その答えの一つとして本能を押しとどめモノという側面が有る。
しかし押しとどめられた本能は決して消えない。
決して……
「さて、この辺でいいか?」
龍我が狂弦を地面に下ろす。
「ありがとう、助かった」
礼を述べる狂弦。
「本来俺はここまでの予定だが……せっかく地上に来たんだ、適当に人里でも行くかな……」
龍我が人里に向けて歩き出す。
「待ってくれよ、その前に竹林の場所を教えてくれないか?」
狂弦が龍我に追いすがる。
狂弦は竹林の医者の居場所など知りはしない。
出来れば人里に近づきたくない狂弦にとって龍我は貴重な情報源なのだ。
「ああ、わかった……ん?お前、ソレ大丈夫か?」
振り向いた龍我が狂弦の持って来たカバンを指さす。
「へ?……あ!やっちまった……」
狂弦のカバンには穴が開いており、中身が殆ど出てしまっていた。
「さっきの一発だな」
二人は最後にこいしの放った光弾を思い浮かべる。
龍我がカバンの様子を確認するが、もはや機能していない。
「さとり様からもらったお金をばらまく事になるとは……」
どうやら現金は殆ど無いらしい。
「当たり前だが、医者に罹るのも金が要る。夜城おまえツテは有るか?」
「いいや、正直言って何にもない、たぶん俺が元居た長屋に行っても騒ぎになるだけだし……」
狂弦の状況はまさに八方ふさがりと言えた。
「なら、俺と妖怪の山に行くか?うまく行けば金が稼げる」
「え?」
それ以上何も言わず歩く龍我ついて行く狂弦。
わらにもすがる思いで妖怪の山に向かって行った。
場所は妖怪の山。その名の通り妖怪たちが支配する土地だ。
昨日来たときこいしは前よりは排他的でなくなったと言っていたが……
二人は入り組んだ山道を歩いていた。
木が多く茂り、太陽光を遮断し、足場が悪く移動も一苦労だった。
「こんな所でホントにお金が手に入るのか?」
不安そうに山道を歩く狂弦。
「問題ない。まあ、うまく行けばの話だが……」
「止まりなさい!!此処は妖怪の山の領地です!!」
突如として龍我の目の前に剣の切っ先が付きつけられる。
二人の目の前には犬の様な耳と白い尻尾をした人が立っていた。
わざわざ言う必要もないが強列な悪意を放っていた。
「お、おい!!龍我!!」
相手から発される悪意を受け狂弦があわてる。
「気にすんな。悪いが天狗様俺たちは
ニヤリと笑いながら天狗と呼んだ相手にそう告げる。
「そうか……また下らん人間が来たのか。良いだろう案内してやる、付いてこい」
天狗は剣を鞘に納め踵を返した。
そこからさらにしばらくうっそうとした山を歩く。
「ここだ、早く行け」
とある場所までつくと天狗は空を飛び姿を消した。
「龍我。ここは?」
人里、イヤ現代でも見た事のない場所に疑問を持つ狂弦。
いや、正確には知っているが、実際には見た事が無い場所だった。
「何って、闘技場さ。なか入るぞ?」
その時建物の中から歓声が聞こえてきた。
闘技場は歓声にあふれていた。
すり鉢状の観客席、その誰もがギラ付いた視線で戦う戦士たちを見ていた。
「やれー!!」
「ぶっ潰せ!!」
「殴れ殴れ!!」
悪意が瞬いていた。
「ここは妖怪の山の血気盛んな奴らが作った場所だ。最初は将棋や相撲だったらしいんだが……戦うのが好きなんだろ、今はこうなって勝敗に賭けまでついてやがる」
龍我が指を刺した席の横に付けられたボードにオッズが書かれている。
「まさか賭けで増やすつもりか!?」
狂弦が嫌な予感に声を荒げる。
「半分ちげーよ、言っただろ?参加するってな。ここは妖怪だけじゃねえ、人里の喧嘩好きの若もんや退治屋崩れなんかも自由に戦闘に参加できる、そこでファイトマネーを稼ぐのさ」
龍我が説明をするが狂弦にとっては、受け入れる事の出来ない内容だった。
「悪いけど俺は戦闘向きの能力じゃないよ……戦うのは無理だ」
悔しいが狂弦の能力では戦闘の決め手に欠けるのだ。
「知ってるさ俺はここで稼ぐ。お前には期待してねぇ、だが元手は用意してやるこのコロシアムの外に河童共がギャンブルをやってる。お前はそこに行って来い」
そう言って階段を降りはじめる。
「とりあえず、俺に有り金全部賭けな!!」
そう言って龍我は姿を消した。
「お!オイ!!」
狂弦は止めようとするが龍我は姿を消してしまった。
(仕方ない……これしか手段が無いんだからな……)
暫くしてイヌ耳の天狗がオッズのボードに龍我の名を書き足した。
どうやら龍我は本気で参加するつもりらしい。
「あ、あのすいません。賭けに参加したいんですけど……」
天狗におそるおそる話しかける狂弦。
「解りました。どなたに賭けます?」
「龍我にこれだけを……」
僅かに残った現金をすべて龍我に告ぎこんだ。
「解りました、どうぞ」
天狗は龍我の名の掛かれたチケットに、狂弦の賭けた金額を書き渡した。
(頼む勝ってくれよ~)
神に祈りながらステージに現れた龍我たちを見る。
選手たちの控室
控え室と言ってもただ参加者を集めておくだけの空間、大したものは何もなく里のゴロツキや退魔師崩達でごったがえしている。
(妖怪は居ないか……それともVIPとして別の所か……)
龍我が思考していると係りの天狗が現れた。
「お前たち出番だ!!1から8までステージに!!」
数人が立ち上がりステージに向かう。
(俺もか……)
龍我も自身の参加した数字が有ったため立ち上がる。
わあああああ!!!
ガヤガヤ!!
ヒューヒュー!!
ステージに上がった瞬間、観客が一気にヒートアップしてくる。
龍我の来た逆側から河童が現れる。
(やっぱ妖怪は別件か……いいね!)
ギラリと龍我の犬歯が光る。
おそらくこのステージ、人間たちが全員で妖怪と戦うように想定されているのだろう。
実際何人かが結託して河童を倒す算段を立てている。
「ルールは簡単!!気絶またはギブアップで敗退!!最後に生き残った者が勝者です!!」
空を飛びながら今度は鴉天狗が喚き散らす。
「そ・れ・で・は!!試合開始!!」
龍我と河童以外の7人が同時に動き出した!!
3人の若者が河童に向かう!
正確には3人しか迎えなかった、だ。
河童に攻撃を仕掛けようとしたのは全部で5人いた。
最初の1人は龍我の横を通ろうとした時、すでに龍我の拳によって地面にたたきつけられていた!
2人目の犠牲者は最後に河童にとびかかろうとした人物、一人目の気絶を確認した龍我によって同じく拳で沈められた。
龍我が河童の方に向き治ると、すでに3人は気絶していた。
「ヨット!!」
河童が気絶した一人を投げ、距離を取っていた退魔師崩れを気絶させた。
「こ、降参です!!」
最期に残った一人が両腕を上げる。
これでステージに残ったのは河童と龍我のみだった。
「お前、なんで仲間を倒した?」
河童が不思議そうに聴く。
「あ?仲間?こいつ等はただのアンタの前座だろ?」
龍我が倒れた若者を見下す。
肉食恐竜を思い浮かべさせる好戦的な笑みを浮かべる。
「面白い!!ニンゲンの分際で河童にサシで勝負を挑んだ事は褒めてやる!!」
河童が龍我に飛びかかる!!
「あらぁああ!!」
右手の拳を素早く握って河童の顔面を狙う!!
「こッ……ピ!!」
龍我の拳がめり込み河童が後ろに吹き飛ぶ!!
「お、おまえ……強いな……ゲブ!!……さっきは油断した」
口を切ったのか僅かに口から血を流しながら立つ河童。
「まだ立てるのか……」
龍我が口笛を吹く。
「お前は!最高に恥ずかしい負け方をさせてやる!!」
飄々とした態度が気に食わなかったのか、激高する河童。
河童が右腕を胴体にひっこめる、すると逆の左手が伸びた。
「何!!」
伸びた左手を龍我に叩きつける。
「どうだ?俺は左右の手の骨が体内で繋がってるのさ!!だから!!」
今度は左手が胴体にひっこめ、右手が伸びる!!
「左右の腕の長さを操れるのさ!!どうだ?圧倒的なリーチの差!!お前は俺に触れる事さえ出来ない!!」
今度は左手が伸びる!!
「お前馬鹿か?」
ガシッと河童の腕を掴む。
「なっ!!」
「こうなりゃ俺は両手が使えるんだよ……な!!」
そのまま河童の腕をホースをしまうように巻き取る!!
当然だが腕の中には骨が有る。
べきべきと嫌な音がする。
「ぎ……やぁあああ!!」
「どうした?降参しないのか?全部巻き取られたら、一方的にやられるだけだぞ?」
龍我は腕を尚も巻き取りながら話す。
「わ!わかった!!降参!!!降参だ!!」
悲痛な声で河童がギブアップする。
「勝者が決まりました!!勝者は龍我選手です!!」
鴉天狗が龍我の腕を取り天高く掲げる。
会場は人間の勝者の誕生に一気に湧いた。
その様子を一つの席から見ていた鴉天狗が居た。
「あやや。新聞のネタが無いかと思い来てみましたが……アレはいけませんね、此処は妖怪たちが自分の戦闘本能を解消する場所です。人間が大きな顔をされては困ります、やはり人間には妖怪に勝てないと思ってもらわなくては……仕方ないですね!」
その天狗、射命丸 文は立ち上がった。
私は別に妖怪の山が嫌いな訳ではありませんよ?
ホントです、椛とか滅茶苦茶好きですよ?
モブ河童(男)には悪い事したかな……