瑞鶴奮闘記(完結)   作:冷しゃぶ

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久々更新



第八話

「聞いてよ翔鶴姉! さっき赤城さんがね──」

 あら、それは良かったわね。

 

「あ、これなんか翔鶴姉に似合うんじゃない?」

 そ、そう? ちょっと大胆すぎないかしら?

 

「あーもうっ、また負けたあ! ちょっと一航戦! もう少し手加減してくれたっていいじゃない! 翔鶴姉もそう思うよね!?」

 ごめんなさい加賀さん、また瑞鶴がわがままを……。

 

「私と同じ艦隊の時、どうして翔鶴姉ばかり被弾するのかな……?」

 それでいいのよ。

 

「ひーまー。翔鶴ねぇー、どこか遊びに行こうよー」

 そんなだらしない格好するのやめなさい。

 

 

「ねえ、翔鶴姉」

 なあに、瑞鶴?

 

 

「ねえ、翔鶴姉」

 …………。

「返事してよ」

 

 

 ◆

 

 

 着弾。

 奇声のような悲鳴のような断末魔をあげて、最後の深海棲艦は海の底へと沈んでいった。

 周りで他の子達が声を掛け合っている中、私は最後の深海棲艦が沈んだ箇所を見つめる。

 

 そして、落胆。

 

 あぁ、また違ったか。

 

 空母ヲ級。あれも違った。

 周囲に他の深海棲艦はいないようだし、今回はこれで終わり。後は帰投するだけ。

 

 ……また見つからなかったな。

 

 

 

 

 赤城との会話から半月。

 変わったことと言えば、私の捜索範囲が鎮守府から海へと移ったこと。加賀がやたらと私を睨むようになったこと。

 他には──赤城が頻繁に接触してくるようになった。罪悪感なのかなんなのか、自分から話しかけておきながら気まずそうな雰囲気を出すのはどうにかしてほしい。面倒くさいし、何よりあれのせいで私は加賀から睨まれるのだ。正直関わってほしくないから、すぐに会話を切るようにしている。

 

 ……後は。

 

「ねえ瑞鶴、今度のお休み、このお店に行かない?」

「行かない」

「じゃ、じゃあ此処は? 瑞鶴に似合いそうなお洋服が」

「いらない」

「そ、そう……あ、ならちょうどお昼時だし、間宮さんの所でご飯でも一緒に──」

「お腹減ってないから」

「……、……」

 

 ようやく諦めたのか、この世界の姉は静かに部屋を出ていった。

 

 あの日以来、どういうわけかあの人はやたらと私に構うようになった。

 一緒にご飯食べに行こう、一緒にお出掛けに行こう。他にもいろいろ言われたが、そのすべてを私は断った。もし私が向こうの立場ならとっくのとうに諦めているだろう。

 けれど、あの人は未だ諦めずに私に声をかけてくる。

 どこか遠慮がちに、優しく語りかけるように。

 

 翔鶴姉と同じ顔で。

 

 

「…………」

 偽物のくせに。

 

 

 

 時刻はヒトキュウマルマル。

 鎮守府にいる艦娘達の足音が部屋の前を通過する。恐らく食堂にでも向かっているのだろう。駆逐艦のドタバタと走る音が一際大きく耳に届く。

 早めに食事を済ました私があの流れに乗ることはない。「たまには他の人と一緒に食事を取ればいいのに」と間宮に言われたけど、この鎮守府に好き好んで私に近づく人はいない。むしろ避けられている私に、いったい誰を誘えと言うのか。

 ……ここ最近、毎日のように声をかけてくるのがいるけど。

 

 「ふぅ」と、ひとつため息。

 

 相変わらず向こうに帰る方法は見つからない。海に出て、私が現れた海域周辺を通る際には周りの隙を突いていろいろ探してはいるのだけれど、それらしい手掛かりは一つもない。

 海に潜れば何かあるのかもしれないけど、生憎私は潜水艦じゃない。底に落ちる時は沈む時くらいだろう。

 

 ──潜水艦といえば。

 

 こちら側ではよく潜水艦の子達を見かける。あっちだとほぼ毎日オリョール海に資材集めに出ていたから、あまり顔を合わせる機会はなかった。

 それでも仲は悪くなかったし、伊168……イムヤとは、互いに暇な時間が重なればちょくちょく一緒にお茶なんかしたりもした。

 が、ここではゼロ。誘ったことも誘われたこともない。

 それは今後も変わらないだろうな。

 

 さておき。

 

 どうすれば元の居場所に帰れるのか。こちら側に来た方法と同じ手段を使えば戻れそうではあるけど、そもそもどうやってこの世界に来たのかも判らない。というか覚えていない。

 肝心なところでなんて役に立たないんだ私の脳みそは。

 かろうじて記憶にあるのは、足を引っ張られたということだけ。

 

 ともかく。

 それらしい情報は鎮守府にはなく、海の方も望みは薄い。

 

 ……ああ、きついなぁ。

 

 二段ベッドの下へ腰を下ろし、そのままぼふっ、と体を横に倒す。

 

 ──時々、思う。

 私は、帰れるんだろうか。

 このままずっとこんな世界に閉じ込められたまま、なんてことにならないだろうか。

 

 そんな最悪な未来を欠片でも想像する度に、ぞわり、と身体中に悪寒が走る。不安が募る。泣きそうになる。

 

 その度に思い出す。私の帰るべき場所を。

 

 鎮守府の外観、内装。部屋から見える外の風景に、毎日みんなと一緒にご飯を食べる食堂の匂い。

 艦娘のみんな。画面越しに見る提督さんの笑顔。

 赤城さんに、蒼龍さんに飛龍さん。

 他の空母の人達に、犬みたいに私の後をつけてくる後輩。暇があれば絡んでくる夜戦バカ。

 

 ……厳しくて口煩い、私の目標。

 

 ──大好きな、姉の顔。 

 

 振り返る。記憶を。瞼を閉じて。

 何度も、何度も。繰り返し、暗闇の中にあの場所の光景を映し出す。

 

 ……大丈夫、大丈夫だ。まだ思い出せる。大事な記憶は、まだ私の中にある。

 

 目を開ける。

 真っ先に視界にとび込んできた蛍光灯の光に、目が眩んだ。

 

 

 

「瑞鶴……?」

 ──!

「泣いてるの?」

 

 ……失態だ。

 なんて最悪なタイミングで戻ってくるのよ。

 

 眼を動かして確認すると、部屋の入り口にはこの世界の姉が立っていて。

 早足で近寄ってくる彼女を横目に、私は思わず深いため息を吐いた。

 

 

 ◇

 

 

「だから、なんでもないってば」

「でも……」

「しつこい」

「うぅ」

 

 妹に冷たい目で見返され、思わず言葉に詰まる。

 

  ──近頃、瑞鶴との距離がさらに離れた気がする。

 そのことについて相談すると、いつものように赤城さんや二航戦の方々に励まされ、扶桑姉妹には「不幸ね」と同情され。

 お酒に酔った龍譲さんが「一発ぶちかます」といきり立つのをなんとか宥めつつも食事を済ませ、自室へと戻った私の目にとび込んできたのはベッドの上で泣く妹の姿。

 

 困惑した。それはもう、困惑した。驚愕もした。

 

 どう、え、なんでっ、瑞鶴ッ、泣いて、えっ、え!?

 

 一度も見たことがない妹が泣く姿を前に、私の体は完全に硬直していた。

 

 どうすればいいの!? 慰める!? 泣いてる妹の慰め方なんて知らないわよ!?

 …………、落ち着け、そう、落ち着くのよ翔鶴。

 瑞鶴だって泣く時くらいはあるわ。そう、なにもおかしなことではない。

 いったい何が原因で泣いたのかは判らないけど、今私のすべきことは慌てふためくことではない。

 

 落ち着きを取り戻した後。

 どうして泣いているのかと問いかければ、返ってきたのは目に“ゴミが入ったから”といういかにもその場しのぎな内容で。

 そこで納得できなかった私が、さらにもう少し深く追求した結果、瑞鶴に睨まれるという今の状況に至る。

 

「何度も言うけど、本当になんでもないの。翔鶴姉さんが気にする必要も気に病む必要もないから、その思い詰めた顔やめてよ」

「で、でもね瑞か──」

「くどい」

「うぅ」

 

 ──あぁ、赤城さん、私はいったいどうすればいいのでしょう。

 久し振りにここまで長い会話を妹とできたことに喜ぶべきなのか、相変わらず素っ気ない態度をされることに悲しむべきなのか、はたまた無視されないだけマシだと安堵するべきなのか。

 

「……ちょっと。いつまで私の顔見てるのよ」

「へ……? あ、ご、ごめんなさいっ」

 

 咄嗟に謝罪の言葉を口にし、私は瑞鶴から顔を背けた。

 直後、小さくため息をつく音が聞こえたけど……お、怒らしちゃったかしら。

 

 恐る恐る、ちらり、と妹を盗み見ると、彼女は私に背を向けて横になっていた。

 ……怒りの形相で睨まれてないことに胸を撫で下ろす。今瑞鶴にそんな顔されたら、たぶん耐えられない。間違いなく泣くわ、私。

 

「…………」

「ず、瑞鶴? もう寝るの?」

 

 返事はない。

 一瞬もう眠ったのかと思ったけれど、寝息は聞こえないし、恐らく無視されただけだろう。

 ──睨まれるのも辛いけど、無視されるのもなかなか堪えるわね。今さらだけど。

 

「…………」

「…………」

 

 沈黙。

 気まずい。

 

「あ、う……」

「…………」

 

 何か、何か話題はないかしら。

 いっそ私も寝てしまえばいいのだろうけど、今を逃すと瑞鶴ともうこんなに長く会話する機会は来ない気がする。

 そこでふと思い付いたのは、つい先程食堂で加賀さんから聞かされた話。

 

「そ、そういえば、さっき食堂で聞いたんだけどね。なんでもこの鎮守府近くの海域に()が出たって目撃情報があったみたいで、近々隊を編成して調査に向かうみたいなのよ」

 

 正直、こんな話題に反応されるとは思わなかった。

 

「それでね、その姫が出た海域が、貴女が保護された場所みたいで──」

 

 いつものように短い言葉でつまらなそうに返事されるか、無言で無視されるかのどちらかだろうと、そう思っていた。

 瑞鶴がこちらを振り向くまでは。

 

「ねえ」

「──あ」

 

 その抑揚の無い声に、ゾクリ、と背筋が凍った。

 

「その()って、どいつ?」

「え──あ──」 

「そいつの艦級。答えて」

「──、空母、棲姫」

 

 恐怖。

 口内が渇き、無意識に生唾を飲み込む。

 真っ直ぐ私を捉える瑞鶴の瞳から目を離せなくて──……。

 

 

 ……気が付くと、いつの間にか瑞鶴はさっきまでの様に私に背を向けて横になっていた。

 私は、小さな声で何度も姫の名前を口ずさむ妹の前から、しばらく動くことができなかった。

 

 

 




fgoにハマった。
そして相も変わらずシリアス。作者的にはまだまだ軽い方ですけど。
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