何でもいい他者と違う点を見つけるのだ。
しかしその一人が本当に自分たちの群れとは違う生き物だったら……
その群れは生き残れるだろうか?
「ん……ああ……」
その日、美琴は自身の身体が訴える不調により目を覚ました。
身体がだるく、ふらふらとするまっすぐ立つことが出来ない。
「ん?どうした?」
仲間の一人が話しかけてきた。
「なんか……熱っぽくて……」
「どらどら?」
仲間が美琴の額に手を当てる。
「少し熱が有るか?だが休ませる訳にはいかねえ。サッサと準備しろ!」
仲間からの言葉に自身の不調を押して仕事の準備に取り掛かる。
「おい!遅いぞ!いつまでチンタラしてやがる!」
怒号と共に班長が美琴の部屋に入ってくる。
「何?調子が悪い?仕方ねーな、今日は休め!これで果物かなんか食って元気出せ!」
訳を話し美琴の不調を知ると班長の態度は一変した。
珍しく美琴をいたわり、さらに回復用にと自身の懐から財布を取り出したのだ。
思わぬ優しさに美琴の目頭が熱くなる。
「あ、ありがとうございます……」
涙を流しながら美琴は班長に対して礼を言った。
「気にすんな!ただ俺たちは畑仕事に行くから面倒は見れねーぞ?欲しいものは自分で買ってきてくれよ?あんまり中身は無いがな!」
ガハハと笑いながら自身の財布を丸ごと美琴の枕元に置いた。
「よし!今日は一人少ないが、みんなで頑張ろう!」
美琴の同室の仲間を連れ班長は部屋を出て行った、最後に班長がこちらを見た瞬間美琴は再び気分が悪くなるのを感じた。
「ありがとうございます……」
しかしその事を気にせず班長に礼を告げた。
「だいぶ楽になったな……」
暫く眠っていた美琴が目を覚ます、節々は痛いが栄養を取るため班長の財布を持って里の商店街に向かった、目指すはオレンジやリンゴなどの果物類だ。
果物屋で商品を吟味していると後ろから声を掛けられた。
「あれぇ?この前のお兄さん?」
わずらわしく思いながらも振り返るとそこには、何時かの胸にチューブ付のアクセサリーを付けた少女だった。
「あー、誰だっけごめん覚えてないや」
熱でぼーっとする頭を押さえながら美琴は何とか答えた。
「たぶん自己紹介して無いよ?私は古明地 こいしヨロシクね!」
無邪気に笑いながら自己紹介をする。
「俺は屋社 美琴。よろしく」
自身の手を差し出す。
「お兄さん今日はどうしたの?」
こいしが珍しそうに聴く、美琴はあまりここには来ないので常連と顔見知りの人には珍しいのだと理解した。
「具合がわるくてね、果物を買いに来たんだ」
そう言って再び八百屋の商品を見る。
「そうなんだ!コレとかおいしいよ?」
こいしはいつの間にかかじっていたリンゴを差し出した。
「こいしちゃん!勝手に食べちゃダメだって!ああもう!すいませんこれ一つ」
こいしのリンゴを取り上げお金を払った。
「ほら、リンゴ。次はお金を払ってから食べようね?」
「無意識でついやっちゃった!てへ!」
そう言ってはにかみながらリンゴをかじった。
「じゃあ、俺もう行くから」
美琴はさらにいくつかのリンゴを買い自身の長屋に戻って行った。
「うぐッ!」
長屋を目の前にして強烈な吐き気が美琴を襲う、毛穴が開き嫌な汗がドバドバと出る、自身の危険を知らすアラームが一斉に警報を上げる、遂にはその場でうずくまってしまった。
「ああ、帰ってきたか」
長屋には班長を他数名がすでに帰ってきていたようで、長屋からぞろぞろと姿を現した。
まだ昼を過ぎた頃、とてもではないが仕事が終わる時間ではない。
「……どうしたんです……みなさん?」
長屋に帰ってきてから急にぶり返した吐き気を堪えながら何とか言葉を絞り出す。
「いやな?聞いてくれるか?」
班長が笑いながら話始める。
「今日自分の長屋に財布を忘れたんだ、お前が居るから安心だと思ったんだが、どうも嫌な予感がしてな?様子を見るがてら戻ってきたんだよ」
班長の話を聞いて美琴は一瞬理解が遅れた。
(え?なんで?アレは班長がおいて行った財布のハズ……なんで忘れたなんて?)
この時点でさらにいっそう嫌な感覚が美琴を包んだ、吐き気を何とかこらえる。
尚も班長は話を続ける。
「しかしどうだ?俺の財布は無く、新人の姿もない、さらには仲間の財布もない、途方に暮れる俺たちの前に新人が里で豪遊から戻ってきた……そういうシナリオさ!」
ニヤリととても醜い顔で班長が笑った。
この時美琴は自分がハメられたことに気が付いた。
仲間たちは全員グルで自分を卑怯な裏切り者に仕立てるつもりなのだ、自分がいくら異を唱えても実際買い物をするところは目撃されているし、言い訳をすることの出来ない袋小路に美琴は追い込まれたのだ。
「安心しろ、運よく使われた金は俺の分だけ、裏切り者はこちらで処分!そして明日の給料はお前の分も俺たちがもらう!むろんお前が今まで溜めた分もな!さて……裏切り者は退治しないとな?」
班長達が鍬やシャベル、木材を持って近づいてくる。
「や、やめろおおおおおぉおおっぉおお!!!!!」
長屋の一角に一人の男の悲鳴が響いた。
しかし誰も助けには来なかった。
「ここらへんに捨てるか……」
「ああ、そうだな」
「妖怪どもが後は掃除してくれる……」
男たちはぼろぼろになった何かを里から少し離れた場所に捨てた。
深夜その何かがゆっくりと動きだす。
その何かは何度もつまずきながらゆっくりと立ち上がった。
「わお!お兄さんすごいね!あんなにボロボロだったのに!」
後ろからの声で何かは振り返る、何かの視線の先には古明地 こいし。
「俺は……なんなんだ?」
何かがぼそりと話す。
「人間じゃない事は確かだね、妖力もあるし……妖怪かな?」
調子を崩すことなくこいしが話す。
「妖怪か……なら目の前のエサは食わないとな?」
そう言って何かはこいしにとびかかり細い首に手を掛ける。
「お兄さん優しいね、そんな力じゃ子供も殺せないよ?」
何かは首に手を掛けるもひどく弱弱しく震えていた。
「だって……だってよ!」
何かが叫んだ、その拍子に透明な液体が何かから零れる。
「攻撃ってのはね?こうやるんだよ?」
突如こいしの体から薔薇の形の妖力は放出され、何かに当たる。
意識を失った何かをこいしは見下ろした。
「かわいそうなお兄さん、けど大丈夫。これからは私が地霊殿で飼ってあげるから……」
そう言って二人は地上から姿を消した。
プロローグは以上です。
次回からは地下世界を舞台にしたメインストーリーが始まります!
お楽しみに!
*幼女に飼われるというシチュエーションに興奮した方は作者と一緒に病院に行きましょう!