月影・雪羅が商店街の福引で当てた温泉旅行2日目。
「昨日は楽しかったねー」
「姉さまはファリンさんとすぐに仲良くなってましたからね」
昨晩幻たち飛天一家は、なのはたちに誘われて、彼女たちとその家族全員で一緒に夕飯を食べた。
幻たちは、その時に初対面だったすずかの家族に挨拶をし、その時に月影とすずかの専属メイドであるファリンは互いに馬が合ったのか、あっという間に仲良くなっていた。
その後も宴会は続き、小学生組(幻を除く)が寝る時間が近づいたところでお開きとなった。
そして翌朝、幻たちは部屋で少し遅めの朝食を食べた後、旅館から出て近くの温泉街をのんびりと散歩していた。
「そういえば幻、今朝旅館の方に聞いたんですが、この辺りにおいしいうどん屋があるらしいです。行きませんか?」
「うどん屋? つか、さっき朝食食べたばかりだし、行くのはもう少し後でもいいんじゃないか?」
幻がそう言うと雪羅はくわっと目を見開いて幻を睨んだ。
「何言ってるんですか!? おいしいうどん屋があると聞いてすぐに行かなきゃ、うどんに失礼でしょう!? 」
「お、落ち着け!雪羅、キャラがおかしいぞ?」
いつも冷静な雪羅が突然うどんについて熱く語り始めたのを見て幻たちは若干引いていた。
「いいですか? そもそも、うどんはですね……」
「……ダメだ、語るのに夢中で聞こえてない。」
「せ、せつら、いつもと違う?」
「あぅ~ん……」
朧とナナはいつもと違う雪羅に怯え、朧は幻の背中に隠れて、ナナは頭上で丸くなって恐る恐る様子を窺っていた。そんな中、月影だけは雪羅を見て、呑気に笑っていた。
「あはは、雪羅ちゃん、うどんに夢中だったからね。こんな食べ物は初めてだって言ってたし。どうする幻くん? 雪羅ちゃんって夢中になってることの話を始めるとしばらくはこっちに帰ってこないよ?」
「ついこの前食ったばかりのものを何でもう語れるようになってるんだよ?」
「“いんたーねっと”ってやつで調べてた。」
「“うぃきぺでぃあ”便利って言ってた。」
「……そういえば、雪羅ってパソコン使う授業の時はめちゃくちゃ集中して聴いてたような。」
「……よって、うどんを作るときは……」
雪羅恐るべし。と幻たちが話している間もずっとうどんについて語る雪羅だった。
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「いらっしゃいませ、4名様ですか?」
「あっ、はい。」
「それじゃあ、空いてる席にどうぞ。」
店員がそう言うと幻たちは適当な席に座った。
「雪羅、大丈夫か?」
「は、はい。」
雪羅は小さな声で返事した。今度はいつも以上に静かだった。
先ほどの講話は近くを歩いていた他の温泉客たちの注目も集めてしまい、雪羅の周りには数十人の人だかりができていた。そして、講話が終わった時には聴衆から拍手が起こり、正気に戻り周囲の状況を理解した雪羅は、顔から火が出る勢いで赤面した。さすがの雪羅も恥ずかしかったようで、あれからずっと俯いたままだった。
雪羅の講話でそれなりに時間を潰した幻たちは昼食には少し早いが、そのまま雪羅の案内でうどん屋に行った。
「では、ご注文は天ぷらうどんが2つと、きつねうどんが2つ。ドッグフード、以上でよろしいですね?」
「あっはい……え?」
「ふふ、頭のワンちゃんのご飯ですよ。ここの店長、大の動物好きでペット連れのお客さんにはその子の分まで用意させるんですよ。それでは。」
注文+αを終えると店員は店の奥に戻って行った。
「……すごい店だね、幻くん。」
「あんあん。」
「すごいというか普通ないだろ。」
うどん屋の驚くべきサービス?に唖然とする幻たちであった。
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「うどん、おいしい」
「やはり、私の目に狂いはなかったです。」
「こりゃ、うまい……てか、ここの情報は旅館経由なんじゃ?」
「幻くん、そこは黙っててあげようよ。あ~、幸せぇ~」
「わふっ」
幻たちは各々が注文したものを食べながら、感想を言い合っていた。
ちなみ注文したメニューは、幻&雪羅:天ぷらうどん、月影&朧:きつねうどんである。
そうしている間に時刻は12時を回り、店内も徐々に込み始めてきた。
「いらっしゃいませ」
また、お客さんが店内に入ってきた。
「あっ、あそこの席空いてるよ。」
「あっ、待って。」
今度の客は女性2人のようで空いてる席を見つけて、そこに向かおうとした。
「!! あんあん!」
「きゃっ」
とそれまで大人しくドッグフードを食べていたナナが急に吠え、その客の足元へと行ってしまった。
「ん? あっこら、ナナ! すいません。うちの犬、かなり人懐っこくて」
「いえ、大丈夫です。」
気付いた幻が席から離れてナナを抱き上げ、謝りながらその女性を見て……固まった。
「フェイト!?……と昨日の酔っ払いの人(アリサ命名)」
「げ、幻!?」
「また会ったね。って何そのあだ名!?」
「ねぇ、とりあえずこっちに座ったら?」
「あっはい。」
「あ、ああ。」
月影に言われて2人は戸惑いながらも席に座った。幻は2人が座り、ついでに注文を終えたのを見て気になっていたことを色々と聞くことにした。
「まず、何でここにいるんだ?」
「え? お昼を食べに」
「すまん、質問の仕方が悪かった。何でこの温泉街に?」
「うんと、休養かな。ここから少し行ったところにある温泉宿に2人で宿泊してるの。」
聞き直した幻にフェイトが答えた。
「その宿ってもしかして」
「あんたたちと同じ宿だよ。だから昨日会っただろう?」
「確かに。……けど、休養か。てっきり、こちらの偵察が目的かと思った。」
「違うよ。まぁ偶然廊下を歩いてたら、フェイトの言ってた奴らと特徴が似てたから鎌をかけたのは事実だけどね。あの子やあんたは念話に反応したから、忠告しといたのさ。」
幻の質問にオレンジの女性が答えた。
「なるほどね。けどフェイト、俺がいくら言ってもあいつらを止めるのは無理だ。特になのは……あの白い服の子は、お前との再戦に燃えてる。」
「それはアルフから聞いてる。でも、私にもアレを集める理由がある。止めるわけにはいかない。」
フェイトは決意のこもった眼で幻の顔を見た。
「……そこまでする理由は?」
「……それは、言えない。」
「分かった。んじゃあ、言える時が来たら教えてくれ。」
「え? あ、うん。」
「なんだよ? 無理やり言わせるとでも思ったか?」
「……」
幻の言葉にフェイトは気まずそうに目線を逸らした。
その反応に幻はショックを受け、周囲の者は苦笑していた。
「あっ、フェイトちゃん。せっかくだからお互いのことについて話そうよ? 私は月影。」
「雪羅です。姉さま共々よろしくお願いします。」
「朧。こっちはナナ。」
「あん!」
「改めて、飛天 幻です、ぐすん。」
月影が名乗ると飛天家の面々が順に名乗った。……幻は若干涙目だったが。
「よ、よろしくお願いします。フェイト・テスタロッサです。」
「あたしはアルフ。フェイトの使い魔さ。」
「そういえば、幻たちは何者なの?」
「ああ、俺たちは……」
以前のこと聞かれ、幻は自分の正体や剣精についての説明を始めた。
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「んじゃあな、フェイト、アルフさん。宿でなのはたちに会わないように気を付けてな。」
「うん。またね、幻、みなさん。」
説明と食事が終わり、幻たちはフェイトたちと店前で別れた。
先ほどの幻の説明でフェイトたちは幻たちの正体を理解したようだった。ちなみに、彼女たちは妖怪がどういうものか知らなかったので、最初にそこの説明から始める羽目になったが……
その後はお土産屋などを見て回り、夕方頃に宿に戻った。
そして夕食を食べ終わって部屋でのんびりとしていた。そして、夜も更けた頃、幻たちは宿から少し離れた所にジュエルシードの反応を感知した。
「『幻くん、ジュエルシードの反応だよ! 急いで封印しなきゃ。』」
「『えー、これから風呂行こうと思ってたのにー』」
なのはからの念話に幻はやる気がなさそうに答え、
「『そんなこと言わないで! とにかく私たち先に行ってるよ!』」
そして怒られた。
「あー面倒だ。それにフェイトたちも向かっただろうし、俺いらなくね?」
「幻くん、そういうわけにもいかないよ。」
「しゃーない、みんな行くぞー。ナナ、大人しく留守番しててくれよ。」
「あんあん。」
ナナが了承した(ように吠えた)のを確認すると幻たちは反応のあった地点に(のんびりと)向かった。到着すると桃色と金色の光が上空でぶつかり合っていた。
それをユーノと少し離れた所にいたオレンジ色の狼が見上げていた。
状況が分からない幻たちが困っていると、ユーノが幻たちに今の状況を説明をしてくれた。
「ふむふむ。つまり、お前らが来たのとほぼ同時にフェイトたちも現れ、まずはジュエルシードを封印。で、どちらもそれが欲しいので戦って決めようと。」
「うん。」
「まぁ、なのはもあれから修行してたみたいだし、勝敗は分からんな。」
「ふん、勝つのはフェイトの方だよ。」
と離れた所にいた狼が口を開いた。
「え? 今の声ってアルフさん?」
「何をそんなに驚いてんだい? ああ、そうか、この姿で会うのは初めてか。あたしの本性は狼なんだよ。」
幻が驚いた理由が分かったアルフが説明してくれた。
「まぁ、どっちが勝っても恨みっこなしってことで。」
「だから、姉さまはのん気過ぎます。」
月影の言葉にその場にいた全員が苦笑いし、視線を上空に移した。
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上空では、なのはとフェイトが互いの魔法をぶつけ合っていた。
『Thunder Smasher』
『Divine Buster』
それぞれのデバイスから放たれた金色と桃色の砲撃がぶつかり合った。ほぼ同じ威力なのかそれぞれの砲撃は互いに拮抗したままだった。
「(!! これが幻の言ってた修行の成果か!?)」
フェイトは、幻が彼女が再戦のために修行をしていることを思い出した。
「まだまだいけるよね? レイジングハート?」
『Of course, my master.』
なのはの問いかけにレイジングハートが応えた。すると、ディバインバスターの威力が上がり、フェイトの魔法を打ち破ってフェイトを直撃し、周囲を煙が覆った。
「よし!」
「やった、なのは。」
攻撃を当てたなのはと下で見ていたユーノは勝利を確信した。
「けど、甘いね。」
「まぁ、油断大敵ってやつだな。これはこれでいい経験かな。」
しかし、アルフと幻たちはそうは思っていないようで、煙が晴れるとそこにフェイトの姿は無かった。攻撃が命中したと思い完全に油断していたなのはは砲撃をかわして上空から切りかかってきたフェイトに反応できなかった。
『Scythe form.』
「!?」
なのはが気付いた時にはフェイトは目前にまで迫っており、抵抗する間も無く首筋にバルディッシュの刃を突き付けられていた。
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「ユーノさん、彼女には油断大敵という言葉を教えなかったのですか? なのはさんも攻撃が当たろうと外れようと常に次の手を用意しておくべきです。」
「「すいません。」」
雪羅のお説教をなのはとユーノが静かに聞いていた。
模擬戦は再びフェイトの勝利で終わり、フェイトとアルフはジュエルシードを手に入れ、そのまま宿に戻って行った。一方、幻たちは宿がフェイトたちと同じであるため彼女たちが無事部屋に戻るまでの間、ゆっくり歩きながら反省会という名の時間稼ぎをしていた。
「『幻くん、ユーノくんって異世界の住人なんだよね? 油断大敵って言葉の意味分かるのかな?』」
「『まぁ、分かりそうな気もするが分からん。』」
月影の質問に応えているとフェイトから無事に部屋に戻ったと念話が入った。
「『了解だ、フェイト。お疲れさん。』」
「『うん。あと私たちは明日(実際は今日)は少し早めに出るから、またね幻。』」
「『おう、またな。』」
フェイトかの念話が切れ、幻は遅いし早く戻ろうぜとなのはたちを急かした。
その後幻たちも無事宿に着き、なのはは寝ている家族を起こさないように忍び足で部屋に入って行った。幻たちが部屋に戻るとナナはすでに寝ており、月影たちも特に何もしていなかったのだが疲れたので寝るとのこと。幻はジュエルシードのせいで行けなかった温泉に直行し、そのまま日の出まで温泉で過ごすという長湯記録を打ち出していた。
こうして、飛天一家の温泉旅行は様々な事態に見舞われながらも無事に終了したのだった。
続く
というわけで温泉編・後編でした。
ちなみにこれを書いてる時に作者自身もうどんが食べたくなり、近くのスーパーで麺を買ってきました。
注意:作中のような動物OKの飲食店は普通はありません。架空のものです。良い子も悪い子も、決して真似しないで下さい。そして、この物語上ではご都合主義ってことで了承して下さい。
……まぁ、日本中探せば、もしかしたらあるかもしれないけど。
では、また次回!!