仮面ライダー鎧武 Legacy −鎧武×μ's ic S.T.A.R.T!!− 作:ススム→
スクールアイドルランキング−−−出資社であるユグドラシルコーポレーションが運営するインターネット上に広がるウェブサイトの一つだ。ネット上には無数に存在するブロガーが設立した非公認のランキングが存在するがこのランキングは正真正銘、今現在のスクールアイドル達の人気度を示す本物−オフィシャル−だ。ランキングはライブを見た人達による投票によって成り立っており、無論、競争率は高く、わずか一票の差でランキングが大きく変動するのだ。その競争率が最も高い地域が秋葉原だ。ランキング上位の20位圏内の大半が東京都内のスクールアイドルであり、その頂点に君臨しているスクールアイドル−−−UTX学院『A-RISE』だ。正直、僕はA-RISEのライブをこの眼で見たことがない。A-RISEがライブを開催すると宣言するとチケットは発売わずか30分足らずで完売、ライブを開催するたびに会場近くの飲食店やテナントは大繁盛、次から次へと出演のオファーが耐えないとの噂だ。こんなに近くに住んでいるのに僕は映像でしか彼女達の姿を見たことがない。
それだけじゃない。A-RISEの人気の秘密はビートライダーズにもある。
もちろん、A-RISEにも専属のビートライダーズが存在する。しかし、ここ最近彼らが戦った姿は見ていない。その理由は圧倒的な『強さ』だった。僕は一度だけその光景をネットの生放送で見たことがあった。生放送中にA-RISEにライダーバトルを挑んだ他のスクールアイドルとビートライダーズがいた。そのスクールアイドルもランキングでは常に上位であり決して弱いわけではなかった。しかし、ライダーバトルが始まった瞬間に勝敗が決まっていた。わずか1分も経たない間に勝負を挑んだアーマードライダーは再起不能となった。その光景に会場中の誰もが声を失ったという。それ以来、A-RISEにライダーバトルを挑む人達がいなくなってしまった。
−−−まさに、『頂点』。
僕達は、絶対的エースであるA-RISEになんて一歩も二歩も及ばないだろうと思っていた。
ましてや、僕達みたいなひよっこなんて、絶対に関わらないだろうと思っていた。
−−−そう、あの時までは、ね。
・・・
「いくよ、兄さん」
「来い、光実」
夜。窓から月明かりが照らされる園田家の道場の中で呉島光実とその兄である高虎は戦極ドライバーを腰に装着しロックシードを構えた。どこからか猫の鳴き声が聞こえ、互の呼吸が耳に入る。その道場の入口に一人の少女、園田海未が息を飲みながら二人の模擬戦を観戦していた。
『ブドウ!ロックオン!』
『メロン!ロックオン!』
二人は同じタイミングでロックシードを開錠し頭上にクラックを出現させる。光実の頭上にはブドウの形を催したアーマー、高虎の頭上にはメロンの形を催したアーマーがふわふわと浮かんでいる。ロックシードを戦極ドライバーに装着し二人はカッティングブレードを降ろす。すると二つのアーマーは二人の頭上に勢いよく落ちスーツが生成されアーマーが展開され変身が完了した。
『ブドウアームズ!龍・砲!ハッハッハッ!』
『メロンアームズ!天・下・御免!!』
変身と同時に二人の周りにリングが生成される。龍玄はブドウ龍砲を構えるが斬月は無双セイバーには手をつけずメロンディフェンダーを装備するのみだった。
「どこからでもいい。俺に擦り傷一つ付けてみろ、光実」
「はい、兄さん!ハァッ!!」
龍玄は右、左とリズムよくステップし斬月へと間合いを詰め、ブドウ龍砲で威嚇射撃を打つ。斬月は身体一つ分覆い隠せる程の盾『メロンディフェンダー』で威嚇射撃を全て受け止めた。だが、龍玄の狙いはなにも威嚇射撃で斬月の身体に傷一つ付けることではない。龍玄は斬月が銃撃を防御している隙をつき、彼の背後へと回り込む。身体一つ覆い隠せる盾ならば、180度方向転換するには必ず隙が生じるはず−−−龍玄はこの隙を狙っていた。
「−−−と、考えているのが見え見えだぞ、光実」
「えっ」
しかし、斬月には通用しなかった。
盾で防御への体勢に移行すると思いきや、最低限の身体の動きで背後の龍玄に左足によるキックを放つ。その蹴りは龍玄の腹部に直撃、そのまま1、2歩後ずさりながらも体勢を立て直す。
「くっ、流石兄さんだ。僕の動きがわかるの?」
「戦法は常に相手より1手、2手先に読むものだ。しかし今の背後へのステップについては見事だ。いいセンスだ」
「それでも、僕はまだ紘汰さんには全然及ばない。もう一度いくよ、兄さん!」
龍玄はそれからも様々な手段を使用し、なんとか斬月に攻撃を当てようとするが、斬月は全てが見えているかのように華麗に攻撃を避ける。それも、必要最低限の動きのみで、だ。
それを見ていた海未は自然と言葉を失ってしまう。次に口を開いたのは龍玄が派手に吹き飛ばされた時だった。
「あっ・・・・。光実、大丈夫でしょうか?いくら模擬戦とはいえ、やりすぎなのでは・・・」
龍玄は様々な動きをしているためか、少しずつ息が上がってきた。
それに対し斬月は呼吸一つ乱れていない。−−−流石だ。
以前、絵里に指摘されていた己の持久力の無さが現れてきた。スタミナが減り続ければ無駄な動きが増え、隙が生まれてしまう。自分のスタミナ量を考えて、次の手で斬月に一撃を入れる最後の手段であろう。
−−−間合いを整え、様々な手を考える。
どうする、どうすれば良い・・・。
仮面越しに、光実の額から一筋の汗が流れる。
−やっぱり、素人だね、君・・・いつも、『一対一の正攻法』の戦いばかり鍛えていたんじゃない?−
・・・っ!
正攻法・・・?
ふと、光実の脳裏に以前戦ったアーマードライダーグリドン、城乃内の言葉が浮かびあがった。
「・・・やれるのか?僕に・・・」
次の瞬間、龍玄は再び斬月に向かって威嚇射撃を放つ。
「どうした、光実。その手法はもう−−−っ!」
龍玄は威嚇射撃を放ちながら間合いを詰め、斬月にメロンディフェンダーを使用させる。一瞬、そう一瞬だけ斬月は自分の視界から龍玄の姿を外してしまった。その時には既に遅く、次に目に映ったのはブドウ龍砲をまるでトンファーのように持ち、自分の頭上目掛けて振りかざす龍玄の姿だった。
斬月は少々驚きながらも一撃目を回避するも、龍玄の動きは止まることなく、続いて螺旋を描くように斬月へと攻撃を放つ。しかし斬月とて攻撃を受け流すのみではない。大きく隙のできた龍玄の腹部に再び拳を入れた。
「何?」
「ぐぅ・・・ここだっ!」
しかし、ここまでも龍玄の読み通りだった。
拳を入れられた瞬間、龍玄は左手に構えていたブドウ龍砲を捨て、斬月の腕を掴む。
−−−斬月の動きを止めた。無論、その隙を逃さない。
もう一つの手で斬月の腰にある無双セイバーへと手を伸ばし、それを引き抜いた!
「っ!」
「高虎先生っ!」
「この時を待っていたんだ!」
龍玄の予想外の動きに斬月は動きが一瞬だけ止まる。
−−−しまった。
斬月が後悔した時には既に時は遅い。
自分の目の前まで龍玄が振り下ろした無双セイバーが迫ってきた!
−−――っ!!!!
だが、龍玄の振り下ろした無双セイバーは斬月には届かなかった。
「・・・っ。ここまでだ」
「っ!?ぐっ!!」
動きの止まった龍玄に斬月は左足で蹴りを放ち、龍玄はまた吹き飛ばされ、同時に変身が強制解除されてしまった。戦極ドライバーを模擬戦設定にしていたため、身体の痺れはほぼなかったが、光実はその場から立つことができなかった。それどころか、身体中から汗が止まることなく吹き出していた。それを察した海実はタオルを持ち光実へと寄り添う。
「大丈夫ですか?光実」
「はぁっ・・・はぁっ・・・ありがとう・・・ございます・・・海未さん・・・」
同時に斬月も変身を解除し、光実の元へと寄った。
高虎はスポーツウェアの乱れを直し、海未から受け取ったタオルで軽く顔の汗を吹いた。
「まさかお前があんな戦い方をするとは思っていなかった。少し油断していたな」
「それでも・・・僕は・・・兄さんに・・・・」
「それで良い、光実。戦いとは、いつも予想外の出来事が起こるものだ。模擬戦とは訳が違う。そんなことより光実・・・」
高虎はどこからか取り出した竹刀を光実に渡そうとする・・・が、光実はまるで拒絶するかのように視線を外した。
「・・・先程の戦い方からして、やはりお前は『近接戦闘型』だ。龍玄のような『中距離援護型』ではお前の戦い方に適していない。お前は焦り始めるとブドウ龍砲での射撃から無意識に肉弾戦へ持ち込む癖がある。それでは中距離援護型というアドバンテージを自分で打ち消しているようなものだ。そもそも、この『斬月』は本来お前が使用する予定だったものだ。良い機会だ、そろそろ己に与えられた刃を抜く時ではないか?光実」
「えっ、高虎先生、それは本当なのですか?」
「園田には言っていなかったか。最初、光実が音ノ木坂のアーマードライダーに任命された時、理事長から渡されたのはこの斬月のデータが入った戦極ドライバーだった。しかし光実はそれを拒否し、今、光実が使用している龍玄のデータが入った戦極ドライバーを所持する事となった」
「何故、そのような事が−−−」
「『刀』を持つのが怖かったからです」
海未の質問に対し、返答したのは光実だった。光実はスポーツドリンクを一気飲みし、呼吸を整える。
「刃物で人を傷つけるのが、僕にはできなかった。・・・いくらこれがお遊びだからって、僕は刀を持つ事ができない・・・刀を持った瞬間、相手を傷つけるのが恐ろしくて、頭が真っ白になってしまうんですよ・・・理由は僕にもわからないんです・・ただ、僕にはもう・・・刃物を使って誰かを傷つけるのは・・・もう、嫌で・・・」
「もう良い。光実。誰もお前に強要はしない」
高虎は再び呼吸が荒くなる光実を落ち着かせるように光実の肩を優しく撫でる。
「ごめん、兄さん・・・」
「もう遅いですし、今日はこの辺で切り上げてはどうですか?高虎先生」
「園田の言う通りだな。今日はもう帰ろう、光実」
「はい、兄さん・・・」
・・・
翌日。
−−−と、言っても既に放課後。
紘汰は絵里と一緒に音ノ木坂学院の音楽室へと向かっていた。彼の両手には大量のプリントの山、生徒会の絵里が音楽を担当している講師に運ぶようにと頼まれていたものだ。ちなみに同じ生徒会の希はことりと海未と一緒に衣装の作成の手伝いを行っている。
「ごめんなさい紘汰。生徒会の雑用を押し付けるようなことしちゃって」
「別に気にするなって!だいたい、今日は明日のミニライブに向けて各自で自主練や準備の日だから俺もミッチーもなにもやることないしさ!」
「あら?この前の現代文の小テストで赤点とって今月中に課題終わらせるって海未から聞いたけどな~?」
「な゛っ!今日帰ったらちゃんとやるって!」
「なら、よろしい」
「はぁ・・・っと、着いたぜ」
二人は音楽室へと到着する−−−そのドア越しからギターやドラム、シンセサイザーの音が鳴り響く。時々音が止まっては再び同じフレーズの箇所から始まる。どうやら軽音楽部が練習をしているようだ。
二人は軽音楽部の練習の邪魔にならないように静かにドアを開く。
すると、目の前に見慣れた少女が軽音楽部の面々に指示を出していた。
「あら真姫、今日は新曲の打ち合わせ?」
「絵里?それに紘汰じゃない。どうしたの?」
真姫は片手に大量の楽譜を持ち、今後、自分達が歌うであろう曲の最終調整に入っていた。作曲担当の真姫だが、流石に一人で曲の打ち込みまでは手がまわらず、軽音楽部の面々、更に必要であれば吹奏楽部にお願いして作曲しているのである。改めて考えてみると自分達は様々な人達の援助を得て成り立っているのだなと二人は思い直した。
そんな中、軽音楽部のリーダー、一際目立つ銀髪の男がギター片手に紘汰へと迫る。
「よう紘汰!今日も相変わらず雑用か?」
「今日も・・・って!どういう意味だ裕也!!」
紘汰とじゃれあいながら肩を組む銀髪の彼の名は「角居裕也」
この軽音楽部『鎧武』のメインボーカルかつリーダーである。ちなみに彼は音ノ木坂学院の3年生で紘汰の一つ上の先輩、さらには絵里達と同じクラスでもある。
「こ~ら裕也、うちの紘汰をあまりいじめないの!紘汰ってこう見えてナイーブなのよ?」
「い、いきなり何言い出すんだよ絵里!」
「おいおい絵里、それは聞き捨てならないな!うちの紘汰って、もともと紘汰は『うちの』メインボーカルだったんだぜ?ただ、こいつ意外にも涙もろいってのは合っているけどな!」
「裕也までなに便乗しているんだよっ!」
「それでも、紘汰は私達、μ'sの一員よ!」
「離れていても、今でも紘汰は俺達、鎧武の一員だ!」
「ふっざけんなっ!俺は俺のものだ!絵里や裕也のものじゃねぇ!!」
「・・・何?この馬鹿な会話。皆上級生のくせに聞いている下級生の身にもなってよ」
「まあまあ真希ちゃん!紘汰さんも上級生二人に愛されていて良いじゃない!」
「私達なんて紘汰さんいなくなった穴埋めるのに今でも必死なんだからさぁ~」
と、ベース担当のチャッキー、ドラム担当のリカが真姫をなだめる。そんな真姫は渋々と重いため息を吐いた。
「それより真姫ちゃんさ~、ここのAm7どうしても曲に合ってないような気がするんだけど、勝手に変えちゃって良い?」
「ダメよ。ここは何が何でもAm7で弾いて。あと、そこから三小節前のアルペジオ勝手に変えたでしょ。譜面通りに引いて欲しいんだけど?」
「えぇ~!!?絶対こっちの方が良いって!!」
「ラット、今度また勝手に変えたらキーボード外すわよ?」
キーボード担当のラットはガクッと肩を下ろし、渋々と赤ボールペンで譜面を修正した。
「さてと、もう時間も無いし、通しで最初からやって頂戴。上手く行けば来週には録音しちゃうから。絵里と紘汰も聞いてく?フルで聞くのは初めてでしょ?」
「丁度良いわね。μ'sの新曲が一足先に聞けるなんて楽しみ!」
「なんならお前が歌っても良いんだぜ?『元』メインボーカルの葛葉紘汰?」
「茶化すなよ裕也。それよりほら、準備しろよ!」
裕也達はそれぞれの楽器を手に取り演奏の準備を始める。
一呼吸おいた後、1、2、3、4・・・と裕也がタイミングを合わせ音楽室に胸躍るアップテンポの和テイストの曲が響き渡り始める。
紘汰と絵里は真姫から渡された歌詞を見て自然と歌い始めていた。
流石真姫だ・・・と、紘汰は彼女の才能に驚かされる。
自分より一つ年下だけであって後はなにも変わらない・・・いや、勉強できるし、ルックス良いし、金持ちで・・・はっきり言えば自分より遥かに上の存在で、あ、運動は全ッッ然ダメか。
そんなことはどうでも良い。
とにかく、一言で彼女を表すとならば『天才』だ。
高一にしてプロ顔負けの作曲センス。もちろんピアノの腕も並みの学生はかなわない。
ここに辿り着くまで、彼女はどれだけの苦労を重ねたのだろうか。
そんなことを考えている間に既に曲は終わっていた。
「ふう・・・うん、完璧ね。これなら来週中にでも物にできそうね」
「タイトルは・・・『輝夜の城で踊りたい』・・・?海未ってたまに凄い詞を思いつくものね」
「あ、この曲。俺も一緒に作詞してたの忘れてた」
「え゛ぇぇッ!?この歌詞紘汰も手伝ってたの!?・・・まぁ、別にそこまで悪い感じにはならなかったし、これで決まりね。さてと・・・」
真姫は満足したのか、そそくさと楽譜をスクールバックに入れ帰宅の準備を始めた。
裕也達も同じく、各々の学期をケースに片付け始める。
「真姫、もう帰るの?」
「えぇ。帰って勉強しなきゃいけないし」
「なら俺達と一緒に帰らないか?なぁ絵里」
「そうね。丁度プリントを置いて帰ろうって紘汰と話していたところだし。どう?」
「う、うん。それなら・・・その・・・ちょっとだけ寄り道したいところあるんだけど、せっかくだし、付き合ってくれる?人多いほうが助かるのよ」
・・・
「・・・で、なんであんた達と合流する羽目になるのよ」
「えぇ~!酷いよ真姫ちゃん!穂乃果だって真姫ちゃんと一緒に帰りたいもぉ~ん!」
「凛だって真姫ちゃんと一緒に帰りたいにゃ~ッ!」
秋葉原駅の入口で3人は穂乃果と凛の二人とばったり出会ってしまった。いや、別に出逢うのは全く問題無いのだが、この二人に共通して真姫は今まで何度も頭を悩まされていた事があるのだ。
「それって多分・・・真姫が二人になにか奢ってもらえるのを期待しているだけよね」
「まぁなにげに俺も期待しているんだけどな!」
「もう、あなたも後輩になに奢ってもらおうとしているのよ!」
珍しく真姫が二人を誘ったのは、最近、秋葉原駅のすぐ近くに開店したというクレープ屋に同行して欲しいという願いだった。どうやらそのクレープ屋でトマトをふんだんに使用したメニューがあり、本人曰く、一人で行って食べるのは気恥ずかしいのが理由との事。別に年頃の女子高生なのだから一人でクレープを食べようがなにもおかしくはないのだが、彼女自信の独特なプライドが許さないのだろう。
「でも真姫、帰るときに勉強しなきゃとか言っていなかったかしら?こんなところで道草していて良いの?」
「息抜きよ、絵里。食べたらすぐ帰るわ。ただ・・・その・・・こんな機会、あんまりないし、それに今から行く店って、閉店するの早いから練習終わりだと間に合わないのよ」
「まぁそう照れるなよ。俺達全然暇だし、いくらでも付き合うぜ?」
「ちょっと!それじゃあまるで私も暇だったみたいじゃない!私は生徒会の仕事終わりなのよ?」
「うんうん!紘汰くんと違って、凛達はとって~も、忙しいんだにゃあ!」
「穂乃果も凛ちゃんと丁度そこのクレープ屋さんに行くところだったんだから!紘汰くんと一緒にされたら失礼だよ!」
「あんたたちは最初っからそれ目的でしょ!?もう・・・」
と、真姫のツッコミが二人に放たれ、再び大きなため息を吐く。
しかし、真姫は少し嬉しそうだった。
紘汰はそんな真姫の表情を見て自然と笑顔になる。
彼女はこんな性格の為か、前々から色々な事を全て自分の中に背負い込む癖がある。
こうやって、いつでも気軽に自分達に頼ってくれれば良いのだが、それも彼女のプライドが許さないのだろう。
まあ昔よりはこれでもかなり丸くなったのだが。
5人は秋葉原駅を出て目的地へと歩いていく。丁度10分程度歩いたところにあるらしい。目的地に向かうに連れて、自然とUTX学園が紘汰の目に映る。
−−−『UTX学園』
ここらではかなり大規模の私立の高校だ。
校内には最新の技術をふんだんに取り入れており、出席にはJRの改札などで使用されるICカード、もしくはスマートフォンの認証方式でゲートを介し行われる。学科の内容には海外留学のプランも完備、芸能プロダクションとのコネも厚く、この学園の芸能科が輩出したセミプロアイドルグループ『A-RISE』の躍進により国内中にスクールアイドルブームを引き起こしたと言われている。校内にはUTX劇場なるライブ会場があり、ここでのライブでA-RISEも着々とファンを増やしていったようだ。花陽の話によると、A-RISEに抜擢されたメンバーは、自分達が想像もできないような厳しい練習とダンスレッスンを受けており、高校卒業後も芸能界入りする事が義務付けられているとか。
制服はかなり珍しいであろう白で、一目でUTXだと分かるおしゃれな、黒のラインが入った白の制服も多くの女子たちの憧れの的にもなっている。
しかし、設備やコネがそれだけ整った高校だけあって入学費用は100万、受験料だけでも5万かかるらしい。俗にいうお金持ち高校であるが、それでも入学希望者が続出し、もともと入学希望者が減少気味だった音ノ木坂学院を廃校寸前にまで追い込まれてしまった。
悪く言えば、自分達の全ての元凶がここだ。
紘汰はチラリと穂乃果の顔を覗く−−−
たったの一瞬だったのだが、
彼女は、どこか寂しげな表情だった。
彼女は今、このUTX学院を見て何を思っているのだろう。
「ほらみんな、早く行こう!早く行かないとクレープ売り切れちゃうよっ!」
だが次の瞬間、穂乃果は何事もなかったように、普段通りの笑顔で凛と真姫の手を引きやや駆け足気味に目的地へのクレープ屋へと向かい始める。
紘汰と絵里はお互いの顔を見つめ、やや苦笑いしながら3人の後を追った−−−。
・・・
「んんん~!美味し~い!!」
「ほっぺたがとろけ落ちそうだにゃあ~!」
「もう!奢ってあげるの今日が最後だからね?次は絶対に奢らないんだから!」
「って、そのセリフ一体何度目だよ、真姫」
「紘汰も真姫に奢ってもらいながらなに言っているのよ」
オープンテラス式のクレープ屋で5人はクレープを注文し、食べ歩きながら帰路を歩いている。穂乃果と凛はオレンジソースがベースのクレープ、真姫はもちろんトマトをふんだんに使用したクレープ、紘汰は店内で販売されている中で一番安いシンプルなバナナのクレープ、絵里はチョコレートソースが使用されたクレープだ。ちなみに絵里以外は真姫からの奢りである。絵里も真姫から一緒に払う?と言われたが、かたくなに断った。
「真姫、それ美味しいのか?悪いけど俺にはどうしても美味しそうに見えないんだけど」
「なに言っているのよ紘汰。トマトはね?なんにでも合うのよ」
真姫は普段はあまり見せない満面な笑みでトマトが使用されたクレープを食べていた。
頬張った為に頬にクリームが付着する。それに気づいた本人はやや恥ずかしそうにハンカチで拭き取った。
「な、なにジロジロ見ているのよ」
「別に?」
「ふんっ。でも、こうして皆と一緒に食べるの、嫌いじゃないわ」
「どうしたんだ?突然」
「なんでもないわ。ただ、そう思っただけ」
「ははっ!なんだかいつもの真姫らしくないな!」
「失礼ね。ただ、ね?」
「ん?」
「いつまで、こうやって・・・皆と一緒に笑えるかなって・・・思ったのよ」
「?」
「っ!な、なんでもないわ!今の、忘れて・・・」
真姫は再びクレープを食べ始める。
紘汰は真姫の言った意味がよくわからなかったが、彼女が忘れてというので、今の件は軽く流すことにした。
「いや~美味しかったね!さっきのクレープ屋さん!今度はμ'sの皆で来ようね!」
「かよちんも一緒に来ればよかったのにな~。今日もミッチと一緒に勉強にゃ~」
「花陽と光実は偉いわね。紘汰も少しは見習いなさい?」
「はいはい、わかったよ絵里・・・ん?」
5人は今、裏通りを歩いている。自然と歩行者が少なくなるのだが、自分達の目先になにやら10人程の集団がいる。まるで誰かを囲んでいるかのように。
「なんだ・・・あれ」
「なにかあったのかしら?絵里、見える?」
「ん~、はっきりとはよく見えないけど・・・え」
絵里は驚愕した。
集団の中心には白い制服を身にまとった学生。UTX学園の男子生徒だろうか?
周りには、俗に言う『不良』
一目で状況を察する。
絡まれているのか?
「大変だにゃ!誰か、警察呼ばないと!」
「穂乃果!警察に連絡して!早く!」
「ま、待ってよ絵里ちゃん!えぇ~とっ、真姫ちゃん、警察って119番だっけ?」
「馬鹿っそれ消防よ!ってぇ!!紘汰!!」
真姫の静止も聞かず、一番最初に行動に移したのは紘汰だった。
−てめぇ、あのボンボン学校の生徒だろ?−
−俺ら金欠でさぁ~ちょっとお金貸してほしいんだよね~−
−断ったら、わかってんだろうな?あ?−
紘汰は集団目掛けて猛ダッシュで向かう。はっきり言って状況は芳しくない。
「おいお前達!!一体なにやってんだぁぁぁっ!!」
紘汰の存在に気づいた不良集団は自然とUTX学園の男子生徒を中心とした輪が分散していく。次第に彼の容姿が鮮明となる。
白い制服とは裏腹に、本人に言っては申し訳ないが、茶髪で鋭い眼光、不良集団より恐ろしく見えるのだが・・・1対多数では圧倒的に不利だ。
紘汰はUTX学園の男子生徒を守るように彼の前に立つ。しかしUTX学園の男子生徒は何事もなかったように、ただ紘汰に対し睨みつける。まるで目の前の集団が眼中にないかのようにも見えた。
「お前達、一人に対してそんな集団でカツアゲとか、恥ずかしくないのか!」
−あ?なんだお前−
−その制服、音ノ木坂か?−
−あ~あの廃校寸前のね。で、お前なに?−
「俺、喧嘩とかしないけど!これ以上こいつにちょっかいだすってんなら!俺だって容赦しないからな!」
紘汰は懐から戦極ドライバーとオレンジロックシードを取り出す。それを見た不良集団はややたじろいでしまった。
−こいつ、ビートライダーズか?−
−び、ビビんなよ!変身したところで俺達生身の人間には害がないだろ!−
−で、でもよ!学校選任の護衛ってことは、こいつ喧嘩も強いんじゃ・・・−
その時、不良集団のリーダー格の青年が片手にビール瓶を持ち、警戒しながらも紘汰へと振り降ろす!
「紘汰くんっ!」
「大丈夫だ、穂乃果!」
紘汰は持ち前の運動能力でそのビール瓶を避ける。
−だ、駄目だ!やっぱこいつ強えぇ!−
−ふざけやがって!舐めるんじゃねぇッ!!−
しかしリーダー格の青年は攻撃を止めなかった。今度はビール瓶を紘汰目掛けて投げつける!紘汰はそれを難なくと避ける−−−のだが、
「ッ!!絵里ちゃん!!」
「えっ・・・」
「しまったっ!絵里ぃ!!」
紘汰は避けたつもりでいた。
だが、その投げられたビール瓶の先には、絵里が立っていた。
穂乃果は絵里の名を叫ぶが時は既に遅かった。
絵里は突然の事で動揺し、身体が動かない。
絵里のすぐ目の前まで、ビール瓶が迫っていた−−−っ!!
その時−−−
「・・・・え?痛く・・・ない?」
「っ!!う、嘘だろ・・・あいつ・・・ついさっきまで、俺の後ろに・・・」
紘汰が驚くのも無理はない。それは、穂乃果達も同じだった。
つい先程まで、自分達が守ろうとしていた男子生徒に自分達の仲間が守られていた。
紘汰の後ろにいた男子生徒は、気がつけば絵里の目の前に立ち、リーダー格の青年から投げられたビール瓶を片手でキャッチしていたのだ。
「貴様・・・本当にビートライダーズか?自分の守るべき存在ぐらい、自分でなんとかしたらどうだ」
男子生徒はビール瓶を投げ捨て、リーダー格の青年の元へ一歩、また一歩と歩み寄る。
「貴様らなど、戦うにすら値しない『弱者』だ。失せろ」
−じゃ、弱者!?調子に・・・っ!!−
「聞こえなかったのか?失せろ」
気がつけばリーダー格の青年にボディブローが入っていた。男子生徒が放ったものだ。
リーダー格の青年は酷くうなだれながら大量の汗を流し悲鳴を上げて逃げて行く。それに続くように周りのメンバーもリーダー格の青年に続くようにその場を後にしていった。
先程の出来事が嘘かのように静寂が戻った。
「なに、あいつ。何者なの?」
「真姫ちゃん、言っちゃ悪いけどあの人が一番おっかないにゃ」
「お、お前・・・」
「・・・ふん・・」
男子生徒は何事も無かったかのように紘汰達とは反対方向へと歩き始める。
紘汰とすれ違う時、紘汰のみにしか聞こえない程の小さな声で男子生徒が問いかけてきた。
「貴様は一体何者だ。何故『ここ』にいる」
「は?」
男子生徒はそう言い残し、スタスタと歩いて行く。今度は絵里とすれ違うが見向きもせず、そのまま歩いて行ってしまった。
「絵里ちゃん、大丈夫!?」
「え、えぇ。私は別に・・・それより、お礼、言えなかったな・・・」
紘汰は珍しく動揺していた。
彼の動きが、全く見えなかったのだ。
それに、彼から発せられた覇気。
今まで体感したことのないものだった。
「あいつ・・・UTX学園だよな・・・。何者、なんだよ・・・」
紘汰は男子生徒の背中が見えなくなるまでじっと彼を見つめていた。
・・・・
「本当にやるつもり?『戒斗』」
「あぁ。そのつもりだ。そして確かめたい・・・奴らが、『強者』か・・・・あるいは、『弱者』なのか」
「そう、あなたがそれを望むなら私はなにも言わない。私も、私のやり方で戦わせてもらうわ」
「・・・ふん。はやりお前は強いな。・・・『ツバサ』」
・・・
−−−翌日。
時刻は丁度昼過ぎ。東京スカイツリー真下の広場でビアガーデンが開催されている。沢山の露店が出店され、更には晴天、炎天下という好条件のお陰で大賑わいとなっていた。ソラマチからは沢山の人々がビアガーデンに集まってくる。そんなビアガーデンの中央ステージ横のテントにμ'sの面々は今回の衣装を来て待機していた。もうすぐ、ミニライブが始まる時間だ。テントの隙間から、にこは会場の状況を確認する。秋葉原でのライブと同等、いや、それ以上の人が集まっていたものなので、驚きを隠せきれていなかった。
「ん?どうしたん、にこっち」
「ぐぬぬ・・・の、希・・・す、凄い人よ!これ、私達目当てで集まったのよね!?」
「いや、ビアガーデン目当てで集まった人だと思うけど」
「残念ながら、私達は今回のビアガーデンを盛り上げる為の存在だけど、それでも私達だけのライブという事実は変わらないわ。皆、気を引き締めてね?」
「そうそう!絵里ちゃんの言う通り!他のスクールアイドルがいない、私達だけのライブ!海未ちゃん!ことりちゃん!今回も絶対成功させようね!」
「えっあっはっそっ、そ、そそっそうですね!なにせ、私達だけしか、い、いないのですからっ!!」
「もう海未ちゃん~、いつまで緊張してるの~?ほら、ことりと一緒に深呼吸しよ?ほら、いっしょに!す~・・・は~・・・」
「葛葉、光実、戦極ドライバーとロックシードの準備は大丈夫か?今回も何が起こるか私にもわからん。いつでも戦闘できるように準備しておけ」
「大丈夫だよ兄さん。僕なら朝から準備万端だ」
「おう!高虎先生!今回はばっちり持ってきたからいつでも戦えるぜ!」
各々が準備を整える中、ただ一人、真姫は椅子に座り、やや様子がおかしかった。それに気がついた花陽は真姫のとなりに座り、彼女に問いかけた。
「・・・。はぁ・・・」
「ん?どうしたの真姫ちゃん」
「別になんでもないわ。私なら大丈夫よ、花陽」
「そう、なら良いんだけど」
「ねぇ花陽」
「なに?真姫ちゃん」
「私達ってどこまで有名になれるのかしらね」
「えっいきなりどうしたの?真姫ちゃん」
「ううん。ただそう思っただけ」
その時、テントの外からアナウンスが流れる。内容はμ'sのミニライブ開催の告知らしい。するとステージ前に続々と物珍しそうに人々が集まり始める。それを察した穂乃果はいつもどおり、皆を自分の周りに集め始めた。
「皆!いつもあれやろう!」
穂乃果は手を目の前にかざす。それに便乗し希も「うちも!」と穂乃果の手のひらの上に自分の手を乗せ、次々と手を乗せていく。
「た~かと~ら先生~?」
「なんだ、南」
「先生もやりましょ!」
「・・・あ、あぁ」
最後にことりの誘いに乗じ、高虎も手を上に乗せる。
1!
2!
3!
4!
5!
6!
7!
8!
9!
10!
11ぃ!!
・・・12。
「μ's!!」
ミュージック!スタート!!
いつもの掛け声が決まり、次々とステージ上に移動していく。
もちろん、紘汰と光実、顧問の高虎はテントに残ったままである。
だが、最後の一人、海未だけがなかなかステージに登ろうとしなかった。
「どうしたんだ園田。皆はもう行ったぞ」
「おいおい海未、もしかしてまだきんちょ−−−」
「いえ、違うんです」
なにやら海未の様子がおかしい。
それを一番最初に察したのは紘汰だった。
「どうした、海未。なにかあったのか?」
「その、なんでしょうか・・・何か、嫌な胸騒ぎがするのです」
「え・・・?」
「あの、もし何かあったら、ちゃんと私達のこと、守ってくださいね?紘汰」
「あ、あぁ!心配するな!さあ、行ってこいよ!俺はいつでも、海未やみんなのこと、守ってやるからさ」
「えぇ。私も紘汰のこと、信用していますよ」
海未はそう言い残し、ステージへと上がって行った。
だが、紘汰は腑に落ちなかった。
海未があそこまで不安がるのはそう珍しくはないのだが、今回は違う。
まるで、本当になにか起こるのを察しているように見えた。
「海未さん、どうしたのでしょうか」
「ミッチ、やっぱりお前も気になったか?」
「え、えぇ・・・あ、そういえば今は晴天ですけど、このあと大雨になる天気予報みたいですよ。それを察したんじゃ・・・」
「はぁぁっ!!?この晴天からか!?流石に天気からはみんなのこと守れねぇよ!!」
きっと海未は天気のことを察したのだろう。
紘汰はそう自分に言い聞かせていた。
そうこうしている間にμ'sのライブが始まった。客席からは沢山の声援が送られている。今回はミニライブの為、全部で5曲歌う予定だ。1曲目が始まり、今まで積み重ねてきた練習のお陰か、何事もミスがなく、曲が流れていく。
「凛、さっきから危なっかしいな~。ちゃんと周り見ているのか?」
「紘汰さん、まるで講師みたいですね」
「そりゃあ、ず~っっと皆の練習風景見ているからなんとなくわかるんだよな~」
「・・・。っ!・・・。」
「兄さん、さっきからずっと誰を見ているの?」
「あぁ、南を見ていた。右足を少々痛めているのか?動きに少しキレが無いな」
「兄さんって普段からことりさんと仲良く見えるんだけど、もしかして気になっているの?」
「馬鹿言え。南は理事長の娘だ。何かあれば理事長のお叱りを受けるのは私だ。それに、理事長のご機嫌取りも教職員の中で私の役目でな。まったく、何故私がこのような事に・・・」
「あ、ことりさんじゃなくて理事長のことが気になっていたんだ。兄さんって年上好きなの?」
「光実、そろそろいい加減にしろ。私を怒らせたいのか?」
「ははっ!兄さん顔が赤くなっているよ。久しぶりに兄さんが照れているとこ見ちゃったな」
「くっ・・・。まったくお前という男は・・・」
いよいよ、1曲目のサビに入ろうとしていた。
ここまで、大きなミスが全く無かった。今までで一番順調なのではないだろうか?
テント内で待機している3人は完全に安心しきっていた。
だが、その時−−−
「安心するの、まだ早いと思うがなぁ!!」
「「「っ!?」」」
紘汰達は後ろを振り返る。
3人の後ろには見知らぬ黒髪の青年が立っていた。おまけに、腰には戦極ドライバー。更には、白い制服。
3人はどこの学園の生徒が一瞬で察した。
−−−UTX学園・・・!!
「お前!一体何者だ!!ここに何しに来た!!?」
「俺の名は・・・まぁ、『ザック』とでも教えといてやる。たしかお前、葛葉紘汰って言ったよな?そっちは呉島光実、あとは教師か。DJサガラの番組見ていたぜ?わかるだろ?腰に戦極ドライバー、そして・・・ロックシード」
ザックと名乗る青年は右手にロックシードを構える・・・が、開錠しようとしない。
まるで弄んでいるかのように見える。
「ザック・・・って、言いましたっけ?僕達のライブを潰しにきたってことですか?」
「光実、落ち着け。UTX学園だ。もしかしてこの会場には・・・既に・・・」
「さっすが先生!察しの通り!ここからは派手なステージになるぜ?」
「なんだと?・・・っ!!」
その時、会場からは今まで以上にとてつもない歓声が湧き始めた。まるで、大御所が突如その場に登場したかのような歓声だ。
3人は何事かとザックを残し、ステージに立ち上がる。
すると、曲は既に止まっていた。
ステージに立つ9人の他に3人の少女が立ちふさがっている。
しかも、その姿に紘汰は見覚えがあった。
いや、正確には、はっきりと覚えている。
何故なら、『彼女達』は、絶対的エース−−−。
原点にして頂点。
ゆるいパーマがかかったセミロングヘアのお嬢様風な女の子
「ごめんね、一番盛り上がっている時に登場しちゃってぇ」
『優木あんじゅ』
左目に泣きボクロ、長い黒髪と切れ長の目を持ちクールな雰囲気を漂わせる女の子
「あなたたちのパフォーマンスは見事だ。だが・・・」
『統堂英玲奈』
そして、ショートヘアのデコ出しルック、背は一番低いが活動的な感じの女の子
「ここからは私達のステージ。あなた達には申し訳ないけど、ここにいるゲスト達は私達を求めているの。・・・ね。あなたには分かる?高坂穂乃果さん」
「きっ・・・綺羅・・・ツバサさんっ・・・!!」
μ'sの目の前に立ちふさがったのは、『A-RISE』
突然のサプライズに会場からの声援がより一層激しくなる。
それとは裏腹にμ'sのメンバーは言葉を失ってしまう。
何故、何故この場所に彼女達が現れたのか・・・
何故、ひよっこで駆け出しの私達の目の前に絶対的エースの彼女達が現れたのか−−−!!
「ふっ・・・」
「っ!!」
珍しく、穂乃果は言葉を失ってしまう。
ツバサはにやりと微笑む。
同時に、皆は息を飲んだ−−−
「・・・・っ!ど、どう?英玲奈!なんか今、私すっっっごく格好良くなかった!!?このセリフ前々から一度でいいから言って見たかったのよね~!!」
「ツバサ、落ち着いて。なんか逆に悪役」
「でも~、ダークなツバサもなかなか様になってたわよ~?」
「悪役ぅ!?ちがうちがう!今のキャラの立ち振る舞いは真打登場!!って感じの時代劇をリスペクトした−−−」
「火サスの真犯人の間違い」
「全身黒タイツ『綺羅ツバサ』あ、これ意外に売れるかも~」
「麻酔銃、いる?」
「いらないしっ!てかもう別の作品になっちゃってるし!もう英玲奈もあんじゅもわかってないな~。ちゃんと空気読んでよぉ!」
「い、いや、いやいやいやっ!空気読んでほしいのあなたたち!!なに勝手に話進めているんですか!!ここステージ!そういう女子高生的なやりとりは学校内かファーストフード店で行ってほしいのですがぁッ!!」
「あ、失礼。確かあなたは・・・絢瀬エリーチカ」
「チカいらない!私の名前は絵里!!」
「え、エリチ落ち着いて・・・あ、あのA-RISEさん?」
「あら~あなたはたしか~、東條希ちゃんよね~?」
「せやけど・・・あの・・・もうなんか雰囲気が・・・どないしよ。すごく緊迫した雰囲気ぶち壊しや。さすがにうちもこれを立て直すのはちょっと・・・」
「き・・・綺羅・・・綺羅ツバサさんよね・・・」
「あなたは矢澤にこさんね。なに?」
先程の登場とは一体なんだったのか、全ての雰囲気を破壊された後にただ一人、普段は聞けないであろう低い声でにこは拳を握り、ツバサの元へと歩み寄る。
「・・・あの・・・」
「ん?どうしたの?」
(まさかにこちゃん!あのツバサさんにっ・・・!)
(これ、やばいやつかにゃ?)
(にこちゃん・・・?)
真姫、凛、花陽は同時に息を呑む。
「綺羅・・・ツバサ・・・さんッ!!
サインッ!!くださいッ!!!!」
「えぇ、いいわよ」
「「「えぇぇぇぇッ!!?」」」
真姫、凛、花陽は目の前のまさかのやりとりにツッコミが追いつかず同時に驚いてしまった。この流れでそれはないだろうと3人はいつものにこに対し落胆してしまう・・・。
にこはいつもの商業的スマイルと自己紹介を止まることなくツバサへとアピールし、ツバサはニコニコと全て聞きながらにこがどこからともなく取り出したサイン色紙に慣れた手つきで自分のサインを執筆していた。
「あぁ~んもう最高!!まさか生のツバサさん見れるなんてぇ!!あ、もし良かったら~拍手してくださぁい!!もう、ほんと大ファンなんですよぉ~!!」
「あなたちっちゃ可愛いわねぇ!持ち帰ってマスコットにしたい!!お~よしよし~」
「ッッッ!!!!な゛ぁぁぁ゛ッッッ!!」
現在、にこはツバサに抱きしめられ、言葉にできないような悲鳴を出している状況である。
「私は初めて目の前でμ'sを見たが、まさかここまで個性豊かとは」
「皆、私と違ってキャラが立っていいわね~」
「さぁて!挨拶も済んだところだしそろそろ準備を−−−」
「どういうつもりなんですかッッッ!!!!!!」
その時、会場中に穂乃果の声が響き渡り、その場は一気に静まった。同時に、μ'sの面々は今、自分達が置かれている状況下に対し我に返る。
「穂乃果・・・」
「穂乃果ちゃん・・・」
穂乃果は拳と歯を握りしめ、普段は決して見せない眼光をツバサに向ける。彼女の豹変ぶりに海未とことりは言葉を失ってしまった。
「・・・にこちゃん?」
「ご、ごめん真姫ちゃん・・・その、つい浮かれちゃって・・・」
「私達の・・・私達だけの初めてのライブを台無しにして・・・一体何がしたいんですか!!なにが目的なのですか!!答えてください!!ツバサさんッ!!!!」
「目的ね。このステージにサプライズ出演・・・兼、あなたたちと対決したいってだけじゃ、理由にならないかしら?」
「ッ!!?」
ツバサは勝ち誇った表情で穂乃果の質問に返答する。穂乃果は一瞬たじろいでしまう。
なんだ−−−この人は。
サプライズ・・・?
私達との・・・対決?
そんな・・・たったそれだけの理由で?
「穂乃果さん、私達とライダーバトルしましょう。もちろんあなた達が勝てば私達はここから立ち去ってあげる」
「ツバサ、本当に良いのか?」
「大丈夫よ英玲奈。例え、百歩譲ってライダーバトルで負けたとしても・・・まあ、彼女達ならわかるでしょうね・・・さてと、ザック。お願いね」
「と言うことでだ!・・・お前達、俺とライダーバトルしろ」
いつの間にかザックはツバサ達の横に並び立ち、右手にはクルミロックシードを構える。
紘汰達は穂乃果達の目の前に立ち、戦極ドライバーを腰に装着させた。しかし、高虎は状況を察したのか、二人に静止を命じた。
「いい加減にしろ・・・!!俺達は今日までこの日の為に練習をしてきたんだ!!絶対に、絶対に許さねぇ!!」
「紘汰さん、援護は任せてください・・・僕も久しぶりに頭にきました」
「待てお前達、相手はA-RISEだ。お前達が太刀打ちできるような−−」
「大丈夫だ高虎先生!今の俺達なら行ける!!変身ッ!!」
「僕も一緒に行きます!変身!!」
高虎の静止も聞かず、二人は同時にロックシードを開錠した!
『オレンジ!ロックオン!オレンジアームズ!花道・オンステージ!』
「ブドウ!ロックオン!ブドウアームズ!龍・砲!ハッハッハッ!」
紘汰と光実はアーマードライダー鎧武、アーマードライダー龍玄に変身し、自分達の周りにリングを発生させる。
「さてと、何分で片付くかな・・・もしかしたら、『お前』の出番はないかもな・・・変身!」
『クルミ!』
ザックはクルミロックシードを開錠し、頭上にクラックを出現させる。クラックからはアーマーが出現し、ロックシードを戦極ドライバーに装着する。右腕を右下に伸ばし左腕を曲げ、その後右腕を上に伸ばしカッティングブレードを下ろす。同時にアーマーはザックの頭上へと装着される。
『クルミアームズ!ミスタァー・ナックルマーン!』
ザックはアーマードライダーナックルへと変身した!
アームズウエポンはグローブ型のクルミボンバー、ライドウェアは黒影と同様のものでアームズはグリドン同様、古代の鎧がモチーフと黒影とグリドンの特性を併せ持つ。
「止めろ、お前達!お前達の今の実力では無理だ!よせ!!」
高虎は珍しく動揺した表情で二人に何度も静止させようとするが、二人は全く聞く耳を持たない。それは、花陽も同じだった。
「紘汰くん!光実くん!今すぐ戦いをやめて!今の私達じゃ絶対に勝てないよ!」
「か、かよちんっ!いきなりなに言い出すにゃ!」
「駄目なんだよ凛ちゃんっ!はやくっはやく二人を止めないと!」
「どうしたの?花陽ちゃん。確かに相手はUTX学園のビートライダーズやけど、こっちは二人、相手は一人。紘汰くんと光実くんが力合わせればもしかしたら−−−」
「希ちゃん、それでも無理なんだよ!A-RISEがスクールアイドルの頂点だとして、ビートライダーズの実力もトップレベルなの!それに!それにね!!」
「か、かよちん、落ち着いて!」
「まだ、『あの人』が出てないんだよぉ!」
花陽が動揺する中、ライダーバトルが始まる。
先手を切ったのは鎧武だ。左手に大橙丸、右手に無双セイバーを装備しナックルに斬撃を放つ!
「おっとっ!なかなかやるな!」
「な、なに!?」
鎧武の斬撃をナックルは両腕のクルミボンバーで受け流し、全く攻撃が当たらず鎧武はたじろいでしまう。しかし後方の龍玄がナックルへブドウ龍砲の援護射撃を放ち、ナックルはそれを回避、なんとか二人の間合いを開けようとする。
「助かったぜミッチ。けど、全く手を抜いているつもりはないけど・・・っ!」
「実力は僕達と同等、それ以上ってところですね」
2対1、相手は一人なのだがナックルは余裕なのか、ファイティングポーズを取りながら次の二人の動きに対し構えている。鎧武は再び斬撃の嵐をナックルに放つがクルミボンバーで全てガード、お互いの武器がぶつかり合う度に火花が飛び散る。龍玄もブドウ龍砲を乱発し肉弾戦へと持ち込む。ブドウ龍砲をトンファーのように持ち替え鎧武に加担するが、状況は何一つ変わらない。
「・・・ふふっ」
「っ!なにがおかしいんですか!ツバサさんっ!!」
「あなたたちはまだ、駆け出しのスクールアイドルだったわよね。穂乃果さん」
「そ、それが一体−−−」
「なら、まだ経験したことがない筈よね」
「えっ・・・」
「いずれわかるわ−−−それより、ほら」
ナックルの連続パンチが龍玄に直撃し、火花を散らしながら足を着いてしまう。
「ミッチぃ!!」
「ぐぅっ・・だ、大丈夫です!それより!」
鎧武はナックルの後方を取り無双セイバーによる斬撃を放つ!ナックルは油断していたのか、ここで初めて自分にダメージが入り、ふらついてしまう。鎧武はそれを見逃さない。無双セイバーのガンモードでナックルへ追い打ちをする。流石にナックルも攻撃が効いたのか膝をついてしまう。
「うっ、ちょっと油断していたが、なかなかやるじゃないか」
「大丈夫かミッチ!」
「はい、なんとか・・・」
鎧武は龍玄の手を引き、自分の横へ立たせる。
なんとかナックルにダメージを与えることができたが、二人がかりでやっと、と、言ったところだ。
「紘汰さん、次は僕が行きます」
「けど、ミッチ!」
「大丈夫です、今の僕の実力じゃ紘汰さんみたいに彼にダメージは入れられない。けど、僕が全ての攻撃に耐えて、彼が油断したところを紘汰さんが狙えれば−−−」
「そんなの危険だ!」
「信じてください!行きますよ!」
『ブドウ・オーレ!』
「お、おいミッチ!」
龍玄はカッティングブレードを2回下ろし、ナックルへと特攻する。至近距離でナックルの胸部に銃撃を放つ!
「くぅっ!お前もなかなか、やるじゃないかっ!!」
「っ!!?」
しかし次の瞬間、ナックルの強烈なパンチが龍玄の顔面に直撃してしまう。龍玄はよろめきながらもその場になんとか立つ。そして鎧武は龍玄が決死の覚悟で作ったくれたこの隙を見逃さない。鎧武はカッティングブレードを下ろし、大橙丸にオーラを纏わせる!
『オレンジスカッシュ!』
「セイハァァァァッ!」
「なにっ?」
龍玄の背後から鎧武がナックルへと突撃する!
ナックルが防御体勢をとるがもう遅い。
直撃コースだ。この一撃には流石のナックルも耐えられないだろう。
「紘汰っ!」
一瞬、海未が不安気に紘汰の名を叫ぶが彼の耳には届いていなかった。
今はただ、目の前の標的を倒すのみ。
そして、ここまでたどり着き、そして夢だったμ'sだけのライブを絶対に成功させる。
紘汰のなかには、それだけしかなかった。
「―――ッ!!」
これで、この一撃でッ!!
俺達は、まだまだ先に進める!!
安心してくれ、皆!
俺達の
俺達のステージはまだ−−−
「お前達のステージは、今ではない」
鎧武の一撃が、ナックルに届かない。
「なにっ−−−」
右手が・・・大橙丸を構えた右手が動かない。
ナックルはすぐ目の前なのに・・・・何故?
鎧武の右手は、何者かによって掴まれていた。
生身の身体・・・変身していない。
鎧武はゆっくりとその手の先を見る。
そこには−−−
「お・・・・お前・・・・」
「っ!まさかあの人!」
「エリち、知り合いなん?」
「悪いが、お前達はここでステージを降りてもらう。お前達は『弱者』だ」
鎧武の腕を掴んでいた正体。
昨日、秋葉原の裏道で囲まれていた男子生徒だった。
男子生徒は鎧武の右手を離し、腰には戦極ドライバー。その手にはバナナのロックシード。
「お前、もしかして!」
「俺は・・・A-RISEのビートライダーズだ」
会場中からとてつもない声援がまたしても響き渡る。
無理もないだろう。
ステージ上に観客が待ち望んでいた『大本命』が現れたのだから。
「かよちん、・・・あの人・・」
「知ってるの?凛ちゃん・・・あの人はね、ライダーバトルでは一度も負けた事のない、A-RISEのビートライダーズ・・・ダメ・・・戦っちゃだめ!お願い二人とも!今すぐ戦いをやめて!!」
「ザック、悪いがこいつは俺にやらせろ。お前はあっちを頼む」
『バナナ!』
「はいよ。あと、助かったぜ『戒斗』」
戒斗と呼ばれた男子生徒はロックシードを開錠しクラックを出現させる。頭上にはバナナの形を催したアーマーが滞空、戦極ドライバーにロックシードを装着し、カッティングブレードを下ろした!
「変身」
『バナナアームズ!ナイト・オブ・スピアァー!』
戒斗はアーマードライダーに変身する。騎士をモチーフにしており、特にマスク部分は鉄仮面の意匠が強く、目の部分にはスリットが入っている。
「バナ−−−」
「バロンだ。行くぞ・・・ッ!!」
アーマードライダーバロンは鎧武に向かって専用のアームズウェポンであるバナスピアーによる強烈な突きを放つ!
あまりのスピードに鎧武はガード出来ず、直撃してしまう!
「グアァっ!!」
「っ!!紘汰くん!!」
穂乃果が叫ぶ−−−
たった一撃なのに、身体中の体力がごっそり持って行かれたようだ。
腹部に強烈な痺れが生じ、更には吹き飛ばされたためか自信の平衡感覚が麻痺してしまった。
鎧武はなんとかその場に立ち直すも、既に目の前にはバロンの姿があった。
「はぁっはぁっ・・・ま、まだだっ!!」
鎧武は大橙丸と無双セイバーを連結し薙刀モードでバロンへ斬撃を放つが全て避けられてしまう。まるで全ての動きが見えているようだ。
「ふんっ、その程度か」
「ガァァッ!!」
バロンは鎧武の背に回し蹴りを放ち、
「少しは期待していたが」
「グフッ・・・」
バロンのパンチが鎧武の胸部に直撃、
「全て、俺の勘違いだったようだな」
「アァァっ!!」
バナスピアーによる斬撃が鎧武に直撃、多数の火花が放たれ、膝を着いてしまう。
μ'sの面々は言葉を失ってしまう。
穂乃果が口を震わせた−−−
「や、やめて・・・」
鎧武はなにも抵抗することが出来ず、ただひたすらバロンの攻撃を受けるのみだ−−−
龍玄は既にダメージ過多だったのか、ナックルの最後の一撃でリング外に吹き飛ばされる。
それを見た花陽は一目散に龍玄の元へと駆け寄る。
「お願い・・・・もう・・・もう!」
鎧武の意識が遠のいていく・・・
既に、対抗する気力が残っていない。
「ツバサさん!もう、もうこれ以上は・・・!!」
「今のあなたたちに足りないもの」
「・・・えっ・・・?」
「まず、それを見つけると良いわ」
リング上には傷一つないバロンと満身創痍の鎧武。
鎧武は膝を着いた状態から一向に立つ気配がない。
勝負は既に見えていた。
鎧武の首元にはバナスピアーが突きつけられる。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・」
「もう、終わりか。抵抗する気はなさそうだな。それで良い、弱い奴ほど・・・目障りだ!!」
バナスピアーが鎧武の頭上に降り注がれる−−−
・・・
ハカイセヨ
ハカイセヨ
ハカイセヨ
破壊せよ・・・
破壊!!
・・・
「っ!!!!」
「なに?」
バナスピアーは鎧武には当たらなかった。
鎧武が無意識中に左手で矛先を掴んでいたからだ。
「こいつ・・・どこにその力が?」
「ふぅ~・・・・ふぅ~・・・
ウォォォォォォォォォオオオオ゛オ゛オ゛ッッッ!!!!」
「な゛ッ!!?」
鎧武は左手でバナスピアーの矛先を掴んだまま、右手で掌底打ちしバナスピアーを真っ二つにへし折る。
「まさかっ・・・」
「あぁァァァァァァア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!」
鎧武は左手のバナスピアーの矛先でバロン目掛けて切り刻もうとする!!
しかし−−−
「う゛ッ!!?」
「俺には−−−
二度も同じ手は効かん」
鎧武の抵抗はバロンの両腕でガードされる。
そして、鎧武自信が気がついた時−−−−
いつのまにか、自分は意識を失ってしまったと悟った。
・・・
ここ・・・は・・・?
横になっているのか?
目を開ける・・・が、焦点が合わない。
目の前に、人の姿が見える。
ぼやけて見えるが、次第に鮮明になる。
「海・・・未?」
「・・・紘汰・・・」
海未の膝に、自分の頭がおかれているらしい。
紘汰は未だに覚醒しきれていなかったが、身体をなんとか起こす。
強烈な痺れが体内に走る。
立つことができない。
それだけダメージが残っているということだ。
「紘汰、まだ無理しないほうが・・・」
少しずつ、周りの光景が鮮明になっている。
自分の横には・・・ミッチ?
まだ、気を失っているのか?
花陽が、ミッチの手を握って大泣きしている。
絵里、希、にこにー?
どうして、そんな悲しげな表情をしているんだ?
ことり、凛?
どうして。涙を堪えているんだ?
そうだ・・・ライブ。
俺達の・・・・ライブ・・・。
俺達の・・・・・ステージ・・・ッ!!
「ライブは−−−」
会場中からとてつもない声援。
紘汰の目の前に光輝くネオン。
−皆~!!応援ありがとう!!でも、まだまだ私達のステージは終わらないわよ~ッ!!?−
ステージ上には−−−A-RISE
そして、次第に自分の状況を察した。
そうか・・・俺達は・・・・
負けた。
「穂乃果・・・?」
穂乃果がずっとA-RISEのライブを見ている。
ここからじゃ背中しか見えない。
紘汰は海未に支えられながらなんとか穂乃果の傍に寄る。
「穂乃果・・・」
「例え・・・ね」
「え?」
「例え・・・紘汰くん達がライダーバトルに勝っていたとしても、私達はツバサさんたちに『ライブ』では完敗だったよ・・・凄い・・・凄すぎるよ・・・ははっ・・・私達には、あそこまで・・・歌って・・・踊れない・・・・」
次第に、穂乃果の声が弱々しくなっていく。
地面に一つ、穂乃果の頬を伝って水滴が流れ落ちる。
その瞬間、今までの晴天が嘘かのように雨雲が発達し強い雨が降り始めた。
−あれれ?雨降ってきちゃったな~、ごめんなさいっ!これ以上のライブは厳しいかな~?−
ツバサのMCと同時にライブとビアガーデンの中止のアナウンスが会場中に響き渡る。観客たちはそそくさと雨から退避しようと建物のなかに入って行った。
しかし、μ'sの面々はその場から動けなかった。
初めて味わった、敗北という重み。
A-RISEはステージを後にしようとする。
ステージ脇に戒斗とザックが腕を組みながら3人を待っていた。
「お疲れ、ザック。それと、戒斗」
「ツバサ達こそ、今日のライブも最高だったぜ!なあ戒斗」
・・・と、ザックが戒斗の右肩を叩いた。その時、戒斗は一瞬悲痛な表情を浮かべた。
「どうした?戒斗・・・まさかお前!?」
「大丈夫だ。最後のあいつの攻撃が右肩に当たっただけだ。たいした事はない」
「で、でも!お前に攻撃を当てるやつなんて今まで−−−」
「黙れ。帰るぞ、ザック」
戒斗は右肩を抑えながらその場から離れようとする。
だが、再び彼の歩みを誰かが止めてしまった。その正体はツバサだった。
「どう?戒斗。彼はあなたが思っていた存在だったの?」
「ふんっ・・・どうだかな。偽りでもあり、真に近い・・・どちらでも無い。
葛葉紘汰。もっと強くなれ。
そしてこの俺を屈服させてみろ
それまで、俺は待ち続けてやる・・・・」
戒斗は歩き始めた。
ザックとA-RISEの3人は彼の後を追うようにその場から離れていった。
気がつけば、周りにはμ's達以外は誰もいなかった。
ただ、雨ばかり強くなっていく−−−。
「お前達、今日はもう帰るぞ。これ以上、『雨』が酷くなる前に、な」
高虎の言葉と同時に、穂乃果から大きな泣き声が響いた。
ただ、雨音が泣き声を打ち消してしまう。
こうして、μ'sだけのライブは、
なにも出来ず、全て−−−
失敗に終わってしまった。
・・・
「・・・見~つけた」
−−−暗い研究室。
明かりと呼べるものはデスクトップパソコンの画面のみ。
そのデスクトップパソコンの画面に人の影が写っている。
その人物の姿を見るや、男はにやりと微笑む。
肩までかかるほどの長い髪、前髪に銀色のメッシュを入れた男は白衣を身にまとい、キーボードをカタカタと音を立ててコーヒーを一杯呑む。
「あんたに言われたことは全部してやった。準備は整ったぜ。これで満足か?『戦極凌馬』」
「・・・ん?やあ、サガラ」
暗闇の向こう側からDJサガラが白衣の男『戦極凌馬』に対し問いかける。
凌馬は一瞬だけサガラに振り向くが、何事も無かったかのように再びキーボードを打ち始め、語り始めた。
「君の放送のお陰でやっと見つけることができたよ。最初『彼』をこの目にした時は自分の目を疑ったよ。まさかこんなにはやく見つけることができるとわね」
「俺はお前の計画の為、望むことなら一通りしてやるつもりだ、が。勘違いはするな。俺はお前の味方ではない。ましてや、敵でもない」
「わかっているよ~そのほうが彼女達にもフェアだからね~」
「とりあえず、今日から今後の全ての運命が動き出す。覚悟は良いだろうな」
「いいよ~いつでも大丈夫だから」
DJサガラは再び暗闇の中へと消えていく。
そして凌馬はキーボードを片手で打ちながら慣れた手つきでスマートフォンを使い、電話をかけ始める。何回かコールが鳴った後、何処かへと繋がった。
「ああ、私だ。・・・ああ、準備は全て整ったよ。そうさ・・・いよいよ始まるんだよ。この世界を救う一大プロジェクト『プロジェクトアーク』がね。心配することはない。見つけたんだよ。君のお陰さ。もちろん報酬は用意してある。今度メールを送るから、受け取りに来て欲しい。・・・そうさ。『アダムの遺産』は見つけた。あとは『イブ』かな・・・あ、それと・・・
チームのメンバー全員に伝えてくれ
『Zが覚醒した』・・・とね」
凌馬はスマートフォンを切り、マグカップの横に置く。鼻歌を歌いながらキーボードを打つ手を更に早めた。
そして、その画面上に映る人物・・・
その人物の正体は、紘汰だった−−−。
・・・
−−−ライブから次の日。
昨日から霧雨が続いているため、校庭には沢山の水たまりができている。
高虎は重い足取りでアイドル研究部の部室のドアを開ける。
そこには普段の彼女達とは思えない程、とても重い空気が漂っていた。
本来ならば、今日の部活動は休みの予定だったが、急遽予定を変更し、高虎が無理矢理メンバーを招集したのだ。
高虎は部室に入るなり、空いている椅子に座る。
「さてと・・・お前達揃っているな」
と、高虎は問いかけるがメンバーからは何一つ返答が無い。
それほど、昨日の出来事がショックだったのだろう。
しかし高虎はお構いなしに話を進めた。
「リーダーとして、高坂に聞きたいことがある。改めて再確認しよう。私はとある選択肢を用意してきた。一つ、ここで、スクールアイドルを止めてμ'sを解散するか?そしてもう一つ、それともこのまま敗北を味わいながら無理にでも活動を続けていくか。どうしたい?」
「・・・なんで、そんなこと聞くんだよ。高虎先生ぇ」
「すまない葛葉。私は高坂に聞いている。申し訳ないが、お前達はただの『護衛』、お前達に聞いても意味は無い」
「けっ。蚊帳の外かよ」
高虎はそう言い残し、じっとその場から動かなくなる。
そして、少し時間が経ってから、穂乃果が口を開いた。
「・・・やりたい、です」
「何故だ?昨日の敗北を味わっただろ。もうスクールアイドルなんて辞めて、別の道で学校存続の道を開いたほうが手っ取り早いんじゃないか?」
「兄さん!」
「光実、黙っていろ」
高虎は真剣な眼差しで穂乃果を見つめる。
紘汰と光実など己の眼中には無かった。
「好きだから・・・」
「何が?」
「スクールアイドルが・・・」
「好きだけでは勝利はできない。お前達は一生敗北者で良いのか?」
「別に、勝利が目的だけじゃ・・・」
「なら悔しくないのか?」
「悔しいよっ!!」
穂乃果はバンッと机を叩いてその場に立つ。他のメンバーは少し驚いた。しかし高虎は全く微動だにしなかった。
「穂乃果は別にっ!勝ちたいとかそういうのが目的じゃなくてっ!スクールアイドルが本当に好きに、好きになっちゃったからっ!!皆と一緒に歌って踊りたいだけなのっ!!だけど・・・悔しかったっ・・・A-RISEにステージを奪われたとき・・・もう、誰も私達を見ていないんだなって・・・だから・・・穂乃果は、・・・穂乃果はっ!!」
「・・・。」
「穂乃果・・・」
「穂乃果ちゃん・・・」
海未とことりが不安そうに穂乃果を見つめる。
ただ、雨雲が遠のいたのか、部室の窓から太陽の光が穂乃果に降り注がれる−−−。
「穂乃果は、もっと歌も上手になって!もっとダンスも上手くなって!もう二度と、私達のステージが無くならないようにっ!みんなと一緒に歩いていきたい!」
「上出来だ。小泉」
「はいぃっ!?」
突然、高虎が花陽に声を掛けたものなので花陽は驚いてしまった。しかし、花陽から見た高虎の表情は、なにか気分が晴れたような表情だった。
「あと5分でスクールアイドルホットライン、と言ったか?その生放送が始まるらしい。パソコンで皆に見せてあげてくれないか?」
「あっ忘れてたぁ!!今すぐ立ち上げますので、ちょっと待っててくださいっ!!」
「さぁ、皆。今から放送される内容を良く見ておけ」
花陽は慣れた手つきでパソコンを立ち上げ、あっという間にネット番組が始まるサイトへと移動していた。画面上には『このあと放送を開始致しますので、もうしばらくお待ちください』と表示されている。
「高虎先生、一体何が?」
「高坂、お前の気持ちはよくわかった。お前の本音が聞けて私は安心したよ。取り敢えず、今から発表されることは今後のμ's、いや、音ノ木坂の存続に深く影響する出来事かもしれない」
「一体何が始まるというのですか?」
「音ノ木坂の存続・・・お母さんはなにも・・・」
海未とことりが疑問に思う中、ついに画面上で生放送が始まった。
『スクールアイドルホットライン!!よお皆!DJサガラだ!!この前の東京スカイツリーでの出来事!皆、チェックしていたかい!?超新星のμ'sの面々には申し訳なかったが、やはり頂点にして原点、A-RISEという壁は高かったみたいだぜ!?』
「に゛ゃ~・・・そこまで言わなくても別に良いのに~」
「まあまあ凛ちゃん落ち着いて。高虎先生、もしかしてうちらに見せたかったのって・・・」
「いや、このあとの筈だ」
『さて、そんな出来事の中、今日は改めて、全国のスクールアイドル達に重大告知があるんだ!聞いてくれ!
実はユグドラシルコーポレーションの協賛により、今年の秋に全国のスクールアイドルの頂点が決まる大会を開催することに正式に決定しちまったんだ!!
その大会の名は、−Love Live!!−
開催地は、ここ!アキバドームだぜ!!』
DJサガラを移していたカメラが反対方向へと映る。
そこは、アキバドーム。
それを見た高虎はにやりと微笑んだ。
「全国・・・頂点・・・!!?うそうそうそ!!?穂乃果そんなこと聞いてない!!」
「まさか、そんな大規模な大会がっ!!?こ、ここ、秋葉原でぇっ!!?」
「は、花陽。一旦落ち着きなさい!」
口を震わせる花陽を絵里は落ち着かせる。
そう、高虎の狙いはこれだったのだ。
自然に、高虎の考えがメンバー全員が理解した。
「高虎先生!もしかして・・・」
「兄さん!」
「あぁ、お前達が考えている通りだ。アキバドームでやるとは思っていなかったがな。これなら尚、都合が良い。そうだ、この大会にお前達が出場、そして優勝すれば自ずと廃校危機は無くなるだろう。頂点を決める大会だ、優勝したという功績さえ残せれば、それを聞いて入学を考える学生は増えるだろう」
「でも高虎先生。優勝を目指すってことは・・・」
「東條、お前の思いどおり。私達は再びA-RISEと戦うことになるだろう。そのために私はこのμ'sのリーダー、高坂に聞いた。再び、勝利でもなく、敗北でもなく、ただ、まだここにいる皆と一緒に歩いて行く勇気があるかどうか、な」
『詳しい内容やルールは今後、ネット上にアップしていくからよっ!細かくチェックするんだぜ!?それとあともう一つ!今度はビートライダーズ達に朗報だ!!』
そのサガラの言葉を聞いた紘汰と光実は自然と画面を凝視する。
高虎は再びにやりと微笑んだ。
『激化するライダーバトル・・・世の中にはどうしても勝てない相手がいるってもんだ!それで・・・だ!なんと来週より、ユグドラシルコーポレーションより、これ!!』
・・・と、サガラは見たこともないロックシードを取り出す。
絵柄はレモン・・・なのだが、自分達が所持するロックシードと微妙に形状が違う。
『こいつは今リリースされているロックシードより遥かに力を持つ新型のロックシード!!そうだな・・・エナジーロックーシードを提供する予定だ!!もちろん、一般販売は当分先!まあ、俗に言うベータテストってやつだな!!対象者はこっちで勝手に決めちゃうからよっ!まあ当選のお祈りぐらいしといてくれっ!!』
「エナジー・・・ロックシード?」
「あの力があれば、僕達はまだ!」
「あぁ。まあそのためにも今よりもっと鍛えなければな、光実」
「はい、兄さん!」
穂乃果は窓際に達、窓を開ける。一瞬、風が部室に入り、髪がなびく。
外はすっかり雨が上がり、晴天となっていた。
「私達は、まだ終わってない。まだ進める!」
「穂乃果!」
「穂乃果ちゃん!」
「海未ちゃん・・・ことりちゃん・・・!」
海未とことりは穂乃果の表情を見て安心した。
そこには、いつもの彼女が戻っていたからだ。
「ファイトだよっ・・・私!ラブライブ!絶対優勝して、廃校を無くすんだから!!」
「穂乃果、俺はもう絶対負けねえ!絶対にラブライブ、優勝しようぜ!!」
「うん!うんうんうん!!」
メンバー達に再び、希望の光が訪れた。
だが、ただ一人―――
ずっと椅子に座り続け、暗い表情をした少女がいた。
「どうしたの~真姫ちゃん。浮かない顔しちゃって!これからラブライブに向けて頑張らないといけないんだから!ほら、にこっ!」
「―――ごめん、にこちゃん」
「えっ・・・?」
真姫は静かに立ち、そのままドアを開け、部室から出ていこうとする。
それに気がついた紘汰と穂乃果は少し様子がおかしい真姫に問いかけた。
「どうした、真姫。気分悪いのか?」
「真姫ちゃ~ん?どうしたの?お~い・・・」
−−――ごめん、みんな。
その真姫の次の言葉に、メンバー全員、ましてや、高虎すら言葉を失ってしまった。
「私、μ'sを抜けさせてもらうわ。退部届け、後で持ってくるから・・・」
「えっ・・・お、おい真姫―――」
そう言い残し、真姫は静かに部室を去って行ってしまった・・・。
突然の真姫の脱退。
希望の光が見えたと思いきや、再び起こる事件。
この先、μ'sは一体どうなってしまうのだろうか−−−−?
・・・next 『4』