瑞鶴奮闘記(完結)   作:冷しゃぶ

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ずいずい可愛い。
そんな私は赤城さん推し。


第一話

「きた! 瑞鶴きたぁ!」

 

 

 私が目を覚ましたと同時に、貴方は興奮した様子でそう叫んだわね。

 嬉しかった。そりゃもう、あれだけ露骨に喜んでる様を見たらね。こっちもつられて自然と口元をゆるませちゃうわよ。

 

 未だに向こう側で「よし! よし!」って握りこぶしを作りながら騒いでいる貴方に、そこまで嬉しかったのかなぁ、と内心苦笑いを浮かべながら、私は前から決めていた台詞を口にする。

 

「翔鶴型航空母艦二番艦、瑞鶴です!」

 

 多分だけど、あの時の私はいつもより良い笑顔を浮かべていたと思う。

 

 それが貴方に伝わらなかったのは……残念ね。

 

 本当に、残念。

 

 

 ◆

 

 

 見上げる。

 

 私の瞳を射ぬくように、真っ青な空に浮かぶ太陽からまっすぐ日差しが降り注ぐ。

 

「……まぶしっ」

 

 何を当たり前なことを言ってるのか、と我ながらアホらしく思う。

 これでもかとばかりに自己主張をするあいつから顔を逸らすと、次に視界に現れたのはどこまでも続く水平線。きらきらと光る水面に、不規則に引かれた白い線がゆらゆらと揺れている。

 

 ここでもあいつは自己主張するのか、と再び空を見上げて目を細める。

 

 やっぱり、眩しかった。

 

 

 

 

「瑞鶴」

 

 不意に、背後から私を呼ぶ声がした。

 

「翔鶴……姉さん」

 

 振り向きながら答えると、彼女はどこか寂しそうな顔をみせ。けれどすぐに、いつもの穏和な表情に戻り。

 

「もうすぐ出撃の時間よ」

「ああ、もうそんな時間か。わざわざ教えに来てくれてありがとう」

「あ……っ」

 

 なにか言いたげな彼女を置いて、私は一人、桟橋の上を歩き出す。

 途中でちらりと後ろを盗み見ると、そこにはさっき浮かべた寂しげな顔をしながらこちらを見つめる彼女の姿が。

 

「……、……」

 

 それを無視して、私は歩く。

 

 どうして彼女があんな顔をするのか。

 私はそれを知っている。知りながらも、見て見ぬ振りをする。

 

 そうしないと、きっと私は深入りしてしまう。引き返せないところまで入り込んで、そしていつか、受け入れてしまう。

 

 それだけは、ダメなんだ。

 

 

 ◇

 

 

 遠退いていく妹の後ろ姿を見つめる。

途中であの子が振り向いたような気もしたけど……多分気のせいだろう。

 

 「はぁ」と無意識にため息が出た。

 

「翔鶴さん」

「っ! あ、赤城さん?」

 

 いつのまにこんな近くにいたのか。 

 振り返ると、そこにはどこか気まずそうに笑う赤城さんが立っていた。

 

「ごめんなさい、驚かせてしまって」

「い、いえ。気づかなかった私も私ですし……ちなみに、いつからそこに?」

「翔鶴さんが瑞鶴さんに話しかけたところからですね」

「ほとんど最初からじゃないですか……。まったく気づかなかったです」

 

 「一航戦の隠密を舐めてはいけませんよ」とおちゃらけた様子で胸を張る赤城さんに、さっきまでの沈んだ気持ちが幾分か楽になる。

 

 きっと赤城さんは、私が落ち込んでいるのに気づいていたのだろう。事の成り行きは初めから見ていたようだし。今のちょっとしたおふざけも、私を少しでも元気付けるためにしたのだろう。

 

 そんなさりげない気遣いに、敵わないな、と改めて思う。

 

「瑞鶴さんは……変わらず、ですか」

「はい。変わらず、私を姉と呼んでくれません」

「…………」

「口では、言ってくれるんです。姉さん、と。けれど、あれはただ私の名前に添えただけの、なんの中身もない記号です。本当の意味で、あの子が私を姉と呼んでくれたことは……」

 

 表面上では姉と呼び、しかし内心では姉としてすら見ていない。

 

「正直、私にはその違いはよくわかりませんが……」

「それは仕方ないかと。姉妹である私自身、どうしてそう思うのか、よく判りませんし」

 

 姉妹艦だからなのか。たとえ口や顔に出なくとも、なんとなく、お互いの気持ちが理解できる時があった。

ただそれもできる時があるだけで、常に互いの気持ちがわかるわけではない。

 

 「艦娘にはまだまだ謎が多い」とは、このことを相談した際の提督の言葉だ。

 

「赤城さん。私は……どうすれば、いいんでしょうか」

 

 瑞鶴と仲良くしたい。一緒に買い物に行きたい。他の姉妹艦のように、なんの気兼ねなく、何気ない会話をしたい。

 

 何より、お姉ちゃんと呼んでほしい。

 

「けど、それらは全部私の我が儘なんですよ。自分勝手で、瑞鶴のことなんて考えない、ただ自分のやりたいことを押し付けたいだけの願望なんです」

 

 瑞鶴自身は、私と仲良くしたいとは思ってないだろう。

 あの子が建造されたその日から、私は一度たりとも、瑞鶴が誰か他の艦娘と積極的に関わっている姿を見たことがない。

 

 あの加賀さんが突っ掛かった時すら、軽く受け流して気にも留めなかった程だ。あれには私含め、赤城さんや偶然居合わせた二航戦の方々も目を丸くして驚いたのを覚えている。

 

「私はあの子に、どう接すればいいんでしょう」

「…………」

 

 赤城さんは、なにも言わなかった。

 

 

 ふと、空を見上げる。

 

 さっきまでさんさんと輝いていた太陽は。

 

 今はもう、雲に隠れて見えなかった。

 

 

 




ちょっと文字数少ない気もしますが、こんな感じでいいんですかね。
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