絶剣~絶対無敵の剣姫~   作:melan

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お待たせしました!

今回はトーナメントの初戦をお送りします。
初戦の相手はまさかのあの人たちです!





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 次の日。ついに選抜大会の本番がやってきた。

 

 開会式は、一時間後に迫っていた。会場となる黒鉄宮前の広場は、すでに大勢の人で埋め尽くされていて、今もその数は増え続けている。会場にいる人たちは、みんな興奮した様子で話し合い、その熱気が広場全体に広がっていた。みんな、この大会を心待ちにしていたようで、話している人の表情は明るい。

 

「す、すごい人の数ですね」

 

 シリカの声は若干上擦っていた。あんまりこういう大会に耐性がないのかも。ボクも大勢の人の前で戦うのは初めてだけど、今のところそんなに緊張はしていない。

 

 他のみんなを見てみると、アスナは特に何とも思っていない様子で、隣の姉ちゃんと何かを話している。真剣な表情をしているから、作戦の確認でもしているのだろうか。アスナはリアルでも運動ができたようだし、容姿もあって目立つ人だっただろうから、こういうのにも慣れているのかもしれない。

 

 その話し相手の姉ちゃんも、顔色一つ変えない。姉ちゃんが緊張している姿を見たのは、今のところ最初の演説くらいのものだから、この程度では動じない……のかな。 でも、約一万人いることに変わりはないはずなんだけど。どういう理屈なの。

 

 それよりも不可解なのがキリトだった。パースさんと話しているキリトは、なんでも無さそうに、自然体で、緊張感とは無縁に見える。でもキリトって対人恐怖症じゃなかったっけ。なんでこういうのは大丈夫なんだろう。謎だ。

 

 パースさんはいつも通りだ。それ以外に言うことはない。こう見てくると、このパーティーは、心臓に毛の生えたような人が寄り集まったらしい。……そうじゃないシリカにはこのパーティー、きついんじゃないかな、とも、思わなくもない。

 

 

 ボクたちが今いるのは、黒鉄宮のエントランスだ。なぜそんなところにいるのかと言うと、選手受付がここに設置されたからで、ついでに言うと、急遽作られた選手控室も、本部で使われている大部屋を整頓して、流用しているらしい。

 

 本当なら、受付を終えたらすぐに控室に言った方が良いのかもしれないけど、広場の様子を見ていたくて、エントランスで粘っていたのだった。

 

「選手の方は、控室にお集まりください! これより大会の詳しい流れをご説明いたします!」

 

 運営の人だろう。大声を上げながら、ボクたちの脇を通り過ぎて、人ごみに入って行く。人波に紛れてしまうのを見送って、ボクたちはエントランスを離れた。本部の人、二日間大変だろうな。

 

 

 ボクたちが控室に行くと、そこにはすでに多くの選手がいた。集合時間がそもそも正午だから、すでにいて当然と言えば確かにそうなんだけど。あれ、でも本部の人が声を掛けに行ったってことは、まだ全員そろってないのか。

 

 きょろきょろと視線を巡らせる。ここにいる人たちは、それぞれのパーティーで集まって、話し合っているところもあれば、緊張からか全く何も話さないまま、固まったようになっているところもある。お互いパーティーの名前は知らないから、誰が相手なんだろうと、探すようなそぶりをしている人もいた。

 

 当然ボクたちも、対戦相手である『月夜の黒猫団』がどんな人たちなのか、分からない。カッコつけた名前のパーティーが多い中で、随分かわいい名前のパーティーだったから、女の子中心のパーティーなんじゃないかと思って、部屋を見渡してみても、女の子は今のところ、ボクたちのパーティー以外は、ちらほらとしかいない。元々男女の人数が全然違うから、当たり前かもしれない。

 

 今日配信された新聞によると、月夜の黒猫団のランキングは三十二位で、出場者の中では最下位だ。トーナメントは、順位が高いほど有利なように組まれているから、当然の組み合わせとも言える。ともあれ当然気は抜けない。

 

 運営の人だろうか、一人の男性のプレイヤーが、用意されていた演台にゆっくりと歩いていき、上に立った。年は中年くらいだろうか。少しずつ控室が静まる。

 

 咳払いを一つ。

 

「えー、皆さんお集まり頂いてありがとうございます。私は、今回大会の運営責任者を務めさせて頂いております、スネアです」

 

 軽く頭を下げる。パラパラと拍手が起きた。

 

「さて、時間も迫っておりますので、早速説明を始めたいと思います。まず──」

 

 

 

 

 ボクたちの目の前には、直径三十メートルくらいの、円形の競技場があった。作りは簡素なもので、ただロープが地面に置かれているだけだ。それでも、そこは日本人の事、ロープを超えようとする人はいない。それでも興奮の度合いはどんどんとヒートアップしていて、気温まで上がっているんじゃないか、と疑った。

 

 競技場は広場の中に二か所あって、第一試合で開幕戦を戦うボクたちが使うのは、黒鉄宮に近い方にある、A競技場だ。向かい側には今回の対戦相手、『月夜の黒猫団』のみんなが、待機している。

 

 相手のパーティーの構成は、女の子二人に男の子四人。見た感じだと、みんな学生だと思う。武器の構成はボクたちとは全く違って、女の子は両手槍と両手剣。男の子は棍、槍、ソード、小型のメイスだ。かなり重量系の組み合わせ。ボクたちにとっては相性がいいかも。

 

 審判の腕章を付けた人が、人垣をすり抜けてやってきた。打ち合わせをしているのか、どこかと電話をしているみたいだ。時計は刻々と進んで、第一試合開始まで、五分と迫っていた。

 

「いよいよだ……」

 

 気分がハイになってきている。少し足元が浮くような、陶酔感があった。そういえばボク、新しいSAOで、これまであんまりデュエルをしてこなかったんだよね。それに、ボス戦参加が懸かっている分、いままでやってきたデュエルよりも、幾分緊張感がある。その緊張感にワクワクしているのを自覚した。この独特の緊張感は、ボクの性に合っているみたいで、胸の奥から湧き上がる高揚感から、口元がふにゃりと緩んでしまいそうになる。いけないいけない、集中しないと。

 

「楽しみだね」

 

 ボクが自分の顔と格闘している横で、大将の姉ちゃんが好戦的に笑った。目はまっすぐ前に、対戦相手に注がれている。この目、完全にハンターだよ。こわ……カッコいい。

 

 アスナは、精神を集中させるためか、目を閉じた状態で息を深く吸って、ゆっくりと吐きだす、というのを幾度か繰り返していた。武道の経験もあるのかな、その姿さえも様になっていた。

 

 シリカはそわそわと落ち着きがない。観客をぐるりと見、うう~(見てる人多いなぁ、緊張するよー)。黒猫さんたちを見、あわわ(なんだか強そうだなー)。ボクたちを見、はぁ(緊張仲間がいない……)。(※カッコ内は、シリカの心、ユウキ訳)。と言うサイクルをぐるぐるしていた。シリカだって十分強いんだから、自信を持っていいのに。

 

 キリトは自然体で、イッチニーサンシ……とマイペースに準備体操をしている。『負ける気がしないな』とか、平然と言いそう。そして実際に、無双クラスに強いから性質が悪い。

 

 パースさんは向こうのパーティーをじっくりと観察しているようだった。やっぱりいつも通り。一回パースさんが慌てるの、見てみたいな。

 

 

 カラン、という音がした。審判を担当する人が、メールを受け取った音だ。たぶん同じタイミングで、B競技場でも同じことが起こっている。審判の人は、メールを開いた。これが一種の合図になって、観客は一斉に静かになる。昔テレビで見たテニスの公式試合で、プレイヤーがサーブを打つ前の、あの雰囲気に似ていた。一気に空気が引き絞られ、張りつめる。

 

 内容を確認し終わった審判が、競技場の中央に進み出た。

 

「それではこれより、第一回、ボス攻略パーティー選抜トーナメント大会、第一回戦、第一試合、スリーピングナイツ対月夜の黒猫団を行います。両パーティー、前へ!」

 

 横一列に並んだボクたちは、中心に向かって歩を進める。黒猫さんたちも。近づくにつれ、向こうの表情も見えるようになってきた。

 

 あぁ、やっぱりみんな、緊張してるな。緊張すると基本的に体は動きにくくなる。これならたぶん、行ける。

 

「全員、握手」

 

 ボクたちは、それぞれの正面にいるプレイヤーと握手を交わした。ボクと握手したプレイヤーは、「俺はケイタ。よろしくな!」とニカリと笑い、ボクが名乗るのも待たずに戻って行ってしまった。

 

「主将、デュエル申請を」

 

 審判の声に従い、姉ちゃんが進み出る。

黒猫さんの方も、女の子が前に出てきた。うわ! と声を上げそうになった。女の子の姿を見て、首筋に何かがビリッときた。

 

 この人、強い。

 

 彼女には、瞬間でボクにそう思わせる凄みがあった。彼女は余裕のある笑みを浮かべて、姉ちゃんと握手を交わし、デュエル申請をした。彼女の名前は『ライラ』。静まり返っていたおかげで、姉ちゃんたちが一言ずつだけ交わした小さな声が、かろうじて聞こえた。

 

 

「一位だからって、油断しない方が良いわよ」

 

「……ご忠告ありがとうございます」

 

 

 ライラさんは不敵に笑って、列に戻った。

 

 カウントダウンが、六十から始まり、一秒ずつ、確実に数字が減っていく。

 

 改めてライラさんを観察してみる。活発そうな短い髪、気の強そうなつりあがり気味の眼。瞳をランランと、猛禽類のように輝かせていた。背はアスナと同じくらい。年は……よく分からない。雰囲気は大人っぽいけど、姿は他の黒猫さんたちとそうは変わらないように見える。

 

 三十秒を切った。あの人に気を取られすぎちゃだめだ。ボクはボクのやることをやる。ただそれだけ。切り替えよう。

 

 十秒前。ボクたちの採る作戦は、速攻一つだけ。スピード重視のステータスの振り方をしているボク、姉ちゃん、アスナ、シリカを活かすためだ。突っ込んでいって討つ。それだけに集中するんだ。

 

 五秒前。歓声が遠くなる。目に入るのは、黒猫団の六人だけ。

 

 一秒前。脚に力を籠める。

 

『DUEL START』

 

 ボクたちは隊列を縦一列に組みなおしながら、黒猫団に向かって突進した。シリカ先頭、次にアスナ、ボク、そして大将の姉ちゃん。スピードに劣るキリトとパースさんは殿だ。最初の三人で大将までの道をこじ開け、大将の一騎打ちの構図を作り、後はそれを崩されないように死守するのが、ボクたちの作戦であり、ボクの仕事だった。

 

 一方黒猫団は、その場で防御体制に入った。五人が横一列に並び、一歩下がったところにライラさんが両手剣を構えている。

 

「やああああ!」

 

 シリカが、五人の並びの中央、ボクが握手したケイタにソードスキルを叩き込んだ。そして──

 

「いま!」ライラさんが叫び、「おう!」ケイタさんが応え、

 

 シリカが宙を舞った。

 

 本人がジャンプをしたわけではない。単純に、ケイタさんがタイミングぴったりに振った棍のソードスキルが、最軽量のシリカを弾き飛ばしたのだ。

 

 こんなに簡単にやられてしまうなんて……。

 

 でも、とボクは考え直す。これでケイタさんは、技後硬直でガラ空きになった。次のアスナの攻撃で──

 

「いま!」

 

 またもライラさんの合図。それに反応したアスナも、同時にソードスキルを発動したものの、リーチの長い槍使いに機先を制されて、アスナが弾かれる。シリカほどではないにせよ、大きく元のコースから外れてしまった。

 

 そしてボクの番だ。ボクの前には、技後硬直状態の二人のプレイヤーがいて、その間をすり抜ければすぐにライラさんに届く。両脇からメイス使いと女の子の長槍使い。二人もソードスキルをすでに発動し始めていて、このままではアスナと同じように長槍にやられる。でもここで抑えないと姉ちゃんに攻撃が行ってしまうし。

 

 いや、ボクがここで囮になれば行ける。ソードスキルを使わずに二人の攻撃をボクに集めれば、ボクを攻撃した二人は技後硬直で動けなくなる。

 

 でも二人同時なんてできるのかな? ここは確実に、破壊力の高いメイスだけでも──

 

 視界の右端で光が閃いた。びっくりして目で追うと、キリトの投剣だ。後ろからボクの右頬を擦っていったようだ。方向はメイス使い。ソードスキルを発動した状態の剣で、投剣を弾こうとすれば、それで技後硬直だ。かといって弾かないと動きを邪魔されて、スキルが発動しない可能性もある。

 

 これならボクは、長槍の方を抑えればいい。左へ。

 

 長槍を持った女の子は、突然の事に全くついて来られていないようだった。ソードスキルはすでに発動しているからモーションを止めることはできず、顔をひきつらせ、少し涙目になりながら、ボクに突進を仕掛けた。

 

 自信がないのがまる分かりのソードスキルは、軌道が読みやすく、これなら囮になる必要もなさそうだ。

 

 真正直に突き出される槍を軽く剣を当てていなし、槍の軌道を左へ逸らす。いなした勢いを利用して体を左回りに一回転。回転の勢いを載せた剣を、長槍使いに背中から斬りつけた。長槍使いは悲鳴を上げて、三メートルほど転がる。

 

 これで!

 

 意識を姉ちゃんの方にやると、思惑通り、姉ちゃんとライラさんが一騎打ちになっていた。姉ちゃんを援護するために、ライラさんに向かって走る。走りながら考える。

 

 まだ勝負がついていないということは、姉ちゃんが初撃を当てられなかったということ。ライラさんが両手剣使いであることを考えれば、それだけで驚異的だ。姉ちゃんはレベル十三で、SAOで二番目に軽い武器、レイピアの使い手だ。スピードと剣の正確さにかけては、SAOで間違いなくトップクラス。ほとんどの相手は、それこそ『瞬く間』に一撃入れられるはずなんだ。そもそもそれを狙って姉ちゃんを大将にしたんだから。

 

 

 二人は一度、至近距離で、ソードスキルなしで切り結び、間合いを取り直した。

 

 チャンス! でもここからじゃ攻撃が届かない。

 

 そこへ、剣を輝かせたパースさんがライラさんに斬りかかる。ライラさんが目を見開いて、身を縮めた。これでライラさんの体制を崩せる! と思った次の瞬間。

 

 パースさんが倒された。同時にスキルの輝きが霧散する。

 

 え、何が起きたの⁉

 

 ライラさんの両手剣は、膝あたりの位置にある。身を縮めるふりをしてしゃがみ、剣を突き出すことでパースさんの足を払った、ということらしい。簡単で単純だけど効果的。

 

 ライラさんが大剣を持ってしゃがんでいる今が好機!

 

 大きく跳躍して、剣を上段から振り下ろす。しかしライラさんは横に転がり回避。素早く立ち上がると、近くまで迫っていた姉ちゃんから遠ざかるように大きく後ろに跳んだ。ライラさんを逃した姉ちゃんは、悔しそうに眉根を寄せ、再び間合いを測る。姉ちゃんが追いつけないなんて!

 

 そうこうしているうちに、技後硬直から回復した黒猫団のメンバーもライラさんの前に並ぶ。

 

「みんな、一旦立て直そう!」

 

 姉ちゃんの声に、それぞれ戦っていたキリトとアスナ、シリカが応えた。大きく相手を弾いて、距離をとると、牽制しつつこちらに走る。黒猫団の方にも追いかける意思はないのか、追ってはこなかった。

 

 でも、これで振出しに戻ってしまった。むしろ手の内を明かしてしまった分、より厄介になったかも。それよりも何より、

 

「あの人、両手剣使いにしては動きが速すぎる」

 

「何か理由は考えられる?」アスナは頤(おとがい)に手を当てた。「ランについて来られる重量系なんて、ありえないわよ。きっと能力値をブーストしてるんだわ」

 

「アイテムでも使ってるってことか?」キリトは、疑わしい、というように顔をしかめた。「でも一層にはそんなものないはずだ。少なくともベータテストの時は無かったし、そんな情報は新聞にも出てなかっただろ」

 

「じゃあ、他に何があるっていうのよ?」

 

「……あと考えられるのは、レベルくらいしかないよな」

 

 アスナは、何言ってんの? と非難するような目でキリトを見た。対してキリトは肩をすくめただけだ。

 

 向こうの方が、レベルが上。あり得るだろうか。うぬぼれるわけじゃないけど、ボクたちはこれまでずっと先頭を走ってきた訳だし、実際にランキングで一位も取った。普通に考えればそんなことはありえない……んだけど。そうでないなら、一体どういうことだろう。

 

 うーん、と唸るボクたちに、周りを気にしながら、シリカがそろりと言う。

 

「あのー。なんだかよく分からないんですけど、とりあえず今はライラさんの動きを込みで、作戦を立て直すしかないんじゃないでしょうか?」

 

 周りに注意を向けてみれば、観客からかなりブーイングが聞こえてきていた。シリカはそれを気にしていたんだろう。うん、これは早く終わらせるべきだね。

 

 パースさんが頷く。

 

「シリカさんの言う通りです。今私たちがするべきなのは、相手の力の源を探ることではなく、相手を倒すための方法を探すことです。そちらに集中しましょう」

 

 

 ありがたいことに、黒猫団は自分たちから攻めようとはしてこない。さっきみたいにカウンターを狙っているんだろう。ただ、観客からの煽りやブーイングは激しくなってきている。早く終わらせるに越したことは無い。

 

「戦ってみて思ったんだけど」キリトがしばらく考えてから口を開いた。「あのライラって人の他は、そんなに大した上手さがあるわけじゃないし、抑えるのはそう難しくない。さっきは縦一列で突っ込んだから、各個撃破されたんだ。それなら今度は、むしろ相手に合わせて横一列で突っ込めば行けるんじゃないか?」

 

「そんな単純なものなの?」

 

 ボクが言うと、キリトは曖昧に肩をすくめた。「ま、やってみない事には分からないな」

 

 

 姉ちゃんを後ろに配置して、ボクたち五人は、横一列に並んだ。調度相手の配置をコピーした形だ。

 

「それじゃあ、『せーの』で行こう」姉ちゃんの冷静な声。ボクは頷く。知らず足に力がこもって、石畳がジャリ、と音を立てた。こんなところで負けるわけにはいかない。ここで負けたら、ボス戦に出られなくなっちゃう。

 

「せーの‼」

 

 ボクたちは一斉に駆け出した。地面を全力で蹴りつけて、相手に肉薄する。ボクの正面は、さっきの女の子のプレイヤーだ。リーチの長い武器を使っているから、まともにやりあったらボクの攻撃は届かない。さっきと同じように、相手の攻撃を見極めて、躱して、近い間合いに入ったまま、後は足止めに徹するんだ。大丈夫、ボクならできる!

 

 相手の隊列に真っ先に辿り着いたのは、やっぱりシリカだった。黒猫団の武器の中では一番リーチの短い、メイスのプレイヤーが相手だ。メイスがソードスキルを発動しようとしている。シリカは、今度は剣で受けずに、ボクと同じように躱す作戦に出た。ただでさえ重量系の武器なのに、最速のシリカ相手では全く勝負にならず、難なく懐に潜りこみ、「やあ‼」と至近距離でソードスキルを発動。相手を派手に吹き飛ばした。

 

 アスナとボクはほぼ同時に隊列に突入した。アスナは高くジャンプして上から、ボクはスライディングして下から、それぞれ棍と長槍をかいくぐり、ソードスキルを見舞う。

 

 キリトとパースさんは、レベルとパワーに物を言わせて破壊力で相手を圧倒し、ソードと槍を退けた。

 

 そして最後に、姉ちゃんがライラさんに再び突っ込む。今度はとにかく早さ、機動力を重視しているようで、縦横無尽にライラさんの周囲を駆け回り、的を絞らせない。攻撃しようとするとどうしても大振りになり、隙ができてしまうから、ライラさんも迂闊に手が出せず、防戦一方になっている。

 

 遂にライラさんの顔に焦りが浮かんできた、その時。姉ちゃんが仕掛けた。周囲を揺さぶる円軌道を一気に壊し、体制を低くしながら、一直線に体めがけて跳ぶ、その踏み切りに合わせてソードスキルを発動。最大限の速度でライラさんに挑む。ライラさんは思い切り顔を引きつらせながらも、何とか反応し、両手剣でガードしようとする。

 

 バシュッ

 

 鈍い音を立てて、レイピアが降りぬかれ、ライラさんの横腹に赤い線が刻まれた。そして──

 

『WINNER  RAN』

 

 結果が表示される。ボクたちも黒猫団の人たちも、一気に気が抜けて、その場にお尻を着いた。周りの観客も一瞬、時間が止まったように静まり返った。

 

 技後硬直から復帰したランが、何も言わず、静かに拳を掲げた。

 

 それを合図にして、

 

『おおおおおおおお‼』

 

 会場が爆発したんじゃないかと思うくらいの大歓声が上がり、拍手が湧いた。

 

 勝った! 疲れたぁ!

 

 ボクはそう叫んで、地面に横たわった。第一回戦でこれって、どういうことなの? こんなのが毎回続いたんじゃ心が持たないよぉ。

 

 余韻に浸りながらも、胸の中でぼやいた。

 

 

 

 

「アタシのレベル、十五なんだ」

 

「じゅうごぉ⁉」

「じ、十五⁉」

「えええぇ⁉」

 

 ボクとアスナ、シリカの声が重なる。ランキング三十二位でレベル十五とは一体。ボクたちの驚いた様子を見て、ライラさんは満足気に笑った。「スゲェだろ?」

 

 

 試合の後、ボクたちの勝利を祝ってくれたライラさんたち月夜の黒猫団のみなさんに誘われて、ボクたちはフレンド登録をした。その流れで、お互いの事について情報交換をすることになり、ボクたちはライラさんの、(ボクたちからすれば)あり得ない動きをすることができた理由を聞いてみたのだ。その答えが、『レベル十五』だったというわけだ。

 

「これも作戦のうちさ。アタシに経験値を集中させていたんだ」

 

 フン、とドヤ顔のライラさん。でも、それを聞いた黒猫団の人たちは、なぜか微妙な顔をした。

 

「ライラはさ、レベリングの仕方が下手で、俺たちにうまく経験値を配分できないんだ」ケイタさんが曖昧に笑う。あー、なるほど、とボクは妙に納得してしまった。ライラさんはあんまり器用そうには見えないし。

 

「おい! そういう事を言うんじゃない!」と叫ぶライラさんの声を、まるで無かったかのようにスルーして、ケイタさんは続けた。

 

「ライラはベータテスターで、俺たちに戦い方を教えてくれたんだ。そのあと、俺たちとパーティーを組んでくれることになってさ。で、一緒に戦うのはいいんだけど、どんどん一人でモンスターを倒して行っちゃうもんだから、なかなか俺たちのレベルが上がらなくて。この大会にも、このサチ」ケイタさんは、隣に立っている女の子のプレイヤーの肩に手を置いた。「なんかは、危うくレベル十まで行けないところだったんだよ。で、その分ライラのレベルはガンガン上がって……」

 

 気まずそうにしていたライラさんは、口を尖らせた。「し、仕方ねぇだろ! アタシはもともとソロだったんだからさ」

 

 ケイタさんは苦笑した。

 

「まぁ、この大会じゃ結局大将戦が肝だろ? ちょうど良いっていうんで、ライラ中心のこういう作戦になった訳だよ」

 

「ふぅん、そういう作戦もまぁ、確かにアリよね」

 

 アスナは感心したように言い、うんうん、と頷きつつ、「まぁ私たちは、このままのスタンスで良いと思うけど」と付け足した。

 

「あんまり歪なパーティーだと、どんな問題が起こるか分からないぞ?」

 

 キリトが釘をさすと、「んなこと、わかってらぁ」とぼそりと言って、ライラさんはふて腐れたようにそっぽを向いてしまった。

 

 

 ライラさんはひとまず放置して、ボクたちはまた、お互いの事を話し合った(もちろんボクたちの込み入った話は全部カットした)。それによると、月夜の黒猫団は、リアルでも友達で、同じ部活『パソコン研究会』のメンバーだったらしい。さらに、ケイタさんとサチさんは、家まで近いのだという。

 

「こいつ、怖がりでさ」ケイタさんは、朗らかに笑いながらサチさんの頭に手を載せた。「長槍やらせたのは良いんだけど、自分からほとんど攻撃できなくて、困ったもんだよ」

 

 それを聞いたサチさんは、不満げに頬を膨らませた。

 

「何よ、人をみそっかすみたいに。それに、今はもうそんな事ないじゃない!」

 

「人の事言えんのかー? ケイタだって、あのチュートリアルの時は『この世の終わりだぁー』って顔してたじゃねぇか。あれは頼りなかったなぁー」

 

 ソード使いのダッカーさんが、茶化すように言った。

 

「うるさいな、あんな状況じゃしょうがないだろー⁉」

 

 軽口を叩きながら笑いあっている様子は、本当に楽しそうで、付き合いが長い事を如実に表していた。学校に通っていた時の友達が頭をよぎって、胸がちくりと痛んだ。

 

 

 不意に、姉ちゃんのメッセージのアラームが鳴った。姉ちゃんはそれを読むと、言った。

 

「次の試合の準備で、一度黒鉄宮に来るようにって」

 

 今日はたくさん試合あったはずなのに、もう順が回ってきたらしい。

 

「みんな、頑張って来いよ!」「いってらっしゃい!」「俺たちに勝ったんだ。負けるなよ!」

 

 黒猫団のみんなは、口々に応援してくれる。ライラさんもこちらに戻ってきて、「負けやがったら承知しねぇ」とニヒルに笑った。

 

 考えてみれば、いままで、パーティーとか関係なくフレンド登録して、友達になった人はいなかったんだ。笑顔で送り出してくれる人がいる。そのことが、ボクはたまらなくうれしい。

 

「行ってきます、これからもよろしく!」

 

 月夜の黒猫団のみんなに手を振って、ボクたちは黒鉄宮に向かった。

 

 みんなのためにも、絶対勝ってやるんだ。

 




第一回戦終了です。

うん、スリーピングナイツ、強いですねやっぱり。でもライラさんもなかなかでした。


この作品に黒猫さんたちを出すに当たって問題だったのは、人数と技術でした。ということで、パーティー仲間兼師匠としてライラさんを入れてみた訳です。いかがでしたでしょうか?

黒猫団にオリキャラは認められない! という人がいましたらすみませんm(_ _)m


さて、次の話では一気に飛ばして、準決勝をお届けします。準決勝の相手は、例の彼です。お楽しみに!

今回もお読みいただいてありがとうございました!
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