次回から再び本編へ!!
竹林の中、複数の男たちの声が響く。
「おらぁ!!」
ドガッ!!バギッ!!
殴られた男が宙を舞い、傍に生える竹に激突する。
気絶したのかはたまた死亡したのか、殴られた男はピクリとも動かない。
指の骨をゴキゴキと鳴らす。
「次はどいつだ?」
まるで爬虫類の様な好戦的な眼をし、武器を持った他の男達を睨む。
その迫力に男たちはなすすべもなく逃げ出した。
「終わったぜ」
一息つきながら、近くに有った馬車に声をかける。
「ああ、解った。助かったよ……」
馬車の中から安堵の声が聞こえる。
馬車の中の男は、龍我の雇い主である。
商品を運ぶ仕事をしているのだが、山賊が多くそれに対する警護として雇ってもらっているのだ。
移動しようとして竹に手を付いた時、僅かな痛みが走る。
どうやら何処かひっかけたらしく、腕から血が流れていた。
「チィ……めんどくせぇ」
そう言うと近くに有った竹で、自分の血の出た部分をぬぐった。
自分の両親が死んで以降、龍我は定住する場所も無く旅を続けていた。
行く先々で新しく日雇いの仕事でしのいでいた。
本職もその一つだった。
商人の馬車も新しい街に付き、龍我はそこでお役目御免となった。
「ほら、アンタの分け前だ」
何処か怯えた表情で商人が賃金を渡す。
人間離れした龍我の事を、怖がる者は珍しくは無い。
それに対し龍我は気には留めない、人外に成った者の代償だと理解し自分に言い聞かせ続けている。
受け取った金を懐にしまい、街中を適当に歩く。
そう言えばそろそろ食事の時間だ。
空腹を感じた為適当な店を探す。
「ここにするか」
適当な店を探しだし入ろうとするが……
「お若いの、ここは止めた方が得じゃぞ?」
「あ”あ”?」
不機嫌になり、後ろを振り返る。
そこにいたのは70歳ほどの老人だった。
「ここはあまり美味い物はなさそうじゃぞ?ひひひ」
並びの良い歯をむき出しにして笑う。
「なんだ?てめぇは……」
「儂か?儂はな……ふーむ……名前を名乗っても良いが……意味はなさそうじゃしな……飯事翁(めしどきおきな)とでも言っておこうかの?」
にひひと再び歯を食いしばり笑う。
明らかに怪しい老人である。
こんなタイプには付き合わない方が賢明だと、龍我は判断した。
「付き合ってらんねー」
飯事翁を無視し、目の前の食堂に入っていく。
適当なテーブルに付き食事を注文しようとするが……
「若いの、そいつはやめた方が良いぞ?儂のおすすめはこれじゃな」
いつの間にか付いて来た翁が別のメニューを差す。
「なんの用だ?別にお前と飯を食うつもりはないんだが?」
睨みを利かせるが一向に翁は気にしない。
自身の行為が無駄だと判断した為、放っておくことにした。
暫くして両人の頼んだ料理が運ばれてくる。
「…………イマイチだな……」
一口食べた龍我は苦言を呈す。
食欲をそそる名ではあったが、味自体はあまり好みの味ではなかった様だ。
「ほぉれ~、言ったじゃろ?こっちの方が良いんじゃよ」
そう言って自分の皿を龍我に差し出す。
そちらは、見た目があまり良くないが、他のテーブルを見ると多く出ているメニューの様だった。
「……悪くない」
無言で口に入れた龍我が僅かに笑みをこぼす。
「そうじゃろ?若いの、名は?」
「かk……いや、違う龍我、龍我だけで良い」
「訳ありじゃな?そんな目をしておる」
いつの間にか箸を止め龍我を見据える。
その瞳には老人特有の、深い思慮が込められている様に見えた。
「アンタには関係ねぇよ、次は何処に向かうか考えているだけだ」
「はぉ~儂と同じく旅人か?」
「へぇ、爺さんアンタもか?」
「ああ、そうじゃ、世界各国美味いモンめぐりじゃわい」
そう言って、再び歯をみせ笑った。
暫く談笑していた二人だが、会計時に問題が起きた。
翁の料金が多少足りないらしい。
本人曰くもうすぐ、金が入るらしいのだが……
仕方ないと龍我が払うのだが、いつの間にか翁は消えていた。
暫く龍我はその街に滞在していた。
運良く割のいい仕事が見つかり、その仕事に従事していた。
「コレも頼むぞ」
「了解だ」
街の中の金持ちの家の引っ越しの手伝いをしていた。
かなり条件が良く、肉体派の龍我には申し分ない仕事だ。
「これで最後だ」
巨大なクローゼットを馬車に乗せ雇い主に、報告しにゆく。
「おにーさんありがと!!」
その家の娘が、笑顔で龍我に近づく。
「気にするな、そういう仕事だっただけだ」
何時の様につれなく話すが……
「お兄さん怪我してるよ!!ほら!!こっち来て!!」
数日前、山賊たちと戦った時の傷を運悪く見つかってしまった様だ。
一気に不安そうになり、何処からか包帯を取り出し龍我の腕に巻く。
「お揃いだね!!」
そう言った娘の腕には赤いリボンと、三つの鈴が並んでいた。
「ああ、そうだな……」
何処となく、心がざわつくのを感じながらその一家を見送った。
「久しぶりだ……久しぶりに誰かに笑いかけられた気がする……」
一人残された龍我は自身の腕に巻かれた包帯を見つめていた。
3日後……
「そろそろこの街ともおさらばだな……」
そうつぶやきながら、一人街を再び歩く。
「おーう、若いの、ここに居ったのか」
「ジジイ、この前振りか?」
後ろから声を掛けられるが、それは数日前に有った翁だった。
「この前はすまんかったの。ほれ、収入が入った」
そう言って、懐から財布を取り出す。
そして財布を漁り、現金を龍我に渡す。
「…………ありがとよ……ところで……少しいいか?場所変えるぞ?」
「なんじゃ?儂になんか用か?」
財布に付いていた有る物を、見て龍我の表情が曇る。
訝しむ翁を連れ、山賊と戦った竹林まで移動する。
「爺さん、アンタその財布の鈴……何処で手に入れた?」
龍我は翁の財布に付いた鈴を指さす、その鈴は間違いなくこの前の少女の物だった。
「これか?拾ったんじゃよ、良いデザインじゃろ?」
はぐらかすように、明るい表情をする翁。
更に龍我は質問を続ける。
「なぁ、さっき財布を出す時見えたんだが……アンタの胸の絵ってなんの絵だ?」
「儂の懐の……?ああ、これか?若いときヤンチャして入れた刺青――」
「嘘をつくんじゃねぇ!!俺にも似たようなモンが有るんだよ!!」
そう言って自身の右手を開きⅡの数字を見せる。
その数字に翁の態度が変わる。
「ほぉ、儂以外で有ったのは初めてじゃわい……」
そう言って自身の服を肌蹴させる、そこに刻まれたのはⅦの文字。
「この数字持ちの意味は理解してるだろう?アンタ、さっきの財布、盗んだヤツだな?」
ギラリと視線を翁にそそぐ。
「何を言っているんじゃ?儂がやった証拠は何処にある?」
両手を上げ、自身のみの潔白を訴える。
「証拠は無いさ、だが『無い』事が今回は証拠だ!!……この竹林、実は少し前俺が派手に暴れた場所だ、当然流血騒ぎになった。
その時、竹に血を付けちまったんだが……きれいさっぱり拭き取られている!!
最近雨が降った事はねぇし、わざわざ竹林を掃除するヤツもいねぇ!!もっと掃除するのはかなり大変だがな……仮に出来たとしても、なんかの力を持ったヤツだけだ!!
そうだろ!?Ⅶ!!」
追いつめるように龍我が翁に迫る。
「クヒ!!クヒヒヒ!!何じゃ?いきなり探偵ごっこかの?実に下らんな!!儂が?殺して道具を奪ったと?武器はなんじゃ?動機はなんじゃ?死体は?他の荷物は?お前さんの推理は穴だらけじゃの!!カカカカカッカカ!!
じゃが……正解じゃよ……路銀が必要だったのでの……」
カツーン!!
と音を立て、翁の歯がかみ合わされる。
「じゃが……一つだけ……間違った部分が有るの……儂は道具目的で殺してはおらん……食う事が目的よ!!」
その瞬間翁の姿が変化する!!
若々しく、そして巨大化した口を持った怪物へと!!
「食う事は支配する事じゃ!!弱肉強食こそが世界の真理!!
「バッカ野郎がぁあああああ!!!」
身体に僅かな振動を感じる。
そして誰かが呼ぶ声も……
「……萃香か……」
いつの間にか眠っていたようで、目の前の鬼が酒臭い息を吐きながらこちらを揺らしていた。
「なんだい!!せっかくの宴会だってのに一人で!!みんなと萃まって飲もうじゃないか!!」
そう言って龍我に酒の入ったジョッキを渡してくる。
「……ん?どしたの?」
何かこちらの様子がおかしい事に気が付いたのか、不思議そうな顔をする。
「少し……昔を思い出しただけだ……」
そう言って懐から、古い包帯を取り出す。
何故か小さな鈴が三つ付いてチリンと鳴った。