SI -Second Irregular- 作:リンク切り
その賠償金は織斑千冬様が殆ど肩代わりしてくれましたとさ。
めでたしめでたし。
「別に、金なら現役時代に死ぬほど稼げたからな。それに、毎月学園側から振り込まれる金額も合わせればこんなもの雀の涙程度だぞ。私は普通に生活していたら一生使いきれないだけの額を持っているんだ、気にするな。」
凄い人だ。
『お前ら、俺も聞いてること忘れんなよ?』
呆れたように声を送ると、ツインテールが慌てて取り繕う。
それを聞きながら、その間に俺は夜桜を展開させた。
『緊急事態のようですね、漣夏さま。』
「ああ。またお前の力を借りる。」
『勿論です。存分にお使い下さい。』
「黒狐。お前、姿を見せないままでもISを起動したら話せるのか?」
『はい。そういう仕様になっています。待機状態の時でも発声は可能です。』
「そう言えば、確かに初めてお前がしゃべり始めた時はブレスレットのままだったな。」
黒狐と会話をしながら開かないアリーナの出口を無理矢理こじ開け、廊下へと出た。
出来るだけ綺麗に開けようとしたが、鉄か何かで出来ていた扉は外側にぐにゃりと曲がってしまっていた。
「じゃあこれから、一番近くにある階段に向かって避難しろ。いいか、押したり走ったりは禁止だ。遅れている奴やつまづいた奴がいたら手を貸してやれ。以上だ。」
それだけ言い残して、避難する生徒を尻目に俺は反対側のアリーナへとISを纏いながら走って向かった。
こんな狭い廊下で推進装置を使うわけにはいかないからな。
本当は生身でもこのくらいは余裕で出来たが、生身で扉を破壊するなんてあまりにも不自然だ。
部分展開が出来れば良かったのだが、俺はそこまで上手くないからな。
正確を期すために全身を展開した。
だが、走る時には夜桜の装甲が重くなかなかスピードが出せなかった。
アリーナ席は左側と右側に別れていて、その二つは繋がっていない。
俺が初めからいた側の扉は破壊したが、まだもう一方向のアリーナは閉じられているままだ。
早いところあっちの方の扉もこじ開けに行かないとな。
『織斑くん!凰さん!今すぐアリーナから脱出してください!』
開放回線が開き、山田教諭の声が聞こえてくる。
この声は、一夏やツインテール、スピーカーからも聞こえてきているだろう。
無人機と戦闘している最中なのに開放回線なんて使っても大丈夫なのか?
『すぐに先生達が制圧に向かいますから、早く!』
『いや。漣夏が言ったように、皆が逃げ切るまで食い止めないと。』
『それは、そうですけど・・・・でも、いけません!』
それは教師としての発言では無かった。
教師ではなく、山田真耶個人としての願いだ。
怪我をして欲しくない、死んで欲しくないという気持ちが言葉の端々から伝わってくる。
心配するのはわかる。
だが、かと言って何も武装を持っていない一般生徒を危険な目に遭わせるわけには行かない。
生徒が避難し終わるまで、誰かが囮役をやってもらわないと困る。
それにもし教師陣がやって来たとして、あの無人機を倒せるのかという事もある。
その点、一夏の零落白夜なら当たれば確実に仕留めることができる。
ここは一夏のためにもなんとか説得しないとな。
『そうは言うが山田教諭。アンタもわかってるんだろ?このままアイツを放置すれば、被害は拡大する一方だって事がな。』
『乃至くん・・・・・でも危険ですよ!』
『俺なら大丈夫ですよ、山田先生。』
山田教諭が、一夏の顔を見て息をつまらせた。
一夏の言葉を聞いた織斑千冬が呟いた。
「本人達ができると言っているのだ。やらせてみても良いだろう。」
「織斑先生、何を!?」
織斑千冬の言葉に驚いた山田教諭が叫んだ。
織斑千冬は、山田教諭の使っていたマイクを持ち、自分の口元まで引っ張る。
『聞こえるか、織斑。』
『おわっ!?ち、千冬姉!?』
急に聞こえてきた姉の声に驚き、思わず素の声が漏れた。
またいつものように呼んでしまいしまったと思う一夏だったが、織斑千冬が発した言葉は想像していたものとはまるで違っていた。
『乃至が全員を退避させ終わるまで、アレの足止めをしろ。出来るな?』
『・・・・ああ!』
自分の姉があのISと対峙する事を認めてくれるとは思っていなかったのか、驚いて少しの間
その後に、力強く肯定した。
マイクを持ったままの織斑千冬は、続いて俺に話しかける。
『乃至。聞いているんだろう?』
『ああ。織斑千冬。俺に何か言うことはあるか?』
『そのまま全員が退避する経路を確保しろ。』
『当然だ。ちなみに、扉がロックされて開かないんだが、どうすればいい?』
『そっちの状況は、司令室から見えているぞ。』
『そうかよ。じゃ、どっちも事後報告になるが、扉を2つ破壊する許可をくれ。ISの起動許可もだ。』
『この状況で断るわけにはいかないだろう。やむを得ん、やれ。』
『了解!』
開放回線が切断されないうちに、俺はアリーナの中に閉じ込められている残りの生徒に声をかけた。
『今の話は聞いていたな?もうすぐでそちらに向かう。こじ開けるために扉を破壊するから、全ての扉から離れていろよ。』
そして、司令室からの開放回線は切れた。
同時に秘匿回線も切ろうとしたが、一夏が俺を呼び止める。
『漣夏。』
『何だ?』
『時間稼ぎとは言われたけどさ。別に、アレを倒してしまっても問題は無いよな?』
『・・・・はっ。いいぜ。やってみろ、一夏!』
『おう!絶対に皆でいk』
そう言って、今度こそ通信が切れた。
通信を改めて繋げようと試すが、エラーが出て上手く接続することが出来ない。
「
何と言おうとしたかもさっぱりだ。
まあいい、残りの閉じ込められている生徒を早く助け出しに行ってやるか。
「織斑くん!聞こえますか!?凰さんも、聞こえますか!?乃至くん!?」
山田教諭が、口元のマイクへと話しかける。
が、返ってくるのは沈黙のみだ。
この声は一夏達専用機持ちはおろか、スピーカーからも流れていない。
「やっぱり、接続できません。どこからか、妨害電波が入ってきているようです。」
「そうか・・・・」
先程から妨害電波の影響か、複数の監視カメラの映像も途絶えていた。
見ることの出来ない物は総じて司令室から遠い位置に設置されているものばかりだった。
その事もあり、セシリア・オルコットたち生徒陣には不安が募っていた。
「先生!私にも、ISの使用許可を!すぐに出撃が出来ます!」
「そうしたいところだが、これを見ろ。」
織斑千冬が表示させたのは、このアリーナのシステムに関する表示だ。
そこには、当たり前のようにエラーの表示が大きく出ている。
それの他にも、異常事態を示すアイコンが何個かあった。
「遮断シールドのレベルが4に設定?」
篠ノ之箒が呟く。
遮断シールドは本来内側のアリーナからの流れ弾をカットするための機能だ。
だが、今回はその性能を逆に利用されてしまった。
外側からアリーナの中に入ることが出来なくなってしまったのだ。
「扉が全てロックされているのも、妨害電波が発生しているのも、あのISの仕業なんでしょうか?」
「そのようだ。」
辛うじてアリーナ全体の様子を写すカメラは動いているため、一夏達が死んではいないのがわかる。
だが、砂埃と爆発の煙が多くて詳しい戦況はわからない。
「一夏・・・・」
篠ノ之箒が、意味あり気に呟いた。
「大丈夫か、お前ら?」
扉に腕を突っ込み、左右へ強引にこじ開ける。
夜桜の筋力補助機能もあるが、これは俺の元々の腕力を使っている。
ギギギギと不穏な音を上げながら、扉が捲れた。
「な、乃至くん・・・・」
「こ、怖かったです!」
俺が指示していた通り、中の女子生徒は扉から離れてまとめて固まっていた。
こうして見ると、1年生の半分だけだというのにかなり人数が多いな。
「良く大人しく待ってたな。さ、早くアリーナから脱出しようぜ?」
「「「はい!!」」」
にやりと笑いながら問いかけると、綺麗に返事が揃う。
俺はそのまま、中にいた生徒達を一番近くの階段まで誘導し始めた。
「わわっ!?」
「っと、大丈夫か?」
移動の途中、押されたのかただ躓いたのか、1人の女子がすっ転んだ。
偶然俺の目の前で倒れたため、地面にぶつかる前に支えることが出来た。
夜桜を扉を開けた後解除していて良かったな。
展開したままだと確実に間に合わなかっただろうし、間に合っていたとしても装甲で頭をぶつけていただろう。
「あ、ありがとうごじゃいます・・・・!!」
「わかった。一回落ち着け。」
「お、落ち着きました!!」
顔を真っ赤に染めてお礼を言われる。
漫画だと、目の中に渦巻きが描かれて頭から蒸気がでるくらいには落ち着いていなかった。
もうどもったり噛んじゃったりしてるしな。
「それは良かった。立てるか?」
「は、はひ・・・・」
腰と背中を支えていた手を離し、一旦体勢を整えた。
その後手を握って引っ張りあげ、そのまま立たせようとする。
が、女子生徒は足ががくがくと震えてそのままペタンと地面に座り込んでしまった。
「こ、腰抜けちゃいました・・・・・」
「いや、何でだよ。」
彼女の言う通り足腰には力が入っておらず、本当に歩けなさそうだ。
よく見れば、腕も少し震えている。
遮断シールドまで破るあのISが怖いのか?
「あいつは今、一夏とツインテールが必死に攻撃を逸らしてもらっているから暫くはこっちに来たり攻撃してきたりはしないぜ。」
俺もしゃがみこんで、彼女と目を合わせて会話をする。
これは、主に幼稚園児などの幼い子供にする対応だ。
目線が自分より高いと、どうにも心理的に少しは恐怖心を覚えるものらしい。
今回は同年代だが、恐怖心を無くしてもらうためには有効だと思った。
「は、はい・・・・・でも、そうじゃなくて、その・・・・・・」
「あん?何だよ?」
「手が・・・・」
あぐあぐとあぐねながら言葉を絞り出す。
彼女の目線を追うと、その先には俺の手があった。
その手は、俺が立たせるために彼女の手を握ったままの状態だった。
「ああ、嫌だったか?俺は助けようとしたんだが。」
「いえ!そうじゃないんです、ありがとうございます・・・・・」
顔を真っ赤にして俯く。
そうだな、あるいはこけたのが恥ずかしかったとかか?
それにしては恥ずかしがりすぎだとは思うが。
これは初期の苹果以上だ。
「で、そろそろ立てそうか?」
「いえ・・・・・・もうちょっと、こうしていてもいいですか?」
「ダメだ。」
そう言うと俺は、がばっと彼女を抱き上げた。
元々赤かった頬がもっと赤くなる。
これ以上赤くなると本当に蒸気が出てきそうだ。
「ふあ!?」
「こんな所で歩けるまで待ってられるか。今の状況がわかってるのかお前は。さっさと避難するぞ。」
「は、はい!」
「いいな〜」
「あれお姫様抱っこでしょ?」
「私もこけてみちゃおうかな?」
「馬鹿、もう遅いわよ。」
「わかったからお前らも止まらずに進め。」
他の生徒達にも指示を出す。
パニックになってないのはいい事なんだがちょっと危機感が無さすぎだな。
「押さない、走らない、死なない、叫ばない。これを厳守だ。速やかにアリーナから脱出しろ。」
再度呼びかけて急かす。
急ぎすぎなのは駄目だが、あんまりのろのろとしすぎているのも勿論良くない。
「お前の髪、金色か?」
「えっ!?は、はい、そうです。ブロンドとも言いますけど。」
「そして目は真っ青か。銀髪赤目の俺とは正反対だな。」
「そう、ですね、言われてみれば・・・・・」
そんな無駄な会話をしつつ、階段付近へと到着する。
ここからはもう階段を下るだけの一本道だから、大丈夫だろう。
俺も早く一夏達の加勢に行こうと思っている。
「じゃ、俺はもう行かないとならないから、こっからは歩いて行ってくれ。もう立てるか?」
「た、多分・・・・」
床にゆっくりと下ろして見れば、まだふらふらっとしている。
よろよろと歩いていたのでまたこけないか心配になったが、クラスメイトか知り合いかが近寄って来て彼女を支えた。
これからの事は、その子に全て押し付けよう。
そう思っていると、そいつがこちらまで近づいてきた。
何事かと思っていたら、俺に友達のお礼をしたかったみたいだ。
「すみません、迷惑かけちゃって。」
「本当だぜ。今度からはこけないように気をつけろよ?」
ちらっと金髪を一瞥しながらたしなめれば、ばつが悪そうに応えた。
「は、はい。」
「この子、前から漣夏君の事が好きで今回近くでお話が出来て緊張してるんですよ。」
「ちょっ、馬鹿!ち、違いますからねっ!」
なるほど、全ては俺が元凶だったわけだ。
しかし、このタイミングで色恋か。
IS学園の生徒、大丈夫なのか?
「ま、友達くらいにはなってやらないこともないぜ。次に俺を見つけた時には話しかけて来い。」
それだけ言うと、俺はその場を後にした。
これで俺の仕事は終わりだ。
ここからは、俺がやりたい事をやるだけだ。
これまでは1話4000文字を目安にしていたのですが、
今回から頑張って1話5000字を目指していきたいと思います。
出来るかな??
今回は出来ました。
さてさて、対無人機戦ももうそろそろ佳境に差し掛かりそうですね。
アニメ版4話も閉幕しそうです。
あと2話無人機戦が続いて、最後に1話締めがあっての第3章完となると予想します。
ちなみに、私の予想はよく外れます。
あと、3章の設定は普通に速すぎました。ごめんなさい。