god earter (無印再構成)   作:妄想メモ

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気にいるまで加筆修正していく。


1話~プロローグ~

~2071年~

 

意外と静かだよな。

規則正しいエンジン音が機外から遠く響いてくるのを感じながら、少年そんな事を思っていた。

軍用の輸送機であるそれは、そのいかにも鈍重そうな見た目とは裏腹に雲の上を嘘のように滑り続けている。

そうして、まれに反り立つかのように立ちふさがる雲に衝突すると、それを難なく突破してみせるのだ。

飛んでいるのがまるであるで当たり前かのように突き進むこの鉄の塊は、雲の合間を浮かんでは消えるを繰り返している。

この輸送機が旧イギリス領を飛び立ってから既に8時間程経った頃だが、極東につくまでまだあと数時間はあるらしい。

いい加減何もしないでいるのにも疲れた頃だ。

寝てしまおうか、とも考えたがどうにも体が落ち着かない。

それは、馴れる事のない軍用輸送機の乗り心地故か、それともこれから少年が生活していく極東という地域を思っての事か。多分、両方なのだろう。

雲が流れていくのが見える。空も綺麗だ。

信じられないと思う。この空が、そして雲海の切れ間から覗く大地が、ほんの何十年か前は余すことなく人間のものだったなんて。とても。

ふと、輸送機の腹にある覗き窓の中に男の顔が映った。

少年とも言える年相応の十二分に幼さを備えた容姿は、しかし、本人の生真面目な性格を表すかのように引締められ幾分大人っぽさを醸し出している。

金髪に碧眼。顔の造りも純西欧人。

容姿は比較的良い方であるらしい。

数年来の幼馴染の言葉を信じるなら、の話だが。

だが、その端正な顔も今は少し疲れてだらしなく映って見える。

それも仕方のないことだ。

旧イギリス領の実家から極東の島国――旧日本に渡航する事が決まったのがわずか3日前。

身支度を整え友人に別れの挨拶をして回るのに3日は余りにも短い時間だった。

余りにも急な出発は、それだけで少年を疲弊させていた。

それでも助かったことがあったとすれば挨拶をするべき友人というやつが、そもそも少なかったことだろうか。

別に友人を作るのが不得意だったわけではない。

そもそも今のこの世界に、同年代の友人なんてそう多くはいるわけもないのだ。

いや、同年代だけではない。

人類という種はある時突如としてその数を劇的に減らしたのだ。

そこに年代の区別はなかった。

絶対的な人口が激減して久しい今日では、友人などそう多くはならない。

 

2050年代初頭。少年が生まれる数年前にそれは発見された。

オラクル細胞――あらゆる物質を取り込み、その物質の性質を模範しながら増殖する魔法の新素材。

その最小単位は一個の単細胞生物であったという。

バイオテクノロジーの革新。

新エネルギーの可能性だとか、多岐の分野に革新的な変化を起こすだとか、そうやって押し進められたオラクル細胞の研究は、しかしある時唐突に人類のコントロールしきれるものではなくなった。

オラクル細胞は人の手を離れ、あらゆる物を捕食し、劇的にその数を増やし、研究者の予想を遥かに超えたスピードで進化を始めた。

それを止める事は誰にも出来はしなかったのだ。

そうして現れた化物は、正しく人類種の天敵だった。

アラガミと呼ばれるモノの出現。

それの全身は全てオラクル細胞で構成されている。

最初期のそれは二足の獣の様であったというが、あらゆる物を取り込み――捕食し、その性質を模範し、どこまでも増殖し、そしてどこまでも進化していったそれは、当然の帰結として獣の姿でいる事を辞めた。

あるモノは羽を持ち空を飛ぶ事を学んだ。

あるモノは水中に適応し海を渡る事を学んだ。

そしてどのアラガミも共通して、効率よく人を捕食する方法を学んだのだ。

より強く、より早く、アラガミは人を人の築いた街を人の文化を。

あらゆる物を取り込み進化し、増殖し続けた。

無論人類も無抵抗ではなかった。

アラガミが出現した当初、各国の軍はそれを鎮圧する為にあらゆる軍事力を行使したのだ。

しかし、アラガミに火器は通用しない。それどころかあらゆる物理的な干渉でそれらに対抗することは不可能だった。

オラクル細胞という一個の単細胞生物を破壊、死滅させることは不可能だったのだ。

そしてその集合体であるアラガミの肉体構造は極めて頑強であり、その細胞結合は強靭でしなやか、そして幾ばくか体表面の細胞を削っても、すぐさま新たな細胞で構成しなおされ再生してしまう。

何せそこらじゅうにエサはあるのだ。建物でもいい。勿論人でも、何なら飛んでくる弾丸砲弾ですらアラガミにとってはエサでしかない。

オラクル細胞に、アラガミに捕食できない物はなかった。

そうして目につくもの全てを捕食し、無限に強く無限に数を増やし続けるオラクル細胞とアラガミたち。

たとえ重火器による制圧砲撃にさらされようとも、アラガミはその足を多少遅らせる程度でしかなかった。

なす術もなく次々と大都市とも呼ばれる街たちがアラガミの波に飲まれ、そして多くの人達が死んでいった。

だがそんななかでも希望は生まれた。

オラクル細胞の研究を一手に執り行っていたフェンリルという企業、そのオラクル細胞研究第一人者による"偏食因子"の発見と実用化。それを応用した武器。

神器とそれを扱う神器使いが生まれたのだ。

 

神器――人為的に制御されたアラガミをつかって、アラガミを"喰らう"武器。

 

神器使い――人為的に制御されたオラクル細胞を使って、"人をアラガミにする"技術。

 

人類の総人口が当時の数十分の一になった頃。

人の人たる尊厳を全て捧げて、ようやく人類は弱肉強食の波から踏みとどまる術を得のだった。

 

そして、僕も――

 

神器によって神を喰らうもの。

人ではないなにか。

ゴッドイーター。

少年は極東の地で神器使いとして生きていく事になる。

神器を振るい、冗談のように人を粉みじんにしてしまえる化物と相対して。

自身の存在すら化物に変えて。

でも後悔はないと少年は思う。

望んだのだ。

力を。

全ての理不尽を覆す圧倒的な力を。

 

だから――

 

 

 

 

「第二世代型神器適合候補――神薙ユウ」

 

「旧姓、ユウ=キャンヴェンディッシュ……か」

 

「本当にいいのか?ニコラス」

 

「ミナト君の忘れ形見だろうに」

 

普段のその男を知る者が聞いたのなら、或は自分の耳を疑うだろう。それ程までに男――ヨハネス=フォン=シックザールの声色は普段とはかけ離れた物だった。

常に自信に満ち溢れ、放たれる声は朗々高らか。ただ聞いているだけで身も心も捧げたくなってしまう力と響き。ある種の傲慢ささえ感じさせる声は、しかし一切の抵抗を無駄と断じ、たたき伏せる強さも同時に感じさる。

例えsound onlyの無線通信越しであったとしてもそれは変わらないだろう。

だが、それらも今はなりを潜めるばかりだった。

心底からの憂い。ヨハネスの声には、今はそれしかない。

 

「無論だ」

 

それに、ニコラスと呼ばれた男は一切の迷いを感じさせることもなく即答した。

たとえ息子が戦場の第一線に出る事になろうとも、たとえ息子が神器使いになり半ば人でなくなったとしても。

構わないと。そう即答した。

その迷いのない返答に、こいつはいつもこうこうだったな、とヨハネスは思った。即断即決。無駄を嫌い、厳格な気質は常に周りを威圧するが、同時に無類の迷いの無さを持ち、それはそのまま周りを従わせる強さにに繋がっている。常に厳しく、常に迷わず、そして常に正しい。

ヨハネスと同様、人を従える上に立つ人間。

キャンヴェンディッシュ財閥の現当主でありフェンリル上層部にも広く顔の利く重鎮。

それがこの男。

ニコラス=キャンヴェンディッシュという男だった。

そしてこの男は一度こうと決める必ず結果を出す。

故に、この男が一度決めたことを、この男自らが覆した事は一度としてないのだ。

今回も同じこと。

ニコラスの中で、結論は出てしまったのだろう。

 

「ミナトも納得するだろう」

 

「あれはそういう女だ」

 

ミナト――ニコラスの妻でありユウの母であった女性の事ならヨハネスもよく理解していた。世界がこんな風になってしまう前の事だが、若き頃のニコラス、その後輩として同じキャンパスに通っていたのを覚えている。そして、その人格も。当時、極東――まだ日本と呼ばれていたが、彼女はそこからの留学生としてイギリスの大学に来ていたのだ。旧知であった。確かに彼女なら、この情勢の中で、一人自分の息子が神器使い候補としてのフェンリルへの出頭義務を免責されうるやもと聞いて黙ってはいないだろう。

それはよく分かっていた。

しかし、とヨハネスは思う。本当にいいのか?と。

今この状況で、極東に新型の神器使いとして赴任するという事はつまりさる計画に巻き込む事を意味する。

逃れる事は不可能だろう。ヨハネスの望むと望まざるとに関わらず。

 

「ユウ君本人の意向は?」

 

「顔には出さないが、喜んでいるように見えたよ。これでアラガミを斃すことができると」

 

「政治的な判断に巻き込むことになる」

 

「だろうな」

 

「解った上か?」

 

「ヨハネス――」

 

「全て、理解した上であの子を送り出した」

 

「勘当し、姓も捨てさせた」

 

「今更何も言うことはないとも」

 

二人の間に佇む無音が通信が繋がっているのかさえ怪しませる程の時間、沈黙が続いた。

既にヨハネスに言える事は何も残ってはいない。

ニコラスは、十二分に覚悟をもって息子を送り出したという。

なら数十年来の友として、その覚悟を尊重するだけだ。

新型の神器使い。新世代のゴッドイーター。

新しく首輪を着け飼いならすのにこれ程の駒はない。

戦力としてはともかく、その政治的利用価値は計り知れないからだ。

何処の支部も同じ事、新型神器使いとその運用データを喉から手が出る程欲しているのだ。

何処の支部よりも、新型に対して一歩先に出ることが出来る。

技術面でも、その運用に関するノウハウにもだ。

フェンリル本部ですらも、或はまともに戦闘に耐えうる新型ゴッドイーターを有してはいない状況で。

これら全ての利用価値は、計り知れないだろう。

計画は最終段階に入りつつある。使える駒は多ければ多い程いい。

計画に十分以上に用意を期するなら、この話を拒む理由は最初からヨハネスには無かったのだ。

 

「計画の為か……?」

 

だが、もし、この盟友が、計画の為に自分の息子を売ったのだとしたら?

ある一定以上の財閥、その関係者やフェンリル上層部関係者は神器使いとしての義務を免責されることがある。過去に数回、神器に適合した関係者は現れたが、その殆どが秘密裏に免責を受けているのだ。

キャンヴェンディッシュ財閥の御曹司ともなれば、免責は簡単すぎることであろう。

それが例え世界中で探し回られている新型の適合者であろうともだ。

 

「それもある」

 

「だがそれだけじゃない」

 

「ヨハネス――お前の目で確かめて欲しい」

 

「あいつが、ユウが、箱舟に乗るに相応しいか否かを」

 

再びの沈黙がその場を支配した。だが今度はそう長くは続かなかった。

 

「そうか」

 

ヨハネスの返答は、静かな了承の意思だった。

ニコラスの意思は聞かせて貰った。もう本当に聞き残した事はないだろう。

 

静かに通信を切ったヨハネスは背もたれに寄りかかりふぅと一息つくと手元の端末に再度神薙ユウのパーソナルデータを呼び出した。

名前、経歴家族構成は勿論、身長体重身体能力に利き腕幼い頃の習い事まで。およそ神薙ユウを構成する全てのデータが表示されている。

そのデータの中間辺り。

項目名は、"偏食因子適合率"見込み値と記されている所だ。実際に偏食因子を投与していない段階での適合率のいわば理論上の値だが、現在では殆ど誤差が無くなっている。

その見込み値が異常だ。この極東にもう一人存在するオラクル細胞研究第一人者もヨハネスと見解は一致している。

異常な値だと。通常ここまでの偏食因子適合率は、後天的な因子の移植によって生まれる事はないはずであった。

これも新型故の特殊性なのか……それとも――

来客を知らせるノック音が支部長室に響いた。

続いて、低い落ち着きを感じさせる女の声。

 

「失礼します」

 

「雨宮です。例の適合者が先程第一飛行場に到着したようなので、その報告に上がりました」

 

「分かった。下がっていい」

 

「はい、失礼しました」

 

どうやら本人が到着したらしい。彼も、もう戻れないだろう。

故郷を捨て、家を捨て、単身やって来た異国の地で化物達と戦う。

新たな戦士。ゴッドイーターの誕生だ。

 

「まずは、祝福と行こうじゃないか。神薙ユウ君」

 

「精々、期待しているよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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