獅子鎧、独りでに動きて   作:南瓜斧槍

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『猛る獅子の兜』
今にも噛み付いてきそうな獅子の顔を模した兜。
目の部分や口の部分にも穴は開いていないが、かけられた魔法によって視界と呼吸を確保している。
防御力はその装飾からあまり高いとは言えないが、素材に使われた金属の特徴により火への耐性が極めて高い。
そのため、火口に誤って落とされたあとも100年間一切性質に変化がない。


§.2 獅子鎧、察す

 村娘ミリアと会話をする中でいくつかわかったことがある。まず一つ目に彼女はNPCではないということ。発見した当初はNPCだと思い込んでいたために気がつかなかったが、彼女がこちらに返す反応はまさしく人間のものだ。これがプログラミングされたNPCであるというのなら世界的なニュースになるはずだが、現状全くそのような話はないし、秘密裏に開発する利点もないだろう。

 こちらの問いにできる限り答え、わからなけらばわからないと言うが、そのパターンは複数あり一定ではない。そして、警戒心や不安感、・・・不本意ながら恐怖心をも備えている。こんなNPCは「ユグドラシル」はおろか他のVRMMORPGでも見たことがない。

 彼女の心に恐怖心を植え付けてしまったのは完全に俺のミスだ。戦闘用に発動していた精神作用系のオーラが恐怖の状態異常を引き起こしてしまったのだろう。オーラを解き、落ち着かせて話をすることで、ある程度話をしてくれるようにはなったみたいだ。敬語であったこともそれに拍車をかけたらしい。明らかに格上の相手が下手に出てくることほど不信感を抱くことはない。自然体が一番なのかもしれない。

 

「それにしても、お強いんですね。騎士様たちでさえ数人がかりで戦うような魔物をあんな簡単に、あっという間に倒してしまうだなんて・・・」

 

「まあな。俺にかかればあの程度の敵は何体かかって来ようが準備運動みたいなもんだ。」

 

「じゅ、準備運動ですか・・・」

 

 そしてわかったこと二つ目。この世界の人間は「ユグドラシル」基準で考えると非常に弱い。駆け出しのプレイヤーかそれ以下のステータスであることが一般的みたいだ。魔物は人間に比べれば確かに強いが、それもたかがしれている。ミリアに言ったことは誇張でもなんでもなく事実で、今の俺の戦闘能力からすれば準備運動、いやそれ以下かもしれない。ミリアの話ではこの世界の騎士よりも強い存在はいないことはないらしいが、それでも俺のような戦闘能力を持った存在は稀だとか。

 

「あ、見えてきました。あれが私が住んでいる村になります。」

 

「おー、あれか。・・・どうしたんだそんな顔して。」

 

「いえ、先ほども話したとは思いますが・・・リリがまだ戻ってなかったらどうしようかと・・・」

 

「なあに、その時は俺も探すのを手伝ってやるさ。だからお前さんは村でおとなしくしとくんだな。魔物のいる夕暮れの森の中をうろつくなんてのは村娘のすることじゃねえんだろ。」

 

「・・・そうですけど」

 

「おーい!ミリア、無事だったか!?」

 

 村に近付くと大人の男が4人ほど走ってきた。4人とも古めかしい農民の装いといった様子で、綺麗な身なりとは言えない。中には農業用の鍬やフォークのようなものを肩に担いでいる男もいる。

 

「お前が森に入っていったと聞いて驚いたぞ。もう少し戻ってくるのが遅ければ捜索に行くところだった。」

 

「ごめんなさい、アンドレイおじさん。・・・あの、リリは?」

 

「リリならお前が森に入ったあと少しして戻ってきたらしい。まったく、二人ともお転婆はほどほどにしてくれよ。」

 

 そしてもう一つわかったこと。それはこの世界が「ユグドラシル」ではなく、「地球」でもなく、「ユグドラシル2」なんかでもなく。まったく別の世界で、なおかつこの世界はゲームでもなんでもないということだ。ログアウト機能など、ゲームと現実をつなぐ機能はすべて動かない。NPCもいない。生きた人間がいる。地理を聞いてみてもまったく知らないものばかり。なぜなのかはまったくわからないが、俺はこんな歳になって別次元への移動を成し遂げたらしい。どうせならもっと早く、高校生くらいの時期に起きて欲しかった。その頃はVRMMORPGすらやってなかったけど。

 そうなると疑問に思うのはこの体のことだ。なぜ俺は本来の人間の体じゃなく「ユグドラシル」のプレイヤーとしてここにきたのか。戦闘能力が高いのは助かっちゃいるが、不便なことも多すぎて困る。ほら、村人たちが不可解なものを見る視線を俺に向けている。人間とのコミュニケーションが初っ端から躓いてしまうのはこの体の不便なところの一つだな。もっとも、ヘロヘロさんみたいな人間からかけ離れた見た目よりはマシなんだと思うが。

 

「それで・・・こちらの鎧のお方はどちら様かね?」

 

「あ、この人は私を助けてくれた人で、えっと・・・」

 

 アンドレイと呼ばれた50代くらいの男の質問に、ミリアが困り顔でこちらを見る。そういえば俺からは名乗っていなかったな。

 

「俺の名前はスパイク・ヘッド。スパイクと呼んでくれればいい。こちらの娘さんが魔物に道をふさがれて困ってたところに通りかかったんでな。魔物を倒してやったのさ。」

 

「なるほど。それは我が村の娘がお世話になりました。私はこの村の代表のようなものをしているアンドレイと言います。えー・・・なんと言いますか、冒険者の方でしょう、お礼の方は何かご希望はありますかな?」

 

「いや、冒険者というよりもただの流れ者みたいなもんさ。わざわざお礼なんてもんはいらん。ただちょっとこの辺りの情報に疎いんでな。その辺りを教えてくれるか?」

 

「もちろんです、こちらも大した蓄えはありませんので、そう言っていただけるのはありがたい。ですが、それだけというのはなんですし、夕食ぐらいは食べていってください。どうぞこちらへ。」

 

 アンドレイは笑いながらついてくるように言い、男たちとミリアを連れて歩き出した。善意からの発言だろうがこれはまずい展開だ。さて、どうしたものだろうか・・・。

 

 

 

「なるほど、では一番栄えている都市は王都リ・エスティーゼで、そこに行くまでは二つほど別の都市を通って行くと。」

 

「ええ、情報が集まるところとなればやはり、王都が一番でしょうな。失礼ですが、何かお探しのものでも?もしかしたら何かお力になれるかもしれませんし・・・」

 

「そうだな。アインズ・ウール・ゴウンという名前に聞き覚えはないか?」

 

「・・・申し訳ありませんが。」

 

同様にナザリックに関しても聞いてみたが、知っていることは何もないとのことだった。駄目元で聞いてみたが、やはりギルドも、ナッザリック地下大墳墓もこの世界にはないのかもしれない。俺は、この世界で一人ぼっちになってしまったんだろうか。

 

 

 

 

アンドレイには傷があって醜い顔を見られたくないから、と言って仕切られた部屋に一人きりにしてもらい、そこに夕飯を運んでもらうことになった。なにせ、人間の前でこの兜を取ることができない。俺の兜は中身がないからだ。

動く鎧(ワンダリング・アーマー)という種族は文字通り、自ら動く鎧そのものであって、中身はがらんどうである。兜をとればあっという間に首なし騎士の出来上がりだ。もっとも、目立つという点ではこの獅子の兜も大差ないのだろうが、こればかりは仕方ない。今付け替えれば替えの兜をどこに持っていたのか不審がられるかもしれないからな。とはいえ、他の兜では隙間の部分が多く中身がないことがバレるかもしれないし、たまたまこの兜をつけていたのは幸運だったのかもしれないな。

しかし、そもそもこの体になってから食欲に加え、睡眠欲もまったくないようなのだがこれはアンデットになってしまった影響だろうか? 三大欲求のうち残る性欲だけは検証するタイミングがないからまだわからないけども。

 

「失礼します。ご夕食をお持ちしました。」

 

今日助けた村娘のミリアが夕食を持ってやってきた。おそらくだが、顔も知らないものよりはいいだろうというアンドレイの配慮だろう。小さな村の長にしては頭の回る男だ。

彼女が机の上に並べていくのは黒色のパンと具の少ない質素なスープ。だが干し肉が入っているようにも見えるあたり、やはり村人を助けた客人としては扱われているのだろう。

 

「・・・あの、すいません、さっき聞いてしまったんですが王都に行かれるんですか?」

 

食事を並べ終えたミリアが木でできたトレイを抱きかかえるようにして言う。

 

「ああ、そうだな。ここには欲しい情報はなかったし、一回王都とやらに行ってみるかと思ってるが。」

 

「あの、でしたら途中で水都ボーネンに寄りますよね? できたら、あの、そこまで私も一緒に連れて行っていただきたいのですが・・・」

 

「構わないが、理由は?」

 

「・・・この村は、そろそろ限界なんです。戦争のために毎年騎士様たちがやってきて男の人たちを連れて行ってしまうから人手は足りないし、それでもやっと作った麦と野菜は税だと言って徴税官様に持って行かれてしまうんです。大人たちは毎日辛そうな顔をしているし、リリみたいな子供たちだって仕事を手伝わないとこの村はやっていけないんです。なので、ここの徴税官様がいる水都ボーネンに行って、今年の税を少しでも減らしてもらいたいと思って・・・」

 

ミリアの顔に浮かんでいるのは、14歳の少女のものとは思えないほど複雑な表情だった。不安と期待、そして何かを諦めているような。おそらくだが、彼女はその徴税官とやらに減税を訴えでた結果、自分がどうなるのかわかっているのだろう。しかし、彼女以外の子供は皆まだ10にもなっていないらしいし、大人たちは皆30を超えている。彼女以外の人間では、今彼女が想像している方法で減税を請うことすらできないのだ。

彼女の考えていることは容易にわかったし、かつての俺だったらこの少女にひどく同情し、彼女とこの村を救うために力を貸したのだろう。だが、なぜか彼女に対する同情心は「ああ、かわいそうなんだな」と思う程度でしかなく、村のために何かしてやろうなんて気持ちは一切起きなかった。だからなのだろうか。

 

「ああ、いいぜ。護衛して欲しいんだな。」

 

軽くそう答えた。

 

 

 

朝日が昇る。睡眠欲がなくなったせいで結局一睡もしていないが体の調子に影響はなさそうだ。あのあとミリアと二人でアンドレイに話をし、彼は難色を示したもののミリアの強い押しで同行の許可を得ることができた。アンドレイ宅の前で待っていると、荷物を背負ったミリアがやってきた。なぜか大きめの鞄を二つ持っている。

 

「お待たせしました! これ、スパイクさんの分です。」

 

「ん? ああ・・・別にいいんだがなあ。」

 

無理やり気味に持たせられた鞄には保存食の類が入っているようだ。そうか、人間の足で二日かかるとは聞いていたが、自分に飲食の必要がないからすっかり忘れていた。ギリギリの状態の村から必要のない一人分の食料を捻出させたことには心が痛むべきなんだろうが・・・道理ではわかっているのだが痛まない。これも種族が変わってしまっている影響なんだろうか。

 

「では、道案内いたしますので水都まで宜しくお願いします。」

 

「おう、道中の安全は任せな。」

 

ひとまずはミリアと水都を目指そう。そこでアインズ・ウール・ゴウンもしくはナザリックの情報を集める。なければ王都に行けばいいし、そこにもなければこの世界中を回ってもいい。今の俺には他にするあてがない。あの時ログインしていたのは俺とモモンガさんだけ。もしも俺と同じくこの世界に転移していたとするなら・・・ま、大丈夫だろう。なんせあの曲者ぞろいのアインズ・ウール・ゴウンを纏め上げていた人だ、きっとこんな状況でも俺より早く順応しているに違いない。




主人公の名前発表。
攻撃力1800、守備力1700程度の名前で個人的に気に入っています。
名前だけだと賞金稼ぎっぽいのも魅力。

こんな感じで進んでいきますがどうぞよろしくお願いします。

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