「見た見た提督さん! これが五航戦の本当の力よ! 瑞鶴には幸運の女神がついていてくれるんだから!」
初めてのMVP。
向こう側にいる貴方は、すごく満足気な表情を浮かべていて。
それを見た私もなんだか嬉しくて、ついつい顔をニヤつかせた。
「五航戦。たった一度MVPを取ったくらいで調子に乗らないことね」
「なによ、自分が活躍できなかったからって嫉妬してるの?」
「嫉妬? なぜ私が七面鳥相手にそんな感情を抱かなければならないのか、理解できないわ」
「っ、ふっ、ふん! 追い詰められたらそうやって七面鳥七面鳥言ってればいいと思ってんでしょ。言っとくけど、私がいつまでもそんな挑発に乗るとは思わないことね、この元戦艦焼き鳥空母!」
「焼き鳥……頭にきました。こっちに来なさい五航戦、今一度上下関係というものをその鳥頭に叩き込んであげます」
「そんなのお断りよ! 翔鶴姉、後はお願い!」
「えっ、ちょっ、瑞鶴!?」
「うわー、相変わらず仲良いねーあの二人。そして翔鶴不憫」
「まあ本格的にヤバくなる前に止めるかぁ。そういえば飛龍、赤城さんは?」
「間宮さんとこ。夜食もらいに行ってくるって」
「飛龍さんも蒼龍さんも呑気にお喋りしてないで加賀さんを止め──!? あっ、まっ、待って加賀さん! 室内で艦載機はマズ──」
「ははははっ!」
こんなバカ騒ぎを、もし貴方が向こう側から見れたなら、いったいどんな反応をしただろう。可笑しそうに笑うかな、それとも呆れる? 怒る……は、ないか。
いつの日か、貴方と一緒にこんなバカ騒ぎをしてみたいなあ。
眠気を我慢しているのか、船を漕ぎながらも半目でこちらを見つめている貴方に、私は大きな声で告げる。
「提督さん! 日付、変わっちゃったよー!」
◆
「提督。第二艦隊、無事帰投しました」
提督執務室。
きらびやかな装飾品があるわけでもなく、いたってシンプル、もしくは質素ともいえるその部屋で、私は正面の椅子に座る男に坦々と報告を済ませる。
愛想がない、と翔鶴姉さんには言われたけれど、わざわざそんなものを振り撒く必要はないと思う。
「ご苦労様。……ところで瑞鶴、最近調子はどうだ?」
「普段通りですけど」
「……あー、そうだな、他の子達とはうまくやれてるか?」
「作戦に支障がでない程度の関係は保っています」
「そうか……んー」
何なのだろう、この質問は。いつもなら労いの言葉ひとつで退室を許可されるはずなのに……。
確認の意をこめて提督の隣──本日の秘書艦である電に目を向けるも、なぜか顔を背けられるし。
私、何か問題行動起こしたっけ。
「……翔鶴とは、どうだ?」
あ、そういうこと。
「どうして提督が私とあの人との関係を知りたいのか判りかねますが、先程も言ったように、作戦に支障がでない程度には良好です」
「む……」
「質問は以上ですね。では」
口ごもる提督を尻目に、一礼してから部屋を出る。
扉を閉める際、隙間から提督と電がなにやら話しているのを目にしたけど……まあ、どうでもいいか。
報告を終えたことで、今日の私の仕事は終わり。
……他の艦娘に会うのも面倒だし、とっとと部屋に戻るかな。
そんなことを考えて歩いていると、歩みの先に見知った顔がひとつ。
「…………」
「どうも」
「ええ」
一航戦、加賀。
相変わらず仏頂面ね、とは口に出さない。この加賀に、そんな憎まれ口たたいてやらない。
「……一人で何をしてるのかしら」
「提督への報告。それじゃ」
これ以上ないくらい面倒な相手だ。さっさと離れるに限る。
「待ちなさい」
「!」
……驚いた。まさか呼び止められるとは思わなかったから、つい足を止めちゃった。
「なんですか。私、出撃から帰ってきたばかりで疲れてるんですけど」
「…………」
「……何もないようなので、失礼します」
踵を返し、一航戦に背を向ける。
用事もないのになぜ呼び止めたりしたんだか。
……部屋、戻るかな。
◇
「あなたが瑞鶴ね。私は一航戦、航空母艦の加賀よ。艦隊の足手まといにならないよう、せいぜい頑張ることね」
初めて瑞鶴に出会った時の、私の台詞。
今思うと、あの時私は浮かれていたのだろう。
いつだったか、演習や提督の秘書艦として他の鎮守府に赴いた際、そこに所属する加賀と瑞鶴を見かけたことがあった。
その時彼女らは──端から見れば実に阿呆らしいやり取りをしていたのだが、私はそんな二人の様子を、なぜか羨ましいと思ってしまった。
くだらないことで言い争い、罵り合いながらも、どこか楽し気な雰囲気をまとっていた、あの二人を。
別段、今の鎮守府に不満があるわけではない。赤城さんとは仲良くやれている。二航戦や翔鶴、他の空母や艦種の子達とも良好な関係を築けていると思う。
不満はない。けれど、心のどこかで一抹の寂しさを覚えていたのも、また事実だった。
比較的初期の頃に鎮守府に着任した私は、周りの子からみれば先輩という立場になる。だからだろう、殆どの子が私に対して一歩引いた距離感から接するのは。
赤城さんや一部の子達を除いて、私と対等な立場で接してくれる者は少ない。
だからこそ、私は求めていたのかもしれない。
あの鎮守府の加賀や瑞鶴のように、気兼ねなく、馬鹿みたいなことをやり合える相手を。
それなのに。
「あ……、翔鶴型二番艦、瑞鶴です。よろしくお願いします」
まるで「貴女になど興味がない」とでも言いたげな態度で、あの子は私を一瞥しただけだった。
──ノックを三回。
「誰ですか」と室内にいる電からの問い掛け。
「加賀です」
「どうぞ、お入りくださいなのです」
静かに扉を開く。
入り口に向かい合うように置かれた執務机の上は……きちんと整理されてるようね。感心だわ。ダンボールだった頃と比べると雲泥の差ね。
「すまないな、非番だというのにわざわざ呼び出して」
「いえ。それで、私に何か?」
「……瑞鶴のことなんだが」
なんてタイムリーな話題なのか。
「君の目から見て、彼女はここに馴染めているだろうか」
「……本来、そういう艦娘達の人間関係を含め、貴方は把握してなくてはならないはずなのだけれど?」
「はは……それはわかってるんだがな。どうも俺は瑞鶴に嫌われているようでな。会話すらあまりしてくれなくて……」
嫌われている? どういうことかしら。
……それよりも。
「提督、まさかあなた、直接本人に聞いたの?」
問うと、返ってきたのはなんともいえない曖昧な笑み。隣の電は苦笑い。
……何をやっているんだか。
「提督。一般に、“あなたは周りと馴染めていますか”、と聞かれて、素直に“いいえ”と答えられる者はそういないと思うわ」
逆に“はい”と自信満々に答える者も少ないでしょうけど。
余程人との付き合い方に自信があるか、はたまた周りに目を向けずに自己中心で物事を図る愚か者か。
……いや、今重要なのはそこじゃないわね。
「それで、瑞鶴はなんて?」
「作戦に支障がでない程度には良好、だそうだ。事実、特にこれといった問題が起きたなんて報告もない」
「……まあ、間違いではないわね。ただ──」
「ただ?」
「問題が起こるようなほど、深く関わってる相手がいないというのも、また事実よ」
姉妹艦である翔鶴とすら、碌に会話をしようとしないのだ。
もちろん、私とも。
「悪いけれど、瑞鶴に関して私にできることはないわ。それは他の空母も同じ。赤城さんも、二航戦や軽空母の子達も、皆避けられてるようだから」
「……そう、か。んー……」
あごに手をあて、眉間に皺を寄せる提督。
恐らく、瑞鶴の話題を提督に持ち掛けたのは翔鶴だ。先日赤城さんも相談に乗ったと言っていたし……「力になれなかった」とも言っていたが。
──それにしても、どうしてあの子はここまで露骨に私達と距離を置こうとするのだろう。
私とは……まあ、仕方ない。初対面があれだったわけだし、好意的に見てもらえるとは思わない。
なら他の子はどうだ。正規空母の中で瑞鶴と一番早く出会ったのは赤城さんと聞いた。けれど、その時何か気に障るようなことをしたとは聞いていない。その次の翔鶴も、二航戦も、ただ普通に挨拶しただけと言っていた。
翔鶴に関しては、念願の姉妹艦の着任に感極まって抱き付いたそうだけど、そこは姉妹なのだし、嫌われるような行為ではないはず──。
「…………」
そもそも、あの子は本当に私達を嫌っているのだろうか。
普段の言動から避けられているのは理解できる。しかし避けられはせど、露骨に嫌悪感をあらわされたことは一度もない──と、思う。
……いや、私がそうであってほしいと思いたいだけ、かしらね。
提督の前だというのに、ついため息をつきたくなる。
ああ、まったく。どうして私が五航戦のことなんかでここまで頭を働かせなくてはならないのだ。
……。まあ、今さらかしらね。
ずいずいの出番が少ない。