最初のコラボ先の選定に時間を食い過ぎました。
大変申し訳ありません。
Act 1. -Greater hero- より偉大な英雄
依頼先:メタルギアシリーズ
介入:消極
ナノマシンによる亜空間通信:可
アームキャノンのアップデート:なし(スペア作成、通信により転送)
食料配給:あり
弾薬配給:あり
医療支援:あり(保険証作成)
導入方式:ソリッド・スネークことデイビッド・スクルージの発見
「聞こえるか、海生。目的地に到着した」
『予定通りだね小櫃。ブランクがあるとは思えない』
海生からの依頼で俺が派遣された記念すべき最初の世界は、『メタルギアシリーズ』。その時系列でいえば物語の最後に当たる『メタルギアソリッド4』から半年近く経過しており、今は二〇一四年十一月十日。偶然にも、俺のいた幻想郷にブラストが入り込んできた報告を聞いたのと同じ日付だ。
「しかし――」
『ん?』
そして今俺がいるのは、
「本当にこんな温泉街に‘伝説の英雄’がいるのか?」
群馬県吾妻郡草津町、草津温泉である。
『ああいるともさ。その為にわざわざ能力を使った』
さも当然の如く、通信越しに答える海生。得体の知れぬ能力に振り回される老体の気持ちも考えてやれ、と言いたくなったが、世界線を弄って‘彼’が草津に来るパラレルワールドを作り出したのなら、‘彼’が選んだも同義か、と無理矢理納得した。
彼――ソリッド・スネークは、この世界線に於いて何度も世界を救ってきた男だ。アウターヘブン蜂起、ザンジバーランド騒乱、シャドーモセス事件、そして半年前のガンズ・オブ・ザ・パトリオット…英雄という見方をすれば、
名誉とかは関係なしに、彼は英雄として先輩であり、目標であり、憧れである。
『小櫃、分かってるとは思うけど、彼はもう
「デイビッド・スクルージ、だな? 安心しろ、ガキが昔話をねだるだけだ」
デイブ(勝手ながらそう呼ばせて貰う)はもう若くない。実年齢こそ四十歳だが、
海生との通信を切り、湯畑のすぐ脇を歩き出した。道路には湯気と温泉特有の臭いが立ち込めている。事前情報によれば、この先の温泉宿にデイブが泊まっているらしい。ありがたいことに、海生が既にチェックインを済ませ俺の部屋を用意しているという。
坂を登ったところにあるその宿に入り、受付で鍵を貰って奥へ進む――
「…?」
人違いだろうか。目の前をデイブと思しき浴衣姿のアメリカ人が通っていった。しかしその顔は海生に見せられた『メタルギアソリッド4』の時点での写真とは程遠く、若々しい。『メタルギアソリッド2』の時の方が近いだろう。スキャニングで見ても肉体年齢は二十代のそれだ。
「…声をかけた方が早いか」
確認の為、俺は彼を追いかけ狭い通路に入っていく。しかし彼は小さな歩幅で素早く歩いており、大股でゆっくり歩く俺では追い付けない。彼がT字路を左に曲がったところで、俺はスピードを上げ、同じく左に、
「!」
と行きたかったのだが。角に張り付き彼が待ち構えているのをバイオロケーションで捉えた。始めから筒抜けだったのか。
「そこにいるんだろう。出てこい」
メタルギアシリーズをゲームとしてプレイしたことのある俺だが、その声は実際に――つまり生で、本人が喋っているのを聞いてみると師匠に似ていた。その声で、俺はこの男こそ、ソリッド・スネークことデイビッド・スクルージその人であると確信した。
「…流石だな、完敗だ」
「俺に何の用だ?」
彼の前に立ち、正面から見据える。トレードマークのバンダナこそ身に付けていないものの、険しくニヒルでどこか冷めた顔付きは変わらない。刺々しい雰囲気を纏っている彼の警戒を解くべく、俺は挨拶した。
「お前がデイビッド・スクルージだな。俺は四島小櫃。ある人物からの依頼で、お前と会うことになった」
握手を求めるのも、忘れずに。
廊下で立ち話をする訳にはいかないし、また他人に聞かれると困るから、一先ずデイブの部屋に邪魔させて貰うことになった。キャスター付きの旅行鞄が開けっ放しになって転がっていたが、荷物は少ないと見えた――作中でも見せた彼の性格をよく反映している。
デイブの眼から不信感の色が消えなかったので、自分達が何者であるのかを掻い摘んで説明した。
自分は西暦二一二九年の未来に住んでいた人間であること。その世界での戦いで死亡し、同時にタイムスリップ、幻想となったものが隠れ住む世界『幻想郷』に刺客として引き込まれたこと。半妖である海生の能力を利用した実験に巻き込まれ、平行世界にトリップし、そこで海生と出会ったこと。そして幻想郷に帰る際に、海生の実験に協力する契約をしたこと。
デイブが日本へ観光に来たのも、全て海生の仕業だと言った。俺の体内のナノマシンを介しての魔法で海生のホログラムを作り、実際に海生に出てきて解説して貰ったりもした。
「…じゃあ、」
ここにきて初めて、デイブが口を開いた。
「俺の目の前でトラックが横転して、積荷のパック詰めされた白い粉を被ってから温泉に浸かったら
「白い粉? そんなことまで弄ったのか海生」
『ああいや、世界線介入にその手のイレギュラーは付き物なんだよ。でも良かった、
「FOXDIEを知っているとなると…信憑性は出てきたな」
FOXDIE。ソリダス・スネークことジョージ・シアーズの指示のもと、DIA所属のリチャード・エイムズが暗殺兵器開発プロジェクトを計画、ATGC社のナオミ・ハンターを中心に開発を進めていた、特定の人物だけを選択的に殺害する人工レトロウイルスだ。
空気を媒体として体内のマクロファージに感染、
七年前のシャドーモセス事件の際、デイブが核兵器廃棄所に送り込まれた真の理由は、FOXDIEの
ところでこの‘若返り’の理由というのが、デイブが旅行中大量摂取してしまった白い粉の正体、ニコチンアミドモノヌクレオチド、略してNMNという物質――ナイアシン即ちビタミンB3の一種らしいが、コーカサスではそんなものは発見されていなかった――だった。これが長寿遺伝子の別名を持つサーチュイン遺伝子を活性化、デイブの細胞を若返らせ、変異したウイルスがデイブの遺伝子構造を変化させた結果、彼は副作用も殆どなく急激に若返ったのである。
「……」
『どうだい? 信じる気にはなった?』
「まあ唐突で突飛で荒唐無稽なことは重々承知の上だ、頭がおかしいと思われても仕方が――」
「わかった、信じよう」
『え、早い…』
意外にも、デイブの返答はあっさりしていた。
「いいのか?」
「ああ、取り敢えず只の妄想でないことは把握した。害意もない、俺に不都合なことがある訳でもないしな」
パスポートの写真と顔が違うことをどう説明するか考える位か、とデイブは笑う。俺と海生の杞憂を吹き飛ばすように。
…失念していた。この世界には幽霊などが実在することを。半妖の海生が受け入れられるのも当然といえるだろう。理屈はともかく、目の前の現実をそれと認識して受け止めるのがデイブという男だった。ならば最早何も案ずることはない。
「よかった、では早速――」
話を聞きたかったが、かつて海生が俺に言った言葉の通り、
「キャアアァアアァアアアア!!」
――女性の悲鳴、そして立て続けに銃声――どうやら俺は戦いの運命から逃れられぬらしい。
「っ! 海生、どこからだ?!」
『そこの窓から坂を下った先みたいだよ』
「了解だ」
障子を押し退け、窓のクレセント錠を下ろす。重い窓を力任せに開け放つと、俺はアームキャノンも持たず外へと躍り出た。
「ま、待て!」
デイブの制止を聞く気などない。窓の下はタケの生い茂る道なき道。そこを駆け下り、俺はその先の通りに出てきた。そこでは既に、未知のロボットが暴れまわり、人々を虐殺していた。
成人男性の肩まではありそうな長い脚が二本、短く太い手のようなマニピュレーターが二本備わった黒い箱型のボディ。その前部には二つずつカメラアイと赤外線センサーを有し、間に挟まれる形で二つの銃口が顔を覗かせている。全く奇妙な外見だ。
「海生、あれは?」
『ヤマハ自動車製メタルギア、ライオットさ』
「あれがメタルギアだと?」
メタルギア。冷戦時代、ソ連の兵器開発者アレクサンドル・レオノヴィッチ・グラーニンが考案した核搭載二足歩行戦車。二足歩行によって無限軌道でも走破不可能な地形をも走破し、世界のどこからでも核兵器を発射できるとして、世界の軍事的バランスを大きく覆す可能性を秘めた兵器と云われている。シャドーモセスでの事件の後、そこで極秘開発されていたメタルギアREXの演習データがブラックマーケットに流れ、今や世界中にメタルギアの亜種が拡散している。
『日本は国土が山がちでメタルギアの真価を発揮しやすいけど、如何せん非核三原則があるからね。核兵器としてのメタルギアを持つことに旨味がないんだ。だからメタルギアの二足歩行技術だけが民間に流通してる。あれは元々災害救助用ロボットとして作られたものだよ』
「それを、銃刀法に引っかからない銃で武装している訳か…!」
ライオットと呼ばれたそのメタルギアの持つ二つの銃口。一方は発射の際にバチバチと電気が這い回り、一方は光線を発射している。恐らくそれぞれレールガンと自由電子レーザー銃だろう。
日本には銃砲刀剣類所持等取締法、通称銃刀法があり、特別な許可がなければ銃器を持つことはできない。ここでの銃器、即ちこの法が定めるところの銃砲とは、「拳銃、小銃、機関銃、砲、猟銃その他金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲及び空気銃」とあり、弾体の射出に火薬ではなく磁場を用いるレールガンや、弾そのものの性質が異なるレーザーはその網の目を抜けることができる。
狡いやり口である。こんなことをして、一体何が目的だ?
「っく!」
とにかく、今はここにいるライオットを制圧するのが先決。こちらに気付いた何体かがレールガンを撃ち込んできたので、バスターでシールドを展開して身を守りながら、建物の影へ隠れる。
どうしたものか。バイオロケーションでの走査の結果、敵機は十六。スネークは優秀だが非武装だ。そして自分は強盗かと判断して丸腰で現場に来てしまった。まだ能力の扱いに熟練しきっているとはいえないが、バスターを使って一機ずつ沈めていくしかあるまい。
「とうっ」
物陰から飛び出し、大きく振りかぶる。投げたのは圧縮したバイオエナジーの飛礫。ライオットの一機の足下に落ちて爆発し、相手はぐらりとよろけた。その隙を突き、すかさず足下へスライディング、‘腹’に片手と両足でしがみ付いた。俺を振りほどこうと伸びてくるマニピュレーターは、可動範囲の限界で鼻先にも届かない。
自由電子レーザーの恐ろしさは身を以って知っている。空間歪曲の可能なシェイバーハンドでも持っていない限りは、光速の攻撃を避けられる生物などいない。俺はかくして盾を手に入れた。このまま他のライオットを狙い撃つ腹積もりだ。
「そこか!」
逆さになったまま、俺は手を銃の形にし、そこから弾丸化したバイオエナジー――バイオバレットを撃ち出す。狙うはメタルギアの要にして多くの場合弱点である脚部、その関節。バイオエナジーを用いた攻撃の破壊原理ならば、ライオットを歩行不能にするなど朝飯前だった。一機、また一機とライオットは倒れていく。
やがて残すところ、盾を含めて二機となる。そろそろ攻勢に出ようか、俺がそう考えた直後だった。
「ぐおっ?!」
俺がしがみ付いていたライオットは、機体を覆う強化プラスチックの接合が緩くなっていたらしかった。指と靴を隙間に引っ掛けていた装甲板は、あろうことか俺と一緒に地面に落ちてしまったのだ。プラスチックなだけあって軽かったのが幸いしたが、地面に打ち付けられ投げ出された俺は致命的な隙を晒すことになった。
「な、しまっ――」
反射的に装甲板を除けた、その向こう側では自由電子レーザー銃の銃口が無慈悲にこちらへ向けられていた。
絶体絶命。
死をも覚悟したその時、
「?!」
銃口から発せられた一条の光線は、俺の左頬を掠め、そのまま明後日の方向へと消えた。否、ライオットが横から受けた衝撃によろめき、狙いを外したのだ。機体はバランスを崩して右手の茶屋に激突し、そのまま動かなくなる。
横からの衝撃――
「…デイブ!!」
そこには、アームキャノンを構えたデイブがいた。
勝手ながら、スネークにはオリジナルのファミリーネームを設定させていただきました。