SI -Second Irregular- 作:リンク切り
「という訳で篠ノ之さん。部屋変わって?」
「ふざけるな!なぜ私が!」
ISの操縦練習が終わり、部屋に戻ってきた後。
ツインテールが荷物をまとめて一夏の部屋の、1025室へと突撃した。
ちなみに、俺も同行している。
「いやあ、篠ノ之さんも男と同室なんて嫌でしょ?」
「べ、別に嫌とは言っていない!」
白々しい営業スマイルを浮かべて頼み込むツインテール。
それにお手本のようなツンデレで切り返す篠ノ之箒。
戦いの火蓋は、もう落とされている。
「ふーん?なるほど。一夏との同室は満更でもないと。」
「だ、誰がそんな事!」
壁にもたれかかりながらニヤニヤと指摘すれば、必死になって否定してくる。
「これは私と一夏の問題だ!」
「大丈夫、あたしも幼なじみだから。ねーっ?」
「そこで俺に振るなよ・・・・・」
2人の板挟みになる一夏。
これがハーレム系主人公の難点だな。
「とにかく、部屋は変わらない!早く自分の部屋へ戻れ。」
「そうだぞツインテール。部屋を決めたのは織斑千冬だから、勝手に変わったら確実にお咎めを食らうぞ。」
「アンタはどっちの味方なのよ!!」
「強いて言うなら中立だな。別にどっちにもつかない。」
「何なのよ。・・・・・ところでさ、一夏。約束覚えてる?」
「約束?」
「そ。小学校の時の。」
「無視をするな!こうなったら!」
篠ノ之箒は傍に置いてあった竹刀を抜き、ツインテールへと向ける。
「ああっ、馬鹿!」
一夏が咄嗟に叫ぶ。
それにしたって馬鹿は無いだろ。
篠ノ之箒が構えた竹刀は、そのままツインテールの頭めがけて振り下ろされた。
が、ツインテールは腕にISを纏わせて防いだ。
「なっ!?」
「部分展開か?早い・・・・」
部分展開とは、その名の通りISを部分的に展開して装備する事だ。
腕の他にも脚や武器だけ展開させることも出来る。
部分展開は普通にISを起動させ、展開させるのよりも難しい、いわば応用編だ。
部分展開も普通の展開も、その性質上本人の反射速度よりも早く展開することはできないとされている。
俺や一夏のように、ISの起動も何秒かかかってしまう操縦者にはまだ早い技だ。
今のツインテールの部分展開は、余裕で1秒を切っていた。
これが代表候補生の地力か、なるほど。
「今の、生身の人間なら本気で危ないよ?」
「う・・・・・ああ・・・・」
今のセリフ、未来のお前に聞かせてやりたいぜ。
織斑千冬の頭部スプラッターの威力よりかは幾分かマシだぞ。
こっちは当たりどころが悪くても、血が出る程度で済むだろう。
でも、思い立ったらすぐ暴力、って言うのはいけない傾向だな。
「篠ノ之流の剣道ってのは、無手の人間に竹刀を向ける教えなのか?」
「違う!篠ノ之流は、とても神聖なものだ!」
「なら、その使い手も、その剣術をどういう事に使うのかちゃんと考えないとな?」
「・・・・・・すまない。少し頭に血が上っていたようだ。」
「だとさ、ツインテール。」
「ま、あの程度じゃ、ISの防御も破れないし、怪我もしてないから良いんだけどね。」
場に気まずい空気が流れる。
それを払拭しようと、一夏が声を上げる。
この気遣いを、もっと別のところで使えればな。
「そう言えば、約束がどうとか言ってたな。何の話だ?」
「う、うん。えっと・・・・あのさ・・・・・・」
急に大人しくなり、もじもじと身をよじるツインテール。
若干頬も赤みがかる。
流石に冗談でもここで『トイレか?』なんて聞ける雰囲気ではない。
「どうしたんだ鈴?トイレなら、ここの部屋のを使ってもいいぞ。」
「違うわよバカっ!」
ああ、もうコイツはダメだ。
重症だと思っていたがレベルが違う。末期だ末期。
「約束のこと。覚えてる、よね?」
「えっと、ああ、アレか?鈴の料理の腕が上がったら、毎日酢豚を・・・・・」
「そう、それ!!」
「奢ってくれるってやつか?」
「・・・・・・はい?」
そしてここに来てのこの連続とぼけっぷりは、むしろ清々しいね。
俺は心から可哀想な人を見る目で一夏を見た。
「だから、俺に毎日飯をご馳走してくれるって約束してたよな。いや、一人暮らしの身としてはありがt・・・・・・いってぇ!?」
全文を言い終わる前に、一夏はツインテールに手酷くビンタされた。
頬には赤い手形の跡が残った。
「最っ低!」
「え!?あの、だな。鈴・・・・・」
「女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて、男の風上にも置けない奴!犬に噛まれて死ね!」
「何で犬?」
「ちょっと待てよ!何で怒ってるんだ?約束はちゃんと覚えてただろ?」
「約束の意味が違うのよ!意味がっ!!」
「だから説明してくれよ。どういう意味があるんだよ!?」
「説明、って・・・・・そ、そんな事、できる訳無いでしょうが!」
「だから、教えてくれないとわからないだろ!」
「あ・・・・・」
篠ノ之箒が何かに気づいたかのように目を見開く。
そう、今ツインテールが言っていた『約束の本当の意味』だが。
いや、説明するまでも無い。
簡潔に言うと、ツインテールなりのプロポーズだ。
俗に言う『毎朝お前の味噌汁が食べたい』的な気分で考えたのだろう。
篠ノ之箒はそれに気づき、一瞬「先を越された」と歯噛みしたが、一夏がその意味に気付いていないことを悟ると、安心するより先に凰鈴音の事を可哀想に思った。
「じゃあ、こうしましょ。来週のクラス対抗戦。勝った方が負けた方に何でも言う事を1つだけ聞かせられる。」
「おういいぜ。俺が勝ったら、説明してもらうからな。」
「・・・・・そっちこそ、覚悟しときなさいよ!」
ビシッと一夏に人差し指を叩きつけ、部屋から走って出ていくツインテール。
おい、荷物忘れてるぞ。
置いていくわけにも行かないので、俺が持っていくことになる。
ツインテールのボストンバックを掴み、俺も部屋から出る。
と、その前に。
「一夏。その調子だと、いつか刺されるぞ。」
「えっ!?」
「ヘイト管理は怠るなよ。じゃあな。」
「お、おい、それってどういう意味ーって、行っちゃったな。」
「・・・・・そうだな。」
「・・・・・・あー、悪い、箒。騒いじまって。」
「気にしていない。」
「お、おう。」
「・・・・・・一夏。」
「なんだ?」
「馬に蹴られて死ね。」
「えぇっ!?」
「ぐすっ・・・・・何で付いて来るのよ・・・・・」
一夏たちの部屋を出た後。
俺は走って遠ざかるツインテールを追いかけた。
IS学園の廊下はかなり長く、端に行き着くまで走るとかなりの運動量になる。
結果的にツインテールの方が先にバテて、傍にあったソファーへ腰掛けて俺に問いかけた。
その目は、少し涙ぐんでいた。
「ツインテールは寮の部屋の鍵を持ってないから、俺がいないと部屋に入れないだろ。」
「・・・・・それだけ?」
「他に何かあるのか?」
「えっと・・・・・こういう時、追いかけてくる人は大抵慰めてくれるんじゃないの?」
「じゃあ俺は違うな。今日はお前が俺達の部屋に入れなくてもいいなら、帰ってもいいんだけど?」
「酷いわね。」
「そうだな。それで、どうする?」
「・・・・・もうちょっとだけ居て。お願い。」
「仕方ないな。ツインテールがどうしても、どうしてもと言うなら、もう少しだけ待ってやろう。」
恩着せがましい口調で喋りながら、ツインテールの隣に座る。
もうこの辺りは寮部屋からかなり遠ざかっていた。
「それで、どうしたんだよ。」
「慰めないって言ったじゃない。」
「これはただの好奇心だ。どんな盛大な勘違いをされたのか笑ってやろうと思ってな。」
「アンタ・・・・・っ」
「ん?どうしたよ。」
「・・・・・・あたしが一夏に会ったのは、一夏の言ったとおり小学五年生の転校の時で・・・・・・」
最初は敵意を剥き出しにしていたツインテールだが、俺の顔を見るとハッとした顔をしてポツポツと話し始めた。
その時俺がどんな顔をしていたのかは、ツインテールしか知らない。
俺も鏡を持ってたわけじゃないからな。
ツインテールが話したのは、まとめると
中国から転校
↓
イジメに合う
↓
一夏に助けられる
↓
だんだんと惹かれる
↓
プロポーズする
↓
意味を間違えて取られた
とこんな感じだった。
かなり端折ったが、大体こんな流れだ。
「舞い上がってたのはあたしだけだったんだって思ったら・・・・・・なんだか・・・・・・」
一時的におさまっていたが、ツインテールの目からポロポロとまた涙が零れた。
「あれ、何でだろ・・・・・・もう泣きたくないのに、涙が・・・・・・」
「涙を流すってのは、人間の体調的に良い事らしいぞ。医学的にも証拠があってだな。何でも、よく泣いてると長生きするんだとか。」
「つまり?」
「つまり、もっと泣いていいって事だ。ほら、部屋に戻って苹果にでも泣きついてあやしてもらえ。」
「・・・・っ」
「・・・・・おい、ツインテール。これはどういう事だ?」
「アンタが泣きついていいって言ったんでしょ。」
「俺は苹果に突撃しろと言ったんだが。」
「・・・・・・っ・・・・・・うぅ・・・・・・」
「さては俺の話を聞いてないな?」
その後はまあ、ツインテールの涙が枯れるまでずっとタオル役に徹していた訳だ。
最初はか細い泣き声だったが、俺が頭に手を乗せて撫で始めると途端にダムが決壊したかのように大声で泣き始めた。
やっぱり泣くのを我慢していたみたいだ。
ツインテールが顔を埋めている部分が息でとても熱い。
「ま、お前も悪かった所もあるだろ、ツインテール。
あの一夏にプロポーズするなら、もっと大胆にわかりやすくしないと伝わらないって事はわかってただろ?
・・・・・・ああうん、理解しない方が悪いのはわかってる。
一生懸命考えて、勇気を出して言ったのもわかる。
お前がこう回り道して伝える事だけで精一杯だったのもな。
でも、相手はあの一夏だ。
アイツがそんなロマンチックな事を理解できると思うか?
・・・・・うんうん、理解して欲しかったな、うんうん。」
十数分ほど俺の胸の中で泣き続け、そして泣き疲れたのか泣き声が聞こえなくなる。
「もういいのか?」
「・・・・・・うん。」
「そうか。じゃ、そろそろ部屋に戻ろうぜ、ツインテール。」
「鈴。」
「何?」
「鈴って呼んで。あたしの事。」
「いや、お前はツインテールg「鈴って呼んで。」
「・・・・・・ツインテール。」
「鈴じゃなきゃ嫌。」
「は?いや、ツインテール。お前ちょっと気が動転しt「鈴って呼んでくれないと、離さない・・・・・・から。」
「・・・・・・勘弁してくれ。」
頭によぎったのは、「幼児退行」の四文字だ。
どうにかこうにか、呼ばずに離れることに成功する。
こっちは世界最強を自称してるんだ。
これくらいの事は出来ないと困る。
「結局、本当に呼んでくれないのね。」
「残念だったなツインテール。また次の機会にでも。」
その機会は来るのだろうか。いや、来ない。
「落ち着いて良かったな。」
「・・・・・・そうね。泣いてる所なんて、苹果には見せられないから。」
名前で呼び合う程には仲良くなれたようだ。
うん、それは良かった。
「それで。一夏の事はどうするんだ?」
「そうね、一夏、は・・・・・・」
思い出したらまたぶり返したのか、じわじわとと凰鈴音の目元に涙がにじむ。
ツインテールに浮かんだ涙を、制服の袖を使って拭く。
「まあそんなに泣くな。一夏も悪気があっての事じゃ無いんだから。」
「わかってるわよ。あと、それ痛い。」
「だろうな。」
ハンカチが買えなかったんだ、仕方ないだろ。