」
「連れて来たわよ、提督さん」
入ってきたのは、五十鈴と、見知らぬ三人だった。
言わずもがな、その三人が…。
「本日付で横須賀鎮守府に着任しました、正規空母、赤城です!」
「同じく正規空母、飛龍ですっ!!」
「同じく正規空母、蒼龍です!」
凛々しい姿でビシッと敬礼する、三人の正規空母。
モチーフとなった軍艦は、当時世界最強とされた航空機動艦隊を構成する内の三隻だったという。
「ようこそ、横須賀鎮守府へ。俺が提督n…」
「ところで提督!貴方宇宙人って本当なのっ!?」
やっぱりそうなるかー。
俺の自己紹介を遮って俺の書斎に身体を乗り出す飛龍。
「早く何かやってみてっ!」
同様に身を乗り出す蒼龍。
見た感じ、20代と見られても差し支えなさそうなのに、まるで子供のようにはしゃぐ二人。
「こら二人とも。提督が迷惑しているわ。後にしなさい?」
一方、その大人びた見た目の通りに、落ち着いて二人をなだめる赤城。
至って普通そうなのに、一体何をして研修期間を延ばす羽目になったのだろうか…。
「じゃあ五十鈴。案内頼むわ」
「いや、提督、貴方も一緒に来て」
「え?」
何故か五十鈴に案内に同行するよう命令される。何故だ…。
「いや…俺仕事あるんだけど…」
「書類整理は終わってるし、今日は出撃もない。どうせ暇でしょ?」
「提督の仕事は私が終わらせておきますから、行ってきて大丈夫ですよ!」
五月雨が笑顔で俺にそう言うが…明らかに何か裏がある。
「ほら早く来てよ、提督」
秘書艦二人を疑いながら、五十鈴に言われるまま、部屋を出た。
***
絶対に何かあると思っていたが、特に何もなく鎮守府の案内が終わっていく。
「なぁ…何で俺を連れてきたんだ…?」
小声で五十鈴に話しかける。
同様に五十鈴も小声で返事する。
「…この後分かるわよ」
五十鈴の様子を見ると、何故か少し緊迫しているよう。
一体何があるっていうんだ…。
「…提督、魔法出せる武器出しといて、こっそり」
五十鈴の緊張した様を見ると、こっちまで緊張してくる。理由が何かも分からずに。
確か次の場所で案内は最後になる。
次は確か…。
「最後に案内するのは、あそこにある食堂…」
「「「!?」」」
すると、今までおとなしかった正規空母三人の表情が一気に鋭くなる。
と思いきやそのまま走り出した。
「え、ちょ、おま、どこ行くんだ!?」
「っ…やっぱりか…!提督!吸い寄せる魔法出して!!」
「お、おう!」
訳の分からないまま、事前に取り出した武器「ノクスクリーグ」を取り出す。これはタリス呼ばれる武器カテゴリーに入る。
その最大の特徴として、武器の一部を投擲する事ができ、その一部から魔法を出せる。要は遠くから魔法が繰り出す事ができるのだ。
他の魔法を出す武器、ロッドやジェットブーツでは、このようなトリッキーな事は出来ない。
「!?」
正規空母三人は突然背後から飛んできた謎の浮遊物に気付くも、案の定足を止める事は無い。
仕方なく俺は五十鈴の言われるまま、魔法を繰り出す。
「ゾンディール!!」
投擲されたタリスの一部から、磁気を帯びた円形の領域が展開される。
全力疾走も空しく、正規空母達は領域に飲まれる。
「!?」
「な、何これ!?」
「身体が…!?」
領域に飲まれた瞬間、三人の身体は領域の中心に吸い寄せられていった。まるで磁石に引っ張られているかのように。
三人は、互いに身体をくっつけながらそのまま動けなくなった。
「ナイスよ提督。これで、この鎮守府の食糧庫は守られたわ」
「……どういう事だ?」
五十鈴の言っている意味が分からない。食糧庫が守られた?何でわざわざ守る必要が…。
「くっ…。五十鈴…貴方最初からこれを想定して提督を…!!」
「そうよ飛龍。養成施設からこの鎮守府に来るまで、結構時間がかかるでしょ?それまで貴方達の胃袋は万全の状態じゃない…。ここに来てまず一番に食堂に行きたがってるなんて、想定済みよ」
…大体読めたぞ。
俺の予想を確認するため、五十鈴に質問する。
「…五十鈴。こいつらまさか…相当な大食いなのか?」
「えぇ。研修生時代から、その噂は広く知られててね。でもこの人達は出されてくる食事だけで我慢できず、養成施設の食糧庫を空にしてしまったのよ」
「はぁ!?食糧庫を空に!?」
現実は、俺の予想の遥か上をいっていた。
たった三人で食糧庫を空にするなんて…。プロのフードファイターも彼女達を前にしたら雑魚同然なのだろう。
「その罰として、研修期間をかなり延ばされたって話よ。本来なら、私より早くここに来る予定だったんだけどね」
「相当だなそれ…」
正直こんなの施設を追い出されてもおかしくないだろうに。それを免れたのは成績が優秀だったためだろうか。
「残念だけど、研修生の時のように軽々と食べさせるわけにはいかないの、正規空母さん達」
「くぅぅ…!」「貴方は味方だと思ってたのに…!」「失望しましたよ…」
「失望したのはこっちだっつーの…」
まさかこんなに食に対する欲望が凄まじいとは…。
挨拶した時の凛々しい姿は一体どこへやら、俺にはもう彼女達がブラックホールにしか見えなくなった。
***
そして、お昼を迎えた。
当然ながら、他の艦娘達も大食い正規空母の事は知っているようで、たちまち空母三人の周りには人だかりができていた。
「す、すごいっぽーい…」
「相変わらずの食べっぷりデース…」
「春雨ちゃーん。あんまり無理しなくていいからねー?」
「大丈夫ですよー白露姉さん。こういうのもう経験済みですからー」
三人の丼には、山のように積み上げられた白飯が乗っけられ、おかずにはこれまたお皿一杯に盛りつけられたから揚げとキャベツの千切り。これらを一切苦しい顔することなく食べ続けている。
こうして見てみると、逆に清々しい気分になってくるのは何故だろう。食糧庫の危機が迫ってきているのは重々承知しているのに。
「実際に見るとすげえな…あれ…」
「榛名も初めて見ました…」
「何度見ても予想以上の方々ですね…」
「比叡も気合い入れたらできるかなぁ…」
「いや無理しなくていいからな。比叡は比叡で別の事に専念すればいいからな」
金剛型の下三人と談笑していると、あれだけ山盛りに盛られていた白飯が丼の上から消え、空母達の威勢のいい声が響く。
「「「ご飯おかわりっ!!」」」
おまけにこれが三回目のおかわりである。
流石にまずいと判断した俺は、空母達を止めに入る。
「はーいそこまで!今日はこれまでな」
「えぇー!?何でさ提督!!」
「まだ半分しかお腹満たされてないよ!!」
「このままでは…一航戦の誇りが…っ!」
「赤城、そこで一航戦の名前を出すのは間違ってるからな」
予想はしてたが、空母達からはブーイングの嵐。あれだけ食べてもまだ入るとは、一体どんな胃袋してるんだ全く。
「ほら、食堂担当の艦娘の事も考えろ。みんなの分の昼食作った後にお前らの分を作ってたんだ。少しは休ませてあげたいとは思わんのか?」
「「「思いません!!」」」
「血も涙もねえな!?」
食に関すると本当に周りが見えなくなるのはどうにかしてほしい。
「…そんな事言うんだったら、お前らを俺の本拠地に送ってもいいんだぞ?」
「え…?」「ほ、本拠地…?」「食べられるんですかね…」
打開策が見えないので、少し脅し口調で盛大に冗談を入れてみる。
「言っておくが、俺は宇宙人だ。目的は当然この星を調査。調査の為なら、どんな物でもサンプルとして持って帰るんだわ」
「…それが何だって言うんですか?」
「要は…お前達空母三人もサンプルとして回収しちゃうぞーって話よ」
「「「!?」」」
空母三人の顔が一気に強張る。
と同時に周囲にいる艦娘の何人かも、これを本当の話だと鵜呑みにして少し顔色が悪くなっている。後で誤解だって話せばいいか…。
「きっと俺達のお偉いさんは…お前等のような胃袋の大きさに衝撃を受けて…解剖して…」
「す、すすすすみませんでしたぁ!!」
「もう!もう大食いなんてしませんからぁ!!」
「一航戦赤城、降伏しますっ!!」
席に座ったまま、思いっきり頭を下げる正規空母。効果はてき面だったようだ。
逆に鵜呑みにされても、それはそれで困るけどな…。
しかし、脅されてもなお、残ったから揚げを綺麗に平らげた時は流石に呆れた。
「これで、食糧問題は解決されたな、五十鈴」
「えぇ。本当に助かったわ提督。お礼に、今夜の夕食おごってあげるわ」
「ホント?じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらうわ」
この後、特に三人が不穏な動きをすることは無く、正規空母達の着任初日は、俺が宇宙人だったおかげで無事に過ごす事ができた。
後で三人の名前考えておかなくちゃな…。
加賀さんがいないのはどうしてでしょうね。