SI -Second Irregular-   作:リンク切り

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黒狐

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて自己紹介をします。私は、貴方様にお仕えする者のうちの1つ。識別名『NOIRE()』です。」

 

ベッドの上で(ひざまず)きながら俺に伝えるこの少女は、先程までブレスレットだったものだ。

その間にもピコピコと頭の上の耳が動く。

 

「お前の事は、夜桜と同一視してもいいんだな?」

「はい。IS形態での私の名称が、『夜桜』となっています。」

 

最初は専用機を俺のISと同じ形を模して作られた盗聴器にすり替えられたのかと思ったが、どうやら違うようだ。

この少女の言う通り、こいつは俺の専用機なのだろう。

夜桜が人の形を取れるのは、あの神様が何か細工をしたからに違いない。

 

「一応確認だが、お前は神を知っているか?」

「はい。私たちを創り(たも)うた元の主ですね。」

「元、って事は、今は違うって解釈で間違いはないか?」

「間違いありません。元主様は私たちを創造し、貴方様へ傅く義務を与えると同時に主としての権利を失いました。」

「あっそ。つまりは俺が今のお前の主って事だよな。」

「そうなります。」

 

すっと跪きながらこちらを見つめるその双眼は、どちらとも黒色をしている。

腰辺りまで伸ばされた髪も同じように、艶やかな黒色をしていた。

人間の形をとってから生えてきた、せわしなく動く耳と尻尾も黒。

その反対に、腕や頬といった肌は不健康に見えない程度に白かった。

その顔には少し幼さが残り、しかし全体的に落ち着いた印象を与える。

 

服装は黒を基調としたデザインだが、黒を際立たせるように所々白い生地も使われている。

下はミニスカートで、大胆に太ももが露出していた。

しかしベッドの上で跪いているというのに、丁度見えない位置をキープしている。

何がとは言わないが。

 

「お前に聞きたいことはまだ幾つかある。だがその前に、そのポーズをやめてベッドから降りてくれ。」

「これは私共の服従の証です。貴方様がお気に召さなかったのであれば、すぐにやめます。」

 

そう言ってスカートを(ひるがえ)し、床へと降り立った。

改めて全体を見ると、脛、太もも、お腹、腕と、すべてがすぐに折れてしまいそうな程細い。

人間ではないんだから、別におかしい話じゃないか。

 

「あれ?ちょっと待て。お前は人間なのか?機械なのか?」

「その二択では、人間の方が近いと思われます。私は少量の食事も必要としますので。」

「まるで人間じゃないみたいな物言いだな?」

「私たちは、一女神として生成されましたので。」

「へえ。それとさっきから気になってたんだが、その私『たち』って何だ?」

「私ともう一つ、そちらの白い子の事です。」

 

俺の左腕にしているブレスレットに視線を向ける。

こっちは確か、起動も出来なかった方だな。

 

「そちらの子も、私と同時に創造されました。人間でいう、姉妹みたいな存在です。」

「じゃあ、なんでこっちは起動しないんだ?」

「まだ、その時ではないからだと思われます。」

「やけに曖昧な言い方をするな。その時が何だって?」

「貴方様に必要な時が来れば、自然と意識が発芽するでしょう。私も、そうして生まれてきました。」

「・・・・・・俺が入試の実技試験の時に夜桜を起動出来なかったのも、それが関係するのか?」

「いえ。最初の訓練機の起動とブルー・ティアーズの戦闘では、貴方様の傾向や癖、行動予測などをシュミレートしていました。そのお陰で、予兆や気配が無くとも、夜桜、つまり私は一次移行(ファーストシフト)を終えています。」

 

一夏と違って俺のISは最初から色がついているのかと不思議に思ったが、もう一次移行(ファーストシフト)をした状態だったのか。

 

「そうか。じゃ、夜桜が速度に特化しているのは?」

一次移行(ファーストシフト)時に、どのような機能の機体が良いかシュミレートした結果、スピード重視の機体が一番有効だと判断しました。それと、速度だけではなく防御力もある程度向上しています。」

「ほかのISと比べると、一次移行(ファーストシフト)での学習能力が破格過ぎないか?」

「はい。私たちの一次移行(ファーストシフト)は、他の機体と比べ、二次移行(セカンドシフト)並の進化を期待できます。」

 

流石神が創造した女神だ。

天才とは次元が違う。

 

「こっちの白いのは今は放置するとして、今はお前だな。えっと、夜桜って呼べばいいのか?」

「いいえ。私は夜桜ではありますが、夜桜ではありません。ISの待機形態及び展開形態と、本来のこの姿とでは明確な違いがあります。もし宜しいのならば、呼び方を区別していただけませんか?」

「って事は、Noire(ノワール)か。」

「確かに私の識別名は『NOIRE』ですが、それは女神としての識別名であり、ISの状態も含めた私の事を指します。」

「じゃあなんと呼べと?」

「私自身には、まだ名前がありません。ご、ご迷惑でなければ、貴方様に命名していただけないかと・・・・・・」

 

ポッと頬を染めてもじもじとし始める夜桜、じゃないんだったか。黒い少女。

名前か。そうだな。

俺は少女に、パッと思いついた名前を付けた。

 

「じゃ、黒狐だな。」

「・・・・・・こくこ?」

「黒い狐と書いて黒狐(こくこ)だ。お前のその耳と尻尾、狐だろ?」

「こくこ、こくこ・・・・はい。私の名前は黒狐(こくこ)です。」

 

黒狐の顔に、薄い笑みが浮かぶ。

ぴょこぴょこと頭の上で耳が跳ね回り、尻尾はちぎれそうだと思うほど振り回されている。

適当に付けた名前だけに、ここまで喜ばれると申し訳なかった。

 

「貴方様に頂いた名前、生涯にわたって大切にします。」

「ああ、そう・・・・・それと、その貴方様って呼び方は何なんだ?」

「不快でしたか?」

「いや、ちょっと聞かない呼ばれ方だったからな。」

「変更しますか?ご主人様?」

「・・・・・その呼び方も魅力的ではあるんだが。」

 

黒狐(こくこ)の目の前に立ち、俺の存在をアピールする。

跪くのをやめさせたため、黒狐は今もまだ立っているが、こうしてみると思ったより身長が高い。

ヒロインズと比べると、黒狐は一番高い。俺よりはないが。

織斑千冬といい勝負かもしれないな。

胸囲の方は・・・・・・そうだな。今度はツインテールといい勝負だ。

いや、そんな事はどうでもいい。

俺は、黒狐へビシッと人差し指を突きつけて宣言した。

 

「俺の事は、漣夏様と呼べ!」

「わかりました、漣夏さま。」

 

それに黒狐は躊躇いなく了承し、また跪いた。

これは服従の証だとか言ってたな。

冗談だったんだが、色々本気にしそうな奴だ。

 

「今のは嘘だ。漣夏でもお前でも好きに呼べばいい。」

「できません。自分の主を呼び捨て、更にはお前呼ばわりなど絶対にできません。」

「じゃあ何が良いんだ?」

「旦那様とかは・・・・・」

「俺が許すわけないだろ。勘違いされるかもしれないような事を口走るな。」

「では、ご主人様は・・・・・」

「却下だ。」

「それでは、やはり漣夏さまと。」

「何だか馬鹿にされているような気がするんだが。」

「そんな、滅相もありません。私に主様を愚弄するつもりはありません。」

 

ぶんぶんと首を振る黒狐。

それと連動して、もっと激しく動き回る獣耳。

本当にちぎれないだろうな?

 

主様(あるじさま)?・・・・・微妙だな。」

「私は、漣夏さまとお呼びしたいです。」

「あん?何でだよ。」

「名前で、呼びたいんです。」

「・・・・・・あっそ。別に好きに呼べばいい。」

「はい。」

 

黒狐は、フッと軽く笑った。

 

「最後に確認だが、夜桜が起動できるようになった後すぐに人化しなかったのは、周りに人がいたからか?」

「はい。こちらの世界のISは、まだ喋る事すら出来ないようなので。」

「まだ、って事は、元々ISにはその機能があるんだな?」

「はい。このまま何十年か、最低でも百数十年ほど研究が進めば、発見されると思います。」

「篠ノ之束は?」

「本人に聞いて見なければ確証は得られないのですが、『知っているかもしれない』くらいの認識でいいと思います。」

「そうか。」

 

ISコアの正体は、俺にもさっぱりだ。

仕組みを知っているのは篠ノ之束だけな上に分解してみることも出来ない。

ISには意識があるということから、人工知能かあるいは人間を媒体にしたマッドサイエンティスト的な製造をしたのだと思う。

俺は人工知能の説を推したい。

ただの願望だが。

 

俺が考えをめぐらせている間、黒狐はずっと俺の命令を待って待機していた。

その間も黒い耳としっぽがぴょこっぴょこっと動いている。

聞きたいことは全部聞いたから、もうお前に要はないぞ。

 

「ただいま。」

 

ガチャっと扉の開く音が聞こえ、ツインテールらしき声が耳へと届いた。

その瞬間咄嗟に黒狐をベッドの上に引っ張り、布団をかける。

 

「さっさとISに戻れ、黒狐!」

「れ、漣夏さま、そんな強引に・・・・・」

「何やってんの?アンタ。」

 

俺達がゴタゴタやっている間に、ツインテールが部屋へと入ってきた。

後ろには苹果もついて来ている。

ツインテールは鍵を持っていないからいるのはわかっていたが。

 

「部屋に女の子を連れ込んで何をしようとしてたのよ!最低!」

「いや待て。どう見たらそういう勘違いをするんだ。」

「この状況はどう見てもそうにしか見えないわよっ!!」

 

苹果も、ツインテールの背後から顔をのぞかせて首を縦に振っている。

今の状況?

黒狐をベッドへ引き寄せ、布団をかけて隠そうと馬乗りになっている。

この状況のどこを見たらそんな勘違いをするんだ。

 

「それはお前の心が汚れているからそう見えるんだ。」

「そんな訳ないでしょうがっ!!」

「なら証拠を見せてやろう。今すぐに目を瞑れ。」

「何でよ?」

「いいから早く瞑れ。苹果もだ。」

 

渋々という形で、ツインテールと苹果が律儀に目を瞑る。

その間に思惑を黒狐へ耳打ちして、黒いブレスレットへ戻ってもらう。

 

「数回深呼吸して落ち着いたら目を開けてみろ。」

 

ベッドの上に残ったブレスレットを右腕に通しながら、ツインテールと苹果へ話しかける。

言う通りにした2人を横目で見ながら、ベッドから立ち上がった。

 

「あ、あれ?女の子は・・・・?」

「だから最初から俺1人だっただろ。」

「え?」

 

キョロキョロと周りを見渡すが、俺達三人以外に人は見つからない。

当たり前だ。黒狐はブレスレットになってるからな。

もしさっきの少女がブレスレットに変わった、なんて発想が出てきたらなら本当に神経を疑う。

 

「さっきのは、本当に幻覚?」

 

首をかしげるツインテールに、俺は遠慮なく暴言を吐いた。

 

「馬鹿かお前は。」

「なっ!?馬鹿じゃないわよ!」

「何納得しかけてるんだって言ってるんだ。幻覚なわけ無いだろ。」

 

俺はブレスレットを見えないようにベッドの上に落とす。

するとブレスレットは黒狐に変わる。

ちょっとした冗談のつもりだったが、思いの外騙せそうだったな。

苹果はともかく、ツインテールは将来が心配になってくる。

 

「さ、さっきの子?」

「そう。こいつは俺のISだ。さっきいきなり少女の姿に変わった。」

「嘘ならもっとマシな言い訳を考えなさいよ。」

「幻覚とか言ってはぐらかされそうになってたのは誰だっけか?」

「う、うるさいわね!」

「まあでも、ISなのは本当の話だ。また面倒なことになってきたな。」

 

 

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