壊れてしまうという意味だけではない。
慣れてしまい幸福を感じる事が出来なくなるという事も含めただ。
しかしいつか誰しも思うだろう。
「あの瞬間をもう一度」と、それは誰にもある願いだ。
真っ白いシーツを物干し竿にかけて、パンパンと引っ張りシワを伸ばす。
「ふー。これで全部だな……」
洗濯物を干していた男。狂弦が一息つく。
額の汗をぬぐいながら洗濯物を見渡す。どれもが風にゆらゆらとなびいている。
狂弦だけかもしれないが、真っ白な洗濯物は見ているとこちらの心まできれいになった気がする。
「うん。洗濯終わり!」
ニコリと笑い振り返る。
「終わったの~?」
地霊殿の縁側に座って、足をぶらぶらしていたこいしが駆け寄る。
「うん、終わったよ。今からお昼を作るからその後地上に行こうね」
こいしの頭に手を乗せなでる。
夏も終わりかけだが、まだ残暑は厳しいものが有る。
夏の涼を求め、今日の昼食は冷麦にした。
「わーい!うどんだ!!」
「違うって!コレはそうめん!」
一番先に入ってきたのはペットの二人組。
「冷麦です……」
遠慮気味に狂弦が訂正する。
「うにゅ?そうめんと冷麦ってどう違うの?」
「そう言えばアタイも知らないね」
「麺に色が付いてるのが有るかないかじゃないですか?」
そう言ってさとりが食堂に入ってくる。
「はい、薬味」
狂弦が薬味(ゴマ、生姜、ネギ)の皿をテーブルに置く。
「ねぇ?みんな知ってる?そばの笑い話なんだけど……」
その後も色つきの麺を誰が食べるかで揉めたり、お燐が猫なのにネギと生姜を食べて大丈夫なのか?という話題で盛り上がったりして、楽しい団欒の時間が進んでいった。
「狂弦!!そろそろ行こうよ!!」
食事の片付けも終わる頃、こいしが笑いながら言う。
待ちきれないのかもうすでに帽子をかぶっている。
「うん、行こうか……」
自身の部屋から財布を取ってくる。
「それじゃあ……」
「「いってきまーす」」
二人は仲良く地霊殿を出て行った。
狂弦が地獄街道を歩いていると次々妖怪に話しかけられる。
「あれ?狂弦さんお出かけ?」
「今日も二人は仲がいいね」
「狂弦!!また例の弾幕見せてくれよ!!」
行く先々で茶化されたりする。
「なんだろ?急に有名人になった気分……」
明らかに違う住民の態度に戸惑う狂弦。
「知らないの?前来た龍我との戦いで、派手に立ち回ったでしょ?それで今旧都ではちょっとした有名人なんだよ?」
こいしが自分の事の様に自慢げに話す。
「ええ!?そうなの!?」
少しこそばゆく感じる狂弦。
「へえ~ここが入口なんだ……」
橋を超えた先に有ったのは長い階段。
「と言っても途中で切れてるんだけどね」
「どうやって上に行くの?」
最もな疑問を狂弦が聴く。
「普通に飛ぶだけ」
そう言って浮かびあがるこいし。
「当たり前みたいに浮いたね……俺跳べないんだけど……」
「解ってるってほら、私におぶさって。変なトコ触っちゃダメだよ?」
そう言って背中をむける。
「触らないよ。俺はノーマルだよ」
そう言って背中に抱き着く。
「ゆっくり上がってくからね」
そう言って浮かびあがった。
上がる途中でおかしな妖怪とすれ違った。
ソレは桶の様な姿をしていた。一瞬だが桶の中の少女と目があったが、すぐに消えていった。
「あれ?今のキスメだ。あんなに急いでどうしたんだろ?」
「さあね。きっと約束でもあったんでしょ?」
そう答える狂弦だが、悪意が読める彼はなぜキスメが勢いよく降りて行ったか分かっていた。
数瞬前
{あ!誰か来た!脅かそう!}
{うわ!!変態が居る!!古明地さんのトコの子にしがみついてる!!ガチの変態だ!?逃げよ!!}
(しょうがないとはいえ……釈然としないな……)
時間ができたら空を飛ぶ方法を教えてもらう事を決めた狂弦。
「ここが地上か……」
久しぶりに浴びる太陽のまぶしさに目を細める。
「ここは妖怪の山の近くだね。前までは閉鎖的だったらしいけど、最近は幾らか開放的になったんだって。今度お弁当持って遊びに来ようよ?」
「いいね!!」
二人は人里に向かっていった。
「ようこそ!!人里へ。楽しんで言ってくださいね」
門番が笑顔でこいしを招きいれる。
「なーんか気に食わないな……」
狂弦が不満を述べる。
「何が?」
「門番だよ。俺が前、来た時はすごい高圧的だったんだよ」
「それは私がいるからだね。こう見えても有名なんだよ?」
こいしが胸を張る。
久しぶりに見る人里は平和その物だった。
人々が忙しく行きかい。
簡単な広場に紙芝居屋らしき人物がおり、集まった子どもたちに自分の持つ絵本を読み聞かせたりしている。
見た目の歳は、こいしと同じくらいの子供たちがはしゃぎながら走っていく。
「平和だな……」
実の事を言うと狂弦は班長の事を覚えており、少し人里に来るのは躊躇していたがそんな人間はほんの一部だけだと思った。
自身の能力で人の悪意の声を聴く。
どれも大したモノは無い、平均的な物だった。
「さあ。ケーキ買っていこうよ!!」
笑顔で狂弦の手を引くこいし。
「解ってるって。そんなにひっぱら……」
不意に狂弦の言葉が途切れ、足が止まる。
「杯正?」
人ごみに向かって誰かの名前をつぶやいた。
「どうしたの狂弦?」
不審に思ったこいしが聴く。
「あ!ごめん。昔の友達に似ていた人がいたからさ、つい話しかけちゃったよ。今行く」
人ごみに自身の親友に似た人物を見つけた。
思わぬ出会いに懐かしさを感じた。
「ねえ、狂弦の外に居た頃ってどんなんだったの?」
狂弦の言葉に興味がわいたのか珍しく質問の多いこいし。
二人は仲良く話しながらケーキやに向かう。
「わぁ!!やっぱりすごいな~」
こいしが目をキラキラさせながら、ショーウィンドウに飾られたケーキを見る。
この店の店主は偶然外来のお菓子作りの本を手に入れ、それを作ったら大ヒットしたらしい。
外の世界と遜色ない洋菓子の数々に思わず目を丸くする狂弦。
「これと、コレと……あ!あれも!」
次々とケーキを注文するこいし。
(俺の財布大丈夫かな……)
そろそろ止めたいが楽しそうにしているこいしを止める事は出来なかった。
「ありがとうございました」
「うわーい!!ケーキ!」
うれしそうな店員とこいし。
それと対象に顔色が悪い狂弦。
(まさか夢の「全部ください」をやることになろうとは……)
すっかり軽くなった財布を持ち大量のケーキと共に帰る。
空はすっかり夕焼けに染まっている。
「今日は楽しかったね!!」
先を言っていたこいしが振り向きながら笑う。
「そうだね。また来ようか?」
笑いあいながら地下へ帰っていく二人。
地獄に向かうというのに非常に楽しそうだった。
そんな二人を月が見下ろしていた。
月というのは平等な気がする。
幸福も不幸も平等に照らし出す。
もちろん悪も……
「ごっそさん!!」
班長が飲み屋から出ていく。
(ヒッヒッヒ。バカどもの金で飲む酒は最高だな……)
今宵も裏切り者に仕立てあげたヤツの金でタダ酒を煽る。
夜道に人影が有る
「ん?……お前は!!どうして!!此処に居るんだ!?」
その顔が驚愕に歪む。
「地獄から戻ってきたんですよ……」
それはかつて自分がハメた男。
居るはずがない男。
「う、うわあぁああ!!」
班長は逃げ出した。
道端の男が煙の様に消える。
「調子がいい。あんなにもはっきりと顕現できる。もうすぐ満月……か」
とある人物が逃げる班長を見ていた。
満足そうに話すその人物の喉には……Ⅵの文字。
この前旅行で黒部ダム行ってきました!!
チョット走っただけなのにメッチャ息きれた……
高山トレーニングってスゲー効果ありそうだと思った作者です。