雪羅から連絡が入る少し前――――
幻たちは、並み居る傀儡兵をあらかた片付け、ついに男がいる最上階へと到達した。幻たちの前にいる男は玉座のような大きな椅子に足を組んだ状態で座っており、彼が着ている貴族のような服と合わせると、まるでRPGに出てくる魔王のようだった。
「よく来たね。あれだけいた兵を相手にしてほぼ無傷でここまで来るなんて、私も予想外だったよ。」
と言いつつも男はまったく驚いた素振りを見せなかった。そんな男の態度にイラついたのか、神城が大剣・リガルブレイドの剣先を男に向けて啖呵を切った。
「約束通りここまで来たんだ! さぁ、俺と闘え!!」
「そうだったな。だが、その前に君たちに見せたいものがある。」
「見せたいものだと?」
クロノが聞き返すと、男は不気味な笑みを浮かべて口を開いた。
「君たちは疑問に思わなかったかな? 結晶、ジュエルシードを15個も消費したのにもかかわらず兵が弱すぎるのではないかと。」
「「!!」」
男の言葉に幻と月影が反応を示した。それは、先ほど幻が思っていたことと同じだったからである。
「そんなの俺が強いからに決まっているからだろ!!」
神城が叫ぶと、男は笑い出した。
「アッハハハ、まさか、君は本当にそう思っているのかね!?」
「何だと!?」
「君たちが強いというのも事実だ。だが、私が15個のジュエルシードを使って創り出したのは、あんな機械の兵隊ではない。……彼女だよ!!」
男が叫ぶと、椅子の陰から黒いドレスを着た金髪の少女が現れ、男と幻たちの間に進み出た。長い金髪を下したその少女の姿を見た幻たちは全員が驚いた。
「「「「フェイト(ちゃん)?!」」」」
髪型や少し幼い外見という部分を除くと、その少女はフェイトと瓜二つだった。そんな幻たちの反応に満足したのか、男は微笑しながら言葉を続けた。
「それは違うな。フェイトというのは、私がここを襲撃した時に邪魔してきた少女の名だ。彼女を蘇らせたときに魔女に名を尋ねたのだが、結局答えてくれなかった。」
「(蘇らせた?……まさか、この子が!?)」
と幻が考えていると、男は残念そうに首を振った。
「仕方ないので、“ラーミカ” と呼んでいる。」
「……それ女の子に付ける名前じゃなくね?」
男が口にした名前を聞いた幻は呆れ気味に呟いた。
「私にとって個体の名称なんてどうでもいいことなのだよ。必要なのは力さ! さぁ、ラーミカよ、彼らに君の力を見せてやりたまえ。」
「……はい、マスター。」
フェイトと瓜二つの少女は男の命令に機械のように頷くと、左手を幻たちの方へ突き出した。その瞬間、水色の電撃が彼女の周囲に発生し、彼女の左手に収束していった。それを見たクロノと神城は自身のデバイスを構え、幻は咄嗟に横にいた月影に向かって叫んだ。
「月影!!」
「分かった!」
幻の呼びかけの意味を瞬時に悟った月影は刀形態に変化した。幻が月影を構えて技を発動したのと、少女が収束した電撃を幻たちに向けて放ったのは、ほぼ同時だった。
「……消し飛べ。“グングニル”」
「“冥土の闇!!”」
少女の放った槍のような収束砲と幻たちの前方に展開された闇の球盾とが激しくぶつかり合い、衝撃波を生んだ。
「つうっ?! なんつう威力だ。だが……」
『まかせて、幻くん!』
月影が力強く言うと、闇の盾が少女の技を吸収し始めた。その光景を遠目に見ていた男が、口元を緩めた。
「ほう? 面白い技を使うね。」
「まあね。『クロノ、ついでに神城。吸収したコイツをあいつらに向けて撃ち返す。隙が生まれたら、奴を叩け。』」
「『分かった。』」
「『お前に言われなくてもそうする!!』」
幻の念話による指示に2人は軽く頷いた。そして、幻は月影を振りかぶり、ニヤリとしながら男に向かって呟いた。
「お返しだ。」
一言だけ呟き、幻は刀を振り下ろした。同時に真っ黒の球体が膨張し、吸収し終えた水色の電磁砲を吐きだした。その砲撃に合わせてクロノと神城がそれぞれの攻撃魔法を男に向けて放った。
「……本当に面白い技だ。」
男は目を閉じて静かに呟いた。同時に少女が男を守るように両手を前に突き出し、なのはやフェイトと同じ模様の防御魔法を展開した。しかし、その堅さは2人の比ではなく、3人の砲撃の直撃を受けてもびくともしなかった。
それを見たクロノが悔しそうに言った。
「……なんて堅さだ。」
「おい、このフェイト強すぎだろ?!」
「さすが、ジュエルシードの力を使っただけのことはあるな。」
幻がクロノたちの言葉に頷いた直後、プレシア救出班の雪羅から連絡が入った。
『幻、とにかく聞いて下さい! 敵はアリシアさんを復活させたそうです。加えて、今の彼女にはジュエルシードの力で異常な魔力が』
「なるほど、どおりで強いわけだ。そうか、やっぱり、この子がアリシアか。」
雪羅が言い終える前に幻はその言葉を遮った。
『幻、まさか。』
「ああ。今、目の前にいるんだよ。そのアリシア・テスタロッサがな。」
『なっ?!』
幻の言葉を聞いた雪羅が言葉を失った。
「そうだ雪羅、プレシアさんは?」
『え、ええ、無事に保護しました。』
少し落ち着きを取り戻した様子の雪羅が言うと、彼女と入れ替わりにプレシアの声が聞こえてきた。だが、かなり疲労しているのか、その声はかなり弱々しかった。
『幻、お願い。アリシアを。』
「ええ、何とかして助けます。」
『では、幻、プレシアさんをアースラに転送したらそちらに合流します。』
雪羅はそう言うと、通信を切った。通信を終えた幻は、クロノたちの方を向いて、口を開いた。
「という訳で、目の前の彼女はフェイトの姉、アリシアだそうだ。」
「姉だと?!」
「こんなに小さい……うわっ!?」
神城がアリシアを指さして、小さい、と言った矢先に彼を狙って先ほどの電磁砲が放たれた。紙一重で避けた神城がアリシアの方を恐るおそる見ると、明らかに怒りの表情を浮かべていた。
「おや、おかしいね。彼女が私の命令を無視して攻撃をするなんて、よほど頭にきたみたいだね。」
「……アリシアはお前の命令にしか従わないのか?」
「そういう風に記憶をいじったからね。今の彼女は、私の忠実な部下・ラーミカさ。」
「それもジュエルシードを使ったのか?」
とクロノが尋ねると男がそれに答えた。
「ああ、そうだ。それとせっかくだから教えてあげようか。まず、蘇生に1個、記憶の操作に1個、身体の強化に6個、そして、魔力の強化に7個の結晶を使ったんだ。」
それを聞いた幻は疑問に思ったことを男に尋ねた。
「蘇生させるのに1個だけ? プレシアさんは15、6個は必要だと言っていたぞ?」
幻の言いたいことを理解した男は口を開いた。
「ああ、誤解させてしまったね。彼女自身を蘇らせるだけなら、吸血鬼の力だけで十分さ。だが、それだと蘇った彼女も吸血鬼になってしまう。吸血鬼には、強力な力と引き換えに弱点が多い、昼間に活動できないなどのデメリットがあるからね。そこで私は彼女に血を分け与えて蘇らせた後、結晶の力で彼女を人間にして、残りの結晶で他の能力を強化したというわけさ。」
話し終えた男は、軽く呼吸を整え、椅子から立ち上がった。
「さてと、これで話は終わりだ。いい冥土の土産になったかい?……君たちは計画に邪魔だからね。消えてもらおうか。直々に私自らが相手になろう。ラーミカ、君は儀式の準備をしていなさい。もし追ってくる者がいたら、消せ。」
「分かりました。マスター。」
アリシアは男の言葉に頷くと、指示に従いどこか別の場所に転移した。
「へっ、ようやくか。てめえの相手はこの俺だ!! お前の手からアリシアを解放してやるよ。くらえ !!」
神城は叫びながらリガルブレイドに自身の魔力を流し込み、男に切りかかった。同時にクロノが彼を援護するために後方から多数の魔力弾を放った。
「幻、こいつの相手と神城の援護は僕がやる! 君は彼女の方を頼む。」
「分かった。……まぁ、プレシアさんからも頼まれたしな。それと奴を倒せたらこれで止めをを刺せ。」
そう言って幻はペットボトルを投げた。それを受け取ったクロノがペットボトルをまじまじと見た。
「……これは?」
「奴の弱点だ。頼むぞ。」
首をかしげたクロノに短くそう告げると、幻は月影と扇子を手に持ち、翼を羽ばたかせてアリシアの後を追った。
―――――――――――――――――――
クロノたちと分かれた幻は気配を頼りにアリシアを探していた。そして、しばらくして庭園内の中庭にいた彼女を上空から発見した。幻が高度を下げながら近づくと、アリシアの方も幻の存在に気付いた。幻は着地すると、アリシアに向かって口を開いた。
「ようやく見つけた。初めまして、俺は飛天 げ」
「追手は排除する。“ゲイボルグ”」
幻が言い終わらないうちにアリシアが叫ぶと、彼女の頭上に30個ほどの槍状の雷ができ、幻目掛けて一斉に降り注いだ。
「挨拶くらいさせてくれ……“風刃・螺旋”」
幻は溜息交じりに扇子を勢いよく扇いだ。発生した竜巻が雷の槍を相殺し、迎撃が間に合わないものは避けたり月影の能力で吸収したりしてなんとか防いだ。
「と、とりあえず話を聞いてくれ、アリシア!!」
「アリ……シア?」
幻が彼女の名を口にすると、アリシアは動きを止めた。
『幻くん、動きが止まったよ?』
「もしかしたら……聞いてくれ、君の本当の名前はアリシア・テスタロッサ、プレシアさんの1人娘だ。」
「プレ……シア?……娘? うっ……ああぁぁ!」
アリシアは幻の言葉を繰り返し呟いた。だが、直後にアリシアは頭を押さえて苦しみだした。
「アリシア!?」
「…………違う、私はマスターの部下・ラミカ。邪魔する者は消す。」
頭を振って、偽りの名前を口にしたアリシアは攻撃を再開した。再び降り始めた雷撃の雨を風を使って避けながら幻は軽く舌打ちをしていた。
「やっぱり、ジュエルシードの力を使った記憶の改ざんを打ち破るのはきついな。」
『幻くん、こっちもジュエルシードを使ったら?』
「それも考えたが、本物が手元にない上に、この状況でアリシアから逃げられるとは思えん。」
『あっ……』
現在、本物のジュエルシード6個は、アースラ内に保管されたままだった。アリシアの攻撃をかわしながら幻と月影はこの状況を打開する策を必死に考えていた。しかし、幻たちが思考と防御に徹していた間に魔力を溜めたアリシアは次の攻撃に移っていた。
「“グングニル・ストール”」
「くっ!?」
先ほどの数倍の大きさの電磁砲が幻たちに向けて放たれた。幻は咄嗟に月影を振るい、“冥土の闇”で直撃を防ぎ、そのまま吸収しようとしたが、電磁砲を受け止めた球体がミシミシと悲鳴を上げ始めた。
『幻くん、威力が大きすぎて、技が持たない!』
「くっ、ジュエルシードの力を甘く見たか!? なんとかしないと!」
「無駄。消し飛べ。」
幻は何とか手を打とうとしたが、アリシアはそれを許さず、多数の雷撃を上空から降下させた。
それを見た幻が「これは詰んだな」と自嘲気味に思った時、頼もしい声が辺り一面に響いた。
「Starlight Breaker.」
「Photon Lancer Phalanx Shift.」
「“氷刃の舞”」
直後、桃色と金色の光が水色の電磁砲とぶつかり合い、氷の槍が雷撃の雨を打ち消した。
『これって……』
月影が呟くと、幻の隣に水色の刀を手にした巫女が降り立った。
「お待たせしました。2人とも無事で何よりです。」
『雪羅ちゃん!』
「あんまり無事でもないんだけどな。」
幻は雪羅の言葉に苦笑しながら答えた。そして、振り返るとそこにはデバイスを構えたなのはとフェイトが、さらにその後ろに朧、ユーノ、アルフがいた。
「2人とも助かったよ、ありがとう。」
「幻くん、間に合ってよかったよ。」
「うん、無事でよかった。」
幻が礼を言うとなのはとフェイトは嬉しそうに頷いた。そして、フェイトは目の前の少女に視線を移し、ポツリとその名を呟いた。
「……アリシア。」
アリシアが蘇ったことはプレシアから聞いているため、あまり驚いてはいなかった。仕切り直すように雪羅が口を開いた。
「幻、反撃はこれからです!」
続く
どうも下駄河童です。
というわけで、アリシアの技が炸裂しまくりでした。お待たせしてすいません。
以下補足です。
前にも言いましたが、この物語ではジュエルシードの性質は願いを叶える力が強いです。
(四魂のかけら ※犬夜叉参照)理解してもらえると助かります。
では、また次回!