りーさんが危ない危ない。
そして今後は黙示録よろしく独立か、巻かれるか。
職員室。
散乱した窓ガラスや血痕が当時、その部屋でどれだけの騒乱があったのかを物語る。
そんな部屋でみきとフランクは二人、何かないかと散策していた。
しかし、先日フランクが校内のゾンビを殲滅させた後一度調べた後なので大した成果は見当たらず。
すこしばかり暇と感じたみきは、あたかも当然のように女性物のスーツを着ているフランクにふと問いかける。
「そういえば、フランクさんは何でこの学校に残ったのですか?」
「スキャンダルは無さそうだが、ゾンビ蔓延る過酷な環境の中、学校で生活を送る少女達。そんな良いドキュメンタリーになると思ったんだ……カメラは無いけどな」
いつもは感情の揺れ幅が少ないフランクが明らかに落ち込んだ表情を見せた。
その言動こそはジャーナリストの鑑に聞こえるが、みきはその裏に匂うお金の香りに少しだけ苦笑いをした。
「カメラならきっと、学校のどこかにあると思いますよ?」
「だといいな。ミークン。あったらぜひ教えてくれ」
「みーくんじゃ……」
「うん?」
「いえ、なんでもないです」
フランクはくるみをクルミチャン、ゆうりをリーサン、みきをミークンと呼ぶ。
ゆきはゆきのままなのに、だ。
原因はゆきと最初にあったばっかりに、そう紹介されてフランクが覚えてしまったからだ。
しかも、否定しても聞き入れてもらえず、ふざけているのかと思えばそういった態度は微塵も見せない。
もはや、ゆきという名の呪いだ。だから、みきは心の中でゆきを少しばかり呪い返した。
明日、一回だけ何も無い場所で転べという呪いを。
「フランクさんは、ゆき先輩をどう思います?」
「どうとは……あれのことか?」
「あれです」
二人の指すあれとはゆきの現実からのショックから起きたと推測されるあの幼児退行や統合失調病に似た立ち振る舞いのことだ。
ゾンビが蔓延る今、ゆきの状態は極めてよろしくない。
だが、くるみもゆうりも治す所か、容認。
挙句の果てにはそれに合わせろと言った。
その件でフランクは空気を読んで同意したが、みきは一悶着あったが、なぜゆきが明るく振舞うのか。という理由を知って一度和解した。
しかし、今は対ゾンビのエキスパートのフランクがいるとはいえ、万が一ということもある。
みきの中では、ゆきの病気は治すべきだ。という考え自体は変わってはいない。
もう誰かを失い一人になるのはこりごりだからだ。
「良くはないな」
「ですよね!」
「けど、治って、暴れだすよりははるかにマシだ。元々俺がいた所も、目の前の現実に対して暴れだした人間がたくさんいた。ゆきには、あぁなってほしくはないね」
「……そんなこと言われたら何も言えなくなるじゃないですか」
「そもそもそんな邪険にすることはないんじゃないか?ゆきの顔見てたら、何だ。真面目に考えるのが馬鹿らしくなるだろ?」
「そういう問題ですか?」
「たぶんな」
ガムテープを握り、ふむと頷くフランクにみきはあんまりだと視線を送るが、ぱさりと落ちた書類に思考を切り替えた。
書類の題は職員用緊急避難マニュアル。
学校内にまだ役に立つ物資があるそんな軽い気持ちでみきはそれを読み始めるが、内容に背筋が凍った。
しかし、フランクはそれを読み上げると。
「ランダル・コーポレーションか」
スキャンダルの香りに、少しだけ笑みを浮かべた。
―――――――――――――――
ゆき以外の生活部の皆が一つの書類を注視していた。
書類内容は簡潔に言えば、私立巡ヶ丘学院高校はゾンビ溢れるこの災害を想定された建物であり、教員達はこの事態に対して最適な指示を送られている。
それにも関わらず、フランクは顔を知らないめぐみという名からか、めぐねぇと呼ばれる教師はその指示に従わなかった。
それは未開封の証である封が切られているのと、学園生活部を設立したのが何よりの証拠となっている。
心の奥底では目の前の災害にうろたえる生徒を弄んでいたのか。
フランクは、めぐねぇは知らなかったから関係はないと否定するくるみとゆうりを見ながらも、本人に会ったことがないだけに、疑った。
「分かったように言うな!」
「ですがそうとしか!」
「くるみ!」
「待った待ったクルミチャン。グーはいただけないな」
加熱した二人を、フランクとゆうりは引き離し、やれやれとため息を吐く。
めぐねぇに対して抱く想いが知人以上か以下の関係か、そんな大きな違いを口論しても決着は着くはずもない。
ただ、くるみは握っていた拳が誰に向けようとしていたのか。
それを理解してか、握った拳は解くと気まずそうな顔をした。
(ゆきがいないとどうなっていたことやら)
ギスギスとした、緊張感のある重い雰囲気が部屋を覆う中、フランクはゆきの無邪気な笑みに釣られて笑う少女達を思い浮かべていた。
ウィラメッテのショッピングモール内でも似たような雰囲気を幾度となくフランクは味わったが、ウィラメッテの面々で起こる争いと学園生活部で起こる争いでは、その影響の差は余りにも大きい。
17、18歳とは言えども学園生活部は全員まだ幼すぎる。
言いたいことも、したいことも山のようにある。我慢も苦手だろう。
何より、一度でも大きな遺恨を残せば、後々それを押し殺してでも、協力することが、大人ですら出来ない者が多いというのに、少女達に出来るだろうか。
(ここは仕切らないといけないな)
ゆきは目の前の現実に対して幼児退行を起こした。
だが、どんな状況でも明るくあり続ける事は誰にでも出来るものではない立派なことで、心は折れていない。
くるみとゆうりがめぐねぇを亡くしても折れなかったのも、ゆきという守るべき存在がいるから死ねないという感情が、良い方向に働いたからだろう。
ゆきとは違い、ウィラメッテで心が折れて狂っていった人々を思い浮かべつつ、フランクは口を開くが、その前に生活部の中のまとめ役であるゆうりが動いていた。
「どうして話してくれたの?」
優しくはあるが、強く問いかけるそんな言葉だ。
それに対し、みきは一考した後。
「私も学園生活部の部員ですから」
そう強く答えた。
その後、書類から学校の地下には多数物資が判明。
翌朝、フランクが一人で偵察するという大まかな計画を立て、書類についての話を終えた。
――――――――――
「フランクさんフランクさん」
「何だ?」
「皆何を悩んでるんだろうなーって思って」
「ゆきは気にするな」
「えー!気になるよーねぇめぐねぇ?うん。えー?気になるものは気になるよ」
虚空に向けて、言葉を投げかけるゆきだが、当然返事はない。
しかし、ゆきは相槌を打ち会話を続け、時折フランクにも話を振る。
なのでフランクもそこそこ合わせながら返事を返す。
二人なのに、三人でいるかのように話す。
奇妙ではあるが、二人は穏やかだ。
「フランクさん。これ被ってみる?」
「お、いいのか?前から被ってみたかったんだ」
「いいじゃんめぐねぇ。フランクさんも被りたいって言っているし」
「あぁこの、尖っている所とか気になっていたんだ」
差し出された帽子を被り、フランクはどうだとゆきに問いかけるが、返ってきたのは腹を抱えて笑うゆきの姿だけだった。
夕焼けに落ちた学園生活部内で、そんな談笑を二人はしていると、ドタバタと響く足音と共に。
右肩辺りを噛まれた跡がついたくるみと、くるみを抱える顔を青くしたゆうりとみきが入ってきた。
今更ながらフランクさんはウィラメッテ(デッドラ1)の二日辺りからの登場です。
じゃないと寄生虫やらゾンブレックス問題が出ますのでご理解を。