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《《《告示》》》
昨日新設した、アインクラッド攻略対策本部の役員で会議を行い、以下のように決定した。各自確認されたい。但し、状況に応じて臨機応変に対処するため、必ずしもこれをすべて履行できるわけではないことを、ここに言明する。
◎攻略について
総指揮官:ディアベル
一、 アインクラッドの攻略は、その意思を持つ者のみが行うものとし、その集団を『攻略組』
と呼称するものとする。加入の意思があるものは、《告知》を確認し、所定の時間に所
定の場所へ集まること。
二、 やる気があったとしても、能力が満たないと指揮官に判断された場合は、攻略組から除
外するものとする。また、安全マージンを考慮したレベル(各層に十を足したもの)に達
していない場合、発見次第その者を攻略から除外する(ただし、第一層攻略についてはボ
ス攻略時にのみ適用する)。
三、 現状では人数の制限は設けないが、今後の人数の増加次第で制限する可能性もある。あら
かじめ了承されたし。
四、 攻略は原則六人以上のパーティーで行うこと。
五、 攻略開始前に、攻略本部にて、パーティーメンバーと装備などのチェックを受けること
(そこで人数チェックも行う)。
※ 安全に攻略を行うため、攻略前に攻略参加者全員のレベルを、本部で確認・記録する。
なお、他言無用の上、流用などもしないことを約束する。
◎学校について
校長:ABC(高幡浩二)
教頭:ユリエール
学校は、二つの部門、すなわち、戦闘訓練部門と学校教育部門を設置する。
戦闘訓練部門
一、 レベルを上げることではなく、戦闘の技術を磨くことにのみ注力する。技術が安全圏外に
出ても問題ない水準であると認められた者から、レべリングを許可する。なお、認定試験
は、攻略総指揮官麾下の者が担当する。
二、 戦闘教育には、ベータテスターを教官として採用する。ただし、教官の任を受けるかは各
人の意思によるものとする。(男子諸君、頼れる男は女の子にモテるぞ‼)
三、 教官一人当たりの生徒数は、十人を基本とする。ただし、教官の意向により多少融通を利
かせることもできる。
四、 教官になったベータテスターの人数や、スペースの関係によって、生徒に順番待ちが発生
する可能性がある。その場合、前述の『攻略組』を優先して訓練を行う。その場合のローテ
ーションなどは、追って広報から掲示する。掲示場所は本告示と同様、宮殿前とする。
五、 訓練部門は、全プレイヤーが修了した時点で解散とする(以降、必要に応じ、定期的に戦
闘訓練を行う可能性もある)。
学校教育部門
一、 対象は高校生以下の学生とする。
二、 受講するか否かは任意。受講を希望する者は《告知》を要確認。
三、 教師担当は、立候補制を採る。受講生同様、教師希望者も《告知》を確認すること。
四、 講義形態は、原則教師の意向に任せる。
五、 生徒に対し不適切と思われる言動が目立つ場合、その者を教師から除籍する。
六、 学校教育は、戦闘訓練を修了した者のみ受講すること。
教師資格:教職免許を取得している者、もしくは、大学にて教職課程を履修している者、もしく
は、過去に大学にて教職課程を履修していた者 その三者のなかで、教えることに意
欲のある者。
*公式な教科書などの教材は存在しないため、教師独自のカリキュラムになる。特に社会科目
は、教師の記憶に頼らざるを得ず、通常の学校教育と齟齬が生まれる余地がある。それでも、
勉強する習慣を忘れない事が肝要である。一人でも多くの学生が受講することを期待する。
《攻略認定試験検査要項》
・ソードスキルを速やかに発動できること
・同時に複数の敵を相手取り、撃破もしくは撤退できること
・戦闘中に回復ポーションを素早く飲用できること
・パーティーでの最低限の連携がとれること(六名のパーティーにて試験実施。メンバーは
任意)
以上の内容を習得した者に、圏外への出立を許可する。
◎鍛冶職人養成
頭首:マサムネ
一、 鍛冶を専門に目指す者はマサムネのもとに馳せ参ずべし。詳しい時間と場所は《告知》を
確認のこと。
二、 使用する武器がメイスである者に限られる。
三、 あふれる情熱を有するもの大歓迎‼
四、 なお、募集人員は性別を問わない。
◎カウンセリング
主任:パース
異常事態につき、カウンセリングを実施する。人員が決定的に不足しているため、カウンセラーを志す者の協力を求める。ただし、自らの精神状態をしっかりと把握してからの立候補をお勧めする。
参加の意思のある人は、告知を確認してください。
◎広報・新聞部
編集:シンカー
アインクラッド内での情報をいち早く伝達するための手段として、新聞を刊行することが決定した。それにあたり、記者を募集する。ベータテストで情報屋をやっていた者、現実世界で記者、編集者、またはそれに準ずる職業に就いていたものは、ぜひとも協力してもらいたい。
意思のある者は、告知を確認すること。
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【職人のすすめ】
ベータテスト時に確認されたところによると、ソードアート・オンラインには、鍛冶以外にも様々な職人系スキルが存在しています。例えば、料理、服飾、釣り、ポーション作成(薬師)などです。その他、新たにスキルが発見される可能性もあります。
それぞれのスキルを活かして、料理屋、衣料店、薬屋など、自分のお店を持つこともできます。
攻略はモンスターと戦うプレイヤーだけではうまくいきません。他の様々な分野で、攻略をサポートしていきましょう!
職人を目指す方は、あらかじめ本部に一報戴けますと、本部からもサポートを行える可能性があります。
【攻略本部からのお願い】
攻略本部では、速やかなアインクラッド脱出をサポートするため、前述のように様々な活動を展開していく予定です。職務内容の性質上、本部所員になった場合に、モンスター討伐、その他の方法によっての収入が少なく、所員たちの生活を保全することは急務です。そこで、募金をさせていただきたいと思います。
募金は、攻略認定試験合格後に収入を得た者に限定します。金額はいくらでも構いません。皆様のご協力をお願いいたします。
また、三層に突入すると、ギルド結成クエストが発生します。それをもって、正式に本部ギルドの運営が開始しますが、皆様にも攻略ギルド員に加入いただきたく思います。我々はそこから、リアルで言うところの『税金』という形でコルを徴収し、所員の給料を賄うと共に、あらゆる攻略に関する事案をサポートします。
スムーズな攻略実現のため、何卒よろしくお願い申し上げます。
攻略本部長 ABC 高幡 浩二
【広報からのお知らせ】
広報では、アインクラッドのベータテスト時のあらゆる情報を網羅した、攻略本を配布したいと考えております。一層対応版を急ピッチで作成してまいりますので、無理な攻略を敢行せず、しっかりと生命の安全を確保したうえで、攻略に励んでいただけますよう、お願い申し上げます。
広報・新聞部 編集長 シンカー
《告知》
・全体説明会を実施します
内容:アインクラッドでの生活に関することについて
日時:本日(十一月七日)午前九時より
場所:黒鉄宮前
備考:皆様が一人も漏れることなく参加いただけますよう、ご案内申し上げます。
・攻略本部の所員大募集!
アインクラッド攻略対策本部では、これから様々な活動を行っていく予定です。それに伴い
まして、本部に所属してくださる方を大募集いたします。リアルで言うところの公務員に当
たる役職です。モンスターと戦うなんてムリ! という方や、裏方として攻略に貢献したい
方など、やりたいという意思のある方は、九時からの全体説明会終了後、黒鉄宮大広間にお
集まりください。
・攻略組説明会を実施します
内容:積極的に迷宮区攻略を目指すものを対象に、攻略組についての説明会を行う
日時:明日(十一月八日) 午前九時より
場所:宮殿内大広間
・鍛冶師志望者を対象に、説明会を実施します
内容:同上
日時:十一月八日 午前十時より
場所:宮殿内B室(案内図を確認するように)
・カウンセラー募集!
内容:カウンセリングを行えるプレイヤーを募集します
日時:十一月八日 午後十一時より
場所:宮殿内C室(案内図を確認してお越しください)
備考:人数が二十名を越えなかった場合、人手不足でカウンセリングが不可能と判断し、
カウンセリングを廃止いたします。申し訳ございませんが、ご了承ください。
・学校説明会を実施いたします
内容:教師志望者、および入学希望者を対象に、説明会を実施します
日時:十一月八日 午後一時より
場所:宮殿内D室(案内図を見て、間違いのないように気をつけてください)
☆ 攻略対策本部室は、宮殿内A室に設置します。疑問点や要望などがある方は、専用のポストと
用紙を準備する予定ですので、記入・提出してください。直接対応は出来かねますので
ご了承ください。また、投函していただいても対応できない場合があります。こちらも併せて
ご了承いただけますようお願いいたします。
以上
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アインクラッド攻略対策本部ができて、すでに四日が経った。
ボクたちは初回のあの会議には出席したけれど、高幡さんの願いもあって、以後は攻略に精を出していた……はずだった。
ところがどっこい、そうは問屋が卸さなかった。なにしろ役員の初期メンバーはたったの六人しかいないから、人手が全然足りない。
告示のその日に役員を募集して、ありがたいことに五十七人もの人が集まってくれていたけれど、約一万人に上るプレイヤーをまとめるにはあまりに手が足りなくて、猫の手も借りたいような忙しさ。と言ってもボクは書類整理くらいしかやれることがなくて、姉ちゃんたちが難しい顔で額を突き合わせて色々話し合っているのを見て、なんとなく疎外感なんかを感じたりしていた。
ただ、姉ちゃんたちの頑張りをもってしても、本部の滑り出しは、お世辞にも良いものとは言えないと思う。まず、パースさんが担当だったカウンセリングは、申し出てくれた人数が三人だけで、全く回らないということで廃案の憂き目にあった(もっとも、パースさんはそのことを、たいして気にしていない様子。どうやら、最初からある程度この結末を予想していたみたいだ)。
人数不足は戦闘訓練も重大だった。ベータテスターに教官になってもらって……というのはいい案だと思うんだけど、一口にベータテスターと言っても、その技量はピンからキリまで。教官になれそうにない人や、どうしても自分には無理、と言って断る人も数知れない。結局残ったのは、全ベータテスターの約四分の一、二百十二人だけだった。
また、訓練をする場所も、街の中では、宮殿前の大きな広場と、宮殿の中の四つの部屋、一つの大広間、あとは点在している小さな広場しかない。全員一気に訓練は無理そうだ。
……ということで、告示にある通り、攻略組の人と、素材集めや、メイスを扱うためにレベリングが必須になる鍛冶師志望を優先して、訓練を行うことになった。
ちなみに、攻略組には五百人くらい、鍛冶師には三百人くらいが応募したから、合計約八百人だ。
ちなみに他の部署は、広報・新聞部が二十六人。学校だと、教師が三十人、生徒が、高校生八十一人、中学生六十二人、小学生十九人。高校生は随分と減ってしまった。……ちなみにボクたちは、自由登校にさせてもらった。
そして今日は、初の戦闘訓練。空は快晴。絶好の運動日和だ!
黒鉄宮前の広場には大勢のプレイヤーが集まっていた。練習できる場所が限られているから、ここには合計十五組、四百人に及ぶ生徒が訓練に励んでいる。
そしてボクも、その中の一組を率いていた。
「じゃ、お手本見せるからみんな見てて~!」
ボクはそう言って、生徒三十人(……と言ってもほとんどが大人)を前にソードスキルの体制に入った。
どんどん光に包まれていくボクの剣をみて、おぉ~、という歓声が上がった。
しっかりとタメを作ったら、一気に踏み込んで、スキルを発動させる。
……さらに盛り上がるのを聞き流しながら、ボクは今の状況にため息を吐きたくなっていた。
ボクはあんまり教えるのが得意じゃない。小学校では、勉強はそれなりにできたから、友達に「勉強を教えて欲しい」、と言われることもあったけれど、上手く教えられなかった。
姉ちゃんにそのことを話したら、ボクが感覚で覚えていくタイプだからだと言っていた。感覚では人に教えるのは難しいらしい。
だから、今回は一応、みんなに言葉も使って教えているのだけど、ほとんど姉ちゃんの受け売りみたいなものだった。
でも、泣き言は言っていられない。兎に角みんなには早くうまくなってもらって、次の人たちにも教えなきゃいけないんだ。
フンス、と気合を入れていると、唐突に、ポンポン、と肩をたたかれた。
「あ、あの、ユウキさん、もう一回さっきの、教えてくれませんか……?」
肩口まで伸ばした茶色い髪をツインテールにした、目のパッチリとしたカワイイ女の子が、腰が引けたような様子でボクの目を覗き込んでいた。
あぁ~、ボクが先生なんて……。
早速心がポッキリ行きそうだ、と内心で思いつつ、ボクは笑顔で対応する。
「ボクのことはユウキって呼び捨てでいいよ! じゃあもう一回やるね、え~と……」
「あ、わたしシリカって言います」
「うん! じゃあシリカさん、よ~く見ててね!」
再びソードスキルの構えを取る。シリカさんはそれを、真剣なまなざしで観察していて、なんだか気恥ずかしく感じた。
「ソードスキルって、ようは溜め打ちみたいなものなんだ」
自信満々──に見えるように、ボクは言った。シリカさんは首をかしげる。
「溜め打ち、ですか?」
「そう! ソードスキルを発動させるためのポーズみたいなのがあって、そのポーズのまましばらく待つんだ」
説明しながら、剣を左肩の上あたりまで持ち上げて、担ぐようにする。
「そうすると、どんどん力が溜まっていくから──」
片手直剣の初期スキル、スラント(左上から斜め下に切り払う技)の水色の光が、剣に収束していき……
「それが一番高まった、と思った瞬間に、決められたやり方で剣を振る。そうすれば発動できるはずだよ、こんなふううに!」
思いっきり踏み込んで、発動!
おなじみになった、スバァァァン‼ という効果音とともに、中空に水色の軌跡を描いた。
技後硬直が解けてくるりと後ろのシリカさんを見てみると、目をキラキラ輝かせていた。
「かっこいい! その、決められたポーズとか振り方って、どうやって知るんですか? 私、ユウキさ……ユウキと違ってダガーですし、そういう動きとかも違うんじゃないかなって思って」
「うん、ボクも初期のダガーのソードスキルには詳しくないんだ。だからボクに教えられるのはコツみたいなものだけになっちゃう。ごめんね?」
「あ、い、いえ! そんな、ユウキさんが謝ることじゃないです! 私がダメなだけで……。 えと、で、ダガーのソードスキルのやり方って、どうやったら分かりますか? 調べる方法とか、ないんでしょうか?」
「メニュー欄に、習得してるスキルを一覧で出してくれるのがあるから、それを見ると書いてあるよ。ちょっとやってみて」
「は、はい!」
シリカさんはメニューを繰って、何回かタップすると、
「あ、ありました!」声を上ずらせながらボクにスクリーンを見せた。
「これですね!」
「そうそう! ここに表示されるとおりに動かしていけば、ソードスキルなんて楽勝だよ。早速試してみて!」
無責任なことを言ってみる。実際はそこまで簡単じゃないんだけど。ただ、「難しい」と言われて取り組むのと、「簡単だ」と言われて取り組むのとでは、たぶん後者の方が、上手くいきやすいんじゃないかと思う。変に身構えてしまうと、余計な力が入って、上手くいかないこともあるし。
「はい‼」
シリカさんは嬉しそうに笑って、ダガーの初期スキル、アーマー・ピアースの動作に入った。表情も真剣なものに変わる。
左胸の前に剣を構える。剣は寝かせた状態に。腰を軽く落とし、重心を下げる。すると、黄緑色のライトエフェクトが発生して、その光はどんどんと増していき、最高潮になったところで──
「やぁぁぁ!」
気合の入った叫びと共に、素早く突き出す。すると、アシストされたシリカさんの体は、目で追うことが難しいぐらいに加速し、光の尾を描いた。同時にバシュウ、という鋭い音が響き、三メートルほど進んだところで止まり、光も消失した。
「わ、わわ! すごい、すごいですよこれ‼ ユウキさん! これならどんなモンスターだって倒せちゃいそうです‼」
スッゴイ! 一発‼
初めて成功したソードスキルがよほど嬉しかったのか、跳び上がって喜んでいるシリカさんを尻目に、何とも言えないショックを受けた。
とは言え、さすがにどんなモンスターでも倒せはしないなぁ……。
「あとは慣れるまでひたっすら練習だよ‼」
「はい‼」
元気のいい返事を聞いてから、ボクはシリカさんの元から離れた。と、すぐに違うところから声が掛かる。
「ユウキちゃ~ん! ソードスキルのやり方、もう一回教えて!」
「はいはーい! お兄さんちょっと待ってて!」
これは忙しくなりそうだ!
でも、いつの間にか、ボクの中から重い気持ちはなくなっていた。
教えるって、意外に楽しい‼
*
「あの、ユウキさん!」
初訓練が無事に終わり、帰ろうとしていたボクの肩を、シリカさんがたたいた。
「ソードスキルを教えてもらって、ありがとうございました!」
「ううん、ボクも教えるの楽しかったから、全然いいよ!」
「それで、あ、あの……」
「どうかしたの?」
「ほ、本当はこういうこと、聞いちゃいけないんだと思いますけど……ユウキさんって、おいくつなんですか……?」
唐突な質問にボクは目をいただいて、
「ボク? 今十一歳だよ」
特に隠すつもりもなかったので軽い調子で言う。すると、シリカさんは目をまん丸に見開いて固まっていた。ややあって、
「十一歳⁉ ホントに⁉」
心底驚きました、という気持ちが声の大きさに表れている。その驚きように、ボクのほうが呆気に取られてしまった。
「う、うん。そんなにびっくりしなくてもいいんじゃないかな? ボクは見ため的にもそれくらいに見えると思うけど……」
「あ、すいません、あの、私よりも年下だったんだって、つい……」
なぜかシリカさんは、落ち込んだように肩を落としてしまった。
「シリカさんは何歳なの?」
「う……私は、十二……です」
「へぇ‼ じゃあシリカさんはボクの一個上なんだ! 同い年くらいの人がボクの担当にいてくれてよかったぁ! 大人の人ばっかりで──シリカさん……?」
なぜかシリカさんは、下唇を噛んで黙り込んでしまっていた。顔を俯けているから、表情を読み取れない。
「……あの、一つ、聞いてもいいですか?」
小さな声で、シリカさんは言った。
どうしたんだろう……。
「うん、何でも聞いてよ! あと、敬語は使わないで。なんだか他人行儀というか、あんまりボク、敬語って好きじゃないんだ。子供扱いもイヤなんだけどね!」
フクザツなお年頃なのです! とふざけて言うと、シリカさんは、顔はちょっとひきつっていたけど、ようやく笑ってくれた。
ひとしきり笑いあって、それがおさまると、はぁ、とため息をついて、ぼぅっとした瞳で前に視線をやって、シリカさんはボクに、静かに問いかけた。
「ねぇ、ユウキ。私は、どうしたらユウキみたいに強くなれるのかな……?」
今にも泣きだしてしまいそうな、ねじった針金みたいに、細くて曲がりくねったように不安定な声だった。
「ここに閉じ込められたとき、私、ただ泣いていることしかできなかった。何にもできなくて、ただ流れに身を任せてただけだったから……」
「でも、ユウキは違う。自分だけじゃなくって、他のたくさんの人まで助けようってがんばってた」
そんなことない! と勢い込んで反論しようとしたけれど、シリカさんが纏う……一種の儚さ、だろうか……?
その独特の、曇り空の下の凪いだ海みたいな、欝々とした雰囲気を前にして、声が出なくなってしまった。
「ユウキ、私ね。この世界で生きていける自信がないの。お父さんもお母さんもいないここで、どうやって生きていったらいいかわからない。……私だってまだ子供なんだし、当たり前なのかもしれないけど……。ねぇ、どうしたらユウキみたいに、強くなれるかな……?」
ボクは答えに困ってしまった。そもそもで、ボクは自分が強いだなんて全く思っていない。いつも家族に……特に姉ちゃんに支えられて、ここまでやってきた。
今回のことだって、みんなに呼びかけたのはボクだけど、発案は姉ちゃんだった。ボクはただ、それに乗っかっただけ。
それでも、ボクにも言えることがあるとすれば。
「シリカさん。ボクは、自分が強いだなんて思わない。ボクがあの宮殿の前で、あんな風に呼び掛けることができたのは、姉ちゃんのおかげなんだ。リアルでもそうだったけど、姉ちゃんにはいつも助けられてきた。まぁ、たぶん、姉ちゃんも姉ちゃんで『ユウに助けられてきた』って言うんだろうけどね」
それは自惚れではなくて、ボクと姉ちゃんの関係はそういうものだ。今までずっと、互いに助け合いながら、二人三脚で歩んできたから。
「心から信頼し合って、助け合える仲間がいれば、自分が思っている以上のことができるようになる。ボクは、そう思うな……なんかクサいね」
自分の言っていることが恥ずかしくなってきて、ボクは苦笑した。でも撤回する気はない。それは、あくまでボクの本心だから。
「……そっかぁ……」
シリカさんは物憂げに言って、うっすらと笑みを浮かべる。今にも消えてしまいそうなその笑みで、なんだかボクは不安になった。
このまま、どこかに行っちゃうんじゃないか。
……どこかでこの感覚、あったなぁ、と思ったら、ボクが『ソロで行く』って言いだしたときのことが思い浮かんだ。
そっか、ボクはこういう風に見えてたのか。
……なら、やることは一つ。
「ねえ、シリカさん」
ん? とシリカさんは首を傾げた。
「これから、ボク達と一緒に攻略しない?」
そうすれば、シリカさんの力になれる。それにボクも、同年代の友達ができて一石二鳥だ。
でも、シリカさんは、え⁉ と驚いた顔をして、勢いよく否定した。
「ダメだよ! 私足手まといになっちゃうから」
足手まとい、だなんて、ボクは絶対に思わないんだけどな。でも、気を使われると遠慮したくなっちゃう心情も理解できた……ボクにはあまりない感覚ではあるけれど。
一方的にこっちが気を使ったような感じになっているから、シリカさんが受け入れづらい、ということなら、ボクの方にも利があることを伝えればいい。
「大丈夫! シリカさん筋がいいし、すぐボク達にも追いつけるさ! あとほら、ボクとしては、同年代の人との方がやりやすいっていうか……だからさ、ボクを助けると思って、ね! お願い‼」
本部公認で攻略に挑むには、六人パーティーで行かなきゃいけない。人数がほしいのは本心だったし、それが同年代の方が気が楽だというのも本当。
シリカさんは今度は困ったように眉を下げ、眉間にしわを寄せた。「うーん……」と声に出しながら、俯き加減に考え込む。そして、
「そこまで言うなら……」
と、苦笑を浮かべながらうなずいた。
ぃよっし!
「そうこなくっちゃ! 早速ランにも会いに行こう!」
善は急げってよく言うし、ランにもはやくシリカさんを紹介したかったし、逆にシリカさんにランを紹介したかった。
「え⁉ いまから⁉」というシリカさんの声が聞こえた気がしたけれど、ボクはシリカさんの手を掴んで、ぐいぐいと引っ張り、
「レッツゴーー‼」
と笑いながら叫んだ。
今日は快晴、時び頃は夕暮れ。層と層に挟まれた空は、きれいな茜色に染まっていた。とても温かくて明るい、心の色だった。
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この世界に閉じ込められてから、数日が経って、プレイヤーのほとんどはホテルなどの宿泊場所に収まったようだ。
ボク達もそれは例外ではなくて、できるだけ安い宿を選んで、二人一緒に使用していた。
場所は黒鉄宮前の中央広場から、五分ほどのところ。キッチンなし、お風呂場なし、さらに窓さえなし、というないないづくしの部屋に、ベッドが二つ。一応小さめだけど丸テーブルと、椅子がなぜか四脚もあった。
「ただいまー! 姉ちゃーん!」
部屋に入ると、ボクは開口一番で姉ちゃんを呼んだ。
「おかえりなさいユウ。……そちらの方は?」
いつも通り、ふわりと笑顔で出迎えてくれた姉ちゃんは、ボクと一緒にいたシリカさんを見つけると、きょとんと目を丸くした。
「ボクが担当してる女の子なんだけどね、ボク達の一個上なんだって! だから連れてきた!」
「……ユウ、理由が理由になってないよ?」
一転して呆れ顔の姉ちゃんは、シリカさんに向かって頭を下げ、「ごめんなさい、私の妹が迷惑をかけまして」と声をかけた。
ボクが迷惑をかけた前提ってどういうことなの……。
当のシリカさんは、手を顔の前でブンブン振りながら、
「い、いや、そんなことは……ソードスキルとか教えてもらいましたし」
姉ちゃんは、そう恐縮するシリカさんに、
「そう言って下さると、助かります」
と言いつつ、申し訳なさそうに眉を下げた。そこで姉ちゃんに申し訳なさがられると、ボクの立つ瀬がないんだけど、と思いつつ、ボクは二人が話しているのを横合いから口を挟まず聞いていた。
「……自己紹介をしていませんでしたね。私は、ユウキの双子の姉、ランといいます。よろしくお願いします」
「あ、私はシリカっていいます、こちらこそよろしくお願いします!」
「立ち話もなんですから、中へどうぞ」
「あ、いえそんな……」
「遠慮なさらずにどうぞ」
「すみません、ではお言葉に甘えて……」
この二人、なんだか母さんと近所のおばさんとのやり取りを見ているような錯覚を起こしちゃうな……。律儀というか、所帯じみてるというか。
丸椅子に座って、一息ついたころ。
「あの、二人は、双子なんですよね?」
シリカさんが姉ちゃんに尋ねた。まだ状況に慣れないのか、挙動不審気味にそわそわとしている。視線もあっちこっちに飛んでいる。
「ええ」
姉ちゃんが答えた。
「……あんまり似てませんよね」
シリカさんの声は控えめながら、ボクの胸にぐさりと刺さった。この言葉、いい意味で使われたことないんだ……。
姉ちゃんは、ちらっとボクの様子を見ると、ふふ、と少し笑って答えた。
「よく言われます」
「妹さんは、何というか……猪突猛進?」
「そうなんです。ユウは昔からこうで、よくお母さんにも叱られていました」
「……何でもいいけどボクがいる目の前でそういう話しないでよ!」
「それでユウ、結局なんでシリカさんを連れてきたの?」
「うわー流したー……。シリカさんに、ボク達と一緒に攻略しないかって聞いたんだ。そしたら、良いよって言ってくれたから、姉ちゃんにも許可をもらおうと思ってね!」
「なるほど、そういうこと。それならそうと初めから言ってくれればいいのに」
ジトリとした目で姉ちゃんに見られ、
「いやぁ、あはははは」
ボクは笑ってごまかした。
「で、どう? 姉ちゃん」
「私、入ってもいいんでしょうか……?」不安なのか俯いたまま姉ちゃんを見て、上目遣いになっている。一個上のはずなのに、本人のかわいさもあって胸にキュンと来そうになった。
姉ちゃんは、嬉しそうににっこりと笑って、
「もちろんです! 歓迎しますよ、シリカさん」
シリカさんにうなずきかけた。シリカさんは嬉しそうにはにかんで、
「ありがとうございます!」
と言った。これで四人目確保!
「ありがと、姉ちゃん。 六人まで、あと二人だね!」
ホッとしたのか、さっきまでと違い肩の力を抜いて見えるシリカさんは、ボクの言ったことに反応して、コテン、と首を傾げた。うむむ、いちいち仕草がかわいい……。
「あれ? あと二人、ということは、もう一人メンバーがいるんですか?」
姉ちゃんはコクりとうなずくいて、
「はい。キリトっていう男の子です」
シリカさんは怪訝な顔をした。
「あの、その人には、何か言わないで良いんですか?」
ボクは満面の笑みで言った。
「キリトはほっといて大丈夫! 決定権は全部、ボクたちが握ってるからね!」
「そ、そうなんですか……」
思い切り引かれてしまった……。
デス・ゲームに囚われてから四日。ボクたちはまだ、平穏無事に過ごせている。攻略もまだもう少し先だし、今はこの穏やかな雰囲気を堪能しておこう。
そのあと、シリカさんとの笑いの絶えないおしゃべりは、夜遅くまで続いたのだった。
これにて完全に書き溜めを消化しました。
これから投稿頻度が落ちると思いますが、気長にお付き合いいただけると幸いです。