絶剣~絶対無敵の剣姫~   作:melan

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今回は導入のみとなります。

大幅改修済み(10/9)


Welcome to The Ainqrad
(1)


 世界で初めて、五感全てを仮想世界に跳ばす『フルダイブ』に成功したゲームデバイス、《ナーヴギア》。

 

 二〇二二年。ついに、ナーヴギアに対応したVRMMORPG(仮想大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム)が発表された。その名も、

 

 

《ソードアート・オンライン》  通称 SAO

 

 

 SAOの正式サービスに先行すること四カ月。抽選で選ばれた一〇〇〇人、及び特例二名を対象に、ベータテストが行われた。参加者は、仮想世界の圧倒的な再現度と、ゲームを自ら体を動かすことでクリアしていくその面白さに呑まれた。

 

 その感動は、瞬く間に伝播し、SAOへの期待は最高潮に達し、発売された一万本の初回ロットは瞬く間に完売した。

 

 そして。

 

 

 二〇二二年一一月六日 午後一時

 

 

 ついに正式サービスが解禁された。

 

 

 

*  *  *  *  *

 

 

 

 

 あたたかな風が、ふわりとボクを包み込んだ。名前も知らない鳥の鳴き声が鼓膜をくすぐり、それを覆い隠してしまう勢いで、ガヤガヤとにぎやかな人の話し声が響いている。

 

 ボクは目を閉じたまま、体に入ってくる情報の奔流に身を任せた。

 

今、全身で感じているこの空気は、ボクが、ずっとずっと、待ち望んでいたものだった。

 

 そうだ、やってきたんだ、と心がようやく認識して、胸のあたりからふつふつと、何かが沸き立ってきた。心臓は向こうの世界に置いてきたはずなのに、早鐘を打つような激しい鼓動が、感じられるような気がした。

 

 ふぅ、とボクは息を吐き出す。高まった興奮は、最高潮のまま下がる時を知らず、まだ目を開けるには早いぞ! とボクに知らしめていた。

 

 何分経ったろう。目を閉じているせいか、時間の経過が掴みづらい。そろそろ姉ちゃんも来るはずだけど。と、ボクはそこまで考えて、他のことを考えられるくらいには、落ち着いてきていることに気付いた。もっとも、姉ちゃんのことだったら、たとえボクが、車に轢かれそうになる直前であっても、考えていることだろう。『ボク』と『姉ちゃん』の位置を逆にしても、きっと結果は変わらない。ボクと姉ちゃんは、そういう姉妹だった。

 

 

 

 いい加減目を開けないと、周りの人に迷惑になっちゃうかな。

 

ボクにしては随分と消極的な理由で、目を開けることを決意する。

 

ゆっくり、ゆっくりと、目を開けた。

 

 

 ざわり。鳥肌が一瞬にして全身を包んだ。胸が打ち震えた。

 

 思うがまま何か叫ぼうとして、でも言葉にならなかった。

 

 

 これが、これこそが、《ソードアートオンライン》の──ボクが生きる世界の、景色。

 

 

 *

 

 

 ボク、こと紺野木綿季(ゆうき)、プレイヤーネーム「ユウキ」は、西洋の中世の様式で統一された街に、独特の効果音を伴って降り立った。

 

 ボクがいるのは、大きな円状の広場で、大きさはだいたい、直径百メートルぐらい。名前を《始まりの街》という。広場の内周には、小奇麗に整えられた街路樹が何本も植わっていて、その葉の一枚一枚が、静かに風にゆられていた。

 

 足元に敷かれているのは、おしゃれな石畳だった。長い時間をかけて、雨に足にと磨かれたような、独特の味があった。革製品が年月を経るにつれ出すという、あの味だ。あいにく、まだ十一歳で女の子なボクには、よく分からないんだけど。

 

 後ろを振り返れば、どっしりと重い存在感を放つ《黒鉄宮》という黒い宮殿がそびえている。名前にある通り、この宮殿はすべて金属でできているらしく、現実世界ではちょっとあり得ないレベルの威厳を漂わせていた。いかつい。ホントに。形は、ヨーロッパの、どこかの世界遺産に似ているかも。以前ここにいた時に、そんなことを言っているプレイヤーがいた。ここはいわゆる〈死に戻り〉スポットで、以前は随分と、なりたくもないお世話になったものだ。

 

 そういえば、と、ボクはある建物を探してみる。

 

広場の外周に沿って建つ建物によって、奥にあるほとんどの建物は隠されてしまうのだけど、遠目に、頭一つ突き出た建物が、かろうじて見えた。尖塔に鐘。教会だ。あの教会のステンドグラス、きれいだったなぁ。ベータテストの時に見た、息を呑むほど美しい情景を思い出して、ため息をついた。

 

 姉ちゃんはまだ来ない。何やってるんだろう、暇だなぁ、と視線を上げれば、遥か上空にはこの層の『天井』があった。それを取り巻くようにして、驚くほど青い空が広がっている。排ガスがないからかなぁ。いや、そもそもゲーム世界にガスなんてないね。

 

 天井で半分以上隠された空には、綿菓子みたいな雲が散っていた。もこもことしていて、綿あめのようでとてもおいしそうだった。

 

 どれもこれも、驚くほどの再現度。それは自分の体にも言えた。

 

 手を前に出してみる。さすがに皺とか血管まではないけど、それでも十分『ボクの手』だった。視界の端に、短く肩のあたりで揃えられた、茶色っぽい髪の毛がちらついている。その色もそっくりだし、髪形もそう。身長は、十一歳の女子にしては少し高いかな、というくらい。余り肉付きの良い方じゃないけど、年齢の割に胸はあるかもしれない。それらもバッチリ再現されている。

 

 他の人たちは、自分でカスタマイズしたキャラクターを用いているから、全員が超美形だ。美男美女しかいない空間は、もはや寒気すら覚えるありさまで、ある意味、ここだけが決定的に非現実だった。それに対して、ボクたちは現実の体をほぼ完全にコピーしているから、よりなじみがあった。

 

 体の動きを確かめようと、手を目の前にかざして、開いて、閉じた 。手はちゃんと思い通りに動いてくれた。

 

 トンットンッ、と軽く跳びはねた。体が軽く感じた。ああ、ここも現実と違う。

 

 ここでならボクは走り回れる。ここでならボクは友達と話せる。ここでならボクは……

 

 一つ一つ、自分のできることをかみしめていくうちに、横隔膜のあたりに、何か言葉にならない衝動が渦巻いた。

 

 唐突に、小学校で習った『春に』の詩を思い出した。

 

 

 

 この気持ちはなんだろう

 

 この気持ちはなんだろう

 

 目に見えないエネルギーの流れが

 

 大地から足の裏を伝わって……

 

 

 

 まさに、そんな感じだった。うずうずと、目に見えないエネルギーが込み上げ、どんどんとせり上がり、せり上がり、せり上がり。

 

 ついに。

 

「うぅわああああああああああああああああああ‼」

 

 口から溢れ出した。

 

 ありったけの力をこめて、思い切り叫んだ。

 

 周りの人がギョッとしてこちらを見ているけれど、そんなことは今のボクには関係が無かった。

 

 そうして衝動を吐き出さないと、理性なんて置き去りにして、どこかへ走って行ってしまいそうだった。そこは詩と違う。

 

前はよく、天真爛漫、自由気儘と言われたけど、さすがに最初から迷子になるのはごめんだった。

 

 

 はぁはぁと荒い息をついていると、すぐ隣に蒼白い炎のようなエフェクトが現れた。ログインするときのものだ。お! 姉ちゃん来たかな?

 

 予想にたがわず、炎の中から一人の少女が現れた。黒髪のロングヘアに、ボクより少し高い身長。目の色は綺麗なライトブラウン。なんとなく柔らかな印象を与えるその少女は、双子の姉、紺野藍子、プレイヤーネーム「ラン」だ。

 

 ボクを見つけた姉ちゃんは、にこりと口元だけ微笑んだ。

 

 途端にボクは、なんて声を掛けていいか、見失ってしまった。

 

ボクは、姉ちゃんがたまに見せるこの笑みが苦手だった。笑顔の内に、何もかもを隠して、ボクにそれを悟らせてくれいない、その笑みが。

 

「もどって、来たね」

 

 姉ちゃんは、静かに一言つぶやいた。

 

 そこには色々な思いが込められているんだろう。

 

 嬉しいとも悲しいとも、楽しいとも怒っているとも、寂しいとも煩わしいともつかない、複雑な思いが。今まで大変なことがいっぱいあったんだから、もしかしたらそれは、当然のことなのかも知れなかった。

 

 ボクは姉ちゃんと一緒に育ってきた。たぶん、普通の姉妹より密接に。だから、姉ちゃんとボクは、ほとんどの体験を共有している。でも。姉ちゃんは『姉ちゃん』だから、ボクの重みまで背負い込んでしまう。そうやって潰されそうになって、でも背負うのをやめない。かといって、責任感の塊である姉ちゃんから、『姉ちゃん』の役割を取ってしまうわけにもいかない。『姉ちゃん』の肩書が、姉ちゃんの支えにもなっていることを、ボクは知っていた。

 

そんな彼女にボクができるのは、ただ一つだけ。小学校に入学した時に姉ちゃんと約束した、『いつも笑っていること』。

 

 だからボクは笑う。何も気付いていない振りをしながら、ただ笑う。




少しだけ書き溜めがあるので、最初の最初だけ3日に一本のペースで投稿していきます。
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