「誰かが願ってくれたから」
「私こそが至高なのだ!!」
「誰かといるから強く成れる」
「私の欲望を邪魔するモノは……」
「悲しみを産むだけの悪意は……」
「「絶対に許しはしない!!」」
厳粛な空気の中、狂弦の裁判が行われていく。
裁判と言っても人間がするような物ではなく、裁判官 四季映姫が裁きを下すだけの物である。
「貴方の行いはすでに把握済みです。幻想郷に来る前はあまり精力的に生きていなかったようですね。そのせいで此方に妖怪たちのエサとして呼ばれたのでしょう」
『エサ』映姫は狂弦の事をそう呼んだ。
その言葉が重く狂弦にのしかかる。
(俺は……不要な物として……落とされたのか……)
打ちひしがれた狂弦を無視し、さらに映姫は言葉を続ける。
「そして魔法の森で死にかけた所、正体不明と接触以後、人里、地霊殿と住居を転々とし先日同じく正体不明と接触したとみられる人物により古明地 こいしを庇って死亡……間違い有りませんね?」
読み上げていた経歴を確認する。
「間違いありません……」
「では早速ですが判決です。貴方は少し罪が重すぎます、無気力な生活、そして正体不明との接触をしたとはいえ、不正に現世にとどまりました。さらに博打、他者に対する裏切り、地獄からの脱獄を企てるなど余罪も多く有ります。その結果貴方は『黒』!!無間地獄行とします!!」
映姫がそう告げると共に獄卒と思われる、鬼たちが狂弦を捕まえ引きずり始める。
「いやだ!!は、離せ!!俺は……!!俺は戻らなくちゃ……」
「貴方はもう既に、現世に不法に滞在していたのですよ?これ以上の罪は犯させません」
ギ、ギギ……
重苦しく重厚な音を立て、巨大な扉がゆっくりと開かれる。
扉の中から、むせる様な血の匂いと絶えることなく聞こえる、呻き声が「地獄」を意識させる。
「ほらよ!!」
「うわぁ!!」
狂弦が地獄の扉に投げ込まれる!!
そして扉がゆっくりと……
閉じた。
地霊殿跡地
「ふぅ……実にめんどくさいな……」
オルドグラムが足元のゴミクズを蹴飛ばす。
「少しばかり派手にやり過ぎたか……反省しなくては……おっと見つけたぞ」
そう言った遂に灼熱地獄の入り口を見つける。
地霊殿の崩壊に巻き込まれたのか、中にお空は居ないようだった。
スーッと灼熱地獄の香りを嗅ぐ。
「素晴らしく純度が高い、魂の入れ物だ……これを取り込めば…………ええい!!うっとおしいぞ!!」
そう言ってステッキを自分の背後にふるうう。
当然ステッキには何もついてないが、オルドグラムの背中には3本のナイフが突き刺さっている。
「こそこそと、隠れよって……まるでドブねずみだ!!」
何もない虚空に再びステッキを振るう。
僅かな手ごたえにオルドグラムがほくそ笑む。
(致命傷には程遠いが、当たったな……)
オルドグラムの周囲には、無意識化したこいしがいるのだ。
目視不能な攻撃をたびたび仕掛けてくる。
「次は何処……!!」
言葉を言い終わる前に、肩に焼け付くような痛みが走る!!
「ぐぉ!銃撃か!!……だが、直線でしか攻撃出来ない事が仇になったな!!【『浮上』
その言葉と共に地面から、異形が出現する。
人より明らかに高い身長に、頭部が林檎、そこに多数の弓矢が突き刺さっている。
「……おぉぉ……」
自身の頭に有る矢を引き抜き。弓矢として攻撃が有った方に飛ばした!!
「がぁ!?あぁ……」
「よぅし!!当たった様だな……」
右肩に矢を受けたこいしが、地霊殿の木材に磔になっている。
必至に肩に刺さった矢を引き抜こうとしている。
「良い顔だ……どんな生き物でも死にざまはワクワクするなぁ?」
ドロリとした笑顔を貼り付け、ゆっくりと動けなくなったこいしの歩みよる。
痛み、恐怖、憎しみ、それらの感情がないまぜになった他者の表情が、オルドグラムはたまらなく好きなのだ。
しかし。一点、一点だけ気に入らない所が有った。
「なぜこの状況で絶望しないんだ?」
こいしの両手を壁に押さえつけ、オルドグラムがその瞳を覗き込む。
「許すな……刻め……」
ぼそぼそと憎悪を込めた瞳の奥に、かすかな希望を抱いていた。
絶望がオルドグラムの最も好きな感情とするならば、希望はその対極に有る物。
オルドグラムがそれを許す訳がなかった!!
「……そうだ。思い出したぞ。お前あの日、竹林に居たヤツだな?そうだ、私がお前の従者を殺してやったんだよなぁ?そうかぁ、その従者の復讐か。無様だなぁ?無力だなぁ?地獄に落ちたら先に行ったアイツにどうやって殺してもらったか教えてやると良い……」
一歩下がり、ステッキを振りあげる。
「情けとして、同じ技で葬ってやろう【浮上『
ステッキを振り下ろそうとした瞬間!!
「悪いけど……巫女なめんじゃないわよ!!」
「!!」
無数の光弾がオルドグラムに走る!!
一瞬舌打ちをし、ステッキをこいしではなく光弾に向かって振る!!
たった一振りで光弾の殆どが消滅した。
「ふはは!!残念だったな!!私がその程度で……」
「残念なのはソッチだぜ?私がもう此処に居る!!」
自身のすぐ後ろで声がする。
そう、この声は……
「魔法使い!!」
「魔理沙だ、名前は覚えなくていいぜ!!ゼロ距離!!『ファイナルスパーク』!!」
まるで地下すべてを照らすような鮮やかな光が、オルドグラムに押し付けられたミニ八卦炉から迸る!!
「霊夢!!いまだ!!復活する前に封印しちまえ!!」
「分かってる!!」
オルドグラムが居たハズの場所に、複数のお札が投げつけられる。
蓬莱人の肝を食ったオルドグラムを倒す方法。
それは殺すのではなく封印する事。
霊夢と魔理沙は二人でこの作戦を立てていたのだ。
「やったぜ!!遂にアイツを……」
「まだ、封印が完了する間で……」
二人が同時に口をつぐむ。
ファイナルスパークが過ぎた、焼け焦げの後には……
一匹の兎が立っていた。
そして一瞬にした兎が、消えオルドグラムが姿を現す。
「……知っているか?月には兎がいるそうだ、火にくべても死なない兎がな……」
ニヤリと笑うと同時に霊夢、魔理沙の両名がその場で倒れる。
「人は脆いな……かわいそうに……夢も希望のやがて霧の様に薄く消えてゆくのだな……」
そう、オルドグラムがつぶやき、ゆっくりと再びこいしに歩みよっていく。
こいしは一人、絶望的な光景を目にしていた。
動けない身体、崩壊した自分の家、地に伏す二人の英雄、死んだ狂弦。
そのすべての元凶がこちらにゆっくりと歩いてくる。
(もう……終わり……?)
全てを諦めかけた時、声が再び響く。
「願って!!奇跡を!!……それは!!思いに反応する!!もう一度!!強く!!」
その言葉を発した主は自分の近くに居た。
嘗てオルドグラムだった少女。
十村 麻衣。
「貴方の持ってるそれは……奇跡を起こすための……がぁ!!」
オルドグラムが麻衣の首を持ち締め上げる!!
バタバタと手足がむなしく空を掻く。
「お前は……もう既に用済だ。見逃してやった物を……何故無駄な事をするんだ?」
「お前に奪われた物を……取り返す為……!!お父さんの……里の子供たちの無念を……!!」
「無駄な感情だ!!いいか!?この世は強者こそすべて!!強者だけがすべてを!!世界を手に入れる!!ルールに成れる!!お前たち弱者はただの私の踏み台だ!!養分だ!!暇つぶしに壊される玩具だ!!」
「願って!!奇跡を!!貴方の気持ちを……込めて!!」
「いつまでも煩いな……いい加減イライラしてきた……!!」
目の前で行われる暴行。
そんな中、こいしはそっとポケットから狂弦の残した石を取り出す。
(願ってみよう……もう一度会いたいと!!強く!!)
そして、結晶は輝き、奇跡は起きる。
ただ一人の願いが、世界のルールすら歪め……
「ほう?ナンバーⅣの結晶か……これがおまえの希望か?」
すぐ近くで
「奪ってやろう」
ガシッ!!と結晶を掴まれる!!
「い、いや!!」
しかし決死の抵抗もむなしく……
「今からぁ!!お前の最期の希望を奪ってやろう!!」
ひゅん!!
希望が空高く舞う。
そして……
「【浮上『
空中で結晶がバラバラに砕かれた。
「あ、ああ、ああああぁああいやぁああ!!」
「ふは!!ふはははは!!はははははは!!」
狂喜と絶望、二つの声がこだまする。
「はぉうら……燃えるぞ?お前たちの灼熱地獄に最後の希望が落ちてゆくぞ!?はははははははははっはははは!!!そうだ!!その顔が見たかった!!!はははははは!!」
狂ったようにオルドグラムが笑い転げる!!
希望は……無い!!
「違うわ!!」
全ての望みが断たれた中、一人、たった一人だけ異を唱える者がいた。
十村 麻衣。
その人だった。
「何が違うんだ?」
醜悪な心を持った魔獣が振り返る。
「貴方が最期のピースだったのよ!!貴方が……貴方がさんざん利用した私の力が!!最後の可能性!!【反魂『みんな、起きて』】!!」
麻衣の右手にベルが現れ、一振りした。
金属の音が旧地獄に優しく響いた。
もちろん、目の前の灼熱地獄にも……
「オイ……出番だぜ!!」「分かってる!!」「野郎ども!!最後の一旗だ!!」
「集めろ!!」「こっちだ!!」「ここにも有るぞ!!」「狂弦を此処に!!」
それは狂弦が日々話しかけていた、地獄の怨霊たち。
麻衣は自らの力でその怨霊たちを反魂した。
「完成だぜ!!」
そこには砕けたハズの結晶が確かな形を保ち、直された。
その頃映姫の地獄はパニックに陥っていた!!
「この騒ぎはなんです!!」
ヒステリー気味に映姫は、近くに居た職員に話しかける。
「地獄に違法な侵入者が出ました!!」
「なんですって!?」
その言葉に映姫は耳を疑った。
地獄を出ようとする者は幾らでもいる。しかし逆に地獄に自ら行くものは居ない!!
「侵入者の正体は!?」
「それが……全身黒のノイズに数字が書かれた人型としか……」
「なんですって!?」
映姫はその人型をついさっき知ったばかりだ。
「まさか……!?」
がぎゃん!?ぐぎょ!?
歪な音を立て、地獄の扉が無理やり開かれる!!
狂弦はそれをジッと見ていた。
「あんたは……」
漆黒の身体に無数の数字、そして真っ黒なローブ。
間違いない。龍我が「黒幕」と呼んだ男がそこにいた。
「なんで、アンタが……」
その言葉に黒幕がこちらを見る。
相変わらず真っ黒いのっぺらぼうで、数字だけが消えては浮かびを繰り返していた。
しかし最後に額に
「願いをかなえるのが……私
行け、お前を呼んでいる」
その言葉を聞くと共に狂弦は地獄の外へと走り出した。
そして
はじめて黒幕と会った時の様に、透過し最後に……
「あんたには感謝している、ありがとう……」
「……グット、ラック、ボーイ……」
奇跡は起きる、何度でも。
それが強い思いに包まれているならなおさら……
夢、幻、起こりうるすべての可能性をこいしは模索した。
コレはきっと夢だ、幻だ、と。
自分がこれ以上気が傷付かぬように……
しかし!!しかし目の前の彼はゆっくりとこちらに微笑んで……
「ただいま、こいしちゃん」
その一言が、コレは現実だと教えてくれた。
「お帰り……狂弦」
夜城 狂弦!!此処に復活!!
ふぅ……今回も思わずハッスルしてしまった。