幻たちが温泉旅行から戻ってきた翌日の放課後。
「『お願い、幻くん! 私と戦って!』」
「『まず落ち着け。そして訳を説明しろ。』」
「『あっ、ごめん。実はね……』」
幻が帰り道を歩いていると突然なのはから念話が聞こえてきた。理由を聞くと、ここのところフェイトに連敗していることが悔しいらしい。そこでユーノと相談した結果、幻と模擬戦をしようということになったらしい。
「『何で俺?』」
「『だって、私の知り合いで魔法の修行相手になりそうなの幻くんしかいないし。』」
「『僕も魔力の使い方は教えてあげられるけど、僕自身が戦闘向きじゃないから。』」
幻が尋ねるとなのはとユーノが順番に答えた。
「『分かったよ。』」
「『じゃあ、明日からやろう?』」
「『……いや、今週末で。俺にも用事がある。』」
「『あ、うん。用事じゃ仕方ないよね。』」
「『悪いな、それまではバニングスたちと遊んでてくれ。遊びも修行の内だ。』」
「『そうなんだ。分かった。じゃあね、幻くん。』」
幻の言うことに納得したなのはは念話を切った。
『……遊びが魔法の修行になるなんて初めて知りましたよ? それに用事なんか無いじゃないですか。』
今まで黙って念話を聞いていた雪羅(小物形態)が幻に聞いてきた。
「いや、小学生の本分は遊ぶことだろ? それになのはは最近ジュエルシードやフェイトのことばかり考えていたからな。気分転換だよ。」
『ふっ、あなたらしい考えですね。』
幻がそう言うと雪羅も納得したようだった。
翌日の放課後、なのははアリサ、すずかと楽しく遊んでいた。
そして週末、幻となのはは、以前ユーノを助けた公園に結界を張って模擬戦をすることにした。
幻たちが公園に到着するとなのはたちは既に来ており、幻たちの到着を確認したユーノが公園全体に結界を張り、なのははレイジングハートを起動させてバリアジャケットを身に纏い、空に上がった。
幻も刀形態の月影たちを腰に差し、背中から出した翼を動かして、上空で停止し抜刀した。
「あれ? 幻くんが着てるその着物ってバリアジャケットだったの?」
「いや、普通の着物だけど?」
「危なくないの?」
『幻は自身の体を妖力の膜で覆っているので大丈夫です。』
なのはの問いに雪羅が答えた。
「そういうこと。まぁ、バリアジャケットと原理は一緒だ。さて、じゃあ、始めるか。ルールは先に1本取った方の勝ちだ。」
「よろしくお願いします。」
幻がルールを説明し終えると、なのはがぺこりと礼をした。
「じゃあ、まずは俺に攻撃を当てることを目標にしてくれ。」
「分かった。レイジングハート!」
『All right. Shooting mode.』
なのはが命じるとレイジングハートが変形し、なのはの周りに4つの魔力弾が現れた。
『Divine Shooter.』
「シューート」
なのはが叫ぶと、4つの魔力弾が幻目掛けて飛んできた。幻はそれらを上へ飛んでかわしたが、魔力弾は幻を追いかけてきた。
「ほお、追尾機能付きか。」
幻は呟くと同時に体の向きを変え、月影、雪羅を振って飛来してくる魔力弾を切り捨てた。
「うそっ!?」
「いちいち驚かない! そして常に次の手を用意しておけ!」
「う、うん。シュート!」
なのははもう1度、ディバインシューターを撃ってきた。
それに対して幻は雪羅を前に突き出した。すると幻の周囲に氷の槍が4本現れた。
「“流氷の舞”」
幻が雪羅を横に振るうと槍が勢いよく飛び出し、ディバインシューターを相殺した。
『Divine Buster.』
なのはは、ディバインシューターが相殺されると同時に直射砲撃魔法・ディバインバスターを幻に向けて放った。対して幻は素早く月影を中段に構えた。
「“冥土の闇”」
幻が呟くと月影の刀身から半径1mくらいの黒い球体が幻の前方に現れ、ディバインバスターの直撃を正面から受け止めた。
「バリア!?」
「まぁ、似たようなもの……かな?」
『でも、防ぐだけじゃないんだよ?』
月影がそう言うと、黒い球体がディバインバスターを吸収し始めた。
そして、幻は球体がディバインバスターを完全に吸収し終えたのを確認すると、右手の月影を左斜めに振りかぶった。
「!?」
幻の動作で何かを感じたなのはは足元の桃色の羽を羽ばたかせて、幻から距離を取り始めた。しかし、幻はそれを気にすることなく、そのまま月影を振り下ろした。
すると、黒い球体が一気に膨れ上がり、先ほど吸収されたディバインバスターがなのはに向けて発射された。
「レ、レイジングハート!」
『Round Shield.』
気付いたなのはは慌てて防御魔法を発動させた。その直後にディバインバスターと円形のシールドがぶつかり合った。幸いなのははシールドにかなりの魔力を注いだので、ディバインバスターを防ぐことはできたが、防御に意識が集中していたために、防いでる間に幻が接近していたことに気が付かなかった。
そして、気付いた時には幻に刀を突き付けられ、模擬戦は幻の勝ちで終了した。
――――――――――――――――――
「負けちゃった。」
「落ち込むな。負けはしたが、内容は悪くない。後は実戦経験を積んでいけばどうにでもなる。魔力の上手い使い方は引き続きユーノから学んでくれ。俺からは……最初に撃ってきた誘導弾の追尾性能の向上と……あとは弾数を増やそうか?」
試合後、幻はなのはに思ったことをアドバイスしていた。
「分かった!」
「それと、なのはちゃん。さっき自分の魔法を受けてみてどうだった?」
「なんというか、その、重かったです。」
月影の質問になのはが答えた。なのはが答えると今度は雪羅が話し始めた。
「つまり、なのはさんの魔法にはそれだけの一撃必殺の威力があるのです。ですが同時に真っ直ぐにしか撃てないという弱点もあります。この弱点を克服するためにはどうすればいいと思いますか?」
「えーと……」
雪羅の問いかけになのはが悩んでいると、傍にいた朧がポツリと呟いた。
「拘束する。」
「そっか、バインド!」
朧の言葉になのはが思い出したように言った。
「そういうことです。相手の動きを完全に止められれば、攻撃を当てることは容易です。」
「なるほど。」
「動き回る相手を如何にして拘束するのかは、今後の課題として下さい。」
「分かりました。ありがとうございます。」
雪羅たちの的確なアドバイスになのははお礼を言った。
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模擬戦を終えた幻たちは、なのはの案内で温泉旅行中に聞いた高町家が経営しているという喫茶店・翠屋に向かって歩いていた。その道中、なのはは幻の技について聞いていた。
「ところで幻くん、さっきの氷の槍はどうやって出したの?妖力ってやつ?」
「あぁ、あれは空気中の水分を雪羅の能力で凍らせて、俺の妖力で飛ばした。」
「幻のやることってけっこう何でもアリだよね。」
「……しゃべるフェレットに言われたくない。」
ユーノの一言に幻がムッとしながら呟いた。
「いらっしゃいませって、なのは。それと幻くんにみなさん。いらっしゃい。」
「こんにちは、桃子さん。」
店に入るとカウンターにいた桃子さんが声をかけてきたので、幻たちも挨拶を返した。
昼時のピークが過ぎたのか店内に他の客の姿はなかった。
幻たちが空いてる席に座ると、桃子が来て注文を聞いてきた。そして、注文を取り終えると、なにかを思い出し、怪訝な表情でなのはに聞いてきた。
「ねぇ、なのは。さっき変な子供のお客さんが来たんだけど、店に入るなり、なのははどこだって言ってきて今いないって言ったら、また来るって言って帰ったんだけど……お友達?」
「お、お母さん、まさかその子って銀色の髪の毛で目の色が違う子?」
「そうそう、外国人かしらね? クラスの子?」
桃子が尋ねると、なのはは慌てて首を振った。
「ううん。し、知らない子だよ。」
「そうなの? まぁ、いいっか。じゃあ、料理作ってくるわね。」
桃子はそう言って、店の奥に行ってしまった。桃子の姿が見えなくなると、なのははものすごく嫌そうな表情をしていた。その時、店のドアが開いて件の少年が入ってきた。件の少年こと神城はなのはを見つけると笑顔で近づいてきた。
「やぁ、なのは! ここで会うなんてすごい偶然だね。どうして、ここに?」
「……ここ、家族がやってるの。」
「そうなのかい? いやー初めて知ったよ。」
……完全に棒読みだった。
「(どうせ他の人から聞いたか、後をつけたかのどちらかだろうな。)」
「おや、なのは、こちらのお姉さん方は誰かな?」
神城はなのはと同じ席に座っていた月影たちに気付いた。ちなみに彼の視界に幻は入っていないようだった。
「初めまして、神城 勇気です。お姉さんたちよければ、僕と一緒にお茶しませんか?」
「お断りします。」
「嫌、すぐに、帰れ」
「幻くんがいるからいい。」
神城の誘いを速攻で断る飛天一家の面々。
「幻?……何だ、てめぇか。こんなのどうでもいいからあっちでお茶しましょう。」
神城は月影が幻の名前を出したことでようやく幻の存在に気付いた。だが、特に気にしないでナンパを続けた。しかし、今の神城の一言が飛天家3人娘の逆鱗に触れた。
「今なんと言いましたか?」
「確か“こんなのどうでもいい”って言ったよね?」
「……」
月影と雪羅が静かに言った。雪羅は無表情、月影は笑顔だったが目が全く笑っていなかった。朧も無言で神城を睨んでいた。
「言いましたが? それが何か? こんな奴なんか気にするだけ無駄ですよ?」
神城のその言葉を聞いた3人は静かに立ち上がった。
それを見た幻は、慌ててなのはとユーノに指示を出した。
「ユーノ、結界を頼む。そんでなのは、あのバカを今すぐ外に出せ。」
「「えっ?!」」
状況が呑み込めていない1人と1匹は、幻の指示が理解できなかった。そんな2人に幻は言い聞かせるように言った。
「いいか? あいつらを本気で怒らせると」
「お、怒らせると?」
「……少なくとも、この店は破壊される。」
幻が小声で呟くとユーノが慌てて結界を張った。結界に気付いた月影は笑顔で幻たちの方を向いた。
「やだなぁ、幻くん。今回は手加減するし、攻撃用の護符も使わないよ。」
「もちろんです。今回は器物は壊さないのでご安心を。では神城、少し外に行きましょうか?」
「おっ! いいですね、ぜひ。」
神城は自分に怒りの矛先が向いていることに全く気付いておらず、飛天家3人娘と共に外へ出て行ってしまった。
「お待たせ、あれ? なのは、さっき誰かお客さん来なかった?」
「え? ううん。誰も来てないよ?」
「うーん、気のせいかしら?」
注文していた料理を持ってきた桃子が不思議そうにしていた。
「あら、月影ちゃんたちは?」
「ちょっと家に忘れ物を取りに帰りました。すぐに戻ってきます……多分。」
幻も適当に答えた。
―――――――――――――
「ん? 結界か?」
「ほう? ようやく気づきましたか。」
雪羅は静かに呟きながら、自身の分身である“妖刀・雪羅”を右手に顕現させた。
「え? お姉さんも分かるんですか?……え?!」
神城が雪羅が手に持った刀に驚いた。すると今度は彼の体に鎖が巻き付いて彼の動きを止めた。
「な?! いきなり何す」
「黙りなさい。」
「(?!……口が動かない)」
神城は朧が放った鎖と月影が貼った金縛り符の効果で完全に動けなくなった。
それを確認した3人は、静かに言った。
「さて、私たちの主であり」
「大切な家族でもある幻くんを侮辱した罪」
「その身で、償え」
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10分後、3人が店内に戻ってきたので、幻たちは念のため外で気絶しているという神城を見に行った。彼に大きな外傷はなく、ちゃんと生きていた。3人によれば、精神的なダメージを与え続けたとのことだった。
「詳しく聞きますか?」
「「「いえ、遠慮します。」」」
雪羅が聞くと、3人は同時に口を開いた。
……ちなみに神城は、この日の記憶がなくなっていたとのこと。3人が記憶操作をしたのか、恐怖によるものなのかは、分からないままであった。
―――――同日、某所―――――
「……もうすぐ結晶が集まるな。」
人間にしては青白く、黒い髪と赤色の目をした男が呟いた。
「あの結晶が我が手に集まれば、この世界を支配する力を手にできる。ああ、楽しみだよ。」
男は不気味に笑った。
幻たちの知らないところで物語は確実に進んでいた。この者が幻たちの前に現れるのはもう少し先のこと……
続く
お待たせしました。
諸事情で書く時間がなかったもんで。
あと、最後のは“神様のお願い”の人です。
では、また次回。