転生した天狗とリリカルな物語   作:下駄河童

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第10話 特賞 きます

「大ぉお当りぃぃ、特賞・温泉旅行ぉ!」

 

カランカランという鐘の音とおじさんの大声が夕方の商店街に響き渡った。

 

「……うそ。」

「いえ、本当です。姉さま。」

 

2人の少女は、目の前にある金色の玉をただ呆然と見つめていた。

商店街の福引きという小さなイベントで見事特賞・温泉旅行を当てたのは、月影と雪羅の2人だった。

 

 

―――――飛天家・居間―――――――

 

「商店街の福引って本当に当たるんだな。」

「くぅ~ん?」

 

買い物から帰った2人に景品を見せられた幻が呟いた。そして幻の頭に乗った豆柴が、そうなの?と言いたげに鳴いた。

この豆柴は先日の事件で幻が助けた仔犬である。あの後、すっかり幻に懐いてしまい、そのままアリサから譲られて飛天家の新しい家族となった。ちなみに名前(月影命名)は“ナナ”である。

 

「私も驚きました。まさか、1回目でいきなり当たるとは思っていませんでしたから。」

 

と幻の隣でナナの頭を撫でながら雪羅が言った。さすがに彼女も驚いたらしく、未だに信じられないという表情のままだった。

 

「温泉かぁ。行くのは明後日だよね?」

「うん、楽しみ。」

 

一方、月影と朧は今から行くのが楽しみであるようだった。月影は帰ってきてから、ずっとにやけ顔のままであり、普段は無表情の朧も少し頬が緩んでいた。

世間では明後日から3連休が始まる。連休中、幻たちは温泉でのんびり過ごすという予定である。

 

「俺も温泉なんて久しぶりだな。最近は色々あったし、向こうでは戦いのことを忘れてのんびりするかな。」

 

 

――――――そして2日後

 

天候は、快晴。まさに旅行日和である。

幻たちはバスに揺られながらのんびりと旅館に向かっていた。海鳴市には市街地から車で1時間くらいのところに温泉宿がいくつかあり、幻たちが今回泊まる所もそのうちの1つであった。

 

そして、バスに揺られること1時間半、さらにバス停から宿まで歩いて30分。幻たちは無事宿に到着した。ちなみにこの宿はペット可であるため、幻の頭の上にはいつものようにナナがいた。

 

「本当にナナは幻くんの頭の上が好きだよね。」

「あん。」

「なんか最初に助けた時から上に乗ってたな、お前。」

 

と幻と月影が話していると受付でチェックインを済ませた雪羅が案内係の仲居さんと一緒に戻ってきた。

 

「お待たせしました。」

「それでは、お部屋までご案内させていただきますね。」

 

仲居さんの後に続いて幻たちは部屋に向かった。案内された部屋は結構広く、4人で過ごすには十分な広さだった。そして、仲居さんは温泉の位置や食事の時間などを幻たちに伝えて、戻って行った。とここで幻があることに気付いた。

 

「あれ? そういえば、男女で1つの部屋だけどいいの?」

「問題ありません。私たちは、家族で来ていますので。それに傍から見れば兄弟(設定上は親戚)ですから。」

 

幻の問いに雪羅が淡々と答えた。そして最後に一言。

    

「それに男女ではなく、男の子と女です。」

「……どうせ俺の外見は小学生ですよ。」

 

雪羅の一言に幻はいじけた。

 

――――――――――――――――――――

 

「じゃあ、またあとで。」

3人+1匹「分かりました。(うん。)(あんっ!)」

 

幻と月影たち&ナナは、男湯と女湯の前で分かれた。

脱衣所に入った幻は服を脱いで風呂場に行き、そこで意外な人物と会った。

 

「あれ? 飛天君?」

「……恭也さん?」

 

湯船にはなのはの兄である恭也がいた。

 

「「何で?」」

 

――――――――――――

 

「なるほど、家族旅行だったんですか。」

「ああ、あとは月村家のみんなとアリサちゃんもいる。そっちは?」

 

幻は体を洗ってから湯に入り、恭也と話していた。

 

「商店街の福引の景品です。」

「……福引って当たるんだな。」

 

福引の景品という言葉に恭也は、幻と同じ反応をした。

その後は特に何も話さないでいたが、その間に何かを考えていた恭也は、突然真剣な表情になり

 

「飛天くん。この前はすまなかった。」

 

幻の方を向いて謝った。どうやら先日の対戦のことらしい。

 

「いえ、こちらこそやり過ぎました。すみませんでした。」

「そのことについてなんだが、単刀直入に聞こう。君は一体何者なんだい?」

 

恭也はここで一呼吸おいてから、今日までずっと疑問に思っていたことを幻に尋ねた。

 

「母さんやなのははあの場面を見てないし、勝敗についても俺が君を勝たせたと思っている。だが、小学3年生の子供が大学生の俺に勝ち、さらに木刀をそれも素手で壊すなんて明らかに異常過ぎる。こんなことを聞くのは失礼だが、君は本当に人間かい?」

 

「……まるで、人間以外がいること知っているような口調ですね?」

 

恭也の言葉に対して幻が静かに聞いた。

 

「……ああ、知っている。詳しいことは言えないが、俺は人以外の存在を知っている。」

「そうなんですか?まぁ、別に俺も正体を隠してるわけじゃないのでお話します。」

「分かった。」

 

幻は、恭也が頷いたのを確認するとゆっくり話し始めた。

 

「まず、結論から言うと俺は妖怪です。まぁ、正確には妖怪と人間の間に生まれた半妖なんですが。木刀を粉砕できたのも人間よりも力が強いというだけです。ちなみにあの時の対戦で本気を出したのは、手を抜くのが嫌だったからです。ご理解いただけましたか?」

「ああ、それだけ分かれば十分だよ。ありがとう。」

 

幻が説明を終えると恭也も納得したようだった。

 

「あっ、俺からも質問いいですか?」

「なんだい?」

「何で俺と対戦したんですか? 小学生相手に勝負をしてもあまりいい経験値は得られませんよ?」

 

幻が尋ねると恭也は歯切れが悪そうに言った。

 

「あの時、君から小学生らしからぬ強い気を感じてね。少し警戒していたんだよ。あとは、その、なのはの男友達が貧弱な奴じゃないかどうかを試したくてな。」

「はぁ、そうだったんですか。」

 

幻は恭也の言葉に納得したようだった。

 

「ああ、君なら問題ないよ、うん。(言えない、実は兄としても警戒してました、なんて言えない。)」

 

強い気を警戒していたという事実も確かにあったが、その内の何割かは兄としての警戒心が占めていたとは口が裂けても言えなかった。

 

その後、恭也は先に風呂から上がり、1人残った幻はのんびりと温泉を楽しんだのであった。

そして、風呂から上がるとやはりなのは、すずか、アリサの3人娘が幻を待っていた。

 

「まさか、あんたたちも来ているとは思わなかったわ。」

「俺もびっくりしたよ。風呂場に行ったら恭也さんがいたんだから。」

 

最初に声をかけてきたのはアリサであった。

 

「あ、幻くん。月影さんたちから伝言。私たちはまだ入ってるからナナをお願いだって。はい。」

 

月影たちからの伝言を伝えてからすずかはタオルに包んで抱きかかえていたナナを幻に渡した。

 

「ありがと、月村。まぁ、あの3人の長風呂はいつものことだし。」

「あんあんっ」

 

幻に抱っこされるとナナは嬉しそうに吠えながらいつもの場所によじ登った。

 

「可愛いよねー、ナナちゃん。いいなぁ、幻くん。」

 

なのはが幻の頭の上で気持ちよさそうにしているナナを見ながら羨ましそうに言った。それを聞いたアリサがなのはの方を見ながらため息交じりに呟いた。

 

「何言ってんのよ。なのはの肩にも可愛いフェレットが乗ってるじゃない。……まさか、忘れてないわよね?」

「……きゅー?」

「わ、忘れてなんかないよ?!」

 

アリサとユーノの疑いの眼差しをなのはは必死に否定していた。

 

その後もわいわいと話しながら旅館の中を歩いていると、前から歩いてきた女性が幻たちに声をかけてきた。

 

「はぁい、おちびちゃんたち。」

「え?」

 

いきなり見知らぬ女性に声をかけられた幻たちは、話を中断して目の前のオレンジ色の髪の女性を見た。女性は幻たち4人をを見まわした後、幻となのはの方を向き近づいてきた。

 

「ふむふむ、君たちかね。うちの子をアレしてくれちゃっているのは?」

「ふぇ?」

 

女性は幻となのはの顔を見ながら言葉を続けた。

 

「うーん、あんまり賢そうにも強そうにも見えないただのガキんちょたちにしか見えないけどねぇ。」

「え、えーと。」

「……(また子ども扱い)」

 

女性の言葉に戸惑うなのはと何も言わない幻(内心は本日2度目の子ども扱いに落ち込んでいる)を見るに見かねたアリサがなのはを庇う形で女性の前に出てきた。

 

「なのは、幻、この人知り合い?」

「ううん。」

「知らない……はぁ。」

 

2人が知らないと告げるとアリサは女性の方に向き直り少し強めの口調で言った。

 

「この2人はあなたを知らないみたいですが、どちら様ですか?」

 

アリサがそう言うと女性は何かを考えていたが、突然笑い出した。

 

「あははは、あぁ、ごめんごめん。人違いだったかな? 知り合いによく似ていたから間違えちゃったよ。可愛いペットだねぇ。」

 

女性は2人を知り合いと間違えたようで、ユーノとナナを撫でながら謝ってきた。なんだ人違いかと幻たちが思った時、突然念話が聞こえてきた。

 

「『今日のところは、挨拶だけにしておくよ。』」

「!!」

「『忠告しておくよ。子供はお家で大人しく遊んでなさいね。あんまりおいたが過ぎると、そのうちガブッといくよ。』」

 

女性の脅しになのはとユーノは黙っていた。それを見た女性は満足げに去って行こうとしたが、その途中で立ち止まり、幻の方をチラリと見ながらまた念話をしてきた。今度は幻だけに聞こえるように話しているようで、聞こえていないなのはは女性の態度に怒っているアリサをなだめていた。

 

「『……あと、アンタの方にはあの子に手を貸してくれた礼を言っておくよ。ありがと。』」

「『あの子?……!! あんた、フェイトの関係者か?』」

 

幻に魔法関係の知り合いはユーノを除けばフェイトしかいない。そのことから幻は、この女性がフェイトの関係者であると考えた。手を貸したというのは、恐らく山で共に戦った時のことだろう。

 

「『まあね。でも、忠告はしたよ? もうジュエルシードには関わらないでくれ。』」

「『……実はこいつ、この前フェイトに負けてから、なんか本格的な修行始めちゃってさ。多分関わる。』」

「『……じゃあ、せめてあたしたちの邪魔だけはしないでくれ。』」

 

女性はそう告げると今度こそ去って行った。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

幻がなのはたちと一旦別れ、部屋に戻って寛いでいるとようやく風呂から上がった月影たちが戻ってきたので、幻は先ほどの女性との一件を説明した。

 

「なるほど、姉さまがのぼせている間にそんなことが。」

「雪羅ちゃん、それ今関係ないよね?! 違うからね?」

 

雪羅がさらりと言った一言を、月影は必死に誤魔化していた。

やけに時間がかかっていたのは、長湯でのぼせた月影の介抱をしていたかららしい。

 

「でも、フェイトの知り合い、何でここに?」

 

と畳の上に寝転んでナナと遊んでいた朧が聞いてきた。

 

「さあな。考えられる理由としては、敵情視察、単なる偶然、あるいはジュエルシードを取りに来たついで。」

「幻くん、この近くにジュエルシードがあるの?」

「それは分からん。可能性の1つだ。ただ警戒はしておこう。あとは、せっかくの家族旅行だ。もっと楽しい思い出も作ろうな。」

 

幻が言うと3人は微笑みながら頷いた。

 

 

 

 

続く




というわけで、温泉編・前編でした。
後編は……もうしばらくお待ちを。最近忙しくて、なかなか書く時間が……


以下新キャラ?の説明です。
ナナ(名前の由来は、作者が昔飼っていた犬の名です。)
・外見:柴色の仔犬(柴犬)で性別はメス。
・飛天家の新しい家族で、マスコット的な存在。とても賢くて、人懐っこい性格。お気に入りの場所は幻の頭の上。

では、また次回!
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