なのはとフェイトが戦った翌日、幻たちは自宅の居間でちゃぶ台を囲み “ジュエルシードすり替え作戦” 実行前の作戦会議をしていた。
「じゃあ、今から1時間後にアースラに乗り込む。これまでになのはが回収したジュエルシードは、まとめてここに保管してある。昨日、クロノがなのはから預かっていた。それで、俺がクロノたちと今後の方針(という名の時間稼ぎ)を話している間に朧がすり替えを行う。」
そう言って幻は手描きのアースラ艦内図を広げ、一室を指さした。この図は幻たちがアースラに乗っていた時に手分けして情報を集め、描いたものである。
幻が作戦の概要を伝えると、次に雪羅が話し始めた。
「ジュエルシードの偽物は既にいくつかできています。ただし、本物と比べると魔力が少ないので、すり替えるのは1つが限界です。」
「そういえば、雪羅。俺たちは魔力を持っていないけど、どうやってそれに魔力を入れたんだ?」
疑問に思った幻が雪羅が取り出した偽物を指さしながら尋ねた。雪羅は姉の方をチラリと見ながら幻の質問に淡々と答えた。
「幻、アースラに乗っている時に、なのはさんと数回模擬戦をしましたよね?」
「ああ、したな。」
「その時に幻は “冥土の闇” でなのはさんの技を吸収しましたが、それを彼女に向けて再発射しませんでしたよね? その時に吸収したままだった魔力をこれを作る時に利用しました。」
「つまり、これができたのは私の能力のおかげなんだよ。」
雪羅が質問に答えると、隣にいた月影が胸を張って自慢げに言った。
「2人ともすごいな。後は、これと本物を朧がすり替えてプレシアさんたちの所に持っていけば」
儀式ができる、と言いかけた時だった。
「持って……行っては駄目……です、幻くん。」
「え? リニスさん?」
突然背後から聞こえたリニスの声に驚きつつ、幻たちは後ろを振り向いた。そして、振り返った先の光景に絶句した。
「なっ!?」
そこには、フェイトを抱きかかえたリニスと狼姿のアルフがボロボロの状態で立っていた。3人とも腕や体中に無数の傷があり、出血もしていた。フェイトは気絶しており、リニスとアルフもその場に立っているのがやっとという状態であった。幻は咄嗟に叫び、月影が救急箱を取りに部屋から出て行った。
「とにかく事情を聴く前に傷の手当が先だ!」
「幻くん! 救急箱持ってきた!」
「分かった! 手伝ってくれ。」
幻は2人を座らせ、気絶していたフェイトを畳の上に寝かせると、手分けして応急処置を始めた。
――――――――――――
「それで、一体何があったんですか?」
応急処置を一通り済ませ、眠っているフェイトの容体を診ながら幻がリニスたちに尋ねた。現在、リニスは魔力を温存するために山猫の姿になっている。
「起きたことを簡単に説明すると、“時の庭園”が謎の敵襲に遭いました。」
リニスは庭園で起きたことを説明し始めた。
「私たちはフェイトからの報告を受けて、儀式の準備を進めていました。しかし、その時、庭園内に1人の男がいきなり現れたんです。その男は、結晶を渡せと言ってきました。」
「結晶?」
「恐らくジュエルシードのことです。もちろん私たちは、それを拒否しました。すると、その答えを聞くや否や、その男は突然攻撃をしてきたんです。男は高い身体能力に加えて、稀少技能を持っており、何故かこちらの攻撃が全く通用しませんでした。……うっ!?」
傷が痛むのかリニスは辛そうな声を出した。すると今度は、アルフが口を開いた。
「リニス、後はあたしが話すよ。……あたしたちの魔法が効かないと分かると、アイツは攻撃をしてきたんだ。しかも奴はプレシアとリニスを執拗に狙ってきて、フェイトは咄嗟に2人を庇って……くそっ!」
アルフ悔しそうに吐き捨てた。
幻は今までの話で気になるところをリニスに尋ねた。
「……その男の稀少技能ってどんなものなんですか?」
「何もない空間から刀剣類や盾を次々に出して、攻撃や防御を行うものでした。召喚魔法だと思ったのですが、魔力が感じられないんです。そのせいでプレシアも私も反応が遅れ、その結果、不覚を取りました。プレシアは、敵が上手だと知ると、私たちをここに強制転移させました。」
「家の場所を教えておいて良かった。……プレシアさんは?」
幻が聞くとリニスは力なく首を左右に振った。
「分かりません。ですが、使い魔の私がまだこうして生きているので、恐らくまだ無事なはずです。」
とリニスが言った時だった。幻たちの前に通信モニターが現れ、そこにはかなり慌てた様子のクロノが映っていた。
『幻か!? 帰宅を許可したが、すまない緊急事態だ。今すぐアースラに来てくれ。なのはたちにも既に連絡済みだ。』
「何があった?」
『今回の黒幕を名乗る人物、大魔導師プレシア・テスタロッサからアースラに対して犯行声明が出された。』
「なんだと!?」
クロノの報告に幻たちは愕然とした。クロノは要件を告げると、いいから来てくれ、と言い残して通信を切った。その通信にリニスたちは信じられないという表情をしていた。
「とにかくアースラに行こう。何かの間違いかもしれないし。」
幻がそう言うと、月影たちは軽く頷いて各自準備を始めた。
そして、リニスは強い意志のこもった眼で幻を見上げた。
「私たちもついていきます。」
「分かりました。それにアースラなら皆さんの治療もできますし。」
リニスたちの覚悟を理解した幻は首を縦に振った。
「幻くん、準備できたよ!」
「分かった。……転移! アースラ!」
月影たちが言うと、幻は頷くと懐から転移符を出してアースラへと転移した。
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『私はプレシア・テスタロッサ。青き結晶を集める者よ。単刀直入に言うわ、私以外にこの結晶を持っている者は、私に結晶を渡しなさい。さもなくば、この場にある15個の結晶を一気に発動させて世界を壊すわ。そうねぇ、返答の期限は明日よ。賢明な判断を期待するわ。』
「これが約50分前に我々宛に送られてきたメッセージだ。この映像に対しての君たちの意見を聞きたい。」
録画された映像を見せたクロノが飛天一家とベットに横たわった状態のフェイト、アルフ、リニスに意見を聞いてきた。
現在、3人はアースラ内の医務室で治療を受けていた。幻たちはアースラに転移した後、フェイトたちを見て驚いたなのはやクロノたちに事情と経緯を説明した。そして、治療を受けている間にフェイトの意識も戻り、3人がある程度落ち着いたところでクロノが先ほどの映像を見せた。
「……これは、プレシア・テスタロッサではありません。」
映像を見終わったリニスはその一言だけを口にした。フェイトとアルフも同様に頷いた。幻たちも特に反論をしないので、彼女たちと同意見であるようだ。
「なぜ、そう言い切れるんだ?」
根拠を聞かせてくれとクロノは聞き返した。リニスは、軽く咳払いをしてから話し始めた。
「まず、ジュエルシードのことを“結晶”と呼ぶのは、我々を襲ったあの男しかいません。次に、先ほども言いましたが、私たちがジュエルシードを集めていた理由は、プレシアのもう1人の娘であるアリシアを蘇らせるためです。それを次元災害を起こすためだけに発動させるなんて……あの親バカがやるはずありません。」
「わ、私もそう思う。」
リニスの言葉にフェイトは顔を赤くして頷いた。そして、リニスの親バカ発言に苦笑しながら幻はクロノの方を向いて口を開いた。
「それとフェイトたちは俺の所に転移された時、かなりの傷を負っていた。プレシアさんも同様の傷を負っているとみていいだろう。けど、映像のプレシアさんは無傷だった。おかしいとは思わないかね? クロノ執務官?」
と幻はまるで探偵のような口調で言った。
「君たちの言うことが確かなら、この映像に映っているのは誰なんだ?」
とクロノが幻に尋ねると、そうだなぁ、と前置きして話し始めた。
「フェイトたちを襲ったという男の仕業だろうな。プレシアさんに化けているか、何かの術でプレシアさんを操っているか。……リニスさん、その男の特徴は覚えていますか?」
「えっと、蝋燭みたいに青白い肌と血のような目が特徴的でした。」
「青白い肌に赤い目……高い身体能力、うーん。」
リニスが男の特徴を言うと、幻は目を閉じてしばらく考えていた。そして、やがて1つの可能性を導き出し、その名を静かに口にした。
「……吸血鬼。」
「何ですって!?」
その名前を聞いた雪羅が驚きの声を上げた。同様に月影と朧も驚きの表情を浮かべていた。
3人のリアクションを見たクロノが幻におそるおそる聞いてきた。
「どうしたんだ? “キュウケツキ”ってのは何だ?」
「……吸血鬼ってのは、その名の通り、人の血を吸う怪物だよ。外見上の特徴がリニスさんの話と一致するし、身体能力が高いのも頷ける。それに吸血鬼なら変身能力もあるし、術で人を操ることもできる。」
「ですが、吸血鬼は“不死者の王”とも呼ばれる厄介な妖魔でもあります。」
幻の説明を雪羅が補足すると、不死という単語を聞いたフェイトが驚いた。
「不死!? じゃあ、倒せないの?」
「いえ、通常の攻撃はほとんど効きませんが、弱点は結構あります。」
「でも、弱点の物がその効果を発揮するまで弱らせるのは、結構骨が折れるんだよね。」
月影が面倒くさそうに言った。
と、そこへリンディから通信が入った。今後の動きについて話し合いをしたいので、会議室に来てくれとのことだった。
「月影と朧はここに残って3人の様子を看ていてくれ。」
「分かったよ。私が会議に出てもあんまり役に立たないもんね。」
「今日は随分と理解が早いですね、姉さま。助かります。」
「……雪羅ちゃん、ひどい。」
月影が涙目になって毒舌な妹に抗議していた。その様子を朧は無言で見ていたが、やれやれという感情が顔に出ていた。
2人を残すと、幻は起き上がろうとするフェイトたちに今は安静にしていてくれと告げてから、雪羅を連れて会議室へと向かった。
―――会議室――――
部屋に入ると、リンディ、エイミィ、なのは、ユーノ、神城が既に席に着いていた。
幻たちが席に着くと、クロノが今までのことを説明した。敵の正体が吸血鬼の可能性があると言われた時、なのはは驚いていた。そして、神城は自信満々に言った。
「吸血鬼くらい俺が瞬殺してやるぜ!」
「それができるなら苦労しません。」
雪羅が呆れ顔で呟いた。一方、なのはは真剣な表情で幻と話していた。
「けど、幻くんたちの話が本当なら悪いのは、その吸血鬼さんってことになるんだよね?」
「ああ。……リンディさん、奴への返事は?」
「まだです。ですが、ジュエルシードを渡しても、渡さなくても大変なことになります。」
「それなら、これを使ってみませんか? あと、ちょっとした提案があります。」
幻はそう言うと、ジュエルシードの偽物を取り出した。
「それは、ジュエルシード?!」
「の偽物です。これを奴の下に持っていき、奴がこれに気を取られている隙にフェイトが集めた15個を盗み出して、ついでに奴も滅します。俺の所には、そういうことが得意な者もいますし。」
幻がそう言うと、クロノが立ち上がって叫んだ。
「君は、そんな単純な作戦が都合よく成功すると思っているのか?! 危険すぎる!」
「全くです。我が主ながら毎度毎度単純な作戦で困ります。ですが、クロノさん。他にこれといった作戦がない以上、仕方ないのでは?」
「うっ」
幻の提案に雪羅がやれやれと呆れながら、クロノに言った。言葉に詰まったクロノはしばらく考え、そして、答えを出した。
「艦長。他の作戦が思いつかない以上、幻の提案を採用したいと思うのですが。」
「……分かりました。全責任は私が持ちます。プレシア女史に返答をした後、時の庭園に乗り込んで作戦を決行、現場の指揮はクロノ執務官が取ってください。他のみんなもいいかしら?」
リンディは、なのはやユーノの方を向いて確認を取った。2人とも力強く頷き、賛成であることを示した。神城は先ほどから、打倒ラスボスに1人で燃えていた。倒せばモテるという考えと共に……
「では、各自準備をして30分後、ここに集まって下さい。」
「「「「はい!!」」」」
幻たちは決戦へ向けて最後の準備を始めた。
―――時の庭園――――
暗い地下牢のような場所にプレシアは鎖で拘束されていた。そこに、もう1人のプレシア、否、彼女に化けた例の男がやってきた。
「ククク、気分はどうかな? 魔女よ。」
「自分に心配されるなんて、最悪ね。何をしに来たの?」
強気な態度でプレシアが男を睨むと、男は不気味に笑いながら言った。
「なに、報告だよ。先ほど“カンリキョク”から残りの結晶6個をこちらに持ってくると連絡が入った。」
「何ですって?!」
その報告にプレシアは驚きの声を上げ、体を拘束している鎖がジャラジャラと音を出した。男はその反応に満足したような笑みを浮かべて、嬉しそうに言葉を続けた。
「これで私の夢が達成できる。この世を支配するという夢が! そうそう、ここに来たのは君にも見せたい物があるからだよ。」
「見せたい物?」
「世界を支配するには、戦力が必要だろう? 命令に忠実で強力な手駒がね。そこで、結晶の力を使って、まずは部下を作ったんだよ。さぁ、入っておいで。」
男がそう言うと、地下牢の入り口から1人の少女が静かに入ってきた。
「なっ?!」
彼女の姿を見たプレシアは、驚愕のあまり言葉が出なかった。男はそれを不気味に笑いながら眺め、そして、叫んだ。
「ククク、さぁ、いつでも来たまえ! 歓迎の準備は整った!」
続く
さて、次回はいよいよ決戦です。
どうなるかは……只今、執筆中です。
以下補足です。
吸血鬼さんの能力等は、一部伝承のものとは異なります。確か、人間には変身できなかったと思います。本来は、蝙蝠、狼、霧などです。
また“刀剣類を出す”というどっかで聞いたことのある能力が吸血鬼さんに付いてたら、人間滅んでます。
では、また次回!!