瑞鶴奮闘記(完結)   作:冷しゃぶ

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一話あたりの平均文字数一万の作者さん、本当尊敬してます。


第三話

 

 

「ねえ瑞鶴ー、夜戦行こうよー、夜戦ー夜戦ー」

 

「だあああっ! うっさいわよかっ……川内! 今日私はお休みなの! わかる? お、や、す、み。貴重な休日になんであんたに付き合って夜戦しなきゃなんないのよ!」

 

 

 いつもの川内とのやり取り。

 間宮さんの食堂で、あの夜戦バカはどういうわけだか執拗に私を夜戦へ誘いに現れた。こっちがご飯を食べていようが誰かと話していようが関係なしにだ。

 私だけ、ということでもなかったけれど、誘われる頻度は私がダントツで一番だったような気がする。

 

「えー、そんなこと言わずに行こうよ。あの夜戦だよ?」

「いやどの夜戦よ」

 

 夜戦は夜戦でしょうに。

 

「だいたい今何時だと思ってんのよ。ヒトフタマルマル、お昼よお昼。真っ昼間から夜戦なんてできるわけないでしょ」

「むう……」

「そんな不満そうな顔しても無理なものは無理」

 

 そもそも提督さんの許可が出ないと夜戦できないし。

 

「じゃあ昼寝しようよ!」

「はあ?」

「だから昼寝! 今から寝て夜に起きれば夜戦できるじゃん! それならいいでしょ!」

「よくないわよ。私、午後から翔鶴姉とショッピング行く予定だから」

「えー」

 

 余程不満だったのか。それとも相当夜戦欲が溜まっていたのか。川内は私の背中に抱きつくよう、首に腕を回して密着してきた。

 そして耳元で「夜戦」を連呼。

 

 ……なんだこれ、何かの罰ゲーム?

 

 いつもならここらで止めに入る川内型の他二人はいないし、周りの子達は我関せずで助けにきてくれそうな様子はない。好き好んで夜戦バカに絡まれに来るような輩はいないのだ。

 

 くそう。

 

「ねえ瑞鶴ぅ。夜戦ー」

 

 無視よ。無視するのよ瑞鶴。

 翔鶴姉も言ってたじゃない。時には引くのも女の嗜みだと。……あれ、ちょっと違うか?

 ええいっ。とにかく今は我慢よ。このまま相手にしなければ、いつかは飽きて標的を変えるはず。

 耐えろ私。あなたは誇り高き五航戦でしょ。どこぞの頭が固くて融通がきかなくてすぐに怒る焼き鳥空母なんかとは違うということ、今ここで表明してやるわ!

 

「瑞鶴ぅうう。ずいっずいっ瑞鶴ー。夜っ戦しようよー」

 

 こいつぶん殴っていいかな。

 

 ……ああ、わかる。今私の首筋に鼻を押し当てているであろうこのバカが、見る者を不快にするニヤニヤとした笑みを浮かべているのが、私にはわかる。見えないけど。

 

「ねーえー」

「──ああもうっ! わかった! わかったわよ! 今度一緒に昼寝ぐらいしてやるから、とりあえず今は離れなさいよ暑苦しいっ」

 

 折れた。

 ごめん翔鶴姉。五航戦の誇り、守れなかったよ。

 

「……ま、今はそれでいいか」

「ただし、非番の日だけよ。それ以外の日は絶対付き合わないから」

「ん、いいよ。それじゃ約束。次の瑞鶴の休みの日は一緒に昼寝して夜戦に行くこと」

「勝手に夜戦増やすなバカ」

 

 

 ──結局。

 

 あの時の約束は、果たせていない。

 

 

 ◆

 

 

 お昼。時間はヒトフタマルマル。

 

 時折風に乗って運ばれてくる潮の香りを感じながら、私は一人、鎮守府の外を歩く。

 この時間、出撃や遠征に出ている子達を除き、艦娘達の殆どは昼食を取るため食堂にいる。中には暇を潰すために辺りをぶらぶらと徘徊してる子もいるが、それも少数だ。滅多に会うことはない。

 つまり、あまり他人と関わりたくない私にとって、簡単に一人になれるこの時間帯はとても都合がいいのだ。

 

 整備されたアスファルトの歩道をゆっくりと進みながら、ふと近頃身の回りに起きている変化について考えてみることにする。

 

 まず休みが増えた。前触れもなくいきなりに。

 当然、提督に理由を聞いた。

 

「積極的に作戦に参加してくれるのはこちらとしてもありがたいが、休息を取るのも大切なことだ。たまには翔鶴や他の子達と外出でもしてきたらどうだい?」

 

 露骨すぎる。 そうまでして提督は、私を……あの人と近づけたいのか。

 

「…………」

 

 苛立ち。自然と歩調が速くなり、歩幅も大きくなる。

 

 ほんと、余計なことをしてくれる。本人は私達のことを思ってやってるんだろうけど、実際にはあっちのことしか考えていない。私の意思なんて関係なしに、さもそれがいいことであると疑わない、一方的で独善的な行為だ。

 

 ありがた迷惑もいいとこね。

 私はここにいる連中と仲良くなる気なんて、欠片もないのに。

 

 

 気がつけば、舗装された道は終わっていて。

 歩く度にさくさくと心地よい音を出す砂浜を、一歩一歩、その音を確認するようゆっくり足を踏み出す。

 

 そして、思う。

 

 ──ああ、気持ち悪い。

 

 

 足元に向けていた視線を、今度は前へと移す。

 今まで何度も、何度も耳にしてきた、波の音。幾度となく目にしてきた、どこまでも続く水平線。

 

 ──ああ、やっぱり、気持ち悪い。

 全部、全部、気持ち悪い。

 

 

「あれー、瑞鶴じゃん。何してんのこんなところで」

 

 砂浜に座り、ただボーッと海を眺め始めてから、しばらく。

 背後から声を掛けられたけど、私は無視を決め込む。今は誰の相手もしたくない。こいつ相手ならなおさらだ。

 

 けれど、そんな私の心境などいざ知らず。

 砂を踏む音はだんだんと近づいてきて……ピタリ、と止まった。

 私の横で。

 

「ねえ、なにしてんの?」

「…………」

 

 私の顔をのぞきこんできたそいつから、いつかのあいつの面影をみる。雰囲気も、はつらつとした笑みも──何もかも、あいつと似ている。 違いといえば服装くらいか。

 

「おーい、聞こえてるー? もしもーし」

「……、なによ」

 

 口に出して、後悔。

 なぜ返事をしてしまったのか、なんて、今さら考えたところで意味はない。

 

「あ、やっと反応してくれた。さっきから話し掛けてるのに返事も何もしてくれないからさー、てっきり寝てるのかと思ったよ」

「こんな場所で眠るはずないでしょ。バカじゃないの」

 

 吐き捨てるように言って、立つ。

 お尻についた砂を手で払い除けていると、横からまた、あいつと同じ声。

 

「そう? 意外と気持ちいいかもよ。ここの砂ってきめ細かいし、ごつごつした石ころなんかも少ないし」

「なら寝れば?」

 

 これ以上こいつの相手はしたくない。

 

「ん? どこ行くの?」

「さあ? 私にもわからないわ」

「あはは、なにそれ」

「……。それじゃ」

「ああっ、待って待って!」

 

 誰が待つもんか。

 あいつは……どうやら追いかけてまでは来ないようだ。どうして私を呼び止めたのかはわからないけど、一度無視された程度で諦めたんだ。そこまで大事なことでもないのだろう。

 

 そんなことを思っていた矢先。

 

「瑞鶴ー!」

 

 私を呼ぶ声。

 足は、止めない。

 

「今度暇な時でいいからさ! ここで一緒に昼寝でもしようよ!」

「っ──」

 

 …………。

 

「あんたなんかとは死んでもごめんよ」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「…………」

「川内姉さん?」

「んー」

「こんな場所で寝転がって何やってるんですか」

「昼寝」

「……別にお昼寝するのはいいですけど、せめて部屋に戻ってお布団の上で寝ませんか? 汚れちゃいますし、なによりこんな強い日差しを浴びてたら日射病になっちゃいます」

 

 困ったように苦笑いを浮かべる妹に、そりゃそうだ、と同意してから体を起こす。

 髪の毛やら服やらに付いた砂を払いのけ、「ぅんーっ」と固くなった体を伸ばしてほぐす。

 

「どうしてこんな砂浜でお昼寝を?」

「なんとなくよ、なんとなく」

「なんですかそれ」

「……そうだね。強いて言うなら……本番に向けての予行演習、かなぁ。やっぱ直に砂の上に寝るのはダメだね。シートかなんか敷かないと。あとは日差しを遮る傘みたいな……ビーチパラソルだっけ。あんなのも必要かなー」

 

 そこでチラリと隣にいる神通を見ると、頭に疑問符を浮かべて可愛らしく首を傾げていた。うん、まあ、当然の反応だよね。流石に今の会話で理解されるとは思ってないし。

 ならどうして口にしたのか、って聞かれると、それはそれで困るんだけど。

 

「あの……姉さん。すいません、今の話ではいまいち話の内容がわからなかったんですけど……」

 

 だろうね。

 

「んー」

 

 さて、どうする。この子の前で瑞鶴のことはあんまり話したくないんだよなぁ。

 ……まあ今回は神通に関係するわけでもないし、大丈夫か。

 

「いやー、ちょっと前に瑞鶴と話してね」

「! ……瑞鶴さんと、ですか」

 

 ありゃ、やっぱりこうなるか。

 

「なに、神通ったらまだ瑞鶴に苦手意識持ってるの?」

「いえ、別に苦手ってわけじゃ……ただ、その……」

「いいよいいよ、無理に言葉にしなくても」

「す、すみません」

「いや謝らなくてもいいんだけど」 

 

 私の妹ながら、どうしてこう気弱なのか。戦場に立つ時とは大違いだ。

 

「他の子もそうだけどさ、瑞鶴のどこにそんな苦手になるような要素があるかなー」

 

 神通含め、鎮守府内には瑞鶴のことを意識的に避けている子達は少なくない。特に駆逐艦あたりが多いと私は思ってる。

 ただそこまで露骨に嫌ってはいないようで、神通みたいに“少し苦手”って感じみたいだけど……その理由がわからない。

 

「……目、です」

「め? めって、この目?」

 

 自分の眼球を指差しながら聞き返すと、こくり、と神通は小さく頷いた。

 

「瑞鶴さんの私を見る目が、あまり好きじゃなくて。なんと言いますか、私を見てはいるんですが、私自身を見ているわけではなくて……」

「ごめん、よくわかんない」

「うぅ」

 

 神通を見ているようで見ていない……。うん、さっぱりわかんない。

 瑞鶴を避ける他の子達も似たような理由なのかな。今度何人かに聞いてみるか。

 

「川内姉さんはありませんか? 彼女からそんな目で見られたこと」

 

 言われて、少しだけ記憶をふり返ってみる。

 私を見ているようで見ていない目……うーん、そもそもそれがどんなものかいまいちわからないのに、いくら記憶をふり返ったところで意味があるとは思え────あ。

 

「そう、いえば」

「何か思い当たることでも?」

「ん、まあ……」

 

 瑞鶴と初めて顔を合わせた日。

 あの時、あの子は…………。

 

「姉さん?」

「……いや、なんでもない。ところで神通、お昼御飯はもう食べた?」

「へ? いえ、まだですけど」

「じゃあ今から食堂行って一緒に食べよ! その後は夜戦に備えてもう一眠りしないとね!」

「だ、駄目ですよ。食べてすぐ横になるのは体に悪いんですから、せめて一息ついてからにしてください」

「えー」

「姉さん!」

 

 「あはは、わかってるよ」と口にしつつ、いつもながら必要以上に心配性な妹に内心苦笑する。

 

 ……それにしても、“目”、ね。

 あの時はあまり気にもしなかったけど、確かに言われてみれば、瑞鶴の私を見る目はおかしかった。

 ただあれは、神通が言うような理解し難い類いのものじゃなくて。

 

『や、あなたが翔鶴の妹さん? 私は川内型一番艦、川内だよ。一番好きなことは夜戦! よろしくね!』

『っ……翔鶴型二番艦、瑞鶴です。……よろしく』

 

 

 ……。やっぱり、わかんないや。

 

 

 

 




口調はこれでいいのだろうか。
ある程度調べてはいますけど、わからないところはわからないんですよね。
まあ、そこらへんは勝手に捏造してますけど。
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