一緒に居れば、従わなくてはいけないし。
一人だけなら自由で良い。
ルールという名の鉄格子が隔てるのは、敵か自分か。
「そーれ!!凍れ、凍れ~」
「う、はは~!!冷たい!!」
霧の湖の近くで、青年と妖精が遊んでいた。
妖精はこの湖の近くを縄張りにする、そこそこ力のある妖精で、もう一方の青年はカラッとした好青年風の人物だった。
「あー、寒かった!!妖精ってすごいんだね、冷気を操れるんだね」
自身の身体に付いた氷を払いながら、青年がワクワクした表情で笑いかける。
「アタイ達は、自然のちょーしょーだもの!!当たり前よ!!」
「あはは、象徴って言いたいのかな?けど、スゴイのは確かだね!!」
「でしょ!?カンパイは良くわかってるわね!!最強のアタイの子分にしてあげるわ!!大ちゃんや、みすちーたちにも紹介してあげる!!」
氷精――チルノはそう言い放つ。
「あー、それはうれしいんだけど、先にやることが有ってね?それが終わったらまた遊びに来るよ」
それだけ話すと、チルノの頭に手を置いて立ち上がった。
「カンパイどこ行くの?」
「ん?なぁに、大した事はしないよ。異変を起こす仲間をスカウトしにいくんだ」
そう言うと、あらかじめアポイントメントを取った紅魔館に向かって行った。
「……ッ!!止まりなさい!!ここは紅魔館の入り口です!!許可のない者は通せません!!」
杯正が門に近付いた瞬間、入り口に立っていた中華風の女性―-美鈴が杯正を威嚇する。
さっきまで寝ている様に見えたのだが……
「ああ、起こしてしまいましたか?スイマセン、一応此処に来るってアポは取ってあるんですけど?」
杯正が拳を向ける美鈴に対して、両手をあげ敵意が無い事をアピールする。
「アポを取った?いえ、それ以前にあなたが何者か解らないんですよ!!――気の流れが明らかに人間ではない、その割に妖力や神通力なども感じられない……いったいどういう生き物なんですか?」
尚も警戒を怠らず、目の前の杯正を睨み続ける。
その言葉に杯正が黙り込み何かを考えはじめる。
「人間じゃない……か……0を取り込んだせいかな?いや、むしろⅩを貰った時点で……うーん?」
そして最後に自身の両手をポンと叩き合わせる。
「そうだ!!幻想郷では外から来た人間を『外来人』って言うんでしょ?なら、ぼくの事は外から来た新種で『外来新種』とでも呼んでよ!!自分で言うのもナンだけど……結構いい名前じゃないかな?」
何処までも楽しそうに爽やかな笑顔でそう話す。
美鈴は思う。実によく皮肉の利いたネーミングだと。
外来種が、本来の種を攻撃する生き物が多い中、目の前の人間も間違いなく外来種でコチラに害を与える存在だろう。
コイツは早く排除した方が良いのでは?
そんな事を考えていると……
「お待たせしました。杯正様、お嬢様がお待ちです」
いつの間にか、美鈴の隣にこの屋敷のメイド長 十六夜 咲夜が佇んでいた。
「わぁ!?スゴイ!!瞬間移動!?メイドさんって初めてみた!!金持ちの屋敷ってスゲー!!」
杯正を目を輝かせぱちぱちと両手を叩いた。
咲夜に連れられ、杯正は悪魔の屋敷に入って行った。
その瞳は、大きな好奇心と、探究心をいつまでも称えていた。
目が痛くなるような真っ赤な屋敷。紅魔館、咲夜に連れられ杯正はこの屋敷の主レミリア・スカーレットの目の前に来ていた。
黄金の豪華な玉座に座る、ピンクの服に身を包んだ吸血鬼。
彼女の口が、ゆっくりと開かれた。
「よく来たわねニンゲン、その無謀ともいえる勇気、いえ怖い物知らずと言うべきなのかしら?いずれにても貴方は私の前に立つという栄誉を与えられたわ、その事に感謝しなさい」
不遜な態度で杯正を玉座から見下ろす。
「ははー!!この乾 杯正至極恐悦の極みー!!」
そう話すと同時に頭を下げる。
あまりに芝居がかった、動きにレミリアが僅かに不機嫌になる。
「……馬鹿にしてるのかしら?まぁいいわ。今日の私は機嫌が良いもの。で?お前の用事というのはなんだ?」
「実は前にも言った様に近いうちに、異変を起こそうと思ってそのメンバーを集めているのですよ。今日はそのスカウトに――」
その言葉にレミリアの眉が吊り上る。
「貴様!!ふざけているのか!!この屋敷の誰かをお前の部下にさせろと言うのか!?それともそれは遠まわしの自殺志願か?」
座ったままの状態で、自身の右腕の指をピン、と立てる。
その瞬間、圧倒的なエネルギーが赤い神槍を形造る!!
「あれ?怒らせちゃったかな?けどたぶん誤解だと――」
そこまで言った杯正の首に、ナイフが突きつけられる。
ヒヤリと金属の冷たさが伝わると同時に、薄らと血が流れる。
「お嬢様に刃向うなら、私は許しはしない!!」
咲夜がいつでも杯正の首を切り裂ける体制を保つ。
「ああ、もう、みんな血気盛んすぎて――わぁ!?――痛ッ!!」
杯正が話す瞬間顔面に向かって、ナイフが飛んでくる!!
咄嗟に手ではじくが、受け方が悪く指から血が流れ出た。
その様子を見て、レミリアが神槍を消滅させる。
「わかったか?この屋敷の、私の家族ともいえる者達は圧倒的にお前より強い。お前の様な弱者について行く道理は、全くないのだ」
レミリアがそう言い放つが
「なんだアレ?……瞬間移動じゃないよな……出たり消えたり?けど、あのナイフはまっすぐ飛んできた……投げられたって感じだぞ?……見えなく訳じゃない……急にだ、全く投げる動作もない……どうやった?まさかとは思うけど……」
レミリアの言葉など気にしない!!
杯正はさっきのナイフの秘密を考えていた!!
その事に気が付いたレミリアが激高する!!プライドの高い彼女が自分を無視されたのだ!!これ以上の侮辱は無い!!
「咲夜!!そこをどけ!!そいつを消し炭にしてくれる!!」
玉座から立ち上がり神槍を作り出す!!
圧倒的力を持った、彼女の破壊の力『グングニル』が杯正を狙う!!
「わぁ、スゴイね!!とってもきれいだ……」
杯正は、ただの肉の塊になる筈だった。
しかし……
ピシリッと乾いた音が鳴り、グングニルにヒビが入った。
そしてついには、バラバラに砕けた!!
「そんな!!バカな!!有り合えない!!」
レミリアが驚愕に目を見開く。
自身の十八番がやられたのだ、その動揺は無理もない。
「『ありえない』か……いいね!!それこそが僕にふさわしい言葉だね!!」
咲夜が援護しようと、再び自身の力『時を操る程度』の力を発動させようとするが……
「メイドさん。もしかしてだけど、時間を止める力が有るなら使わない方がいいよ?最悪死ぬことになるから……」
杯正はが、心配するように話す。
自身の力がバレた事に驚愕する咲夜だが。
相手が理解したところで、何も変わらない事を彼女は知っていた。
止まった時間は自分だけの世界、決して何物も影響を与える事は出来ない。
彼女は自分の力に絶対の自負を持っていた。
そして何時もの様に心の中で、能力のスイッチを入れる。
一瞬してすべての音が消え、全ての事象が停止する。
何時もと同じ時の止まった静寂と停滞の世界。
咲夜は『ハッタリか』と杯正の意見を切り捨て、ナイフを投げる。
360°全方位ナイフ、必ずどこかにダメージを残す彼女に技だ。
「……そして再び時は刻み始める!!」
「よっと!!」
杯正が勢いよく、走る!!
360°のナイフすべては躱せないが、全てを受けるよりはと。
取った行動なのだろう。
その致命傷に至らぬ傷を見てレミリアは舌打ちをする。
しかしその舌打ちはすぐに焦ったような声に変わった!!
「どうしたの!?咲夜!!」
「あ、ひぃ……お、お嬢様!!!お嬢さま!!、あああ、あああやっと……やっと帰ってこれたのですね!!、ああああお嬢様!!」
涙と鼻水に塗れた自身のメイドの姿、普段の瀟洒な彼女からは全く連想できない姿だった。
「い、一体どうしたっていうの!!」
レミリアが、必死になって咲夜を叱咤するが、彼女から帰ってくるのは壊れたレコードの様に同じ、言葉を連呼するだけだった。
「あーあ、やっぱり……でも生きてて良かったよ……流石に死なれるのは寝覚めが悪いからね」
そう言って、杯正が咲夜を覗きこむ。
「お前!!私のメイドに何をした!!」
爪を剥き、杯正に踊りかかる。
「僕は何も、してないよ。ただ少しだけ、彼女の『正常を狂わせた』だけさ」
まるで、子供を抱きかかえるように杯正が、レミリアの腕を掴んだ。
吸血鬼と人間、本来なら歯が立たないハズの人間が簡単に勝利した!!
「正常だと?」
「そうさ、この世には可視不可視、含めて様々なルールがあるよね?
信号は青で渡れ、ゴミをポイ捨てするな、太陽は東から昇って西に沈む、海の水はしょっぱい。
人間が決めた物から、大自然のルールまで様々だよね?
そんなルールを守るウチに『正常』『常識』『当たり前』が生まれた、けどこれって『正常』じゃない人間にはとっても厳しいんだよね。
みんな言うんだ、『普通じゃない』『おかしい』『異端』だってね?
分かってるんだ、普通の奴らは常識の守られてる、だから壊したんだ!!
『正常』をさ!!
僕の能力は、正常を狂わせ、常識を破壊し、当たり前に唾を吐きかける力!!世界のルールを捻じ曲げる力!!
このメイドさんは気の毒だよ、彼女の『時を止める常識』は僕が少しだけ壊した、彼女はね?時の止まった世界に閉じ込められたんだ、何日いたのかな?もしかしたら年単位かも?長いあいだ、彼女は動かない世界に閉じ込められた様だね?」
それだけ聴いたレミリアは恐怖した。
完全無反応の世界、そんな中一人だけ閉じ込められたら……
彼女が精神を病むのも無理はないと思った。
「……お前は……お前は何がしたいんだ?……その力で世界を壊してどうするつもりなんだ!!」
おかしな話である、世界の敵てある筈の悪魔が目の前の人間に対峙してそう話す。
「僕は世界を壊したりしないよ。そんなに素晴らしいんだ、もったいないじゃないか?
けどね?神様が居るよね?ここの神様じゃないよ?もっと偉い神、世界を作った最高神かな?そいつが居るなら……
ソイツを倒して僕が成り変わるんだ、僕が中心に成る。
誰でもみんなそう考えてるでしょ?」
「ありえない!!そんな事しても……お前の思う通りになんか――」
「『ありえない』か……いいね!!それこそが僕にふさわしい言葉だね!!」
何処までも、ありきたりな夢と彼は語った。
その時、彼女は理解した。
この男は『異常』なんだと、自身の理解を超える存在だと。
そんな、未知の存在が目の前で佇んでいた。
「さて、欲しい物は貰うよ?」
コーン、と足を地面で叩くと大穴が開いた。
そこは、地下の食料の保管庫だった。
もちろん食料とは人間たちの事である。
「いいね、無数の怨念と狂気……これこそ僕の求めていた物だ」
そう話すと、指先に何かが現れる。
黒い拳大の結晶、Ⅰの数字が刻みこまれている。
音も無く結晶は、地面に吸い込まれ。
まるで粘土の様に動き出し、最後には妊婦の石造へと変化した。
レミリアが見ている目の前でどんどん石造の腹が大きくなる。
そして遂に……
「ありえない……」
石造に腹を突き破るようにして、幼女が誕生した。
夜の様に黒い長い髪、血を濃縮した様な紅い目と唇、雪の様な白い肌と肩甲骨から突き出た人骨の手の様な白い翼。
「べー」
幼女が、杯正に向かって舌を出す。
その舌先には確かにⅠの数字が有った。
「ハッピーバースデイ!!」
楽しそうに杯正が彼女に笑いかえる。