「幻、反撃はこれからです!」
雪羅は力強くそう宣言すると手にしていた刀を消して、懐から蒼い宝石を取り出した。それを見た月影は驚いたように(刀形態なので表情は分からないが……)尋ねた。
『雪羅ちゃん、それってもしかして……』
「はい、姉様。察しの通りジュエルシードです。プレシアさんをアースラに連れていった際に、朧に頼んで取ってきてもらいました。」
「うん。」
雪羅の言葉に朧が力強く頷いた。一方、2人の言動からあることを想像した幻は、怪訝な表情で雪羅に尋ねた。
「・・・・・・盗ってきた、の間違いなんじゃ?」
「緊急事態でしたので、仕方ないです。それに元々はそういう作戦でしたし。」
と特に悪びれた様子もなく雪羅は幻の問いに淡々と答えた。
『ええっ!?』
そして、驚く月影をスルーした雪羅は幻にジュエルシードを手渡すと刀形態へと姿を変えた。
『とにかく、これでアリシアさんの記憶を戻す手段は手に入れました。後は』
「アリシアの動きを止めないとだな。元気なままだと反撃を受けるしな。フェイト、なのは、戦いづらいとは思うが、手を抜くとこっちがやられる。本気で戦ってくれ。……今のアリシアの強さは異常だからな。」
雪羅の言葉を引き継いだ幻が二刀を構えながら呟き、2人の少女に注意した。
「……うん。」
「分かったよ、幻くん。」
なのはたちも状況を理解したのか、軽く頷いた。
―――――――――――――
「“氷刃の舞・乱舞”」
「……“ゲイボルグ”」
幻とアリシアが放った大量の氷槍と電槍が互いのものを相殺し合った。
「……」
「「“チェーンバインド!”」」
次いで朧が手にした鎖分銅で、ユーノ、アルフがバインドでアリシアを拘束し、
『Divine Shooter.』
『Photon Lancer.』
「シュートッ!!」
「ファイアッ!!」
止めとばかりになのはとフェイトの放った攻撃がアリシアに直撃し、彼女の姿が煙で見えなくなった。
「……やったか?」
「……ユーノ、それ言うとたいてい碌なことにならんぞ?」
ユーノの言葉に刀を構えたまま幻がため息交じりに言った。
果たして攻撃による煙が晴れると、そこには無事な様子のアリシアが立っていた。しかし、2人の攻撃を完璧に防ぐことはできなかったようで、着ていたドレスは所々が破けていた。それを目にした幻は少しホッとしたように頷いた。
「『ふむ。今ので少しは勝機が見えてきた……かな?』」
「『幻くん、どういうこと?』」
「『ん? ああ、俺が最初に放った氷塊に対抗するために、アリシアも大量の電撃を撃ち出しただろ? どうやら、その直後に2人の魔力弾を完璧に防げるだけの堅さをもつバリアを張るのは難しいみたいだなってことだ。』」
「『なるほど。』」
幻が念話で簡単に説明すると、雪羅が納得したように言葉を続けた。
「『つまり、アリシアさんに大技を出させた直後に、こちらも大技を放ち、脆くなったバリアごと彼女を撃ち抜く一撃を叩き込めれば、こちらにも勝機がある……と?』」
「『ああ。少なくとも、ジュエルシードを発動させる時間くらいは稼げるはずだ。』」
「『確かに強力な魔力ダメージを与えれば……なのは、フェイト、もう一発いけるかい?』」
ユーノが尋ねると、2人はしっかりと頷いた。
「『よし、撃ちこむタイミングの指示はユーノに任せる。準備ができたら言ってくれ。それまでは俺たちが彼女の相手をして時間を稼ぐ。』」
幻以外のメンバーが頷いたのを確認すると、彼はアリシアへと突貫した。それを見たアリシアは左手を突き出し魔力を収束させた。すると、彼女の手に細身の剣が現れた。アリシアはその剣を握ると、向かってくる幻に剣先を向け、鋭い突きを放った。幻はその一撃を雪羅で受け流すと感心したように口を開いた。
「魔力の具現化か。そんなこともできるのか、驚いたよ。」
「何を話していたのか知らないが、無駄なこと。」
そう言って幻から距離を取ったアリシアは、レイピアの剣先を再び幻に向けると地を蹴って一気に距離を詰めた。それと同時に幻も月影を一閃した。
「消えろ。“グングニル・ファンデ”」
「甘い!! “冥道斬り”」
しかし、アリシアの一撃が幻の身体を貫こうとした刹那、月影の黒い刀身がアリシアのレイピアを弾き、その能力でレイピアを消滅させた。続いて幻は雪羅を地面に突き刺し、発生させた冷気でアリシアの身体を凍りつかせ、彼女の動きを封じた。
「なっ!?」
そして、幻は翼を動かして驚いた様子のアリシアから距離を取ると、雪羅を構えて再び周辺に大量の氷槍を出した。
「『幻、2人の準備ができた! 頼む!』」
「ナイスタイミングだ、ユーノ。“流氷の舞”」
ユーノの指示に頷いた幻は雪羅を振り、大量の氷槍を撃ち出した。
「さっきと同じ攻撃ですか? “ゲイボルグ”」
アリシアは呆れ気味に呟き、飛来してくる氷槍を電槍で撃ち落とし始めた。
やがて、全ての氷槍を迎撃し終えたアリシアは溜息交じりに幻の方を向いた。
「これで終わりですか? こんな技で私を倒せるとでも思っ……!?」
とここでアリシアは幻の身体に起きている不思議な現象に気が付いた。
風が唸りながら幻の身体を取り巻いていた。そして、その風は徐々に彼が持つ二刀に集められていった。
「あれは、何? 風が目に見えるわけが……」
ポツリと疑問を口にしたアリシアに幻は刀を振りかぶりながら答えた。
「こいつは妖力だ、そして俺が放てる最大級の妖力波だ。……くらえ、“嵐刃・神風!”」
幻が二刀を振り下ろすと、二刀を媒体として放たれた巨大な突風が動けないアリシアを襲った。
だが、幻が放った技に対抗するためにアリシアも左手を突き出して巨大な電磁砲を発射した。
「くっ! だが、無駄だ。“グングニル・ストール”」
最大級の突風と雷撃がぶつかり合い、辺りに轟音が響いた。それはまるで風神と雷神が闘っているようだった。
2つの技は互いに拮抗し合い、そして、凄まじい爆音を伴って相殺された。
「『なのは、フェイト、今だ!』」
それを好機とみたユーノが念話で叫んだ。
そして、幻が時間を稼いでいる間に魔力を溜めた2人の少女が巨大な一撃を放った。
「うん! 全力全開! 届いて! “スターライト・ブレイカー!!”」
「アリシア、今助けてあげる! “サンダー・バスター!!”」
二色の魔力砲が、大技を撃ち出した直後のアリシアを直撃した。
「くっ!?」
アリシアは、苦悶の表情を浮かべながら、バリアを展開した。
だが、幻の推察通りに大技を出した直後のアリシアには十分な強度のバリアを張る力と時間はなく、徐々にバリアが壊れ始めてきた。
「「はあぁぁああ!!」」
そして、2人の叫びに呼応したように威力の上がった魔力砲がバリアごとアリシアを撃ち抜き、アリシアは2人の魔力砲に飲み込まれていった。
―――――――――――――
「我が願いを聞き入れたまえ……」
現在、幻たちは気絶したアリシアを特殊な魔法陣の上に寝かせ、ジュエルシードを使って儀式を行っていた。儀式の方はユーノが行っており、アリシアとの戦いで力を使い果たした幻、なのは、フェイトは肩で息をしながら、その場に座り込んで静かに状況を見守っていた。
「ジュエルシードよ、この娘にかけられた全ての呪縛を打ち消せ。」
ユーノがそう告げると、アリシアの周りに浮かんでいたジュエルシードが光り輝き、しばらくするとその光が収まった。
「……これでいいはず。」
ユーノが緊張した面持ちで静かに言った。幻たちは彼の言葉に頷くと、そのまま成り行きを見守った。
「……う……ん。」
ややあって、アリシアの瞼がゆっくりと開き始めた。
アリシアは意識を取り戻すと、辺りを見回してポツリと呟いた。
「……ここ……は? あな……たは?」
「俺は飛天 幻。君は?」
幻が尋ねると、アリシアはゆっくりと答えた。
「アリ……シア。」
その名を聞いた瞬間、幻たちの間に歓声が起こった。
中でもフェイトは涙を流しながら、何度もアリシアの名前を呼んでいた。事情を知らないアリシアは目覚めたばかりということもあってかなり困惑していた。
見かねた幻がやれやれと声を上げた。
「まだ、完全に終わったわけじゃないから、落ち着け。とにかく目的の1つは達成した。アリシアはなのはとフェイトがアースラまで連れて行ってくれ。ついでに今までの経過を説明しといてくれると助かる。」
「幻くんは、どうするの?」
「俺にはまだやることがある。それに魔力と違って妖力はある程度の時間で回復できる。クロノたちの所に着く頃には技の5つくらいは撃てるさ。」
幻はそう言うと、翼をはためかせた。
それでも心配するなのはたちに月影と雪羅が告げた。
『大丈夫です。私たちが付いていますので。皆さんはアースラに戻って回復に専念してください。』
『絶対に無茶はさせないよ!』
「うん。」
力強く言う月影たちに押されて、なのはたちは頷いた。止めても無駄だと思ったらしい。
「でも、幻、絶対に戻ってきて。クロノたちも一緒に。」
「分かった。ユーノ、アルフさん、みんなを頼みます。」
幻はそう言うと、翼を羽ばたかせて、再び時の庭園・最上階に向かって飛び上がった。
「……幻くん、気を付けて。」
そんな幻の後ろ姿をなのはたちが祈るように見守っていた。
続く
長らくお待たせしました。
というわけで無事、アリシアを助けました。今後ともよろしくです。
補足です。
ジュエルシードの儀式(ユーノのセリフ)は想像です。
では、また次回!