暫くキャラクター達の前後を描写していきたいです。
それはほんの少しだけ前の話……
この世界にオルドグラムと言う悪夢が顕現し、僅か数時間後の出来事……
降りしきる雨の中、一人の男がゆっくりと歩いていた。
真っ黒な長ズボンに巻きつく、包帯の様な赤いベルト。
上質な素材の上着も同じく黒と赤。
腰の右側には魔道書、左には同じく黒赤のステッキ。
そして何より喉に刻印された、奇跡の徒の証のⅥ。
最悪の魔法使いオルドグラムその人だった。
彼は少し前まで上機嫌だった、遂に蓬莱人の内臓を食らい永遠の身体を手に入れた。
その入手の為に膨大な魔力を犠牲にしたが、そんなもの大した損失ではない。
これから地獄の怨霊どもを取り込めば済むだけの話だ。
しかし
「少しばかり寒くなってきたな」
雨に濡れた体を気にする。
つい先ほどから自分は不死だ、風邪などひきはしないが濡れた服は不愉快だ。
偶然通りかかった道に、廃屋が有った為一晩雨宿りをする事にした。
「ふぅむ……ずいぶんボロイな」
オルドグラムはその廃屋に顔をしかめる。
壁は半分以上崩れ、どこもかしこも汚れだらけだ。
しかし贅沢は言ってられない。
適当な場所に腰かけた。
特にする事も無く、振り続ける雨をぼおッと見ていた。
その時後ろから声がした!!
「おどろけー!!」
「むぅ!?」
反射的に声のした方から体をどけ、ステッキに手を掛け自分の後ろに居る何者かに、横一文字に薙ぎ払った!!
「……なんだ、子供か……」
「ヒッ……」
オルドグラムのステッキは自身を脅かした人物の首の数ミリ前で停止していた。
「すまない。おどかしてしまった様だ」
そう言ってステッキを地面に置く。
「あ、ああ、ご、ごめんなさい……」
オルドグラムを脅かした人物は小さな子供だった。
青い服に左右で色の違う青赤のオッドアイ、手には目と舌の着いた傘を持っていた。
「イヤイヤ、悪かったのは私の方だよ。つい攻撃してしまった、怪我はないかい?」
心配そうに少女の首筋を見る。
「良かった良かった、
「え?……………………ああ!!」
今更気が付いたのか、少女が首元から真っ二つに成った自らの傘に気が付く!!
「そんな……私の傘が……」
絶望的な表情で力なくうなだれる。
その様子にオルドグラムは僅かにだが、罪悪感を感じた。
「おっと?大切なモノだったか?仕方ない、コレで街中で新しい物を――」
「そんなの意味無いの!!」
現金を出そうとしたオルドグラムの手を、強く少女は振り払った!!
その眼には怒りが滲んでいた。
「『思い出』に『入れ込み』……道具としてははるかに優れた物が有るが、尚も古いソレにこだわる理由はそう言った理由かい?」
「そんなんじゃない!!道具だって長く使えば心が有るの!!まだ使えるのにぞんざいに扱ってはいけないの!!」
鬼気迫る迫力でオルドグラムに詰め寄る少女。
その姿は、泣いている子供のモノではなかった。
「道具に心か……面白い考えだね?だが、そんなモノ――」
「……ッ!!返して!!」
オルドグラムは乱暴に、少女の握る半分になった傘を取り上げる!!
更に同じく半分に成ったもう一方のパーツも取り上げる。
「しゃべれもしない、こいつ等には解らない!!」
そう言って二つをくっつけ、魔力を注ぎ込む!!
「……あ」
「ほら、直してあげたよ?重ね重ねすまないね」
そう言ってすっかり治った傘を少女に渡す。
しばらく、様々な方向から見ていたが、やがて少女はうれしそうに笑い。
「ありがと!!」
礼を言った。
「わちき、多々良 小傘」
少女はそう名乗りオルドグラムの隣に座る。
先ほどまでのとげとげしい態度はもうナリをひそめている。
「ほぉう……そうか」
「……ねぇ」
「なんだね?」
「私は名乗ったよ?あなたは名乗らないの?」
「……私にわちき……一人称がころころ変わるのだな?」
嫌味ったらしくオルドグラムがつぶやく。
「もーお!!せっかくだから名前ぐらい教えてよ!!」
「まったく持ってうっとおしい……オルドグラム。オルドグラム・ゴルドミスタだ。これで満足か?」
やれやれと言った感じて、オルドグラムが自身の名を名乗る。
その瞬間パァっと小傘の表情が明るく染まる。
「わちき、小傘――」
「それはもう聞いた。無意味な会話を続けるのか?傘が有るのならとっとと家に帰ったらどうなんだ?」
ぴしゃりと小傘の言葉を切る。
それに対して小傘がむくれる。
「私は好きでここにいるから良いの!!」
「そうか、なら付きまとうな。何故俺に構う?」
ステッキを再び構えつつ小傘に聞く。
「べ、別に悪い人じゃないから……」
「なぜ私が悪人では無いと言える?読心能力でもあるのか?」
「道具を大切に使う人は悪い人じゃないでしょ?」
そう言って小傘は目の前に突き付けられた、ステッキを掴む。
「かなり古い道具だね……けど何処も悪くないし、ぴかぴかに磨いて有る……とっても大切に使ってるんでしょ?この道具は幸せだよ――――誰も使わなくなった道具が一番可哀想なんだ……」
「……」
オルドグラムは沈黙を持って肯定した。
実際小傘の言葉は間違いではない、このステッキはオルドグラムのお気に入りの道具だ。
壊れる度に、何度も直して再利用している。
「幸せ?この道具がか?キミはさっき『道具にも心が有る』と言ったな?このステッキは先ほどに威力の様に正直に言うと『武器』だ。
武器は相手を害す物、よしんばこのステッキに心が有るとすれば何を思う?『もっと殺させろ』か?それとも『もう争いは見たくない』か?
どちらにせよ、そんな事を言い出したら私はコレを処分しなくてはならない、自分の意志を優先させる道具は必要ないし、戦おとしない武器は必要ない」
そうまくしたてるように言い、ステッキをしまう。
「そろそろ雨があがるか?」
「まって!!」
そう言った立ち上がろうとするオルドグラムを引き留める小傘。
「たぶんそれでも、道具は使ってもらった方が幸せなんだよ……武器でもなんでも」
「……だがお前は自分の意志で動いてるのだろう?
オルドグラムの言葉に小傘がビクリと体をこわばらせる。
「思い出したぞ?何度か人里で見た事が有った。子守りをしていたな、たしか?私はお前の自由意思を羨ましく思うよ。道具には与えられた使命しかこなせない、しかしお前は自分の意志で動ける……羨ましい限りだ」
そう言って、自身のグリモワールを撫でる。
それだけ言って踵を返す。
「ま、待って!!実はわちきのこの服の一と☓って漢字の1とカタカナのメで一つ目を現してるんだよ!!」
「は?なんの事……」
「まだ、朝には早いでしょ?オジサンの事おしえてよ!!」
それは小傘がオルドグラムの中の何かを読み取ったからなのか?
何故だかわからないが、去ろうとするその姿に憐みを感じた。
しかし小傘にはそれを現す手段は無かった。
そのためこのような、形になった。
その言葉に対してオルドグラムはふっと笑った。
「良いだろう。私はオジサンではない!!私は錬金術師にして魔術師!!さらに言うと私の身体の至所にある、黒地に赤のパターンは『人間は肉体(赤)で囲まれた下には欲望(黒)が渦巻いている』と言うメタファーなのだ!!さらにだ!!このグリモワールの――」
何故だろうか?オルドグラムには解らなかったが、この瞬間はなぜか心が躍った。
不思議と彼は思った。
偶にはこんな日も有っても良いだろう……と
現在彼は灼熱の世界で、再生と破壊を無限に繰り返している。
何か、何か運命が掛け違えば彼はここには居なかっただろう。
そして今日もひょっとしたら小傘は彼を探しているのかもしれない……
同情の必要が無いキャラクターとしてデザインされた彼。
根本的に彼は、周りに不幸しか生まない存在です。
しかし、少しだけ今回は善人っぽくなっています。
完全な悪人は居ないんですよ。
まぁ?この後門番一家を殺害するんですが。