絶剣~絶対無敵の剣姫~   作:melan

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大幅改修済み(10/9)

ユウキ達の過去のお話は、第一章で取り扱うと冗長に感じることが分かったので、またほかの場所に移転させて頂きます。


(2)

「それにしても、これが仮想現実って信じられないわよね……今さらだけど」

 

 姉ちゃんは、きょろきょろと周りを見て、感慨深げに言った。もうあの笑みではない、自然な笑顔であることに、心の中で安堵の息をついて、「ほんとにねぇ」としみじみ頷いた。

 

「姉ちゃん、これからどうしよっか?」

 

 ボクは姉ちゃんに言う。姉ちゃんは特に考えるでもなく、

 

「とりあえず、武器買おう?」

 

 そうだった、今はまだ武器持ってないんだ、ということに気付いて、ボクは頷いた。

 

 

 

 

「早速レべリング、行く?」

 

 武器屋を訪れ、装備諸々をそろえた後。新しく買った片手剣を眺めまわしていたボクに(やっぱり初期装備って、ザ・安物だよね)、レイピアを興味深げに観察していた姉ちゃんが言った。

 

「いいね!」

 

 ボクは少しの間もおかずに答えた。早くモンスターを倒したかった。何より体を動かしたい。

 

「キリトと落ち合わないといけないし、場所は草原でいいよね?」

 

「うん、そうしよう」

 

 キリトはベータテスト時にできた友達の一人だ。全体的に黒いのが特徴(髪、瞳、装備一式が、見事に黒で染まっていた)で、剣の腕はかなりのものだった。姉ちゃんがそれについて聞くと、リアルで剣道をやっていた事があるんだ、とキリトは語った。

 

 キリトと初めて話したのは、七層攻略のときだった。ボス戦で野良パーティー(場当たり的に組む即席のチーム)を組んで、その強さに驚き、それ以来ボクは、キリトのことを一方的にライバル視していた。

 

 目的地である草原は、ボク達がベータテストでもレべリングに使ったところだ。始まりの街からも近く、ポップするモンスターも倒しやすいから、打ってつけだった。

 

 

「キリトと会うのも久しぶりだねー」

 

 草原へ向かう道すがら、ボクは姉ちゃんに言った。

 

「そうねぇ、楽しみだね。ユウ、またデュエル挑むの?」

 

「あったりまえじゃん! ベータテストのときは、結局一度も勝てなかったし……今度こそ勝ってやる!」

 

 姉ちゃんは苦笑いした。

 

「キリトは強いもんね」

 

「そんなこと言って、姉ちゃんは勝ってたじゃん」

 

 いやいや、と顔の前で手を振って、姉ちゃんは、ボクの言葉をやんわりと否定した。

 

「四回戦ったうちの一回だけでしょう? それに、あれは私の武器が軽いのが大きかったんじゃないかな。逆にキリトは、片手剣にしては重いのを使ってたみたいだし。デュエルって、速さがあった方が、ある程度有利でしょ?」

 

「じゃあその重い武器を持った相手に、十回やって一回も勝てないボクって……」

 

 キリトの方が強いってことは、ボクも分かってはいた。キリトは剣道経験者だから、それも関係してるかもしれない。なんにしても、正直言ってボクとは次元が違った。でも、

 

 ……一回も勝てないのはなぁ。

 

 がっくりと肩を落とすボクの背中を、姉ちゃんはポンとたたいた。どうやら慰めてくれているらしかった。でも、勝った人に慰められても……。余計にむなしくなって、ため息をついた。

 

「いつかキリトを超えてやるぞー!」

 

 叫んでみても、やっぱりむなしい。

 

 

 目的の草原が見えてきた。青々とした芝生が風になびいて、まるで波立つ海みたいに見えた。草原の海。なかなか詩っぽいな。

 

 草原の奥に青々とした森が広がっている他は、ここには何もないから、かなり開放感があった。今日は晴れていることも手伝って、牧歌的な雰囲気で、やもすると寝っころがりたくなるけど、ここもれっきとした、モンスターのポップするフィールドだ。

 

「姉ちゃん、フレンジ―ボア探すから左の方よろしく!」

 

 姉ちゃんは草原をじっと眺めていた。言う前から探してたらしい。

 

 それでも姉ちゃんは、「うん」と言うと、目を眇めて探索を始めた。

 

 

 しばらくして。

 

「ユウ、あれ、フレンジ―ボアじゃないかな」

 

「ホントだ」

 

 確かに、イノシシのような体をしたモンスター、フレンジーボアがいた。大きさはモンスターの中では最小クラスで、体高は腰上ぐらいしかなかった。プレイヤーが最初に戦うモンスターだから、当然ステータスも低いけど、ベータテストのときは倒すまでに結構かかった。ソードスキルをマスターするのに手間取ったのだ。

 

 このゲームには魔法がなく、その代り、剣の必殺技(実際には、全然『必殺』じゃない)がある。それを発動するためには、特定のモーションをする必要があって、それに慣れるのに苦労した。

 

 でも今回は大丈夫。一度体に覚えさせたことは、そう忘れるものじゃないし、自分の運動神経にも自信があった。

 

 とにかく何が言いたいかというと、早く戦いたい! これに尽きた。

 

「ねえ、最初のやつ倒していい?」

 

 ずい、と姉ちゃんに詰め寄る。姉ちゃんは、『しょうがないなぁ』と言うように、ふふ、と微笑んで、

 

「そう言うと思った。どうぞ、いってらっしゃい」

 

「じゃあ、遠慮なく!」

 

 ボクは、フレンジジーボアめがけて『シングル・シュート』というソードスキル(だけどこれ、剣使ってないんだよね)を使って石を放り投げた。こちらに意識を向けるためだ。狙い通り、石を当てられたフレンジーボアは、こちらを振り向いて、怒りをその目に宿して一直線に突進してきた。

 

「てぇーりゃぁー!」

 

 ボクは気合を入れて、大きな声をあげた。それと同時に響く、スキル発動時のスバァァン、という効果音が、なんとも心地いい。

 

 肩慣らしの意味も込めて、何度かソードスキルなしで攻撃し、充分にHPゲージを減らしたところで、もう一度ソードスキル発動。

 

 後に残されたのは、フレンジーボアが断末魔に発した、プギィ、という哀れな鳴き声と、パキン、とその体が砕けるガラスのような音だけだった。

 

「ふうー、久々にやったけど、やっぱり良いね! これ」

 

 ボクは満面の笑みで、姉ちゃんに向き直りつつ、

 

「効果音が良いよね、こう、ズバァァン、てさ」

 

 右手に持った細身な片手剣を、右上から袈裟切りにする真似をした。ベータテストに参加したおかげで、納得の出来栄え。

 

「ユウは相変わらずねぇ」姉ちゃんは苦笑を浮かべ、ボクに近づきながら言った。

 

 しばらくそうやってレベリングをしていると、姉ちゃんが、

 

「キリト、遅いね」

 

 ぽそりと言った。視線は左斜め上に向けられていて、ボクは、それが、姉ちゃんが時計を確認しているのだと分かった。他の人からは見えないけど、時計は視界のそのあたりに表示されるのだ。

 

 ライバルがなかなか現れない。ボクは頬を膨らませた。

 

「あの若造、恐れをなして逃げ帰ったかー!」

 

 小物悪党のテンプレート。ドラマなんかだと、大抵そのすぐ後に現れるけど、現実はそうはいかないらしい。姉ちゃんは「なにやってるのよ」とまたも呆れたように苦笑した。

 

「もう約束の時間から三十分も経ってるのにー‼」

 

 女の子を待たせる男はモテないぞ、と恋愛に興味のないボクが言ってみる。やっぱりキリトは現れない。

 

うーん、と唸りながら、キョロキョロと辺りを見渡した。彼は今まで、遅れたことがなかったから、ちょっと心配になってしまう。姉ちゃんも、視線を外へと移す。

 

 ここの草原は、丘の上に立つと非常に見通しが良く、遠くまで目視できた。人影は遠くの、街に近いエリアに数人見えるだけで、キリトらしき姿は見当たらない。

「お!」遠目にこちらに近づいて来ているプレイヤーを見つけた。が、どうやら男二人で行動しているらしい。ガックリと肩が落ちる。キリトが二人で行動するとは思えなかった。

 

 ボクには理由は分からないし、聞くつもりもないけど、キリトはソロにこだわりがあるようだった。キリトと初めて逢ってすぐのこと、当然のようにフレンド登録を申し込んだのだが、のらりくらりと躱わされ続け、結局最後までフレンドリストにキリトの名前は載らなかった。──と言っても、かなりの頻度で行動していたから、たいした問題はなかった。その都度待ち合わせをすればいいだけのことだし。

 

 

「ねぇ、ユウ。あれキリトじゃないかな?」

 

 色々とキリトのことを思い返していると、姉ちゃんに肩を軽くたたかれた。視線を追えば、さっきボクが見ていた、街の方角に目を凝らしているようだ。

 

「どれどれー?」

 

「ほら、こっちに向かってくる二人、いるじゃない? その右っかわ」

 

 まっすぐ指さされた腕と指の延長線を辿ると、やっぱり件(くだん)の二人組に行き当たった。

 

「あー、あの二人? うーん……でも、二人組だよ? で、キリトだよ? それに、黒くないじゃん」

 

 キリトが二人でいるなんてありえないし、黒くないなんてありえない。……我ながら判断基準がひどい。

 

「ユウ……言いたいことは分かるけど、何気にその発言、失礼だよ?」姉ちゃんは三度の呆れ顔。「そもそも初期装備で黒なんてなかったわ」問題はそこらしい。ボッチの方は否定しないんだ……。

 

 そうしながらも、二人はどんどんと近づいて来ている。

 

ようやく顔がはっきり見えるようになったところで、ボクは思わず「あれぇ⁉」と叫び声を上げた。本当にキリトだった。おかしいなぁ。

 

「ほら! やっぱりキリトでしょう?」

 

 珍しく得意げに言う姉ちゃんを、少し、本当に少し癪だったのでスルーして、ボクは頬を膨らませ、まだ距離があるキリトに向かって叫んだ。

 

「ちょっとキリト! なんでボクたちとの約束すっぽかして遊んでるのさぁ!」

 

『こんにちは』やら『久しぶり』やら、そういう挨拶をすっ飛ばして、ボクは全力で走ってキリトに詰め寄った。キリトは多少面食らった様子だったけど、うろたえることはなく、「いやぁ、この人に街で捕まって」と、隣の長身で痩せ型の男の人を指ししめした。

 

「そのままソードスキルとかのレクチャーしてたんだ。ごめんな」

 

 申し訳なさそうに苦笑しながら手をあわせる。そして、隣の男へ視線を送る。『お前からも説明してくれよ』とでも言いたそうだ。その意図を酌んでか、隣の彼は口を開いた。

 

「おう、すまんなお二人さん、キリの字があんまりにキッパリと街中を走ってたもんでよぅ、こりゃベータテスターだと思って、ちと時間借りてたんだわ」カトラスを腰に下げ、革鎧をまとい、わずかに赤みがかった髪をバンダナで立てた、ナイスガイな彼は、すまん、と言う割に悪びれる様子もない。ボクとしても、別にこのお兄さん(?)責めるつもりはないんだけど。

 

「おぅ、俺ぁクラインってんだ。よろしく頼むぜ!」右手を差し出し、ニカリと歯を見せて笑う。

 

ずいぶんと人当たりが良さそうだなぁ、キリトと違って。

 

 もともとそんなに怒っていたわけでもないので、ボクは顰め面を引っ込めて、差し出された右手をギュッと握った。

 

「こちらこそよろしく、クラインさん!」

 

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